キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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空崎ヒナ2 〇

「ねえ、先生。私がなんで怒ってるか、分かる?」

「……は――」

「適当なこと言ったら、ここを更地にするわ」

「……いいえ……」

 

 シャーレ執務室の真ん中で土下座する先生と、腕を組んで仁王立ちするヒナ。執務室は既に争乱の跡が残り、壁にはマコトとカスミとハルナが頭から埋まっている。

 

 遡ること数日前。マコトの気まぐれか、カスミの策略か、ハルナの思い付きか、ゲヘナ内で先生を巡った争奪戦が始まった。各組織に先生を引き入れることで、活動しやすくなりたいと思った果ての抗争。まあ、いつものゲヘナである。

 そんな抗争を鎮める風紀員であったが、どうもいつにもまして激しい三つ巴の抗争を繰り広げるため、明らかに風紀員の戦力が不足していた。ヒナが来ればその一か所は制圧できるも、また別の場所で被害が拡大。それの繰り返しだった。

 流石のヒナも精神をすり減らし、日を追うごとにシナシナと萎れていった。

 

「私は、先生を守るために頑張ったわ。先生の自由を守れるように」

 

 くまが酷いヒナの顔。しかしそんなことは気にならないほどの覇気。

 

「はい……とても、ありがたく思っています」

 

 その覇気に押された先生は、自然と言葉が固くなる。

 

「でも先生は、そんな私の働きぶりも無視して、その三人と楽しくお茶会?」

「い、いえ……けしてそういったわけでは――」

「は?」

「はい誠に申訳ございません」

 

 先生再度の土下座。

 

 ヒナが奮闘する1週間。ようやく事態が収まって来た頃、先生の執務室にはカスミがやって来た。「ハーッハッハッハッ! この一週間先生を巡って争ってきたが、そろそろ温泉開発部も限界だ! だからこうして、直接籠絡しにきたぞ!」

 どうやら考えることは一緒らしく、ハルナ、マコトも次々にシャーレへと押しかけて結果、ヒナが現在最もヘイトを向ける三人が先生と同じ空間にいるという状況が出来上がった。それだけならまだよかったのだが、くたびれたヒナは癒しを求め、アポなしでシャーレへと訪れた。

 

 そして、今この惨状である。癒されに来たら、嫌いな奴三人が楽しそうに自分が大好きな先生と話している。その状況に、ヒナは大いに不満をもったのだ。

 

「……はあ。もういいわ」

 

 大きくため息をついたヒナは、ソファーに腰掛ける。どこか不貞腐れたような表情に、慌てて先生は隣に座る。すると、少し躊躇い気味に、ヒナは先生の方へと体重を預けた。

 

「ヒナ、ごめんね。ヒナが頑張っているのは知っていたけど……」

「いいの、分かってる。分け隔てなく生徒に接するのは、先生として必要なこと……私こそ、癇癪を起してごめんなさい」

 

 一通り暴れて、先生の謝罪が聞けて落ち着いたのか、ヒナはシナシナと小さくなりながら、そう謝罪の言葉を口にする。

 

 萎れたヒナを見て先生は、そっとその頭を撫でる。

 

「いいんだよ、ヒナはもう少し子供らしくなってくれた方が、私としては嬉しいかな。いつも頑張りすぎてるし、ため込み過ぎているような気がするしね」

「うん……ありがとう、先生」

 

 いつもは先生のなでなででみるみる顔色が回復するヒナだったが、今日はそうもいかず、未だにシナシナのままのヒナ。そのことに気づいた先生は、少し考えた後、口を開く。

 

「ねえヒナ。お詫びと言っては何だけど、何かして欲しいことはない? 幸い私は最近仕事の量が落ち着いていてね、一日開けることができるけど」

 

 この状態のヒナを放っておけない先生はそんな提案をする。すると、ヒナはすっとスマホを取り出し、予定表を確認する。

 

「明日……うん、いけそう」

 

 先生によりかかったままヒナは電話を繋ぐ。

 

「あ、アコ? 私明日休むわ。うん、書類はアコとチナツでよろしく。美食、温泉、万魔殿はしばらくおとなしいでしょうから、現場はイオリだけでなんとかなると思うわ。うん、よろしく」

 

 鬼の様な早口で電話を終えると、ヒナは一瞬先生の顔を窺ったあと、ふいっとそっぽを向いて立ちあがる。

 

「明日の朝八時、ゲヘナ学園の正門前に来て……明日一日だけは、私が先生を独占する」

「それは、デートのお誘いってことでいいのかな?」

 

 微笑みかける先生の顔をちらりとみたヒナは頭からボンと湯気を吹き出す。あわあわとデストロイヤーを持ち直し、ダッシュで執務室を駆けだす。去り際にもう一発マコトの尻に鉛球をお見舞いして。

 

 

 

 翌朝、約束の時間30分前に先生はゲヘナ正門へとたどり着く。するとそこには、ふわふわの白い髪を揺らす小さな影。

 

「おはようヒナ。時間間違えちゃったかな?」

 

 そう声をかけると、くるっとターンして晴れやかな笑顔を浮かべて首を振るヒナ。

 

「おはよう、先生。私が早く来すぎちゃっただけ。先生と朝から会えると思ったら、いてもたってもいられなくて……」

 

 黒っぽいワンピースのような服。スカート先と肩部分についた薄いフリルがワンポイントになり、年相応のかわいらしさを醸し出す。風紀委員長の威厳を示す軍服紛いの服とは正対の位置にある服と言っていいだろう。

 

「ど、どうかな……久しぶりに着たから……どこか変なところはない?」

 

 少し恥じらいながらも、そう先生に自身の服の感想を求めるヒナ。

 

「とっても似合ってるよ。その服も、口紅もね」

 

 先生の一言に、ドキッと心臓を跳ね上げさせるヒナ。

 確かに、ヒナは今日、薄っすらと自身に化粧を施した。少しでも自分を綺麗に見てほしくて、ヒナは慣れないながらも鏡に向き合ったのだ。それを、言わずとも見抜いてしまった先生。

 

「あ、ありが、とう……」

 

 それから二人は、少し早いが、町へと繰り出した。クレープを食べたり、ゲームセンターに寄ったり、ショッピングをしたり。ヒナがずっと心の中でしてみたいと思っていたことを実践していった。終始笑顔を浮かべるヒナに、先生は一安心していた。

 

 しかし、そんな時間も長くは続かない。日は傾き、夕焼けが二人を照らし、いずれ暮れる。この楽しい一日も、もうすぐ終わりを告げるのだ。

 

「先生、今日はありがとう。とっても楽しい一日だった」

「私も、ヒナが楽しそうで本当に良かった。ヒナの笑顔が見れれば、私はなんでもできそうだよ」

 

 二人は、そう笑いながら夜道を歩く。そしてついに、正門へとたどり着いてしまった。

 

「……それじゃあ、ここで別れようか」

「うん……」

 

 二人はそう言った後も、名残惜しそうに正門前で立ち止まり続けた。

やがて、意を決したようにヒナは、鞄に仕舞っていた箱を先生へと差し出した。

 

「これは……あのアクセサリーショップの? ヒナ、何か買っていたっけ?」

 

 ショッピングの最中に寄ったアクセサリーショップ。眺めるだけに留め、何かを買うことはなかった。しかし、先生が目を離している間にヒナはこっそりと一つのアクセサリーを購入していた。

 

「日頃のお礼もかねて、これを先生にプレゼントしたいの……受け取って、くれる?」

 

 いつもなら生徒からの高価な贈り物等は断っているのだが、今ばかりは、先生もそう言った気分にはなれなかった。

 

「勿論……開けてもいいかな?」

 

 こくりと頷くヒナ。了承を得ると、丁寧に箱の蓋を開けると、その中には紫色の翼が光るネックレスが仕舞われている。

 

「先生、忘れないでほしい。私は貴方のことをとても……大切に思ってるし、信頼してる……いつも、ありがとう。そ、それじゃあ」

 

 顔を真っ赤にしながら駆け出したヒナ。

 一人残された先生はその背中に手を振り、箱からネックレスを取り出した。

 

「紫の悪魔羽……ヒナの翼みたいだ……」

 

 小さく微笑んだ先生。早速そのネックレスを自身の首へとかけた。

 

 ネックレス:相手への想い、幸せ、独占したい

 翼:さらなる躍進、上昇  チャロアイト(紫の宝石):無条件の愛

 

 

【ヒナ2END:ありがとう】

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  • 1.第二次エデン条約編
  • 2.アビドス復興編
  • 3.ゲヘナ風紀員編
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