とある格ゲーマーの幼馴染   作:無名のカヤ推し

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ちょっと多忙につき、話だけ投稿。後日あとがきとか追記するかもしれない。


GGC編:其れは、想いを伝う物語 其の三

「話だけは軽く聞いていたが、こいつは……」

 

「なるほど、とんでもない逸材……格闘ゲームにおいて最強は伊達じゃない、って嫌でも理解させられるね」

 

 シルヴィアについての情報、それを詳しく聞いた楽郎と永遠は真剣な面持ちで考え込んでいた。

 

「聞いた感じ、テンションファイターのタイプだね。楽郎君、同じタイプとしてどう思う?」

 

「……正直に言うぞ。格ゲーっていう同じ土俵ならお手上げだ。技量、センス、才能。どれを取ってもこの全米最強は文字通り最高水準だ」

 

「珍しいね、君がそんな弱気なことを言うなんて」

 

「客観的に情報を分析して、自分と同じタイプなら自分に当てはめて考えた結果だよ。……もし戦うと想定するなら、よくて善戦だな」

 

 シルヴィア・ゴールドバーグ、女性、二十歳。アメリカの格ゲーを主とするプロゲーマーの中で最強は誰かと問われればまず間違いなく最初に名前の挙がる人物。彼女の名前が轟くこととなったある大会では、トーナメント形式であったその大会において第一、第二、準々決勝、準決勝、決勝。その全てをノーダメージパーフェクトで勝利し、エキシビションマッチに至ってはプロゲーマー相手に2ラウンドを一方的に奪取して勝利というとんでもない偉業を成し遂げた『天才』である。

 

 そんなプロフィールを聞くと、永遠と楽郎としてはある人物。というよりは、身内を思い出す。もっとも、恐らくこのシルヴィアクラスの化け物が身内にはジャンルは違えど三人は居るのだ。

 

「テンションファイターではないけどさ、やっていることがなんとなく似てると思わないか永遠さんや」

 

「ん?あー……そうだね。玲ちゃんは直感型の天才だけど、やってることはなんとなーく似てるね」

 

「熱田さんに正面から挑んで勝てると思うか」

 

「うん、無理。実質最新世代版かつ窮極状態のウェザエモンを一人で相手しろって?はっはっは、無理ゲーでしょ」

 

 『はっはっは!』と二人揃って笑った後、ため息を付く。その後、頭をフル回転させてどうするか考え出した。幸いにというべきか、今回のGH:Cは単純な格闘ゲームではない。ならば、技量以外の点においてどう攻めていくかが重要な鍵となる。

 

 永遠としても、事前に空や蓮と相談して様々な可能性は模索増していたが、全米最強の詳しいプロフィールを見て、色々と修正が必要だと実感した。それも、時間はそう多くない。早急に作戦を考えないといけない。

 

「あのー……その熱田さんっていうのは?」

 

「うん?ああ、悪いな夏目さん。身内ノリで身内の名前出しちまった。……あー、その。なんて説明すればいいんだ?慧、頼んだ」

 

 何気ない楽郎の言葉、彼としては、説明に困ったので特に身内として親しい慧に説明を投げただけのつもりだったのだが、色々と察していた永遠は思わず楽郎を見た。『何やってんの君』というように。

 

「俺に投げるなよ……。あー、玲は俺の幼馴染だよ。最近は永遠や楽郎、他の仲間と一緒にシャンフロやったりしてる」

 

「そういえば、ケイがシャンフロ始めたって話はしてたわね……。 ――ちょっと待って。ウェザエモンって、確か最近ゲーム雑誌でも話題になってた」

 

 

「あ、まずい」

「やばっ」

 

 ここで永遠と楽郎は失策に気がつく。慧も居ることだし気が緩んでついつい身内のノリで話してしまったが、ウェザエモンの話題を出すのは不味かった。まだシャンフロをやっている、くらいならいい。だが、ウェザエモンのワードを出したのは不味かった。

 

 永遠としても、リアルといえど外道三人衆が集まっているためそのノリで話していたのは事実だ。どう切り抜けようか、と頭をフル回転させる。少なくとも気が緩んでいた自分のやらかしだ。

 

「言っちまったものは仕方ないだろ。別にメグになら知られてもいいって、少なくとも俺は信用しててるし」

 

「あー……ごめん、慧君」

 

 申し訳無さそうに謝罪する永遠と、気にしなくてもいいというようにしている慧を見て恵の中でなにかが確信へと変わった。

 

「……つまり、あの雑誌に挙がってた4名のプレイヤーの内の三名って、まさか」

 

「んー、まあ察しのとおりだよメグ。サンラクが楽郎、アーサー・ペンシルゴンが永遠、んでオイカッツォが俺。それで、今話に出たレインってのが、ウチの幼馴染の玲だ」

 

「は、ははは……なんというか驚いちゃって……。でも、納得かも。確かに、ケイやあなた達ほどの実力者なら、シャンフロで名高い最強種とかいうのにも勝てそう」

 

「バラしたからぶっちゃけるけどさ。実際、玲が居なけりゃ詰んでたよ。それぐらいにヤバイ相手だった」

 

「ふーん……?ケイの幼馴染、ね。それで、そのえーっと……熱田さん?っていうのはどんな人なの?」

 

「シルヴィアとは違うタイプの天才だな。普段はごく普通の大学生やってて、シャンフロでは最近クラメンとPKの首を斬って根絶やしにしている」

 

「さらっととんでもないこと言わないで欲しいんだけどケイ……。なんか、とんでもなさそうな人だね。じゃあ、例えばだけど ――全米最強とだったら、どっちが強いと思う?」

 

ふむ、と慧は真面目に考え込む。そこまで真剣に考え込むとは思っていなかった恵は『ごめん、なんでもない』と言おうとしたが。

「……客観的に見るなら、玲だろうな。少なくとも、俺はウェザエモンと一騎打ちしていた時の玲と戦って勝てる気がしない。そしてきっと、あの領域にはとんでもない人外でなければ届かない。 ――ああ、本当に悔しいけどな」

 

 慧の表情には、悔しそうな表情が浮かんでいた。そして、その中には様々な感情がごちゃまぜになっていることも、端から見ていた3人は感じ取った。

 

「永遠や楽郎は対峙したからわかるだろうけどさ、あの最終盤のウェザエモンは俺達3人じゃ恐らく歯が立たない。成すすべなく撫で斬りにされてただろうよ」

 

「そう、だな。俺は一度反応すら許されず叩き切られたからよくわかる。あれは一瞬気を抜いたら、文字通り詰む。そんな極限領域の戦いで、熱田さんは勝利してみせた」

 

 剣の理に、剣の神に愛され。

 そして、ウェザエモンという神代の英雄。超越者に後継者として認められた存在。

 それが、レイン。熱田玲という天才なのだ。

 

「話が脱線したな。ともかくとして、最も警戒すべきなのはシルヴィアだ。俺もあいつに勝つために特訓を重ねてきたつもりだ。だが、相手だって前回の対戦から何もしなかったなんてことはないだろうよ。 ……それを踏まえて、作戦会議と調整と行こう」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「確かに、これは興味深いね」

 

 慧たちが作戦会議と調整に入っていた頃、別の場所には一人の姿がある。

 

 人工島西区画。GGCにおいて、技術の研究発表や製品の展示などが行われる、いわばゲーム関係ではなくお硬い研究者や企業向けの企画である。

 

 会場で見る予定にしている空のエキシビションマッチまでは少し時間がある。なので、玲は真里亜から聞いていた西区へと足を運んでいた。

 

 玲は理工系の学生である。その分野においては、名の知れた大学のその方面の研究室に所属していることもあり、こういった技術関係の発表会や研究というものには大いに興味があった。この西区のブースを幾つか見ての回ったが、とにかく興味を惹くものが大いにあった。

 

 今回、GGCで発表されているメインテーマは『VR技術』だった。VR、バーチャルリアリティとはほんの数十年前までは夢物語だと言われていた。ARのように現実に仮想現実を呼び起こすことも、ましてや人がVRの世界を体験するなど不可能だと言われていた。

 

 それが現実になっている。現実に仮想現実が溶け込み、人の意志がVRという別世界に旅立つことも出来る。フルダイブも最早ゲームだけではなく、様々な分野で活かされるようになった。医療や教育、日常のあらゆる面でその技術は浸透している。

 

 そうして近年。その技術の中でも特に注目されているのが、シャンフロ。そこに採用されているエンジンだ。美麗なグラフィック、リアリティの高い操作性、生身の人間に近い挙動など。VRの世界において本物の現実化のように感じるほどのそれは数世代は先を行っていると言われるほどであり、ゲーム業界だけではなく多方面の業界の技術者に注目された。

 

 そういった最新の技術の研究発表や製品、それを見るのは中々に面白く。とても有意義な時間を過ごしていた。次はどこのブースを見ようか、そういえば真里亜はこっちのブースを見て回っていると言っていたので、声をかけてみようか。などと考えていると。

 

 

 

「――玲?」

 

 

 

 名前を呼ばれた。それも、聞き覚えのある声。

 とても懐かしい。慧と同じくらいに安心する声を。

 

「豊明?」

 

 思わず目を見開いた。そこにおそらく自分と同じように驚いて立っていたのは、一人の青年。

 180センチは超えるだろうという背に黒髪。ラフなジャケットと、落ち着いた黒基調の私服姿。

 

 島津豊明。自分にとって、慧と同じくらいに親しく。信用している相手がそこには居た。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「久しぶりだね、元気にしていたかな」

 

「ん。元気だよ、お父さんやお母さん。兄さんや姉さん、本家の人達も元気にしてる。勿論、私や慧も」

 

「そっか、それを聞いて安心したよ。僕はずっと鹿児島だったから、あまりこっちに来ることも少なくてね。連絡も取ろうと思ったんだけど、何かと忙しくて」

 

 思わぬ再開に玲は驚いた。まさか、GGCという場でこのような相手と再会するとは思っても居なかったからだ。

 

 『島津豊明』。彼との付き合いは、慧と同じくらいに長い。

 

 彼は家の事情で、昔。中学と高校の間はこちらの方で過ごしていた。そして、その間は多少の学年差はあったものの、同じ学校に通っていた。慧は高校に進学せずプロの道に進んだが、自分と、慧と豊明。年も近く、普段から落ち着いている豊明が行き過ぎそうになる慧と玲を嗜める、そんな三人組の関係だった。

 

 高校卒業後、彼は鹿児島へと帰っていった。東京と鹿児島では距離もあり、年賀状や暑中見舞いなどのやり取りはあっても連絡はあまり取り合っておらず、直接会うのはもう数年ぶりだった。

 

「こうして会うのは数年ぶりだけど、なんというか、うん。随分と大人っぽくなったね。慧と一緒に色々やらかしていた頃の君が懐かしいよ」

 

「ふふ、懐かしいね。豊明もなんというか、貫禄?みたいのが出たね」

 

「僕はまだ20代なんだけどなあ……」

 

「でも、次期当主でしょ?島津のおじさんは元気?おじいちゃんも」

 

「親父殿も爺殿も元気だよ。爺殿なんて、毎日元気に庭で刀の素振りとかしてるよ」

 

 現在、二人が居るのは豊明の企業用関係者室である。GGCの企業ブース担当者に割り当てられた部屋で、室内には様々なものが置かれている。恐らく仕事用のタブレット端末にノートPC、整理はされているが山積みになった紙媒体の資料。部屋の隅には大小問わず段ボールが置かれており、コピー機や、作業台のようなものの上に無造作に置かれた様々なデバイスなどがある。

 

 来客用のスペースも作られているようで、そこのソファで対面しながら、どこにでもあるようなインスタントのコーヒーを飲みながら他愛のない話をした。最近のこと、自分が理工系の道に進んだこと。そういった研究や勉強をしていること。

 

 玲は何気のないことのように話したが、慧と同棲しているというのは豊明を驚かせた。

 

「しかし、シャンフロか。確かに話題には尽きないゲームだけど、まさか玲と慧があれをプレイしているとはね。最近は少し家のことで忙しかったんだけど、落ち着いたら時間を見つけてやってみたいなとは僕も思っていたんだ。慧ほどではないけれど、高校の頃はゲーマーだったし、それに技術者としては実際にあの世界を見てみたいとも思ったし」

 

「豊明もシャンフロやるの?面白いゲームだよ、景色は綺麗だし、本当にあの世界に生きてるみたいなリアルな感じがする」

 

「景色か、いいね。僕がドライブとか好きなのは玲も知ってるよね?色んな景色を自分の足で見に行く、それはとても面白そうだ」

 

 昔はよく3人で旅行に行ったりもした。豊明はその土地の景色や町並みを見るのが好きで、よくカメラを持ち歩いては写真を取っていた。

 

「使用武器とかビルドとかも実は決めているんだよ」

 

「おお、準備万端って感じだね。うーん……武器は太刀と弓、ビルドはAGI型とか?」

 

「ほぼ当たりだね。ただ、実はゲームを始めたら探そうと思っている武器があって。……できれば、玲や慧にも協力してもらえると嬉しいな」

 

「探している武器?どんな?」

 

「ある噂を聞いてね、是非探したいと思っているんだ。 刃渡り3尺……備前長船長光、よく知られる言い方をすれば物干し竿と呼ばれる刀をね」

 

 玲は驚いた。自分も剣に関わる血筋だからこそ、聞いたことはある。備前長船長光、知られた言い方をすれば物干し竿。伝承のみで実在したのかはハッキリとしないが、かの有名な佐々木小次郎が用いたという刀である。

 

 もし、彼がゲームでそれを手にしたとすれば。そう考えただけでゾクリとした。彼は島津の人間であり、剣術にも精通している。そして、その才能を持ってすればその刃を使いこなすことも出来るだろうと思った。

 

 

「……私も色々聞いてみるよ。ところで、豊明はGGCが終わったらまた鹿児島に戻るの?」

 

「ああ、それなんだけどね。実は、ウチの会社の東京支部の技術者として赴任することになったんだ」

 

「え?じゃあ、こっちで暮らすの?」

 

「そうなるね。親父殿も爺殿も元気だし、『お前は経験が絶対的に足りてないから向こうで積んでこい!俺はまだまだ現役だからこっちのことは気にするな!』って、親父殿に言われて。こっちでの生活が落ち着いてから玲や慧には連絡しようと考えてたんだけど、ちょっと予定が早くなったね」

 

 それを聞いて嬉しくなる。また、あの頃のように3人で会えるかもしれない。そう思うと不思議と口元には笑みが浮かんだ。

 

 だが、しかし。

 何か違和感のようなものを感じた。

 

 彼のことは信用している。それこそ、慧と同じくらいに信用している相手だ。心を許している、と言ってもいい。こうして話している時に感じる安心感のようなものは、慧と居る時にも感じるものだ。けれど。

 

「……玲?どうかした?」

 

「え?あ、うん」

 

 似ている。慧と居る時の感覚と、彼と話している時の感覚は似ている。安心感、信頼感。けれど、彼に対して感じなくて、慧に対して感じるものがある。それは、どんな感情なのか言い表せないが、違和感のような、痛みのような。何かが引っかかったようなとも言えるし、靄のかかったものとも言える。表現できない何かだ。

 

 わからない。それが何なのかわからない。そうして、そんなことを誰かに打ち明けることもできない。けれど。慧と同じくらいには信用している彼ならば、と思い玲は。言葉を紡いだ。

 

「豊明のことは、信用してる。慧と同じくらいに。 ……だから、相談したいことがある」

 

「僕に?うん、いいよ。僕で力になれることなら、なんなりと」

 

「――慧と居る時、自分でもわからない何かを感じることがあるの。ただ、それがなんなのかわからなくて」

 

 彼は、黙って。真剣な表情でそれを聞いていた。

 

「多分嫌なものじゃない、とは思う。でも、どう表したらいいのかわからなくて。……最近、慧がすごく無茶してることがあって、それを見てるととても辛くて。同時に、どうしようもないくらいにわからない何かを感じて」

 

 かつて、あの世界で。己の師に言われた言葉。『その想いを大切にせよ』という言葉。自分が慧に対して抱いているそれが何なのか。だが、恐らく師はその何かを大切にしろ、と言っていたのだと思う。

 

 

「なるほど。 ……きっと、そうなんだろうね」

 

「豊明?」

 

 彼は苦笑すると、何か吹っ切れたようにして。そして、少し言葉をまとめるようにして沈黙すると。

 

 

 

「玲。君は、慧のことが好き……いや、違うな   ――そう、きっと」

 

 

 

    ――『愛しているんだよ』

 

 

 

 続けて告げられた言葉、それを聞いた瞬間、自分中に何かがストン、と落ちたような気がして。

 感じていたそれが何なのか、見えたような気がした。

 

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