GGC、リアルイベント編突入。
会談の後、レインはある人物とエイドルトの路地裏にある喫茶店で会っていた。
サードレマにある「蛇の林檎」と同様、人の出入りが殆どない上に個室をプライベート設定可能な店であり、しかも味覚制限がかかっているシャンフロにおいて、かなり現実に近い味を出す店でもある。
「無理を言ってすまないね」
「いえ、大丈夫です。えっと……それで、キョージュさん?」
キョージュ。『ライブラリ』のクランリーダーであり、今や
そんな人物から、『直接話をしたい。個人的なことなので、野暮なことは聞かない』と言われ、今に至る。
「ああ、別に情報が欲しくて君と話したいと言ったのではない。……実は、個人的なことなのだよ」
「個人的なこと……?えっと、私とキョージュさんははじめまして、でしたよね」
「ああ、そうだ。先程の対談が初めてとなるが……君の噂を聞いて、少し気になることがあってね」
「噂、ですか」
レインは掲示板などは基本的に見ない。たまに、リアルでオイカッツォの隣で話題になっているものを覗くくらいで、自ら見ることは基本的にない。だから自分が話題になっていることなど知らなかったし、実際に対談後にサンラクやペンシルゴンからスレが建っていたという話を聞くまで噂についてなど知る由もなかった。もっとも、だからといって今後自らスレを覗く気も無かったが。
ウェザエモンの踏破。それが大きな話題や波紋を生んでいるのは知っている。それが一種のお祭り騒ぎであり、それに便乗して『つまらない』ことをするプレイヤーが増えているのも知っている。事実、つい先日もそのつまらないプレイヤーを山程斬り捨てて屍の山を築き上げたばかりなのだ。
「なに、たいしたことではない。ああ……ところで、ここの喫茶店はどうかね?シャンフロの中では、かなり味覚制限の薄く極めてよくできた場所だと思っているのだが」
「……?えっと、それは確かに。すごくいいところだと思います。味覚も現実に近いですし、出てくる料理も美味しいです」
突然、無理矢理に話題を変えてきた。どういうことだろうかと、思っていたのだが。
レインは次の瞬間、表情を変えた。
「VRゲームという中で、これほどに現実に近い味覚を再現するとは……どういった手法を取り入れているのか、実に"研究者"としては興味に尽きない」
目前の少女の見た目をしたアバター。その姿が、テーブルの上に肘をつき、右手の手の甲を顎に乗せるようにし、口元には研究対象を見つけて楽しそうにする笑みを浮かべて。そして、右手。その中指と親指で、まるで日常的な動作のようにパチン、と指を鳴らした。
知っている。その挙動をする人間とを、独特のその動作をする人間を知っている。そして、その本人はいっていた。『あまり行儀の良い仕草ではないから、基本的に妻か教え子の前でしかやらない』と。
「――せんせい?」
「……ははっ。やはりか。今の仕草は、妻か教え子しか知らない。だからもしやと思ってやってみたのだが。 そうか、やはり君なのか。玲くん」
目を、見開いた。まさかこの世界で会えるなどとは思っていなかったからだ。
最後に直接会ったのは、高校の頃だ。それから一度だって恩師のことを忘れたことはない。『先生』の書いた本だって、よく読んでいる。
「本当に、先生?」
「こんな見た目をしているが、間違いなく私は『燐堂 報ノ介』だとも。 ……元気にしていたか。学業は上手く行っているかね」
「うん、うん……!元気だよ。大学の方も、研究が大変な時もあるけど楽しくやってるよ」
「そうか、それは良かった」
「今は、先生も知ってる慧と一緒に暮らしてる」
その言葉の直後、笑顔でキョージュが固まった。
それまでかつての教え子が元気にやっていた良かったというように笑っていた顔が、徐々に頭の上に疑問符を浮かべたような顔になっていく。
「あー……すまないね。慧、というのは、慧君で間違いないかね?」
「うん、間違いないよ」
「彼は確かに中性的だが……若者の言葉で言うなら、イケメンというものに分類される男性だったと思うのだが」
「イケメンかどうかは考えたことなかったけど、でも慧は男だよ?」
「……ふむ」
キョージュは複雑な気持ちで居た。これは、未知である。教え子が現在、仲が良かったとは言え異性と同棲しているなどというのはどう受け止めて良いのか非常に迷った。考えながらもとりあえず、妻であるマッシブダイナマイトに委細を素早くメールする。
なお。マッシブダイナマイトがそのメールを確認して、現実の方でキョージュに詰め寄るのはまた別の話である。
「確かに君達は仲が良かったな。なるほど、では君達は付き合っている、ということなのかな?」
「付き合う……?それって、どういうこと?」
「むむむ?」
付き合っていない。だが同棲している。なんともよくわからない状況だと思った。しかし、確かに二人の仲は良かった。つまり、その延長で同棲している可能性もなくもないのか。そもそも、確かに『付き合う』の定義を考えてみるとかなり難しいとも言えた。自分とて、妻とは恋愛関係の末の結婚だった。そういった関係は人それぞれであるし、定義するのは難しいのではないのか、などと考えていると。
「先生、私も先生に聞きたいことがある」
「ほう、何かね」
「先生は奥さん……桜さんとは結婚、してるんだよね」
「ああ、確かに妻とは結婚しているが」
「相談したいことがある」
真面目な目だった。だが真剣で、それでいてまっすぐと自分を見つめていたその目には、同時に何かを迷うような。わからなくて怖がっているような、そんな感情が見て取れた。
「先生と奥さんみたいな関係になったり、誰かを……大切な人を好きになるって、どういうことなのかなって最近思うの」
玲は、ずっと考えてきた。己の師、ウェザエモンとの決戦の時に言われた『その想いを大切にしろ』という言葉を。そうして、その想いは今となっては大切なことだけは分かる、だがどう向き合えば良いのかわからないものになっていた。
わからない。だからこそ、誰かに頼ろうと思ったのだ。
対してキョージュはと言えば思うのだ。なるほど、中々にこれは難題だと。だが、解決してあげないといけない。そう思うとキョージュは、妻であるマッシブダイナマイトにも相談し、できる限り自分達が思うことを伝えようと決めた。
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その日、サンラクとペンシルゴンはリアルである場所に呼び出されていた。
事の発端は、オイカッツォからのメールだった。『どうしても頼みたいことがあるので、リアルで会えないか』という内容で、最近の彼の動向からするに、GGC関係のことではないのかと二人は予測していた。
しかも、落ち合う場所として指定してきたのは、都内の富裕層が住むような場所にひっそりと存在する、ダイニングカフェ。そこを貸し切っての話ということであり、移動費や諸々の費用は慧が払うというのだ。
内密かつ、重要な話なのは間違いないと思った。スケジュールを確認すれば、サンラクはそもそも現在夏休みのためスケジュールの調整はできた。永遠についても、仕事が一段落していた時期なのでお忍びで行動すれば問題なしという状況だった。
そうして、当日。折角なのでということで、貸し切った店で昼食を頼んでもらい、かなりいい値段がするだろうという食事の数々を楽しみながらまずはアイスブレイクだと言わんばかりにいろいろな話をする。最近のシャンフロのことから、GGCのことまで。特に、不在だった慧は玲から聞いては居たものの、サイガ-0の加入は予想外だったと零していた。
食事も終わり、いよいよ本題という中。早速動いたのは永遠、ペンシルゴンだった。
「いやあ最高においしかったよ、いいねこの店。味もいいしこういった隠れ家的なのもポイント高い。たまーに私も使わせてもらおうかなー。 ……さて、カッツォくん。最近ログインしてない君が突然私達を呼び出した。しかも、今回のこれレインちゃんには秘密にしてるよね? 早速だけど話、聞かせてもらえるかな」
真剣な目でサンラク。楽郎も頷く。こうして三人が集まる時は大抵、何かがある時の話なのだ。
「――頼む、お前ら二人に力を貸して欲しい」
「……なっ!?」
「お、おいおいなんだよいきなり!?」
永遠と楽郎は思わず驚きを隠せず、椅子から立ち上がる。
なぜなら、慧はいきなり頭を下げてきたのだ。
「どうやら、とんでもないことみたいね」
「……みたいだな。それで?いいから話してみろよ」
二人に再度座らされた慧は、事情を順に話していく。
「ギャラクシア・ヒーローズ:カオス、そのエキシビションマッチが開催されることは知ってるよな。そんで、そこに俺が出ることも」
「ああ、知ってるが」
「マッチルールは4vs4の団体戦。相手陣営を全滅させたほうが勝利となる。……なんだが、つい数日前に問題が起こった」
「問題?まさか、人数不足とかか?いやいやまさか、だってGGCは今週末だぞ?こんなタイミングでドタキャンなんて――」
「そのまさか、なんだよ。事情はまあ、仕方ないんだ。不足人数は二人。一人は家の方で不幸があったらしく、もう一人は実家の関係でお家事情がちょっとややこしいことになったそうだ。だからこのままだと、人数不足で不戦敗になる」
「なるほどな……だいたいわかった。つまり、俺とペンシルゴンにその欠員の代理枠としてGGCに出て欲しい、ってことだな?色々聞きたいことはあるんだが……そもそもなんで俺達なんだ?プロゲーマーで格ゲーができるやつなんて、そこそこ居るだろ」
「……どうしても、お前ら二人じゃないと駄目なんだ。補充のメンバーは、少なくとも俺が絶対的な信用を置ける奴じゃないと今回はだめなんだ」
「――まだ、話してない事情がありそうね。この際だよ、全部言っちゃいなよ。頭まで下げられてるし、なんかとんでもないことだってのはわかる。でも、事情も知らないで力にはなれないよ」
ペンシルゴン、永遠の言うことはもっともで、慧もそれに対して頷き息を吸う。
「今回、俺が対戦するのはアメリカのマルチプロゲーミングチーム『Zodiac Cluster』、そこの格闘ゲーム部門のチーム。『スターレイン』。そこに、俺がどうしても勝たないといけない奴が居る。勝たないと、俺が前に進めない奴が居る」
そう、勝たなければならない。かつて、自分の弱さで負けた相手。弱さと向き合えたとしても、彼女に勝たなければきっと本当の意味で自分は前に進めない。負けず嫌いな慧らしい考えを向ける存在が、もうすぐ日本にやってくる。
「現時点で無敗にして、『全米一』。シルヴィア・ゴールドバーグ。こいつが、今度の対戦チームのリーダーだ。俺は、あいつに勝たないといけない、いや違うな――『勝ちたい』と望んでるんだ。相手はアメリカ最強の格闘ゲームチーム、その最強を相手にして戦うためには、信じられる相手じゃないとチームは組めない」
そして、と続けた。
「シルヴィアに勝ちたいって理由もある。だけど……俺はそれ以上に、あいつに勝って自分の弱さと向き合い、今後こそ前に進みたいと思ってる」
すぅ、と慧は息を吸い、再度二人を見た。真剣な目で、自分の言葉を受け止めてくれているということがよくわかった。
そうして。慧は続けた。今この二人にだけ伝える覚悟を。『地獄』まで一緒に来てほしいと思う『
―――俺は、全米一に勝ったら、
告げられた言葉。それに対して永遠も楽郎も目を丸くした。
そうして。覚悟の言葉を聞いて先に反応を示したのは、永遠だった。
「私はね、あの子のことを本当にいい子で大事な後輩だと思ってる。だからカッツォくん。約束しなさい ――ちゃんと、あの子を幸せにしなさい」
そう、自分も覚悟を決めた意思と共に告げた。
キョージュとしては、玲からの相談はかなり深刻なものだと受け取ったので桜さん(マッシブダイナマイト)にも相談したうえで、色々なことを少しづつ伝えていく所存。なお、桜さんは久しぶりに聞いた夫の教え子がまさかそんなことになっているとは知らず、慧との状況を聞いた時は全力で詰め寄った。
そして原作同様、欠員が出ました。といっても内容は少し変更しています。慧としても、事情が事情なので理解はしている。ただ、戦力的に信頼できるレベルだった二人の離脱はかなり痛かったので、少なくともその二人以上に信頼できる外道二人に頭を下げた。
楽郎としては、最後まで話を聞いた上で『ゲーマーとしてそんなすごい奴と戦えるのは面白いし、慧の覚悟にも応えたい』という気持ち。永遠はといえば、かなり本気モードで『負ける気はない。私のありとあらゆる全身全霊で勝たせるから、絶対私のかわいい後輩泣かせないし幸せにすると誓え』という気持ち。
一体慧君は何を二人にだけ教えたんでしょうね。
後、作者かなり多忙期につき、更新頻度が落ちます。申し訳ありません。最近本当家に帰るとそのまま諸々やることやって寝るみたいな生活をしている。休みの日もそれはそれで予定つまりまくりで以前ほど執筆速度が出ない。進捗としては、GGC編の終わり近くまでは下地が書けてますが、添削とか諸々が追いつかない。多分、GGC編の終わりまでくらいで12万字くらいはあるんじゃないですかね……。
加えて6月は作者、エルデンリングとか某ハクスラFPSの拡張とか、光の戦士の夏休みとかでかなり時間が取れない。なんとか頑張りたい。