とある格ゲーマーの幼馴染   作:無名のカヤ推し

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なんとか元気にやっています。


GGC編:其れは、想いを伝う物語 其の四

 GGC一日目。昼前。エキシビションマッチが行われる会場は満員となり、立ち見のために後部座席側で待機する者も少なくはない。それだけではなく、人工島の各所に設置された大型のリアルタイムでの実況中継モニターの前にも大勢の人集りが出来ていた。

 

 この一日目に行われるエキシビションマッチは幾つかある。午前の部でも複数のエキシビションマッチが行われ、かなりの観客の注目を集めていたのだが、これから始まろうとするそれは特に注目されていた。

 

 デスペラード・スタンピード。今年の秋に発売予定の、FPSゲーム。チームデスマッチ、ペイロード、ドミネーションなどFPSゲームでよくある対戦モードからサバイバルマッチやサルベーションと呼ばれる、物資を奪い合い持ち帰るというゲーム性など。とにかく様々な要素を詰め込みながら、今回のGGCで同様に注目を集めているGH:Cと同じエンジン。つまり、限定的なシャンフロエンジンを採用した、極めてリアルで美麗なフルダイブFPSである。

 

 ただですら注目度の高いゲームだが、今回はそこに拍車をかけるようにして注目されている原因がある。それが、プロゲーマーである時雨空こと、『空兎』(くうと)が今回GGCに出てくるということだった。

 

 FPSというジャンルにおいては、ワールドランク二位。といっても、一位である空のライバルは断固として自分が一位であることを認めていないが、世界トップレベルで少なくともこの一位と二位だけはとにかく次元の違うレベルである。その内の一人が今回出てくるとあって、事前告知の段階から盛り上がりを見せている。

 

 そして、空という個人の人気も高い。小柄でありながらスタイルの良い容姿、薄い黄金色のセミロングの髪をポニーテールにしており、琥珀色の瞳。普段の立ち振舞からは絶対的な自信と活発さが溢れ出ており、本人が俗に言う推しに対して投資も惜しまないし一度語りだすと止まらないタイプというのもウケており、ワールドランク一位のライバルとはむしろ仲が良いほうで、二人揃って写真集なんかも出されたしている。プロゲーマーとしてではなくアイドルという側面で見ても人気が高い。

 

 そうして、彼女の身内もまたそれぞれの場所でそのエキシビションマッチを見守っている。慧や楽郎、永遠は関係者室のモニターを。玲や京極、会場に入れた者は現地で。そして。

 

 

「……さて、どう私を愉しませてくれるの?空」

 

 会場のVIP席。そこからその時を待ち遠しそうにしているのは、星の射手(ステラデウス)。現ワールドランク一位。フィリス・ファルシュタイン。

 

 空を敵陣に突っ込み、一方的に蹂躙する無法者(デスペラード)とするなら、彼女は相手がどこに居ようと絶対に逃さない、まるで星降る夜空が襲ってくるかのような戦い方をする星の支配者。彼女の狙撃銃に一度狙われた相手は、何処に逃げようと逃げることはできない。そうまで言われる、遠距離狙撃型のプレイヤーである。

 

 今回の空達の対戦相手は、中々に強いチームだ。ワールドランク5位の率いる日本チーム。実力が低いわけではない。むしろ、そのチームリーダーは堅実かつ実直な戦い方をする、いわば教本を具現化したようなランカーだ。まず並のプロでは届かないし、彼より上位の3位と4位も度々彼には負けている。

 

 

 だが。役不足だとフィリスは思っていた。そうしてこうも思うのだ、今日の試合は、ただの狩り場だと。

 

 

 あの獣のような、規格外で暴力的な無法者を相手取れるのは、自分だけなのだ。

 

 そう、自分でなければ不可能。そして、互いに喧嘩になるから話題に出さないがあの頂上決定戦において本来撃たれていたのは、自分だった。

 

 友であり、ライバルでもある。同時にこう思ってしまう。貴女の視線を釘付けにするのは、私だけでいいと。故に自分は王座を守り続ける。いつの日か、もう一度。いや、あの時以上の彼女との全力の戦いで、彼女に王座を簒奪されるために。

 

 開始時間となり、それぞれのチームの入場が始まる。最初に入ってきたのは、ワールドランク5位のチーム。礼儀正しく歓声に応えながら、フルダイブチェアの置かれている中央フロアへと歩んでいく。

 

 そして、続けて現れたのは。

 

「――本当、個性の強いチームよね」

 

 歓声がより一層大きくなる。会場に流れているBGMを掻き消すほどの大歓声の中、中央フロアへと歩みを進めるのは、なんとも統一性のない5人チーム。

 

 5人の中央で先陣を切って歩くのは、小柄な。よく知る少女。空だ。その左右には、統一性のないチームメンバーが四人居る。

 

 空のすぐ右後ろに控えるのは、メガネをかけた屈強な青年。そして左後ろには、着流しのような服を着た細目の青年。その二人の横には、大柄な、小太りだが柔和な表情の男性と、やたらとテンション高めに観客に手を振ったりしている、俗に言うギャルのような女性。

 

 これが、ワールドランク一位。全米最強とその王座を争っている日本最強のチーム、『サジタリウス』だ。メンバーは全員、空が自らが見つけてスカウトしたという異色のチーム。しかし、その実力は本物だ。

 

 互いのチームは対峙した後。それぞれのメンバーがフルダイブチェアへと歩みを進めていく。

 

 狩りが、始まる。

 

 

 

   ◆     ◆     ◆

 

 

 

「そっちが今、誰を相手にしているのかを知るといいよ。 ――私を射撃戦で倒したければ、FPSでの全米一位である彼女じゃないとだめだよ」

 

 

 フルダイブチェアから起き上がった彼女のブーツがトン、と。ステージに音を響かせる。その音は、会場全体に響くように木霊した。それを気にすることなく、彼女は『つまらない』というように空を仰ぐ。

 

 会場は沈黙に包まれていた。試合開始前とは正反対の静寂、そんな中で誰もが言葉を失い、その結果を目にしていた。

 

 『完全勝利』。彼女、空がチームデスマッチでやったのは、たった一人で一度の被弾もせず、相手チーム全員の頭をヘッドショットで撃ち抜いて全滅させるという人外染みたことだった。しかも、各試合の所要時間は3分未満だった。それを行われた3試合全てでやったのだ。

 

 

 

 誰もが畏れた、彼女の実力を。

 

 誰もが恐れた、彼女の戦術を。

 

 

 全ての戦況を意のままのように操る、その戦術眼と才能を。

 

 その時だけは、誰もが恐怖した。

 

 

  ――その絶対零度の感情の篭っていない虚ろな琥珀色の瞳を。

 

 

 行われたのは、一方的な狩りだった。蹂躙と言ってもいい。最初のワンセットこそ、相手チームはワールドランク二位である空を倒そうと意気込んでいたが、その意気込みはやがて恐怖へと変わる。統率を失ったチームは狂乱し、陣形も隊列も組めず。一方的に空一人に蹂躙されていく。

 

「……リーダー」

 

「うん、キミ達にも無理言ったね。数合わせにしちゃった。ごめんね。 ……どうしても、今回は全力で完璧な勝利にしたくてさ」

 

「自分達は貴女に従うだけです。ただ、お聞きするとすれば。 随分と、"楽しそうですね"?」

 

 

 長身に体格の良い人物。副隊長はチームリーダーである空へとそう告げた。

 

 外から見ればそんなわけがないだろうと思うだろう。だが、副隊長は空へ楽しそうと言ったのだ。そしてそれは、正解だった。

 

 あは、と。彼女は笑うと、絶対零度の目を閉じた。再び開くとそこにあるのは、周囲がよく知る普段の彼女の。自信に溢れた瞳だった。

 

 

「実は、友達の重要な勝負があるんだよね。だからその餞に、『負けたら覚悟しとけよ』って意味合いで見せてあげたんだ、私の全力を。 あははっ!これで、気合い入れてあっちも成功してくれるといいなあ! 本当、上手くいってくれるといいなあ。 ……だって」

 

 

 『玲には、幸せになってほしいから。 ――私と違って、ね』

 

 

 彼女はいつもの口調でそんな言葉を、付き合いの長い副隊長へと言った。彼は何か思うことがあるような、言いたそうな目をしていたが、すぐさま表情を戻して彼女へと付き従った。

 

 

 『自分は、貴女の幸福を願っています』

 

 などと、言えるわけがなかったのだ。

 

 

    ◆     ◆     ◆

 

 

 

「それでは勝利者インタビューです、プロゲーマーの『空兎』選手。お願いします!」

 

「はいはーい!今回対戦に使用された、今秋発売のデスペラード・スタンピード。武器の音が最高でした!例えば、練習期間中に使ってみたM1ガーランドベースの銃なんだけど、もう発砲音とかリロード音とか最高で、ずっと聴いてられる!銃のリロード音とか発砲音のASMRとかあったら私買います。出してくださいむしろ出せ。開発さーん!それからメーカーさーん見てますかー?お願いしますよー!期待してますからね!  ああ、後別の好きな武器は――」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

「え!?ま、待って!まだ素晴らしい武器の数々について全然語ってない!あ、待って副隊長に参謀長!両手拘束してドナドナしながら退場とか締まらないからぁ!というか浮いてる!私二人に持ち上げられて浮いてるから!足ジタバタしてるってぇ!あ、ちょっ、割とこれ怖い!あぁー!ドナドナはやめてぇええええ!!!」

 

 試合中と直後とはうって変わり。いつものテンション高めの人懐っこそうな態度でゲームの素晴らしさについて語りだした空だったが、ついついといべきか。そういった人間特有の好きなことを語りだしたら止まらない特有のソレが発動してしまう。いつものが始まったな、と察した副隊長は細目の着流しの男性。参謀長へと視線を投げて、そのまま無言で有無を言わさず空を両サイドから拘束。そのまま司会と、なんとも言えない顔をしているワールドランク5位のチームに『いや本当すみませんうちのリーダーが』と言って、退場していく。 

 

「ま、まだだ……まだ終わらんよ……!デスペラード・スタンピード!今秋発売だよー!間違いなく神ゲーだから、みんな買って遊んでみてねー!メーカーさん本当武器ASMRお願いしますねー!」

 

 連行されながら叫ぶのがそんな言葉だったので、なんとも締まらない。なお、宣伝効果は大成功だったようでこの直後、ゲームの予約が殺到してメーカーのサーバーがダウン。嬉しいのか阿鼻叫喚なのかわからない悲鳴を技術班と販売部はあげたという。盛り上がる配信、感動に震える開発元。武器のASMRなどどうやって作ればいいんだと頭を抱える宣伝チーム。なんともカオスな状態で、エキシビションマッチは幕を閉じた。

 

 なお、それをVIP席から見ていた全米最強は、大爆笑していたという。ついでに、自身のSNSで『空ばかり宣伝してズルい。私にも宣伝させろ、武器撃たせろ。案件はよ』と投稿して拡散されまくり、メーカーが別の案件として対応に追われたという。

 

 

 

   ◆     ◆     ◆

 

 

「空ちゃんの昔の試合は動画で見たことはあったけど、これは……」

 

「凄まじい、どころじゃないな」

 

 中継が終了して、永遠と楽郎が思わず漏らしたのはそんな感想だった。

 同じ部屋で中継を見ていて恵も言葉を失っていたが、慧は真剣な表情だった。

 

 要するに、『自分はやったぞ。だから、お前もちゃんとやれ』というメッセージだ。

 普通に試合することも出来たはずだ。だが、あえて空はしなかった。

 

「あくまで予想なんだが、多分相手の動向や発生させる音……いや、多分銃口も全部空の奴に誘導されてたぞ」

 

「どういうこと?楽郎君」

 

「んー……本当に言い表せない直感なんだよ。ただ、第一ラウンドでのひとつひとつの挙動が、わざと相手を特定のポイントに誘導しているようにも見えた。音や気配、言葉、特にFPSは音が重要な要素だ。音で相手の位置を特定する、なんてこともプロじゃ珍しい話じゃないが、逆に言えばFPSゲーマーってのは音を聞く癖みたいなのがある節もある。そういった癖や無意識みたいなものを誘導されている?とでも言えばいいのか」

 

「……その考察は大当たりだぞ、楽郎。それが空の十八番だ。相手の意識や無意識、癖や挙動、そういったものを自分に有利になるように誘導する。当然あいつの射撃能力も人外だが、誘導されて誘い込まれた先はもうあいつの『狩場』だ。逃げられない。あいつはな、相手のあらゆる行動を瞬時にプロファイリングするんだよ。そして、手の内を晒すだけじゃなくただ動けば動くほどその情報は蓄積される」

 

「情報を与えれば与えるほど無敵になるタイプか、おっかねえ……」

 

 つくづく空が味方で良かったと楽郎は思った。味方にすると心強いが、敵にだけは絶対にしたくないタイプなのだ。

 

「あれが世界トップレベルだ。そして俺達は、ジャンルは違うが同じ世界トップレベル、いや。世界最強を相手にしないとならない」

 

「まともにやろうとすれば殆ど勝ち目はない。だが……あるんだろ?永遠、全米最強。頂点を撃墜するための術が」

 

 言われた永遠は不敵に笑った。

 

「ええ、確かに相手は文字通り頂点。でも、今回の戦いに限っては、相手はこの私に晒してはいけない情報と弱点を見せてくれた。 ――そしてそれは、事前にわかっていたこと。そのための作戦を話しましょうか」

 

 

 




■チーム『サジタリウス』

・空
 チームリーダーにして現世界ランク2位の天才にして化物。ランク1位は自分がトップだと頑なに認めておらず、その話題になると喧嘩になるがプライベートの仲は良好。ソシャゲのガチャ結果で煽り合いをしたりしている。

 好きなものは完璧で天才で美少女な自分、反吐が出るほど大嫌いなものは仮面を被ろうとするそんな自分自身。本当は泣き叫びながら弱音をぶち撒けたいと思ってるかなり不安定な上で成り立っている人物。一人暮らしで血縁関係者とは絶縁状態かつ自分からは絶対に関わりたくないと思っている。オリキャラ主要人物3人の中で一番闇が深い。

・副隊長
 現役の公安局執行機関のエリート。寡黙なイケメン。実在する武器の扱いに長け、リアルでの身体能力も常軌を逸している。ギアスのスザク並の身体能力と言って伝わるかは不明。空想上の武器の扱いは苦手。アサルトライフルをメインとした前線制圧を得意としている。公安のPR配信の時に色々やらかして空に目をつけられた。空に惚れている。

・参謀長
 都心から離れた田舎で古いものから最近のものまで様々な書物を扱う書店を営む糸目の青年。普段の装いといい、飄々とした態度といい、本人の雰囲気といい『胡散臭い』という言葉がしっくりくるが、戦術・戦略立案は超一流。空をもってして『参謀長は分析する前にこっち詰ませてくるから戦うのはめんどくさい』と言わしめた。地方遠征の時にたまたま出会ってスカウトした。

・工兵さん
 高身長だが小太りにメガネ、そして常に絶やさない柔和な笑みが特徴のチームの工兵。滅茶苦茶常識人の上紳士。チーム内では最年長であり、俗に言うネットスラングやネット言葉をよく使う。イメージはシュタゲのダルみたいな人。リアルでは超一流のエンジニアでハード、ソフト両方ともに十全扱えるとてつもなく凄い人材。ゲーム内では電子戦や相手の妨害、支援砲撃や妨害工作を担当する。空とは年に二度の夏と冬に行われる祭典で知り合った。

・ポイントマンちゃん
 容姿が滅茶苦茶いい陽キャ金髪ギャル。街中を歩いていてスカウトされたことも少なくないが本人は『興味がない』の一言で断っている。リアルではスタイリスト。ムードメーカーとしての素質もさることながら、タンクやポイントマンとしての才能がその見た目からは考えられないほど常軌を逸しており、先行突入と制圧を得意とする。空がファッション誌の仕事の時に知り合い、そのコミュ力で仲良くなって一緒にゲームした結果その才能がバレた。空は速攻スカウトした。
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