とある格ゲーマーの幼馴染   作:無名のカヤ推し

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GGC編:其れは、想いを伝う物語 其の五

「んー……一通り使ってみたが、違和感が凄まじいな」

 

「まあ、シャンフロと同じ技術が使われてるらしいと言っても同一のエンジンじゃないからな。類似点はあるけど、やっぱりシャンフロ以前のフルダイブゲームみたいに違和感はある」

 

 時刻は一日目の昼過ぎ。空のエキシビションマッチの中継を見終えた慧達4人は、気合を入れ直して作戦会議と、プレイ可能になったGH:Cでの調整に入っていた。

 

 今回のこのエキシビションマッチにおいては、慧と楽郎、永遠には実はかなりのアドバンテージがある。それは、シャンフロをプレイしているかしていないかの差である。GH:Cは、米国の企業がシャンフロの開発元に対してこれでもかという大金を積んで、限定的といえどシャンフロと同じ技術が採用されている。そして、シャンフロは未だ国内でしかプレイすることができない。

 

 これが何を意味するのかといえば、慧達三人は既にシャンフロをプレイし、ゲーム環境に順応出来ているのに対して相手は完全初見の状態から始めて、環境への順応と調整を行う必要がある。経験と順応の差、これは極めて大きなアドバンテージである。

 

 いくら天才的な格闘ゲームセンスを持つシルヴィアといえど、こればかりは覆せない。何故なら、これは技術や才能以前の問題だからだ。そうして、互いのチームに与えられた調整期間は約1日と少し。それだけの時間で完全に順応するのは不可能なのだ。

 

 対して、慧と楽郎、永遠は既にシャンフロに順応している。更に言うなら、シャンフロという世界で『天才』と称される玲やシルヴィア以上の相手と対峙している。『墓守』、否。『窮極』のウェザエモンと。

 

 慧をもってして、シルヴィア以上と称された玲でも何度も斬られ、敗北したという相手。様々な条件が重なって、4人の全身全霊で挑んで勝利することが出来た、正真正銘の超越者。

 

 彼と戦った経験は間違いなく慧達にも蓄積されている。その経験は、絶対に覆ることのないアドバンテージなのだ。

 

「んでもさ、慧。なーんかお前、戦い方変わった?」

 

「あー、それはなんか感じたね」

 

「堅実で、それでいて大胆……矛盾してるわね。でも、本当にそんな感じ。以前のケイとは別物ではないけど、鋭いとでも言えばいいのか」

 

 恵の言葉に対してうんうん、と頷く永遠と楽郎。対して慧はといえば、『あー……』と言葉を濁した。

 

「まあ、バトルスタイルは変えてないんだけどさ。考え方というか、方向性を変えたとでも言えばいいのか?永遠と楽郎は知ってるだろうけど、あの人にGGCに向けて稽古つけてもらってさ」

 

「あの人……?あー、なるほどあの人か。それで、どうだったんだ?滅茶苦茶強かった?」

 

「うん、あの人プロの世界とかに解き放っちゃ駄目だと思った。無理ゲー」

 

「格闘ゲームワールドランカーにそこまで言わせるのかあの人。でもまあ、『趣味に本気になることはあるけど、ゲームを仕事にしようとは思わないわねえ』って言ってたしな」

 

「趣味でゲームをやっている相手に負けるのはプロとして悔しいと普通は思うんだけどさ、あの人は別。あの次元に届きたいとは思うけど今は無理、勝てない」

 

 恵は慧にそこまで言わせるとは一体どんな相手に師事していたのかと気になるところだったが、もう誰だか知っている永遠と楽郎は『まあ頂点だしな』『天才二人のお目付け役だしね』などと言っていた。

 

「違和感はあるけど、フッティングできない程じゃないな。これくらいなら慧や永遠は問題ないだろうけど、夏目さんはどんな感じ?」

 

「んー……そうね。私も問題ないと思うわ。実は、みんな色々ぶっちゃけてくれてるから私もぶっちゃけるけど、GGCでGH:Cでのエキシビジョンマッチが行われる、って知ってから私も少しだけシャンフロやってたのよね」

 

 思わず慧達三人が『え?マジ?』と言う。慧としても初耳だったようで、驚いていた。

 

「シャンフロのエンジンを限定的に採用している、っていうのは有名な話だったし。なら、そのシャンフロである程度慣らしておくのはアドバンテージになるかなって私も思って、それで少しだけ。といっても、ケイ達みたいに最強種を踏破するとか、そういったすごいことは何も。本当に操作感覚とかそういうのを確認したかっただけだから、レベル上げとかも程々に後はひたすら人目のないところで身体動かしてただけなんだけど」

 

「なるほど、だからこっちの慣らしでも問題なしってことか。なら、全員操作感については問題なさそうだし色々とキャラ使って対戦していくか?」

 

「そうね、と言いたいけど……お腹空かない?」

 

 言われてみれば、と楽郎は思う。思えば、空の試合が昼前開始。それを見終わってからずっと作戦会議やら調整を続けていたため、昼食はまだである。空腹についての話をされれば自らも気がつくもので、一気に空腹感が襲ってくる。

 

「確かに……。慧ー、ここってデリバリーとか取れたっけ?」

 

「取れるぞ。ただ、会場激混みだから多分時間かかるぞ?会場にある屋台とかから取ろうとしても、今の混雑状況考えるとなあ」

 

「んー……じゃあ、このホテルに併設されてる売店で何か買ってくるか?食いたいもん言えば買ってくるぞー、どうせ代金は慧持ちだしな」

 

「俺持ちだけど実際はGGCの経費で落ちるから好きなもの食べていいぞ。――っと、なんだ?電話……空からだ」

 

 突然振動したスマホを見れば、着信。それも、午前の部で色々とカオスな状況を作り出した張本人からだ。

 

「もしもし?どうしたんだよ、ちゃんと監獄にはドナドナされたか?」

 

『ちゃろー!って、失礼だね慧君は。それよりも ――もしもし私超美少女FPSプロゲーマー、今あなた達の関係者室の前に居るの』

 

「……ハッ」

 

『あーっ!今鼻で笑った!』

 

「自分で超美少女FPSプロゲーマーって言うのがあまりにも笑えて」

 

『はー?私が超絶美少女なのは事実なんですが?まあ美少女と尊いものは私も大好物なんですけどね!ドヤァ……』

 

「お前マジで見た目に対してそういうとこだぞ。 ……それで、どうしたよ。ただ弄るために電話してきたわけじゃないだろ」

 

『だから今君たちの部屋の前に居るんだって。プレゼント持ってきたから開けてよー、きっと喜ぶよ?』

 

「プレゼントぉ……?まあいい、ちょっと待ってろ」

 

 電話を切る、すると向けられるのは楽郎達の視線だ。

 

「空ちゃんから?」

 

「ああ、なんか今部屋の前に居てプレゼント持ってきたって。 ……ここ、フロアは関係者じゃないと入れないはずなんだがな。まあ空だしなあ、顔パスでも不思議じゃないな。ちょっと行ってくる」

 

 永遠へとそう返して、通路に出ると部屋の玄関へと進み。

 そうして、扉を開ければ。

 

「あ、慧。お疲れ様、差し入れだよ」

 

「お疲れ様です、慧兄さん。えっと、良かったら食べてください!」

 

 部屋の入口に居たのは、何やら色々詰まった大きな袋を持った、幼馴染と妹分であり。そして、その後ろには尊いものを眺める顔をしながら、両手に同じような大きな袋を持つ空だった。

 

 

  ◆     ◆     ◆

 

 

「おお……すげえ旨い……。丁度空腹だったのもあって、身体に染み渡るな……」

 

「えっとね……それ、私が作ってみたんだ。お口に合ったなら、嬉しいな」

 

「これ斎賀さんの手作り!?いや、すごい旨いよ。世辞とかじゃなくて、本当に」

 

 楽郎の料理への感想に対して、嬉しそうな笑顔を返す斎賀玲。そしてそれを眺めながらうんうん、と頷く空。何より、『意中の相手を落とすにはまず外堀と胃袋から!』と彼女に教えたのは空である。

 

 来訪した空達が持ってきたのは、ある意味慧達にとっては今最も必要としていたものだった。つまり、食料である。しかも聞けば、空がエキシビションマッチで連行された後、すぐにこれまた伝手で食材つきキッチンを借り受け差し入れを作ってくれたのだという。

 

「簡単なものであれだけど、三人で色々と作ってみたんだ」

 

「いや、本当に助かるよ玲。……あー、その。せっかくのGGCだし、楽しむこと最優先でいいんだぞ?」

 

「ん、ちゃんと色々楽しませてもらってるよ。シャンフロの知り合いとも会えたし。先生も明日は参加するって言ってたよ」

 

「なら、不甲斐ない所は見せられないな。こうして差し入れもしてもらったし、頑張らないとだな」

 

 何気ない会話をする慧と玲。そして、そんな二人を気が付かれないように見ていたのは、恵だった。

 

 『ケイの選んだのは、この人なんだ』

 

 心の中で思ったのは、そんな言葉だった。差し入れを持って部屋に入ってきて、挨拶をされた時にこの人物が彼の幼馴染なのかと思った。そして、二人のやり取りを見て納得した。自分が惚れていた相手が選んだのは、この人なのだと。

 

 お似合いだ、二人揃って幸せそうだ。そう感じた。彼はプロゲーマーとして有名になり、今やワールドランカーとしても名を馳せている。その名声だけではなく、ルックスもいいことからかなりモテる。実際、恵は同じチームメンバーとして、様々な相手からアプローチをされる彼を見てきた。同じプロゲーマーや有名配信者、売れっ子のアイドル、他にも色々居た。けれど、彼がそういったアプローチに靡いたことは一度もなかった。

 

 いつも適当な話題で流してしまうのだ。強気なアプローチに対しては、明確に『悪いけど、そういうのはやめてくれ』とキッパリと言ったこともあった。彼は勝負事にしか興味がないのではないのか、そう思ったこともあったが、違う。今、理解した。

 

 彼にとっては、たった一人しか最初から見えていなかったのだ。

 

 きっと、彼の心の中には最初から一人しか居なかったのだ。今の彼を、プロゲーマーとしての『K』を見ていて、これほど自然に幸せそうにしていることはあっただろうか。

 

 

「……どうして、って顔してるわね恵ちゃん」

 

「っ……。永遠さん」

 

 自分と二人の距離は少し離れた距離、ただ今のテーブルから別のテーブルまでのほんの数メートルの距離なのに、恵にはそれが途方も無い距離に思えた。そこに言葉を投げたのは、同じテーブルで差し入れに舌鼓をうっていた永遠だった。

 

 

「敢えては言わないわ、でも……察しなさい。私も彼とはゲーム仲間として長いけど、あれだけ彼が大切にしている相手っていうのは居ないわね。諦めろ、とは言わないわ。誰かを好きになるっていうのは自由だもの。でも、相手がどこを見ているかだけは、ちゃんと理解しなさいな」

 

「……はは。ええ、わかってます。あんなケイ、見たことないから」

 

 不思議と、涙は出なかった。痛みのようななにかはあっても、何かが腑に落ちたようだった。

 

 

 同時に、こう思うのだ。

 夏目恵の恋は、終わったのだと。

 

 

「永遠さんは」

 

「ん?」

 

「こういう経験……あるんですか?」

 

 誰かを好きになって、それが実らなかったことはあるのか。つまり、恵が言いたいのはそういうことだった。

 

「――ま、あるわね。今は誰かが好きとかそういうのはないけど、昔今の恵ちゃんと似たような経験はしたことがあるわ」

 

「そんな時って、どうしたらいいんでしょうか」

 

「んー……そうね。とりあえず、何かに対してぶつけなさい。迷惑にならない範囲で。後は、誰かに愚痴でも聞いてもらうといいね」

 

「……今晩、ちょっと話を聞いてもらってもいいですか。そういう相手、あんまりいなくて」

 

「オーケー。吐き出したいもの、全部吐き出しなさい。……そしてそうね。その苛立ちや行き場のない気持ち、明日の全米最強御一行にでもぶつけてやりなさい」

 

 どこか遠く。遠い日を思い出すようにした永遠は、恵へとそう言った。

 

 




■夏目ちゃん
 失恋したが、腑に落ちた部分もあった。絶対に慧は、自分に振り向かないだろうと諦めがついた。

■永遠
 拙作では過去に失恋経験あり。そういった経験者として、恵みのフォローとケアはしっかりやった。

■玲ちゃん
 サンラクの胃袋を掴んだ。

■空
 ドナドナされた後速攻調理室借りて差し入れ作った。実は家事スキル高めで料理も上手い、なんなら資格も持ってる。ついでにチームメンバーへのお礼も兼ねて料理を作った。副隊長にはとても喜ばれた。
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