キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
4月1日、シャーレの執務室。先生がいつも通り仕事をしていると、廊下からドタドタと足音が聞こえて来る。先生は一度キーボードを打つ手を止めた。
「先生! 空からクッキーが降って来たよ!」
「ここの窓からは、晴れている様に見えるがな」
「ぶーぶー! ちょっとは乗ってくれてもいいじゃん!」
パタパタと腰から生える羽が上下する。ふわふわとしたピンク色の髪を揺らしながら、ミカは手に持つ短機関銃をガンラックへと置いた。
「今日は、誰も当番に付けていなかったはずだが?」
「えへへ~、暇だったから来ちゃった」
ミカはそのまま当番の子が座るための席に着く。
「ティーパーティーの皆はどうしたの?」
「ナギちゃんもセイアちゃんも、個別の仕事で忙しいんだって、私に構ってくれないの~」
机にだらーんと体を預けながら、プラプラと手を揺らす。時折チラチラと先生の方へと視線を向ける。
「だからと言って、私のところに来られても困るのだが……」
先生は、そう言うと再びキーボードを叩き始める。
しばらくシャーレの執務室には、キーボードを叩く音だけが響く。
「ねえ先生、暇なんだけど」
「私は別に暇ではないよ」
再び沈黙。
「先生! お姫様が暇してるのに、構ってくれないの!?」
「うおビックリした!?」
唐突なミカの叫びに、思わず先生は素っ頓狂な声を上げる。
「いや、そんなこと言われても……」
「かーまーえー!」
ぐりぐりとミカは先生の胸へと頭を押し付ける。
「えぇ……」
とりあえずキーボードから手を離し、ミカの頭に手を乗せた。
「……何かあったのか、ミカ」
先生は、ミカの様子に違和感を覚えそう声をかける。やたら視線を送り、まるでこちらから声をかけてほしそうな仕草。いつもなら、何か頭に浮かべたらすぐに口にするミカが、こうして遠回しに要望を伝えようとするのを不自然に先生は感じたのだ。
「……なんでもないの……本当に、なんでも」
顔を上げないまま、ミカはそう呟く。
「さっきのといい、ミカは嘘が下手だな」
ミカの頭を優しく撫でながら、先生はそう呟く。
「今日はエイプリールフールだから、嘘を言っても許されるんでしょ?」
ミカはゆっくりと頭を上げ、先生の顔を見つめる。その顔には、薄っすらと涙が浮かぶ。
「先生!」
「うおっ、ミカ……ダメだよ、不用意に異性に抱き着いちゃ」
飛びついてきたミカを離そうとするが、ミカの力に先生が叶う訳がない。
「先生と生徒の立場が―――」
その発言は、ミカが抱き着く力を強めたことで、遮られた。
「ミカ、苦しいよ」
「……お願い、嘘でいいから、私に好きって言って。私が一番だって言って……お願い」
切実なその申し出に先生も折れ、軽くミカを抱き返す。
ミカは一瞬目を見開く。まさか先生が抱き返してくれるとは思っていなかったのだ。
「ミカ……君に何があったのかは分からない。でも、君は私の大切な、大好きな生徒だ」
「……一番好きって言ってよ」
まだ念を押すミカに先生は負け、囁くようにミカへと告げる。
「君のことが……好きだ。一番、好きだ」
「ッ! えへ、えへへ……」
ミカは抱き着く腕を緩め、顔を上げる。
その顔は少し紅潮しており、無邪気な笑みと、色気ある表情が共存している。このままでは本当に立場を超えたナニかをしてしまいそうで、慌てて先生はミカを離した。
「ああ、残念」
ミカは抵抗せず、すんなりと離れる。
「ほら、そろそろミカも学園に戻ったらどうだ?」
「うーん、そうだね。ナギちゃんからもメッセージが飛んできたし、そろそろ帰らないとかなぁ」
そんな風に、携帯端末を見ながらミカはぼやく。
「なあミカ、本当に何があったんだ?」
「……なーんにも。ただ、ちょっと確認したかっただけ」
ミカは数日前の出来事を思い出す。廊下ですれ違ったトリニティの生徒が、自分のことを魔女と呼んだことを。先生にすり寄り、困らせ続ける魔女だと。既に気にしていないつもりだったミカだが、その日の夜、夢にまでその言葉は出て来た。夢の中で、先生本人に魔女と言われる夢を見てしまった。
「ねえ先生、最後に一つ、嘘をついてもいい?」
後ろで手を組み、覗き込むようにミカは聞く。
「そんな風に前ぶりしたら、嘘の意味が無くなっちゃうよ?」
先生の言葉を無視して、ミカはにへらと笑みを浮かべ、言った。
「先生、好き」
その言葉とともに、ミカは先生を自身の羽で包む。その羽の中で起こったことは、二人だけの秘密だ。
「それじゃあね~ばいばい、先生!」
逃げるようにミカは執務室を後にした。
「好きだなんて嘘、ほんとはね、だーいすき!」
シャーレの廊下には、ミカの幸せそうな声が響いたのだった。
《ミカEND:ダイスキ》
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1.第二次エデン条約編
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2.アビドス復興編
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3.ゲヘナ風紀員編