「……ほう?興味深いな」
「同意見だ。詳しく話を聞かせてほしい」
早速食いついたのは、キョージュとサイガ-100だ。恐らく二人としては願ってもない提案だろう。だが、二人が知らないわけがない。まさにこの提案をしてきたのは、シャングリラ・フロンティアにおいても悪名高いアーサー・ペンシルゴンだ。
簡単に喜んで飛びついてはならない、きっとそれは罠だろうという確信があった。わざわざ今話題になっているクランのリーダーが直々に、自分達の欲しいものを簡単に落とすわけがない。ならばこれは餌であり、何か目的があるのは明白だ。
「モモちゃん」
「なんだ」
「リュカオーンの情報、ほしくない?」
「なっ!? ……ッ、何が狙いだ」
「おー、怖い怖い」
ペンシルゴンが早速狙いを定めたのはサイガ-100だ。彼女はリュカオーンに因縁がある。そして、クランもまたリュカオーンを追っている。だが、『黒狼』全員がサイガ-100と考え方や志を同じとするわけではない。
トップランカークラン。その中でも大規模なものになれば、必ず不和は生じる。ある者はトップランカークランに所属しているという栄誉のために。ある者はランカークランの中でのヒエラルキー上位に立ち優越感を得るため。ある者はよりいい装備やアイテムを求めて。ある者は効率のために。
理由はそれぞれだ。しかも、規模が大きくなればなるほど。そして知名度が高くなればなるほどそういった方向性の違いというのは顕著に出てくる。そうして、そういったものは簡単にまとめたり制御できるものではない。
『黒狼』もそうだ。事実、今回のウェザエモン踏破、初のユニークモンスターレイドに関してクランリーダーの意向を無視して動こうとするものは居た。取り締まったとしても、また別の誰かが別の問題を起こす。サイガ-100がクランリーダーとして優秀であるために、現在なんとかバランスをとっている状態と言って過言ではなかった。
「おいペンシルゴン、リュカオーンの情報ってつまり俺のことか……?」
「そうだよサンラクくん。でも、別に君がリュカオーンと遭遇してその呪いを2つ受けた過程を話せといってるわけじゃない。というか……アレ無理でしょ、誰が出来るの? あー……居たわ何人かできそうなの」
「あれが条件かはわからんが、居るなぁ出来そうな人材。しかもうちに……。というか、なんか普通に勝ちそうな気もするが。実質最新世代に最適化されたウェザエモンだしなぁ……」
はぁ、と二人そろってため息をつく。それを見ながらレインはどうしたのだろうかと京極と顔を見合わせているが、Animaliaは『あーなるほど』といった顔をしていた。
「結論から先に言おうか。これはあくまでウェザエモンを私達で倒してから、一連の出来事を冷静に。私情抜きで考察した結果なんだけどね。基本的にユニークモンスターはまともな方法で倒せないと思ってる。……まあ、ウェザエモンはちょっと例外だったのかもしれないけど」
ペンシルゴンの言葉にサイガ-100とキョージュが食いついた。どういうことだ、という目で彼女を見ている。
「心配しなくても、これは提供していい情報だからちゃんと話すよ。まず、ウェザエモンだけど。私達が踏破したウェザエモンは、特殊な条件のウェザエモンだったと推測される。ハッキリ言うけど、レインちゃんが居なかったら全滅してたよ、私達」
これは事実である。ペンシルゴンは自分のセツナに対する思いを抜きにして、一度客観的に分析してみた。そうすると、ある結果が浮かんできたのだ。
ペンシルゴンが阿修羅会に所属していた頃に確認していたウェザエモンの情報。そして、レインがトリガーを引いていたと思われるウェザエモン。その2つを比較して、後者は明らかな例外。恐らく前者が基本的なユニークモンスターなのではないのかという結論だった。
「あくまで推測だからそのつもりで。基本的に、ユニークモンスターはまともに戦って倒せない。特殊なトリガーでのみ、その前提が覆る存在が居る……かもしれない。基本的にはまともに倒すことは不可能だと思う」
「では、どうやって倒す?現にお前達はウェザエモンを踏破しているだろう」
「モモちゃんのいうことはもっとも。でも私達の会ってるウェザエモンは多分あれ例外パターンだから参考にならないし、その情報を渡すつもりもない。だから基本的なユニークモンスターの前提についての情報だけあげる」
「……聞こう」
「うん。ユニークモンスターには多分だけど、物語がある。それがユニーククエスト。そのユニーククエストを進行することによって、そのクエストに対応したユニークモンスターの踏破に近づける。私はそう推測した」
ふむ、とサイガ-100とキョージュは考えた。
「なるほど、話はわかった。そして、どうした私をここに呼んだのかという意図も」
「お、流石『ライブラリ』のリーダー」
「……強欲だな、アーサー・ペンシルゴン。そちらが欲しいのは、我々の情報と情報処理能力。『世界を考察する力』そのものではないかね?」
ニヤリ、と。ペンシルゴンは笑った。
そう、キョージュの言っていることは当たっている。この場に身内以外でクランとして呼んだのは、『ライブラリ』だけである。サイガ-100とサイガ-0については、明らかな火種になるのは目に見えていたためペンシルゴンはクランとして呼んでいない。
そうして、ペンシルゴンの目的は。
「うん、そうだよ?私が。私達が欲しいのは『ライブラリ』の協力そのものだよ」
『ライブラリ』を取り込むことだった。
「じゃあここからは化かし合いなしの取引だ。ユニークモンスターの攻略の鍵、そして前提として接触するための鍵はまさにシャンフロの世界観考察とユニーククエストそのもの。直接対決前の事前段階において、情報とは純粋な武力より協力な武器だ」
「なるほど、読めたぞ。『旅狼』に『SF-Zoo』の同盟、そしてそこに我々『ライブラリ』を取り込もうとする目的が」
なんて恐ろしいことを。
なんてとんでもないことをやろうとしているのだ、と。キョージュは素直にペンシルゴンを称賛した。
「前線と戦闘面を『旅狼』が、生物学や生態系、フィールド関係などの方面の知識や情報については『SF-Zoo』が、そして前者2つからの情報や他の方面の情報からそれを分析し考察、ユニークモンスターの謎を突き止めるのが我々といったところか」
「大正解。そして『旅狼』も『SF-Zoo』も、協力関係と協定を守ってくれている限りユニークの情報や他の情報は共有するよ。ぶっちゃけ、ウチは戦闘力の面では困ってないんだよね。不足しているのは、組織として統制された情報源。生物学方面の研究や環境学は園長ちゃんの所に頼めるけど、他の情報は難しい」
「だからこそ『ライブラリ』を取り込むと」
「そ。ギブアンドテイク、なんなら世界の考察に関わるものについては『ライブラリ』に寄贈すると確約しても良い」
「ほう……?」
「その証拠として。はい、これあげるよ。」
手渡されたそれを見て、キョージュが驚きをあらわにする。『世界の真理書「墓守編」』。ウェザエモン踏破時の報酬であり、その内容は考察クランであれば喉から手が出るほどに欲しいものだった。
「推測なんだけどさー、多分それ同じものが未だあると思うんだよね。だから、基本的に設定書物としてしか機能しない場合、全て『ライブラリ』に真理書や書物類は譲渡してあげる。ただ、寄贈するのは『旅狼』メンバーの中から一人だけ。複数冊くれってのはダメだよ」
「……ははは。なるほど。では、ひとつだけ質問させてくれないかね」
「どうぞ」
「『ライブラリ』も内部分裂しているかも知れないぞ?そんな状況があったとして、そんなクランを同盟に引き入れるのかね?『黒狼』をクランとして呼ばなかった理由はまさにそれだろう」
「『ライブラリ』が内部分裂?ああ、ないない。絶対ない。まず、私の情報網をナメるなってのがひとつ。まあ実はジンさんからの情報もあるんだけど。次に、内部分裂なんてしたら『世界観考察』に支障が出る。違うかな?」
ペンシルゴンはジンから得た情報と自分の推測から、『ライブラリ』はウェザエモンの件で内部分裂していないし、今後ユニーク関係ですることもないだろうと読んでいた。というのも、『SF-Zoo』にしても、『ライブラリ』にしても、いい意味で頭のおかしい連中の集まりだからだ。
特定の目的のために討論や口論はするだろう。だが、内部分裂などすれば本来の目的が喪われる。2つのそれぞれのクランが、それぞれの目的。動物や環境、世界観考察に対してのことを疎かにするとは考えられなかった。
「ごもっともだ。――いいだろう、アーサー・ペンシルゴン。そちらの条件を飲む。我々『ライブラリ』は、『旅狼』と『SF-Zoo』に協力することを約束する」
「じゃあ、改めてよろしく。いやあ良かった、実は3つのクランが同盟を組んだらその同盟の名前もちゃんと考えてきたんだよねえ ――それじゃ、『ライブラリ』の承諾も取れたことだしここに宣言しようか」
そうして、ペンシルゴンは高らかに宣言した。今後、シャングリラ・フロンティアにおいて極めて大きな力と、その存在感を示すその同盟の名を
「『旅狼』、『SF-Zoo』、『ライブラリ』。この3つのクランの同盟。頂に立つ存在の物語を知り、世界を知り、それらを踏破し彼方の星、天の果てにさえ至る。 ――『
頂点すらも打ち倒す力を持つ『旅狼』
世界と動物、環境を愛し研究する『SF-Zoo』
過去と現在、未来さえも知識から考察し世界の謎を紐解く『ライブラリ』
ユニークモンスターに挑むための基盤であり、強固な同盟。
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だが。今回、サイガ-100はクランの人間としてここに呼ばれているわけではない。では、ペンシルゴンがここに自分と妹。サイガ-0を呼んだことには理由があるはずだ。
「さってそれじゃあ、勢いが良い所で ――今日のメインその2だ」
ゾクリ、と。サイガ-100の背筋に冷たいものが走った。
今、『魔王』と目があった。魅入られてしまうような、魔王の目と。
「モモちゃんさあ、結論から言うんだけど。 ――サイガ-0ちゃんをウチにくれない?」
とんでもない発言に、姉妹揃って言葉を失った。
拙者、ヒカセンとして忍者としても侍としても数々の冒険をしてきたでござるが、『きこうし』なる面妖な『からくり』を使う"じょぶ"をメインにするでござるな。
ペンシルゴンは悪巧みモードではなく、かなりガチ目に内政モードをやってます。原作と違うのは、小出しにしてキョージュをカモらず絶対に逃さず取り込んで、最終的に自分達側に引き込んでしまおうというやり方。『ライブラリ』の取り込みとトリニティの結成は最重要事項だったため、ペンシルゴンも惜しみなくカードも切って打てる手を打ってます。
そしてもうひとつの主目的が、サイガ-0の引き抜きです。完全にペンシルゴンは統率者としての魔王モードに入ってます。
原作と比較するために情報を整理すると、
・『黒狼』は内部分裂かつ派閥割れしており、統率に限界が見えている。
(大体リなんとかのせい)
・サイガ-100は、上記の状況を理解している。その上で諸々の理由から妹を巻き込みたくない。アイテムがどうの、コストがどうの、育成費用がどうの、などということは思ってすら居ない。
・原作でしていたような喧嘩が発生しない。サイガ-100はむしろサイガ-0を心配している。色々と妹の感情関係や思いも理解している。