「あーちゃん、ステイ。ステイ。動物を愛でるクランのリーダーが動物怖がらせてどうするの」
「鎮まれ!鎮まりたまへ! 力強っ!え、ちょっとまって園長前線ビルドじゃなかったよねえ……!」
「ぐへへじゅるりらうぇひひフォカヌポウ ……はっ、私は何を」
第八の街、エイドルト。そこにある貸切可能なNPCカフェには複数人の姿がある。そして、その内のレインと京極はまさに動物を愛でるばかりにその愛という名の欲望のことしか考えなくなり暴走モードに入ろうとしていたAnimaliaを両側から腕を拘束することで抑えていた。
そして、視線の先にはドン引きしたような顔をするサンラク。そして、サンラクの後ろに隠れるようにするエムルの姿だった。
「ナンテカワイイウサギチャン!」
「だから力強っ!さっき一瞬戻りかけたのになんでこうなるんだい!?」
「……止む得ない。あれを使う」
「なっ、あれを使う気なのかレイン!?」
「あ、あれはとなんだい!?知っているのかサンラク!」
「いや、知らん」
「なんなんだよもー!」
変なノリをしてくるサンラクに、状況が混乱してきて理由がわからなくなっている京極。それでもちゃんと腕は抑えている。
レインが何やらユーザーインターフェースを操作し、自分の携帯端末内のデータを確認。そこから何やら画像を表示させて、
「あーちゃん、これ見て落ち着いて」
「大丈夫だよウサギちゃん……痛いことはしないよぉ……すぐ天国に連れて行ってあげるからねぇ…… ヒョワッ!?そ、そのお姿は……守り神さま!?」
取り出したのは、本家に住み着いている白い大きな狼の写真だ。今年の初めに初詣に行った時に撮ったもので、その狼も写真を撮られていることを理解しているのか姿勢を正した状態で、関係者しか近寄れない本殿へと続く階段の真ん中に座り視線をカメラに向けている。
なお、この狼は関係者しか入れない境内にしか現れず、触ったり出来るのも本家の血筋か一部関係者だけ。それも、限られた人間だけである。そんな存在の写真を見せられたAnimaliaはといえば、徐々に何かが浄化されたように大人しくなっていく。例えるなら邪気が払われたように、だ。
「欲望のままに動物を愛でてはならない。一方的な動物への愛は愛に非ず……!うん、落ち着いた」
落ち着いた彼女はそのままゆっくりとエムルに近づいて、視線を落とし。『ごめんねウサギちゃん……エムルちゃんでいいのかな?驚かせたわね』と言って、本人とサンラクの許可を得て頭を軽くなでていた。それで満足したようだ。
「残念だったなエムル、ヴォーパル魂を見せられなくて」
「色んな尊厳が喪われることを覚悟しましたわ……あんなのヴォーパル魂見せても多分無理ですわ……」
冷静になったAnimaliaの対応はそれはもうしっかりとしていた。だが、冷静ではない状態で捕まっていたらどうなっていたかわからない。エムルはレインと京極に拘束されている時の彼女を見てそう思ったという。
現在、この場にはそこそこの人数が揃っている。それも、今のシャンフロにおいてその全員がある程度の知名度を持っている。
クラン『旅狼』からは、レインとペンシルゴン、サンラク、京極の4人。最近多忙のオイカッツォとクゥ、そしてジンは参加していない。だが、少なくともサンラク達3人の名前は全ワールドに知れ渡っている。特に騒がれているのはペンシルゴンとレインだった。
確かに、京極一人で見ても知名度はある。だが、彼女は阿修羅会を脱退後、フリーで活動しており、強者との戦いを求めるという考え方もあって脱退後のPK数はかなり減っていた。加えて、PKに対しての姿勢もシャンフロ内からは好意的なもので受け取られており、その性格やモットーなどから逆に人気が高かった。
大騒ぎされているのは、ペンシルゴンとレインのほうだ。まず、レインについてはウェザエモン踏破直後、お祭りに便乗したようにして彼女をキルしようとしたPKや、特殊な趣味を持っているPK達など、かなりの数の相手からPvPを仕掛けられたのだが、その全員を叩き切り屍の山を築いて居た。加えて、Animaliaや『SF-Zoo』と仲が良いということも噂として広がり、迂闊に接触できなくなったというだけでなくその内容だけでも話題性には欠かなかった。
加えて最近は京極ともよく居る姿が目撃されている。最近、京極がPKを辞めてPKKになったという話は有名であり、ファンの間ではどういうことだとざわついた。そして、一緒に居るのがレインと判明して、さらに騒ぎになった。
次にペンシルゴンは、元々知名度がかなり高かった。元阿修羅会の副リーダー。格上のプレイヤーをキルして回っていた『廃人狩り』としての知名度はかなりのもので、トップクランも最重要の警戒相手として注目されていた。
そして、そんな彼女が現在『旅狼』のクランリーダーであることも知れ渡っていた。元々半裸の鳥頭で喋るヴォーパルバニーにリュカオーンのマーキングで話題になっていたサンラク、ウェザエモン討伐前より『SF-Zoo』との関係が噂され、更にPKの間でも話題に一時期なっていたレイン、最近になってPKを辞めてPKKになった上に『旅狼』へ所属した京極と今まさに狙われているプレイヤー二人に有名元PKプレイヤーの上に立つ人間が『廃人狩り』である。そんなものが話題にならないはずもなかった。
「とりあえず、集まる予定のメンバーはこれで全員?」
冷静な状態で暫くエムルと話をして満足したのか、本日の本題について確認をするAnimalia。
クラン、『SF-Zoo』からは、Animaliaが代表として参加していた。しかし実際は彼女は既に『旅狼』と同盟を結んでおり、どちらかといえばペンシルゴン側である。
「うん、私が呼んだのは全員かな。 ――モモちゃん、先に言っておくけどこの場でうちのメンバーに勝手に接触してなにかしようとしたら、本気で怒るからそのつもりで。 おっと、それからサイガ-0ちゃん、この前の阿修羅会の時はありがとね、PK辞めれて色々スッキリできたよ」
「随分と殺気立っているな。……まあいい、私だって無理に何か聞くつもりはない。今日はあくまで、話し合いだ」
サイガ-100からはそんな言葉を言われ、サイガ-0からは無言で会釈を帰される。その後、彼女。サイガ-0はじっとサンラクを見ていた。
「少し、いいかね」
そんな中、ペンシルゴンへと問いかける声があった。その本人は、ピンクの魔法少女と言った装いのアバターでありながら、その声は年齢を感じさせる渋いものだった。
「私もある理由で、そちらのメンバーと話したいと思っていたのだが、それは会議が終わってからはいい、ということでいいのかね?」
「んー……本当は駄目、って言いたいけど。かの有名な考察クラン『ライブラリ』のリーダーであるあなたが言うんだしねえ。ちなみに、用事があるのは誰?」
「可能であれば、そこのレインという彼女との対話を希望したい」
想定外だったのか、思わず驚いたようにしているレイン。そんな様子や別の仕草を見て、何やらキョージュは思ったことがあったようだ。
「えっと……キョージュ、さん?」
「ああ。はじめましてになるな、レイン君。今話題の有名人である君に会えて光栄だ」
「私が?」
首を傾げているレインだが、サイガ-100やサイガ-0、やや疲れたようにしてペンシルゴンとアニマリアが首を縦に振る。
レインの知名度は高い。ウェザエモン踏破後から一気に話題となり、特に大量のPKで屍の山を作ったことで更に有名になった。
ペンシルゴンからの厳重注意もあるので、基本的にレインは身内以外の目がある所では特殊職業である『剣神』のスキルを使用しない。だが、それでも彼女は周囲の目を惹いた。
PKを切り捨てている時の純粋な技量、シャンフロではほぼ見かけることのない近代的な白いコート。特に装備などは、ウェザエモンとの戦いでの報酬であり、しかもそのデザイン元は刹那の着ていた研究衣を元にデザインされたコートだ。まず、シャンフロの中では簡単には見かけることは出来ない。
そんな特徴的な装備をしながら、スキルを使用せず純粋なプレイヤースキルだけで数十人規模のPK全員を切り捨てたのだ。今では彼女専用のスレッドが建てられるほどであり、そこでの最近の流行りは『アニマリア×レイン』か『レイン×アニマリア』についての討論らしい。なお、本人達は知る由もない。
「是非、会議が終わってから君と話したい。安心して欲しい、個人的に聞きたいことがあるだけだ」
「ペンシルゴン」
「あー……まあいいんじゃない。『ライブラリ』ならまだいいよ。それに、仲良くしておくメリットも大きい」
ペンシルゴンがそう返答し、今度はサイガ-100がやれやれといったようにする。
「おいおい、それではまるで私達が信用ないみたいではないか」
「あるわけないでしょ。私の情報網舐めないでくれる?まあヤッバイ情報の幾つかはジンさんから聞いたやつだけど。 ――知らないと思った?この私が」
苦い顔をするサイガ-100。サイガ-0もまた無言を貫いているが、対してペンシルゴン以外の『旅狼』メンバーはどういうことだという顔をしている。
「モモちゃんさあ、ここに呼んだのはあくまでモモちゃん個人の頼みを聞いただけだよ?もし、モモちゃんが『黒狼』として今回の対談を希望してたら、悪いけど私は突っぱねてたよ。意味、わかるよね」
「……ああ、それについては言い返せない。恩に着る」
「いーよいーよ、どうせ後々ちゃんと返してもらうから。あー、まあここに居るのぶっちゃけ殆ど身内だし、恐らく『ライブラリ』なら知ってるかも知れないけど今ちょーっと『黒狼』の内部、割れてるんだよねぇ。ここにモモちゃんとサイガ-0ちゃんを呼んだのは、まあ建前上は身内だからってことで」
サイガ-100が観念したようにため息を付き、『ああ、本当頭が痛い』と零す。
事実、現在の『黒狼』は少々荒れていた。というのも、メンバーの中で意見が割れているのだ。『黒狼』はトップクランではあるが、ユニークモンスターについての情報を殆ど持っていない。リュカオーンについては多少の知識はあるが、それ以外についてはまったくなのである。加えて、リュカオーンを含めて『強い』というくらいの情報しか持っておらず、事実上『旅狼』には大きな遅れを取っている。
しかし、『旅狼』は結成されたばかりのクランだ。知名度が最近上がりつつあると言っても、トップクラスほど認知されていない。だから、クランとして力が大きくなる前に押さえつけるか首輪をつけてしまおうという強硬派が出たのだ。対して、ギブアンドテイクの関係を持ちかけて情報を買収すべきだ、穏便に慎重に事を運ぶべきだという考えの穏健派。サイガ-100やサイガ-0は後者である。
だからこそ、ペンシルゴンはこの場において彼女達二人を『黒狼』として招いていない。あくまで、知り合いを招待しただけということにしているのだ。
「さてさて、この場に『旅狼』関係者に同盟の『SF-Zoo』、そしてクランとして『ライブラリ』のリーダーに、私の『個人的な友人』を呼んだのには理由がある。それは――ズバリ、秘密裏な同盟を結ぼうって話だ」
ニヤリ、と笑ったペンシルゴンはそう言い放った。
実家の真っ白な狼様は特定の人物の前にしか姿を見せず、触らせようともしない。誰も居ない時は本家の奥の奥。最奥の境内にある場所でのんびりと日向ぼっこしたりしている。作中主要人物で狼様に触れられるのは玲とヒロインちゃん(玲ちゃん)だけ。狼様的には写真を撮られて友人に見せられるのはオーケーの模様。『はいてく』だなあとか思いながら撮られている。
さて、ペンシルゴンの悪巧み開始。本作のペンシルゴンはかなり有能です。例えるなら、自分の才能やら策略やらあらゆるもの総動員してユナイト・ラウンズの時みたいにトップに立つ状態。カリスマ全開かつリーダー能力フルの状態。
ところでアンケートの結果を拝見しました。中々読者の皆様鬼畜なことを仰る、そんなみんながだいしゅき……ご友人……。
多分両方やると結構な文字量になる。GGC編の合間に書いてるのでちょっと時間かかりそうだけどそのうち投稿します。