「いやまさか、サイガ-0の中の人が斎賀さんだったとは驚いた。あー……なんというか、色々ごめんな。セカンディルでの件とか、ウェザエモンの後とか色々と」
「き、気にしないで!えっと……ほ、ほら。これからは同じクランメンバーなんだし、改めてよろしくということで……どうかな?」
「そうか……?うーんなんというか色々失礼なことをした気がするが……ともかく、これからよろしくな、斎賀さん」
楽郎は友人に見せるような笑みを向けると、それを見た彼女は嬉しそうに、安心したように笑った。
斎賀玲は、務陽楽郎に恋をしている。その理由は幾つかあるが、その内の一つが彼の心の底から楽しそうにしている笑顔だった。
偶然だったかも知れない。たまたま、彼のその笑顔を見てそう感じただけたかも知れない。
だが。確かに自分は、斎賀玲という人間は彼の笑顔に心を救われたのだ。
それだけは間違いないのだ。
「でも、良かったのか?全員集まってそれぞれで行動することになったからといって俺についてきて。いやまあ、確かにフリーで動けそうなの俺だけだったけどさ」
「ええっと……私も慧兄さんの影響でそこそこゲームに興味があったから、陽務くんが迷惑じゃなければ一緒に見て回りたいな、って」
「あー、そうか。レイン……熱田さんの親戚で、慧のやつとも知り合いなんだっけか。慧のやつ、変なゲームとかオススメしてないよな……?」
「変なゲーム……?えっと、幾つか教えてもらったのはやってみたことあるけど、面白かったよ?」
「ちょっと不安なのでタイトルを教えてもらえたら」
「シャンフロやりながら合間にっておすすめされたのだと……『ブラッド・ムーン:ハウンズ』、『マーセナル・ギア・レイヴン』、『ダークネス・アヴェンジャーオンライン』――」
「待った待った、ダ、ダクアヴェ!?あいつダクアヴェ勧めたのか!?」
「え?う、うん」
「いや全部神ゲーに分類されるタイトルなんだけどさ、何故か全部対人ゲーでストーリー難易度が高めで、それでいてなんであいつはダクアヴェを勧めた!?いや確かに、シャンフロの斎賀さんの実力を考えればオンもできなくはなさそうだが……」
「今のタイトル、全部ストーリーしかやってないよ、私」
「あれ、それまたなんで?まあ確かに、その3タイトルというか、あのメーカーのゲームってオンはただの対人コンテンツだからストーリーには直接関係ないけど」
「慧兄さんに絶対にやるなよって念押しされて。後、姉さんにも『いいか、やるなよ?私との約束だ、いいな?フリじゃないからな?』って言われて」
「……慧と斎賀さんのお姉さん、グッジョブ」
「うん?」
かわいく首を傾げているが、サンラク。楽郎から見ても斎賀玲というプレイヤーの実力はかなり高い。シャンフロでも猛威を振るうトップランカーを対人環境に解き放ったらそれはもう大変なことになるだろうと予測できた。
しかも彼女のやったという3タイトルは全て同じメーカーの開発元。その開発のゲームには熱狂的なファンが多く、対人でのオンラインプレイには色々な意味で頭のおかしい人間が多い。よく考えてみれば、あのメーカーの魔境環境出身者が『旅狼』にはレイン、クゥ、ジンと居るが下手したらサイガ-0もそうだったのかと思うととんでもないことだと思った。
「ま、まあなにはともあれ。なんというか、斎賀さんって真面目なイメージがあったからゲームってあんまりやんないのかなーとか思ってたんだよ。実は前にコンビニの前でシャンフロやってるって話した時も、ちょっとびっくりした。いちゲーマーとしては、ゲームに興味を持ってくれるのは嬉しいことだけどさ」
「最初は色々わからなくて姉さんに聞いたりしてやってたけど、今は楽しみながらやってるよ。1人用の買い切りのゲームも遊ぶことあるし」
「そっちはまともなラインナップであってくれればなぁ……ちなみに、どんな?」
「最近『修行だ』って言って姉さんに渡されたのは……『フェアリア・クロニクル・オンライン』?だったかな?あれってオンラインってつくのに、基本1人用のストーリーモードなんだね。……あれ、陽務くん?ど、どうかした?」
「な、なんちゅうもんを……なんというものを……む、むごい……むごすぎるぞ……」
「ええっと……?」
「なあ斎賀さん、ちなみにどこまでプレイした?」
「ラスボスまで倒したけど……」
ヒュッ、と楽郎を息を呑んだ。フェアリア・クロニクル・オンライン。通称フェアクソは彼の中でも最悪レベルのクソゲーだからだ。二度とやらないと思うほどには酷いもので、あれだけゲームでガチギレした作品はそうないといっていい。それをこの、同じ高校の元クラスメイトで、現在はクランメンバーの、恐らく誰がどう見ても清楚で真面目そうなという印象を受ける彼女が、『クリアした』と言ったのだ。
「でも結構疲れるゲームだね、あれ。あのゲームコレクション要素もあったけど、一周目で撮り逃しがあって。気がついた時には取り返しがつかなくなったから、悔しくて2周目頑張ったんだよ、あのゲーム」
「フェアクソヲ 2シュウシタ シカモトロコン……?」
「うん、ちょっとなんというか……とても頭にくるゲームだったから、2周目はタイムアタックしながらコレクションコンプリートをやって見たんだ。そういえば、2周目でそれやったって姉さんに話した時はすごく驚いたような変な顔してたな……」
とんでもない逸材ではないかろうか。楽郎はそう思った。恐らく、これほどの逸材はそう居ないし出会うこともないだろう。まず、フェアクソを2週目プレイしてトロコンとタイムアタックを同時にする時点で常軌を逸している。正気の沙汰ではない。
「斎賀さん、ちなみに他のソロゲーは……」
「えーっと……そういえば、姉さんに一緒に渡されたのが幾つかあったかな。『ファンタジア・ステラ2』、『とびだせ!監獄の島』、『真・英国無双』だったかな」
「まさかそれ全部ストーリーモードクリアを?」
「一通りはやったかな」
逸材である。この3タイトルは特にクソゲーの中でも修羅の道と言われるほどのクソゲーである。フェアクソに加えてこれとは、流石の楽郎も恐れ入った。
もしかしたら、彼女となら自分のクソゲー的価値観を共有できるのではないか。そう思ったが、それよりも前に考えることがあるだろうと言い聞かせる。
「斎賀さん」
「あっ、ご、ごめんね陽務くん。なんか私ばっかり話しちゃって」
「――GGCってさ、面白いゲーム沢山あるから楽しもうな」
「え?う、うん」
自分のクソゲー好きは他人から見て、あまり理解されないのは承知している。だからこそ、仮に自分と同じ何かを感じ取ったとしてもゲーマーとして日が浅い彼女に進めるべきは、ゲームを楽しめるもの。すなわち、一般的な良ゲーや神ゲーだろう。
聞くだけでも修羅の道を踏破してきた彼女に、いいゲームを色々教えてあげようと楽郎と思ったという。
なお、この後の顛末だけを記すと。楽郎的には、いいゲームを沢山紹介したいしゲームとは面白いものだとわかってほしい、という思惑は大成功し。斎賀玲としては、面白いゲームが沢山体験できたし、意中の相手である楽郎と楽しく前夜祭のブースを回れたことで幸せ一杯だった。
他のメンバーとの合流のため、所定の時間になったら移動していたのだが、その最中の話もこの週末はGGCのメインブースで他のゲームも見てみよう、というや、斎賀玲としては、顔を隠してGGH:Cのエキシビションマッチに出ることは知っていたので、こっそりと『応援してるね、頑張って』と。楽しくゲームの話をしている流れで伝えられた。
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「えーっと……お、居た居た。空ちゃーん」
「おっ、待ってましたよー、『刹花』さん!」
楽郎達がゲームブースを回っている頃、別の場所では複数名が合流していた。
永遠と空と、そして。空の後ろに控えるようにする、長身で屈強な、真面目そうな男性。
なお、永遠は変装して偽名を使っている。流石に『天音永遠』としてGGCの前夜祭から最終日まで居るというのがバレるとスキャンダルにもなるし騒がれるのは間違いない。なので現在、彼女は髪をまとめて隠すようにしてウィッグをかぶり、髪の色も黒から茶色になっており、伊達ではあるが眼鏡をかけ、更にはカラコンまでしている。声だけはごまかせないが、それ以外で見ればまず彼女が天音永遠だとは思わないだろうという状態だ。
しかも、ちゃんと偽名まで用意している。GGC期間中、身内以外の不特定多数が居る場所では、自分のことを『刹花』と呼んで欲しいと周知している。名前の由来を楽郎が聞いた時は、彼女は『ただの思いつきだよ、 ……ちょっと思い入れが混じった、ただの思いつき』と返していた。
こうして集まった『旅狼』メンバーだが、前夜祭は幾つかのグループに分かれて行動している。玲と慧、楽郎と斎賀玲、そして残った蓮と京極、空と永遠である。
GGCは極めて大きなイベントである。人工島1つを使うイベントで、前夜祭ではメインステージや開催期間中のメインブースへの立ち入りはできないが、一部のゲームタイトルや新進気鋭のメーカーで、まだそこまで大手ではないゲーム開発会社の簡易ブースは前夜祭からやってもいいということになっていた。
加えて、屋台などもかなりの規模で展開されていたり、イベントもある。そのため、人工島の大部分はお祭りの装いで賑わっていた。
「いやー、ごめんねちょっと色々と準備に手間取ってさ。 ……もしかして、そちらが例の?」
「うん、うちのチームのサブリーダー、通称副隊長。心配だからいつてくるって言ってさー、大袈裟だよね」
「……空。あなたはもっと自分の知名度と厄介なファンも居る自覚を持ってください。 失礼しました。彼女のチームで副隊長を努めている、篠原玲二と申します。職業の方の名刺で申し訳有りませんが、どうぞ」
そう言って渡された名刺を見て永遠は息を呑んだ。スーツ姿の証明写真に、彼の名前と役職名。そして、右下の余白欄に刻印されているのは、『執行官』を表すためのロゴマークが特殊インクで刻印されている。
本物である。空から聞いてはいたが、間違いなく彼は本物のその類の人間である。公安局の現場専門の、荒事もやることもあるエリート中のエリート。
「え、えーっと……。大変すごい名刺を頂いて恐縮なんだけど、生憎今は名刺もなければ変装中で……。 あまり大きな声では言えないんだけど彼女、空の友人で同じゲームをやってる天音永遠です。どうぞよろしく」
「よろしくお願いします。あなたのことは空からも聞いていますので。二人が安全であるように、今日はエスコートさせていますのでどうぞよろしくお願いします」
永遠としては、『現役の執行官に護衛されるなんてどんな大物なのよ……!』と思ったが、事実二人は大物である。片や超有名プロゲーマー、もう片や変装しているがカリスマモデルである。
「ちょっとちょっとー?私、ただの護衛のつもりで連れてきたつもりはないんだけどー?」
「いえ、あまりご友人の歓談に水を指すのもどうかと思いまして」
「今日は君の紹介も兼ねてるの。ぶっちゃけ、私としてはフィーが出てこない以上ウチのエキシビジョンには興味なくて」
「言い切りますね。……まあ、確かにあなたを止めるならば彼女でなければ無理でしょう。それに、彼女との戦いなら間違いなくチーム戦です。かの全米最強のチームとは、再び戦いたいとは思っていますが」
「君ってさー、落ち着いているように見えて本当好戦的だよねえ。ま、今回はお預けだけど。ぶっちゃけ、今回くらいの相手なら私一人で十分。サクッと全滅させて、本命に力を入れたいんだよね」
さて、と。空は前置いて。
「それじゃあ始めようか、私の親友と、ヘタレなりに覚悟を決めた慧君のための。対格闘ゲーム全米最強への、よからぬ作戦会議をね」
■本作の玲ちゃん
文武両道の才色兼備、本作のサンラクのメインヒロイン。
レジギガスではなくなっておりやや積極的。
楽郎に惚れているだけではなく、心を救われた。『色のない灰色の世界に色をくれた』とのこと。姉との関係は原作より良好、姉の百のほうもかなり溺愛しており、シャンフロで教えることは全て教えたし好きなようにしてほしいと思っており、真面目すぎるのが問題だからガス抜きのためにゲームを勧めたりしている。
姉から修行という名目で渡されたフェアクソは、普段興味のないことに対してはとことん無関心で感情一つ動かさない彼女を『腹がたった』『なんか悔しかったからトロコンしたしTAもした』と動かした。百はそれを聞いて真顔になったし、楽郎も歴戦の戦士だと感じた。
姉からの修行というクソゲー道場と対人ゲーム道場で原作以上にPSがある。具体的にはアタッカーやりながらボスクラスの攻撃をパリィしたりカウンターを取る。『旅狼』のフロントアタッカー兼タンク担当なのだが、同じフロンタアタッカー兼回避盾の玲と組むと手がつけられなくなる。
■ブラッド・ムーン:ハウンズ
とあるメーカーが出しているゲーム。地底人と呼ばれるプレイヤーたちが居るらしい。
■マーセナル・ギア・レイヴン
とあるメーカーが出しているゲーム。ロボットを操作するゲーム。空の家で玲はこのゲームでブレオン機体を作って対人に出ようとしたが止められた。空曰く『あの世界にシンカイやムラマサのようなものを解き放つわけにはいかない』とのこと。
■ダークネス・アヴェンジャーオンライン
とあるメーカーが出しているゲーム。対人環境が特に魔境と言われているゲームであり、並大抵のプロゲーマーなら心を折られて帰って来る。『旅狼』にはこのゲームのトップランカー三人が在籍している。もし玲ちゃんが対人に放り込まれていたらランカー入りで大暴れしていた。
■永遠の偽名
大切な相手の名前からとった名前。刹那と彼岸花。
【あとがき】
生きてます。身体のほうは大分よくなり、お医者様からは後は療養して完治というお言葉をいただきました。少しづつではありますが元気になってきたので執筆を再開。気がつけば身体壊してる間にシャンフロ二期は始まるしで見なくちゃなあと思っている次第。
ということでGGC前夜突入。ここから色んなキャラが出てくる予定。シルヴィアと慧の諸々の感情についてなども描いていく予定。