GGCの前夜祭イベントはかなり大規模で行われる。シャンフロを筆頭として年々VRゲームへの注目度は上昇しており、それと同時にゲーム業界そのものに対しての注目も集まりつつあった。結果、最初はそこまで大きな規模ではなく、精々外国のそこそこ大きな会場を貸し切って行われるマイナーなイベント、くらいだったものが現在では人工島を全て使ってまで催される大規模イベントになった。
そうして、この前夜祭イベントには今回のGGCで行われる試合や大会の関係者は全員招待されている。この前夜祭イベントは誰もが参加可能なオープンイベントではなく、ほぼ関係者だけで開催されるものなのだ。とはいうものの、招待されている関係者と、関係者が招待できるその身内。その数だけでもかなりの人数だ。今や世界規模のイベントとなったGGC、その前夜祭イベントに参加できるというのはゲーマーとしては眉唾物なのである。
「……むう。当たらない。くーちゃんみたいに上手くいかない」
「なんというか、昔から射撃系苦手だよなあ玲……」
「実家の弓とかならちゃんと当たるよ」
「あれはなんというか、うーん……例外だと思うんだよな」
そんな前夜祭のイベントブース。FPS、射撃系のゲームの催しを遊んでいるのは慧と玲の二人である。明日からは色々と忙しくなり、あまり時間も取れないかもしれないということで慧が玲を誘って、二人で行動することにしたのだ。
そうして、色々とブースや催しを回ろう、という話をして現在歩き回っているのだが、射撃系の催しのブースで珍しく玲はその無表情の上に困ったような表情を浮かべていた。
行ったのは、よくある射的だ。といっても、昔ながらのものではなく、デジタル化された射的のようなものであり、用意された銃を画面に向かって撃てば、射撃が当たった所に判定が出る、というものである。
結果、10発撃って1発も的に当たらない。ブースの担当者も『機材のトラブルではないのか』と驚くほどだったが、事実そんなことはなく特に問題のない状態で一発も当たっていない。慧から見ても銃を撃つ時に変な持ち方をしているわけでもなく、射撃時に砲身がズレているわけでもない。なのに当たらない。
とにかく玲は射撃系のゲームが苦手である。特に銃などの扱いについてはどうして当たらないのかがわからないレベルで弾が当たらない。ただ、例外として彼女の実家。神事などで行われたり、そういった関係の場で行われる弓の射手については当たる。それも、ほぼ必中と言っていいほどに。
「……ん」
「って、俺にやれって?」
「慧のかっこいいところ見てみたいー」
ジト目かつ棒読みでそんなことを言われ、慧は彼女が手に持っていた遊戯用の狙撃銃を手渡される。
「まあいいけどさ。でも結構ヤケというか、熱中してやってたな。いつもなら数発撃って諦めるのに。ワンセット200円だから……幾ら使ったんだ」
「……2000円くらい?」
「どうりでブースの人が申し訳無さそうになってるわけだ」
1セット10発。それを10セットなので100発。それを全て外す、百発百中ならぬ百発百外しているのだからブース担当者としては機材トラブルを疑うしそうでなかったとしたら申し訳なくもなる。
だが、玲もここまでヤケになるのにも理由があった。
「なにか欲しい景品でもあったのか?」
「うん、あれが欲しくて」
そうして指差すのは、何やら目がキマっていて不思議なポーズを取る、黄色いヘルメットを被った猫のような何かのぬいぐるみだ。梱包されている箱には『ヨシ!』などと刻印されている。
「珍しいな、普段ああいうの欲しがらないのに」
「なんか見た瞬間何かを感じて。部屋に置こうかなって」
「玲の殆ど実用的なものしか置かれてない部屋にあれが置かれるとなんかとんでもなく異質な感じがするような気がするなあ……まあいい。まあ見てろって」
なおこの景品、ほぼ最高得点獲得での商品である。ワンセット10発の内9発は高得点ゾーンに叩き込まなければ目標の点数には届かない。しかも、狙うターゲットは投影されているスクリーンの中をランダムに動き続けている。
中々の難易度なのだ。といっても、それに一発も当てられなかった玲もまた中々なのだが。
「――さて、やるか」
すぅ、と。深呼吸をしながら目を閉じる。その後、ゲームスタートというガイダンス音が流れ、慧は目を開いて、同時。競技用のライフル銃を構えた。
ドン、ドン。という機械的なヒット音と同時にモニターの横の獲得ポイント表に凄まじい速さで記されていくのは高得点の連続。ワンセット、シングルアクション式のライフル10発を凄まじい速さで撃ち切り、再び息を吸った慧はそのままドヤ顔を玲へとしてみせた。
「どうだ?結構うまく行ったんじゃないか?」
「おお……。流石慧だね、くーちゃんほどじゃないけど」
「あんな射撃化け物と比べないでほしいなあ……。あいつなら欠伸しながら片手打ちでも全部ど真ん中だろ」
苦笑いしている慧だが、彼の出した得点もかなりの高得点である。スコア的には今までプレイした人間の出した中でも上位10人以内のスコアであり、玲が狙っていた景品の必要得点には余裕で到達している。それどころか、ランキング入りでの商品まで取れる状態だ。
彼は格闘ゲームをメインとしているプロゲーマーであるが、実際のところは近接戦以外でのセンスも高い。以前、ウェザエモン戦中に話題にも出たが騎乗戦やロボット対戦ゲーム、そして射撃系ゲームに対する適性も高い。それも、どのジャンルでも一級クラスのプロとやりあえるほどには技量が高いのだ。
景品の猫のような生き物を模したぬいぐるみを景品で取るとスタッフに伝えると、結構な大きさがあるので自宅配送にしてもらう。それを端から見ている玲としてはご機嫌である。相当にそのぬいぐるみが欲しかったようだ。
「自宅配送にしといたからGGCが終わったくらいに届くだろ。いやでもデカいなアレ……。玲の身長より少し低いくらいの大きさあるんじゃないか?」
「大きくてふかふかでもふもふ、あのなんとも言えないキマってる目と顔もとてもいい。私の部屋の守護神にする」
「お、おう……。ん?あれ、スタッフさんが呼んでる」
どうかしたのだろうか、と思い慧がスタッフに話を聞いてみると、通常の商品とは別でハイスコア。上位10名以内に入賞した景品があるとのこと。何やら用意されたのは、やたらと豪華な。言うならばゲーミング仕様で七色にライティングされているガラポン抽選機だった。どうやらそれを回して出てきたものがもらえる、とのことで慧が景品のラインナップを確認する。
流石にと言うべきか。上位スコア入賞商品というだけあって、基本的にハズレがない。大型の壁掛けテレビや最新型のVRヘッドギア、高級なマウンテンバイクなどどれが出ても大当たりレベルの商品だらけだ。
だが、テレビは自宅にいいのがあるしVRヘッドギアは壁掛けでコレクションするほどにある。しかも家で自分が使用しているのはいいお値段がするフルダイブチェア。なにか目ぼしいものはないのかと探せば。
「……ん?」
ふと。目に留まったのは、都外にある温泉への二泊三日の温泉旅行だった。そういえば最近は色々と忙しかったりして、旅行とかに行けてないなあと思う。GGCが落ち着いたら、少しゆっくりとしたい、などと考えてガラポンを回せば。
――『大当たり!二泊三日温泉旅行ペアチケット券!』
「ラインナップの中では一番有用そうなもの引くとはどうして俺はリアルでは引き運があるのにゲームではないのか……向こうだとユニーク自発できないマンとか煽られてんのになあ。 ……って。ん?え、ペア?」
慌てて商品ラインナップへと視線を投げれば、確かに書いてある。しかも遠目ではあまり見えないほどに小さい文字でペアと。
困った、と。慧は思う。今までこういったものに当たったことはほとんどないため、勝手がわからない。ペアと称されているが、一人で使用できるのか?などと疑問が生まれ、考え込むようにしていると。
「はい、こちらです。 ――どうぞ、彼女さんと楽しんできてくださいね」
満面の笑みで景品を手渡され、その笑顔のまま小声でそんなことを言われて慧は思わず固まった。同時に、表面ではなんとか冷静そうにしているが頭の中では慌てふためいていた。
ペア、そしてこのスタッフが今言ったことはつまり。玲と二人で温泉旅行、ということである。
確かに自分は、玲のことを異性として意識している。大切に思っている。
そんな関係になりたいと望んではいるし、それ以上の関係にだってそうだ。
だが、『まだ』そうではない。
全てに決着をつけて、覚悟を決めて。このGGCでそれを超えて、伝えると決めたのだ。
後ろでキョトン、と。どうしたのだろうかと首を傾げるその相手を一瞬見ると、慧は商品を受け取った。
これは、全てを終えてそうなれた時のものだ。そう思いながら。
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そんな二人の様子を、遠目で見ている存在が居た。
小柄で金髪碧眼、伊達ではあるがメガネをかけ頭にはニット帽をかぶったその少女は、愕然と。言葉を失ったようにして、視線の先の相手を見ていた。
彼女の名は、シルヴィア・ゴールドバーグ。全米最強の格闘ゲーマーであり、今回のGGCのエキシビションマッチにも出場する彼女もまた、前夜祭から招待されていた。そうして、その前夜祭から参加するために数日前から来日。つい昨日は、友人であり本人は否定しているが射撃ゲームにおいて世界最強の相手から『今から準備して日本に行くので、GGC中泊めて』という、とんでもなく驚く連絡があったばかりだ。
彼女は目を見開いて、悲しそうな目で自身の心臓のあたりを抑えた。
まるで、痛むとでも言うように。
視線の先に見えたのは、二人の姿だった。自身より背の高い、銀灰色の長髪を持つ少女。見た目のプロポーションに自信のある己から見ても、『綺麗』という言葉がしっくりくるその相手は楽しそうな笑みを目前の相手に向けている。
それが向けられており、そうして。その少女に同じ笑みと、あまりにも自然な。幸せそうな表情を向けていたのは、よく知る相手。ライバルにして、想い人でもある相手。魚臣慧だった。
彼と初めて会ったのは、数年前。プロゲーマーとしての『K』と戦った、GH:Bの世界選手権より少し前。あるイベントのために日本に来た時のことだった。その時、自分はお忍びで一緒に来日していた知人にも黙って観光に出かけた。髪の毛はロングヘアのウィッグで変えているし、カラーコンタクトだってしていた。今はある程度普通に話せるが、当時慣れないカタコトの日本語で誰も自分がシルヴィア・ゴールドバーグだとは思わないだろうと思って出かけた。
だが、バレないのと土地勘がないのは別問題だった。観光地を歩こうとすればすぐ迷子になってしまい、滞在先のホテルまでどうやって戻ればいいのかもすぐわからなくなった。更に言えば、当時の自分は殆ど日本語が話せないし読めず、非常に困った状態となっていた。素直に勝手に出歩いたことを謝罪して迎えに来てもらおうか、そう思っていた時。
――『そこの外人さん、どうかしたのか?』
そこで心配したように声をかけてきたのが、想い人。魚臣慧だった。自分がカタコトで言葉に詰まっていると、彼は気を遣ってくれたのか英語で話してくれ、観光をしていたのだが道に迷ってしまったのだと伝えた。そうして、色々あってその日は彼と歩いて、そうして最後にはちょっとしたことから自分が全米最強だということもバレてしまった。
それからは仕事の関係で日本へと行くのも、そして試合で彼と全力で戦うのも楽しみになっていた。日本語だって勉強した。単純に日本という国が好きだったからというだけではなく、彼と話をするためにという想いもあった。
何がキッカケだったのか、といえば曖昧だがそれでもシルヴィア・ゴールドバーグという人間は、彼に心を惹かれていたのだと自覚していた。
端から見ていて、お似合いだと思った。二人共楽しそうに、幸せそうにしていて。とても近しい距離で、それが当たり前で自然だというようにして接していた。
自分に向けられることのない、彼のあの表情や視線。
自分に向けられることのない、彼のあの感情。
気がつけば、目が熱くなって駆け出していた。まるで、逃げるかのように。いつもは全米最強として自信に溢れた自分。誰からの挑戦でも全力で受けると言い放つほどのそれは今はなく。ただ、今はぐしゃぐしゃになった自分の感情。そしてこの胸の痛みから逃げたかった。
あの感情はきっと、自分には向けられない。
でも。勝負の場でならきっと、自分を見てくれる。自分だけを見てくれる。
そう、自分に言い聞かせた。
■シルヴィア
慧と玲の関係からシルヴィアには勝ち目が存在しなかった。慧からの思われ方としては、ライバルや自分の弱さ故に勝てなかった相手、踏破すべき相手という印象で、恋愛感情は一切なかった。拙作の慧にとっては、異性として。大切な相手として見えているのはたった一人だけで、それ以外の相手を選ぶつもりもなかった。
GGCでの慧との対戦を楽しみにしていたのもそうだが、日本でのイベントということで慧と話したり、遊んだりすることも楽しみにしており、そしてそれにより交友を深めることも期待していた。『負けたら休養』という公約も、自分がもし負けるなら慧以外あり得ないと考えていたため。もし負けたら、休養を理由にして慧との仲を深めるつもりでいた。……のだが、慧が玲と幸せそうにしているところを見てしまった。彼女としては、楽郎や永遠達のように完全に身内という訳ではなかったので、慧にそういった相手がいることも知らなかった。
普通の友人や仲間としての純粋な人間関係で見れば、玲との相性は最高といってもいい。シルヴィアの最大の弱点である部分を玲がカバーしてくれるお陰で、一切の隙がない。彼女と組む場合回避盾とストライカー(前衛職)という超攻撃型編成になり、こうなるとシルヴィアがやりたい放題できるのでもう止められない。タイプは違えど二人揃って天才型なので、バースト合わせやヘイトスイッチからのカウンターなど平気でやってくる。
■目のキマった不思議な猫
とても大きく(高さ推定150cm)それでいてふかふかもふもふなのだが、完全にキマっている目と顔、フェルトであしらわれた黄色いヘルメットが特徴の巨大ぬいぐるみ。後日玲の自室に置かれたそれは、時折彼女にもふもふの感覚を堪能されながら読書のお供になっている。ヨシ!
■玲がもしGH:Cをプレイしたら
使用キャラは乱蔵。普段居合や刀1本による剣術を主体としているだけで、二刀流も問題なく使える。シャンフロ内で使用していないのは、刀が二本無いからという理由と、一撃で相手を倒すなら居合のほうが早いという理由。ただ、本人曰く、小太刀が見つかれば実践したいとのこと。GH:Cで玲が乱蔵を使用する場合、殆ど納刀状態で、何故か手だけは刀の鞘に添えているという乱蔵が誕生する。相手は気がついたら斬られている。コワイ!
遠距離攻撃からの圧倒的なプレイスキルでの相性不利か、真正面から彼女以上の実力で叩き潰さない限りどうしようもないタイプ。相手からすると、『攻撃が勝手に避けていく』『行動が全部先読みされている』『心が折られる』という状態。シルヴィアが常に最高のコンディションを維持して自分の流れを作り続けるアタッカータイプなら、玲は相手のリズムや流れそのものを完全に破壊するカウンタータイプ。
相手がヴィランだろうとヒーローだろうと、対戦相手。つまり敵であることには変わりないので、戦闘中はおじいちゃんボイスで『ハイクを詠み、首を置いてゆけ……』などと言う。GH:Cはロールプレイ的な要素も強いため、割と玲はノリノリで空から学んだニンジャのようなロールプレイもする。接敵時は、『ドーモ、(相手のヒーロー・ヴィランの名前)サン。ランゾウデス』とオジギを忘れない。
致命的な弱点は永遠のような策略タイプ。基本的に相手を倒すことしか考えていないため、特殊勝利に走られて策に策を重ねられると弱い。玲、もといこの忠犬はシャンフロでは永遠や空という策略に特化した飼い主がいるため一切の隙がないが、彼女単体だと基本的に脳筋。戦わないという選択肢を取られるとどうしようもない。