「正直に言うのだけど、私の仕事場がこんなに賑やかになるとは思わなかったわ……最近、一通り片付けしておいて正解だったわね」
木曜日の昼過ぎ。午後の3時も近くなった頃、GGCが開催される人工島から直接アクセスできる、住居区画にある大きな一軒家。そこには、複数人の姿がある。
大半が女性であり、この部屋の主だけは男性ではあるが心は乙女という不思議な集まりだった。
「4日間ほどお世話になります、蓮ねぇ」
「いいのよ、一人じゃ広いだけの仕事場だったから。この設備については好きに使ってくれていいわよ」
ジン。彼の言う、滞在先の仕事場なのだがその設備の良さに訪れた全員は驚くことになった。仕事場は本人は言うが、高級ホテル相当か、生活環境を考えるとそれ以上の設備だったのだ。
各部屋はかなり広めで、にはベッドはそれぞれ壁に収納式のベッドが2つ。大型の壁に埋込み型の多機能型テレビ、広めのバスルームに小規模ではあるが一通りの調理器具は揃っているキッチン。更には、ネット環境も万全であり外から持ち込んだ各種デバイスを接続してVRやARのシステムを使用できる環境も完備。
更に言うなら。各部屋に最新型のフルダイブチェア。一般人ならまず手が出ないだろうというそれが、2台配備されている。
それが4つある部屋全てに完備されているのだ。今回滞在するメンバーはそれはもう言葉を失った。この部屋に加えて、リビングはかなり広く設備も完備。設置されている調度品もひと目でとてもいいものだとわかるものばかりだった。
彼曰く、仕事場ではあるが来客などがあったり誰かが泊まる場合など、できる限りのことを想定したらこうなったのだとか。メインで使用している本宅は別にあり、ここの設備はあくまで仕事用のサブというのがまたメンバーたちの言葉を更に失わせた。
そして。生活用品をはじめとしたものや、食材、出前なども可能であり各部屋やリビングにある電話や液晶タブレットなどで注文すればかなり素早く届くのだという。至れり尽くせりである。
「蓮さん蓮さん。色々とこの仕事場……?にツッコミどころ満載なのはあるんだけど、つまりここの環境使ってシャンフロしていいってコト!?」
「ええ、勿論よ。空ちゃん暫く調整とかで殆どできてなかったものねぇ。 いいのよ、夜帰ってきてからとか好きなだけしても」
「ヒャッハァァァァアアアア!しゅき!蓮さんだいしゅき!久しぶりのシャンフロぉぉぉぉおおお!!!」
「あー……禁断症状出るくらいだったのねぇ」
ここ最近、空はストレスにストレスが溜まっていた。GGCに向けての調整、メンバーとの話し合い。それは大切だろう。だが、正直な所彼女も、そしてメンバーも理解していたのだ。今回、FPS部門に全米最強の『彼女』が出てこない時点で、もう勝負は見えている。
しかし仕事は仕事である。メンバー以外、スポンサーや開催運営との話し合いなどもあり、とにかく時間が取れなかった。結果、シャンフロを殆どできず、空としては『こんな面白いイベントないよ!』と思っていた、先日のクラン同士の会合や、サイガ-0が加入する場に居合わせることができなかったのが無念だったようだ。
「あ、あの。改めましてサイガ-0……斎賀玲です、よろしくお願いします。ええと、空さん?」
「――スゥゥゥゥウウ」
「あの……?」
「しゅき」
どこからともなく取り出した、『100点中100億点』と書かれたよくわからないミニサイズの掲げ看板を取り出した直後、満足げな笑みで魂の抜けた状態のようになる空。それを見て玲が『くーちゃん、もどってきて』と言うと再び我に返る。
「清楚系でかわいい系……はぁ、すき。GGC前にこんなにパワー貰って良いんですか?私前世でどれだけ徳積んだの?」
「え、ええと……?」
「はっ……!私としたことが! 車の中でも自己紹介したけど、改めてよろしくね玲ちゃん!陰謀や策略に嵌めたい相手、頭ぶち抜きたい相手が居たら言ってね、すぐに駆けつけるから!」
「あ、ありがとうございます……?」
小声で蓮が、『いつも気分がいいとこんな調子なの、ごめんね。悪い子じゃないのよ?』と言い、苦笑いする斎賀玲。
「そ・れ・で?調整に入る前、なんか忙しそうにしてたわよね空ちゃん。 ……折角クランメンバーが大半集まってるんだから、吐いちゃってもいんじゃない?」
「あー……。うーん……どうしようかなあ」
「その、ユニーク関係の可能性もあるわけだし、無理にとは言いませんが、気になってはいたので」
「あー京極ちゃんもしゅき。イケメン王子様系ボクっ子とか最高今なら私は神になれれる」
相変わらず幸せそうにしている空は先程と同じようにすぐに人にお見せできない顔を辞めると咳払いする。
「コホン。本当は驚かせたくて、取ってから話そうと思ってたんだけどいっか。まあユニーク関係かな?ただ、ユニークモンスター関係じゃないんだ。 ……多分だけど、『特殊職業』関係」
視線が空へと集まる。そして、それを受けて彼女は淡々と話し始める。
「キッカケは、神代の鐵遺跡を探索中の出来事だったんだけどね。あそこを下にひたすら降りて、地底湖みたいなところも潜って更に深層に向かったら、別の遺跡があったんだよね」
「それ……多分新情報ですよ。あそこって地形が入り組んでいて、未だに判明してない場所も多かったエリアだったはずです。しかも、湖の更に下となると、まず中量装備以上のプレイヤーは探索できません。後、水中での戦闘適正だって必要にも……」
「玲ちゃん大当たり。まあ多分私以外知らないし、"多分到達も出来ない"だろうね」
「それ、どういう」
「私が見つけた遺跡ね、防衛守衛が居たんだ。それも、機械的なSFチックな守衛が。それが水の中と、遺跡の入口、それから中枢の手前に1体づつ。いやー、ぶっちゃけかなり強かった。あれだけヒヤッとしてアドレナリンどっばどばになったの久しぶりだよー、多分今回のGGCの試合より遥かにヤバイ相手だと思うよあれ」
目を丸くしたのは蓮、そして玲だった。二人は空飛の付き合いは長い。だからこそ知っている、空の異常性と強さを。
戦場における絶対的な支配者、相手を意のままに操るような戦い方。狙えば外すことはほぼない射撃力。射撃ゲームにおいて、表上世界最強と称される『全米最強』も認めるその才能。
その彼女が、ヤバかったと言った。それは、相当のことなのだ。
「というかギミックが鬼畜の所業。まず戦闘不能になると入口に戻される。それで特殊エリア扱いでリセットされない蘇生制限付き。説明見たら、蘇生回数ゼロでそのエリアには二度と入場不可とか言うじゃん?トドメに最後のギミックで守衛3体同時に相手にして、ほぼ同時撃破しないと復活とかいう鬼畜。いやー焦った焦った。 ――最終的に残り残機1。突破までに5トライくらいかかって、中々に楽しめたよ」
「くーちゃんがそこまで言うって、相当だね」
「あれ考えた人頭おかしいよ……あんなのまともな思考してる人間が気がつけるわけないって。まあ私は天才美少女遊撃手だからなんとかしたけど」
『あはー』とやってやった、というように笑顔を見せる空。
「それで、その守衛達を突破した中枢で見つけたのが、『特殊職業』のユニーククエスト。それも2つ」
2つという言葉に全員が言葉を失う。現状、特殊職業として身内間で判明しているのは玲の『剣神』だけだ。それに相当するものが2つ、となるとそれはもう大事である。
「実はもうクリアしてて、2つの『特殊職業』。正確には、メインジョブとサブジョブは取ってあるんだ。ただ、GGCの関係で忙しくて、まだお披露目できてないけど」
「くーちゃんがバケモノになっていく……」
「いやいや流石に玲とか蓮さんに近づかれたらどうしようもないからね!?それにサブのほうはユニークといっても、なんというか……生産職に近いジョブだし。まあ、お披露目はGGC終わってからにするよ。みんな居ないのにバラしても面白くないし。いやでも、ちょっとくらいならいいかな?折角集まってるし」
楽しそうに。心底楽しそうに。まるで、これからのGGCでの試合がただの面倒事だと言わんばかりに空はそう言って
「――ねぇみんな、今のシャンフロで、現代兵器とか最新世代に最適化された神代の武器を制約のもと限定的に作れるかも知れない、って言ったらどうする?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「え、なにこれおいしい。本当にカレー?」
「大げさだよ、永遠さん。普通のカレーだよ?」
「普通……普通とは……うごごご」
木曜日の夜。夕方過ぎに合流してきたペンシルゴン。永遠とも色々と話していると、時間は既に夕食時。滞在中は玲が食事を作ってくれるという話になっていたため、ひとまずメンバーにリクエストを確認すると満場一致でカレーとなった。
というのも、オイカッツォ。慧からよく玲の作る食事の話を聞いており、特に印象深かったのはカレーだったからだ。カレーとはある種の魔力を持つもので、一度その話を始めると全員どんどんカレーの気分になった。結果、カレーとなった。
「結構量作ったから、何かレパートリー考えようと思ってたんだけど……えっと、京ちゃん、くーちゃん。大丈夫?」
「「おかわり!」」
流石の玲もちょっと引き気味だった。それを見ている他のメンバーも『まだ食べるのか』と呆れ気味である。
とにかく京極と空が幸せそうにカレーを食べまくる。玲としては、結構な量を作っていたつもりだったのだがものすごい勢いで減っていく。特に空はテンションがハイになっているせいか、唯一FPSで負ける可能性があると本人が言う『全米最強』に、『いえーい!日本の最高においしいカレー食べたことある? 私は今食べてる草の国の書記官構文!あ、書記官復刻も草の国の神様の復刻も限凸理論最悪値天井コースだっけどんまい!(笑)』と完全に煽りのメールを送る始末。
なお、このメールで『全米最強』がプッツンした。空への返答は『GGCには出れないけど今から急いで日本に行く、覚悟しなさい。……それと水神は無料10連で一人目来ましたけど、ソラはどうでしたか?(笑)』だった。空の煽りが原因で、本来仕事の理由で来れないはずだった彼女が観客として来日決定した瞬間だった。なお、煽り返しの文面で空はキレた。彼女はキャラクターと武器を限界まで重ねと言われるものを行っていた上に殆どが確定天井コースだった。
「食事中にスマホはよくないと思うんだけど、どうしてもフィーを煽りたくて煽ったんだけど」
「フィー……?えっと、フィリスさん、だっけ? はいくーちゃんおかわり。まだ食べるの?」
「もっとたべりゅ……。明日はもうこれでドン勝つ間違いなしぃ……! っと。あれ、玲よく知ってるねあの子のこと」
「よく慧とテレビ見てたらくーちゃんと一緒に紹介されてるからね。確かFPSの
「んー……だいたいあってるかな?本人がさー、認めないんだよ。私があの子が最強でいいって言ってるのに細かいこと気にしてさ、頑なに『自分は全米一ではありません』って言うんだよねえ」
過去に、FPSのゲーマーの記憶に残り続けるだろう戦いがあった。
だが。その最中、観客には絶対に気が付かない異変が起こった。それは、恐らく全身全霊の極限集中状態であった、『全米一』でなければ気が付かない出来事。ライバルであり、友であり、自分を倒し得る相手のことだからこそ、彼女は気がついた。
最期の一発。互いに勝負を決める刹那の弾丸。それを放つ瞬間、フィリスはスコープ越しに見た。空の表情が一瞬、何かを思い出したように怯えたように見えた。そして、空の持っていた銃のトリガーにかかっていた指が、ブレた。
致命的だった。刹那の出来事だったとしても、全米一に対してその隙はあまりにも大きすぎた。結果、試合はフィリスの勝利。その後、色々とあったのだが空は頑なに自分の敗北だと言い張って。そして、フィリスは『絶対に認めない、あれは私の勝ちではない』と譲らなかった。
それが数年前の出来事。まだ、玲と空が出会う前の出来事だ。互いにその件については、どちらも譲らないので話さないようにしているが、友人としての仲は良好である。本来なら、彼女はGGCに出てくる予定だった。だが、諸事情により予定が不確定だったため、辞退していた。
「まあ、その彼女がさっき煽ったら日本に今から行くから覚悟しろとか言ってきて」
「どうしてそうなったの」
「実際には、不確定だった予定がちょっと早めに終わったらしくて。元々その用事の関係で今回のGGCのオファー断ってたんだってさ。でもGGCには選手として出ないけど、イベント自体には興味あるから来日するってことらしい。 ……ん?メッセきた。滞在は友人のシルヴィアの所に転がり込みます、会場で会いましょう。だってさ」
なんだかとんでもないことになってきたな、そう思いつつも玲達は満足げにカレーを食べる空を見てため息を付いた。
全米最強。その人物が選手としてでなく、一般客として来るだけでも一波乱起きそうなのだから。
・空ちゃん
GGC前に合流してきて玲ちゃんと京極とリアルでの顔合わせ。顔面偏差値の高さに『こんなに幸せでいいんですか!?』と素で思った。暫く忙しかったため、『特殊職業』関係のことだけソロで片付けて、それ以降は仕事のこともあってログインしていなかった。
現状彼女が公式戦で敗北しているのは、FPS全米最強の
なんだかんだ全米最強とは仲良し。よくソシャゲ関係のことで煽り合いをしたりしている。
・フィリス
公式戦で唯一空に勝利しているプロゲーマー。なお、本人は勝ったことを認めていない。腰まであるプラチナブロンドをポテーテールにしており、眼の色は碧色。背は割と高く170近くある。生真面目で頑固なクールキャラ。
空があらゆる距離でのあらゆるレンジに対応する銃器を使えるプレイヤーだとすれば、彼女は一点特化型。遠距離の武器とスキルに全てを振り切ったようなプレイスタイル。かといって近距離戦が出来ないわけでもなく、スナイパーライフルで凸砂をして相手を壊滅させるなんてこと平気でやる。
・空ちゃんの特殊職業
片方は神代の武器を使用する
【あとがき】
シャンフロ2期が楽しみで仕方ありません。一期ではドラゴンフライとして出てましたが、秋津茜として光属性ちゃんも出てきていたので本当に楽しみです。ただ、多分やるとしてもクターニッドかリュカオーン戦あたりまでかなあという気もしている。流石にGGCまではやれないでしょう。
どちらにしても楽しみです。私も早く元気になって以前のような速度で執筆できれればと思いながら、今回はここまでとさせていただきます。慧くんがつまり玲とそういうことになるまで、モノは出来てるので少しづつでも添削して投稿できればなあと思ってます。