作者のモチベーションに繋がり、とても嬉しい限りです。
「おー、きたきたカッツォくん。緊急で招集かけるなんてどしたの?」
「エナドリ飲んでたら『今すぐログインして、いつもの場所に来い』だもんな。いやいや本当なら?煽り散らしてやりたいんだけど……なんか本当とんでもないこと起こったみたいだな。どうした?」
最早いつもの場所、ということで定着したNPCカフェ「蛇の林檎」。人の姿はなく、店の外や周囲にまで人気が無いと来た、いわば隠れ家的スポット。今日もまた店内には三人だけなのだが、サンラクとペンシルゴンを緊急で呼び出したオイカッツォの表情はいつものように余裕を見せながらこの外道仲間を煽ったりするようなものはなかった。
二人は彼とは付き合いが長い。だからこそわかるのだ。なにかとんでもないことが起きたのだと。気を引き締めて二人もまたオイカッツォへと視線を向けると一度を閉じた後。
「先に結論だけ話す。 ――うちの幼馴染が、恐らくだがウェザエモンと戦って負けた」
「……はい?」
「どういう、こと?」
サンラク、ペンシルゴンと続いて二人共に理解が追いつかないという顔をした。特に明らかに表情に変化を見せたのはペンシルゴンだ。焦ったような、詳しく早く聞かせてくれというように視線をオイカッツォへと向けている。
「詳しい話は俺からじゃないほうがいいだろうな。例の話出したのは俺だし、本当言えばもっと落ち着いた場で紹介したかったんだがまさか、こんな形でとは。入ってくれていいよー」
オイカッツォが入口の方向へと言葉を投げる。同時にサンラクとペンシルゴンの視線が入口のドアへと向けられる。ドアベルのついた木製の扉が開かれ、カランカランというベルの音がする。入口が開かれて現れたのは、一人のプレイヤーだった。
黒い皮の軽鎧に、白い腰くらいまでの長さのコート。黒のショートパンツにブーツ。特徴的なのは白の長髪に黒混じりの碧の瞳。そして、コートの下。軽鎧の腰のあたりに差した赤黒い鞘に収められた刀である。
オイカッツォに手招きされたその少女は、三人の居るテーブルの近くまで来ると足を止める。
「はじめまして、レインと言います。カッツォから聞いているかもしれませんが、彼の幼馴染です。よろしくお願いします」
ペコリ、と無表情ながら自己紹介の後に綺麗な一礼をされ、思わず二人は言葉に詰まる。それはそうだ、少なくともここにいるメンバーは全員まともではない。別ゲーでそれこそ悪逆非道、外道の限りを尽くし、三人の間では最早煽りが挨拶という次元にまで到達している自分たちも認める頭のおかしい集団なのだ。
こんな外道の集まりで到底まともな人間性が残っているとは思えない所に真人間が来てしかも礼儀正しく自己紹介までされた。彼女の言葉から、恐らく自分達はカッツォの中の人について知っているのも聞いているのだろうなど推測したが、それよりも問題はこんな真人間にどう対応したらいいのか、ということだ。
「ペ、ペンシルゴン アトハタノンダ」
「コミュ障発動して困ったからっていつもの如く対応を投げないでくれるかなぁサンラクくん……! あー、ええと。はじめまして。私はアーサー・ペンシルゴン、アーサーでもペンシルゴンでも好きな方で呼んでちょうだい。それでこの鳥頭の半裸の不審者がサンラク。話はカッツォくんから聞いてるわ、そんな畏まらなくてもいいから、敬語とかもなしでいいよー」
「じゃあ……よろしく、ペンシルゴン、それにサンラクも」
ペンシルゴンの最初の印象は、礼儀正しくいい子そうだなという印象だった。また、もしかしたらかなりいいところの人なのかもしれないとも。
リアルでの職業柄、相手の挙動でわかることも多いのだ。それに基づいて言えば、ペンシルゴンから見てレインと名乗った彼女のそれは、とても洗練されていて、綺麗なものに見えた。
しかしカッツォから聞いている話では、彼女は自身も知る『シマヅソウル』という、別ゲーで有名なプレイヤーなのだという。正直信じられない。あの別ゲーでは全身甲冑に2メートルはいくかという姿の巨体だとプレイヤーキラーから聞いたことがある。その巨体の鎧武者が黒い鎧で、目を真紅に発光させて襲いかかってくるのだ。それも首にめがけて一直線に。
ペンシルゴンの知る中ではあまりの恐ろしさにトラウマになってプレイヤーキラーを辞めた者まで居る。シマヅソウルとは全世界でも魔境中の魔境とも呼べるVRゲーム環境下の、次元の違う化け物という認識があった。
だからなのか、今目の前で礼儀正しく挨拶をしてくれたポーカーフェイスの少女がその本人だとは到底信じられなかった。
「話についてはカッツォくんから聞いてる、ってことでいいんだよね?えーっと……レインちゃん?」
「ん。カッツォから話については聞いてる」
ひとまず、空いている椅子に座るようにペンシルゴンが勧め、そこにレインが座る。そして早速と言わんばかりに話を切り出した。
「早速で悪いんだけど、遭遇したウェザエモン……と思われる相手について教えてもらってもいいかな?」
「――私が戦ったウェザエモンは、ユニークシナリオを進行させたら遭遇して、そこで戦うことになった。シナリオの発生条件についてはよくわからない、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。ちなみになんだけど、そのクエストってどのタイミングで発生した?後、できればクエスト名とかも教えてほしいかな。ああ、攻略サイトとかには漏らさないよ、あくまでここだけの話。そこは安心して」
うーん、と。レインが考え込む。
「クエスト名は今の時点では【極致残影】。実は、このゲームすごく楽しくて。時間を忘れてモンスターをひたすら倒してたり、迷子になってよくわからないエリアを彷徨ったりしたけど……後は他のプレイヤーに襲われたこともあったけど、静かにしてもらったりもしたかな」
「静かに」
「してもらった」
サンラクとペンシルゴンが同時にオイカッツォを見る。すると、彼は苦笑いしながらまず右手で親指を立てて、それを首の左から右へとなぞるようにして見せて、その後両手を合わせて合掌するような素振りを見せた。
つまるところ首を斬られた、である。
「そういえば」
「うん?どうかした?」
「迷子になってる時、一度だけマップに自分の場所が映らないエリアに迷い込んだことがあって。そこで真っ黒い霧のようなものを纏った鎧武者?みたいなのと戦った。すごく強くて、なんとか勝った。関係あるかわからないけど、その倒した先でもらったのがこれ」
そう言ってレインは腰から太刀を外すと、片手で横にするように持ちペンシルゴンに見せる。
赤黒い柄と鞘に赤い太刀緒。刃長は80センチ弱ほどだろうか、などと思いながら興味深そうにペンシルゴンは観察する。
「武器名は【彼岸ノ太刀】。不思議なのは、なんて言ったらいいのかな……すごく使いやすい?」
「と、いうと?」
『彼岸』という言葉にピクリ、と反応したペンシルゴンだったが、すぐにレインの言った言葉についての疑問を口にする。
「それまでに使ってたのは初期装備だったり、店売りだったり、後は街のNPCで制作してもらえるような刀だった。それと比べるとなんというか……すごく軽くて、自分の思い通りに動く?」
「その刀、ステータスに補正かかったりとか、説明文に何か書かれてたりはする?」
「補正はなし。説明文にも補正かかるようなことは何も書いてないし、特殊効果もなし。ただ……ちょっと説明文が変。『――この刃は未完、『継承』され極致に至る時、桜花が刀の主を祝福するだろう』とだけ書かれてる」
サンラクとオイカッツォが首を傾げる。使いやすい、という理由についても不明。そして、その説明文についてもよくわからないままだからだ。ただ、ペンシルゴンだけは考え込むようにしていたが。
「とりあえず、刀のことは置いておくとして。それで、その黒い鎧武者みたいなのを倒した後は?」
「その後にそいつと戦ったフィールドに魔法陣みたいなものが現れて、別の場所に転送された。そこで出会ったのが、NPCのウェザエモン」
「うん。 ……うん?」
「色々と会話が進んでいくうちに、流れで手合わせすることになって」
「え?あ、うん」
「一騎打ちして負けた。すごくがんばったけど負けた、悔しい」
ペンシルゴンはフリーズした。あまりにも情報量が多すぎたからだ。
NPCのウェザエモン、そしてそのウェザエモンと会話をした。意味がわからない。
少なくともペンシルゴンの知るユニークモンスターのウェザエモンは、会話など成立しない。一切の容赦なく襲いかかってくる相手なのだ。
「……レインちゃん、聞きたいんだけど。そのウェザエモンって、サイボーグっぽい白い鎧姿の相手だった?」
「ううん、違うよ」
その言葉で完全に思考が停止した。
そして、そこに追い打ちをかけるようにして。
「背の高い髭の生えた中東の人みたいな見た目。仏頂面で無愛想に見えたけど話してみたら悪い人じゃなかったよ。私は師匠って呼んでる。あれから何回も挑ませてもらっているけど、やっぱり勝てない。でも、師匠はちゃんと指導してくれるしまだまだ私は強くなれるって思える。勝てなくてすっごく悔しいけど、同じくらい楽しい」
「「「師匠」」」
今度は外道三人衆全員が固まった。数秒の沈黙が続いて、口を開いたのはオイカッツォだった。
「ペンシルゴン、色々聞きたいこと出てきたかもしれないけど一応補足な。 ……こいつ、レインなんだけどな。プロゲーマーの俺からして規格外としか言いようがないんだよ」
「確かにとんでもない子とは聞いてたけど、そういえば具体的に聞いてなかったよね。そこのところどうなの?」
「俺は理詰めのタイプなのは知ってるだろ、レインはなんというかなー……簡単に言うと、直感型の天才なんだよ。俺からしてもおかしい集中力に反応速度、信じられないレベルの直感……もう第六感って言ったほうがいいんじゃないのかと思うけど。しかも、一度見たことを瞬時に判断して徹底的に理詰めしてくる上に応用力まである。弱点は頭いいのに脳筋なことくらいじゃないのか?ってくらいか」
「斬れば大抵なんとかなる」
「そういうとこだぞレイン」
そうだなー、と最早慣れたようにしてオイカッツォは言葉を続ける。
「まるで未来でも見えてるんじゃないのかってレベルの直感と、その直感に対しての反応速度。それをほとんど集中力切らさずやってるって言えばいいか。直感で相手の動き先読みして動いてるとしか思えないこと、こいつよくやるんだよ」
「待っておかしい、なにその化け物」
理不尽にもほどがある。つまり、レインは相対する相手の動きや殺気だけではなく他のあらゆる要素から直感的に次の動作を予測しているということになる。しかも一度見たものについては即座に対応してくるという。
「レイン、ちなみにシャンフロ始めてからの攻撃の直撃数は?体力が大半持ってかれる類のやつ」
オイカッツォが彼女へと投げかけた質問に、なんだその質問はと思いつつもペンシルゴンはレインのほうを見た。
「師匠には何回も斬られてるよ?」
「それ以外で。あー、強制的な環境ダメージとか、そういうのは除いて」
「なら、直撃は一度もしてないと思う」
言葉を失う。確かに、オイカッツォはレインのことを回避盾だと言っていた。回避盾とはすなわち、相手の攻撃を一挙に引き受けながらその攻撃の殆どを回避で捌くというものだ。盾を使った防御ではなく、回避とカウンターによる攻守が自在の、シャンフロや多くのVRゲームに幾多にも存在するビルドの中でも、極めて異色で難しいものだ。
防御だけなら防御特化にすればいい。攻撃ならまた然りだ。ならば、回避盾に要求されるものは何か。それは、速度と防衛能力、状況判断能力、攻撃能力。つまるところ、全てだ。
ペンシルゴンがちらりとサンラクを見れば、彼も言葉を失っている。それはそうだろう。このオイカッツォの幼馴染。レインはあまりにも規格外過ぎた。
「……ははっ。これは、とんでもない子が援軍に来てくれたなあ。 ――うん。ねえレインちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
「お願い?」
「うん。まだ色々聞きたいことはあるけど、先に頼んでおこうかなって。……偶然にも今日は満月。今日の夜は空いてる?」
レインがオイカッツォを見る。すると、彼は『あー』と言って。
「いいよ、泊まってけって。今日は来る予定だったろ? 折角隣の空き部屋にお前の部屋作ったんだし、ちゃんと使ってくれるほうがいい。デバイスは俺の部屋にあるの適当に使ってくれていいしさ」
「……いいの?じゃあ、そうしようかな」
「いやいや待て待て待ちなさい。は?え?なに、その……え?何?」
「ペンシルゴン、俺はもう理解が追いつかなくてだめかもしれん」
真顔で二人を見るサンラク、ツッコミが追いつかず話すことも沢山まだあるのに頭がオーバーヒートしそうなペンシルゴン。そんな二人に対してレインとオイカッツォは、どうかしたのかというように二人を見ている。
「ごめん、二人のご関係は?」
「幼馴染」
「うん。幼馴染だよ?」
『お、幼馴染とは……うごごご……』とサンラクが呟く。ペンシルゴンもまた、幼馴染の定義とは何かと頭で考えてしまうが、二人は数秒してある結論に至る。そう、考えてはいけないのだ。
「お、オーケー……話を戻そう。ちょっと今日の夜、一緒に行ってほしいエリアがあるんだ。というか、会わせたい相手がいる」
「会わせたい相手?」
真剣な表情でペンシルゴンは頷いた。
「どっちにしてもウェザエモンと戦うためには受けなきゃいけないクエストもあるし、それも兼ねてね」
「いやいや待て待て待ちなさい(CV:日笠陽子)」
これで何か分かった貴方、きっと貴方も適合者。LiNKERを打ちましょう。
NPCのウェザエモンは、アニメの特殊EDに出てきていたの髭の男性です。
主人公と原作の斎賀玲ちゃんの下の名前が同じですが、意図したものです。そのうち玲(レイン)と玲ちゃん(サイガ-0)の絡みもある予定。
キャラメイクについては慧くんと同じように色々やってたらリアルの容姿に寄ったという状態。現実と比べると髪の色だけ違うようなイメージです。
バトルスタイルは回避盾。某汚い忍者や防振りのサリー、ブルアカのユウカなどと同じ部類。直感についてはニュー◯イプというよりは、ブルアカのアスナのものに近い想定です。つまりそういうことです。そういえばレインちゃん、慧くんの部屋で寝落ちしてましたね。
作者は努力、友情、愛、勝利が大好物です。その過程でいかなる苦難があろうと、それでもと乗り越える瞬間こそもっとも美しい。だから慧くん、もっと男らしいところ見せて。