キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
初めまして。私は、正義実現委員会に所属する二年生です。名前は……別にいいでしょう。皆さんの言うところの正実モブちゃんです。正実モブAとでもお呼びください。
「お、皆揃ったっすね。そろそろ仕事の時間っす」
イチカさんが来ました、私と同級生ですが、行動隊の小隊長を任されている凄い生徒です。そしてイケメンです。普段は細い目ですが、何かあるとぱっちりと透き通る瞳を向けて来てくれます。惚れそうです。と言うより惚れてます。
「今日はパトロールだけっす。ま、気楽に行くっすよ~」
EM2のチェックを終えた私たちは、4人で班を作り、指定されたエリアを巡回します。いつものお仕事です。
「お仕事お疲れ様です」
巡回中、マシロちゃんと出会いました。一年生の後輩ですが、凄腕の狙撃手です。ちょっと過激な後輩ですけど、腕は確かです。その狙撃にはいつも助けられています。
軽い雑談をして私たちの班は再び巡回を始めます。仲間内で休日に行くお店を話し合いながら、正実としてのお仕事をする。そんな毎日です。
「ねえ聞いた? イチカ先輩、この前先生と一緒に歩いていたんだって」
「そ、それって……」
こんなうわさ話も、最近の楽しみです。
「「「デート!? きゃー!」」」
ある時突然キヴォトスに赴任してきた先生。私たちモブでは手の届かない遠い存在。ナギサ様やミカ様、ツルギ先輩やイチカさんたちですら、遠い存在と思っているのですから、私の手が届かないのも当然です。
「エデン条約の後もますます仲良くなっているみたい。このまま……」
「「「きゃー!」」」
確かに、イチカ先輩と先生はお似合いです。でも、少し考えてしまうこともあるんです。もし、その立場が自分だったらな、と。
「ま、無理な話か……」
分かり切っている事ですが、それでもため息を付かずにはいられませんでした。
「やあ、何の話をしているの?」
「うひゃぁ!?」
先生の声です。間違えようがありません。
「せ、先生、どうしてこちらに?」
「ん? いやーちょっとトリニティに用があってね。―――ちゃんはお仕事中?」
反則です。名前を覚えているとかダメです。先輩たちですら私たちの見分けがつかないことが多いのに、先生はちゃんと見分けて、名前を覚えているんです。
私今、変な表情してないですかね、赤くなっていないですよね?
「は、はい……今日は、正実で、巡回で……」
「そっか、偉いね!」
何気なく先生が私の頭に手を伸ばし、ポンポンと帽子越しに撫でてくれました。
「はわ、はわわわ!」
変な声が出ました。もう無理です、ここにいると、恥ずかしさで燃えちゃいそうです。
私は班の皆を置いて、一目散にその場を走り出してしまいました。
少し離れて、一息。呼吸を整えると、さっき先生に撫でて貰えた頭がほてっている様に感じます。
「確か、この辺を……こんな感じで……」
それを再現するように、自分の手を乗せてみると、なんとも言えない幸福感が押し寄せてきます。
えへへへ、先生に、撫でられた……。
♦
はいみなさんこんにちは、正実モブAです。先生に頭を撫でられたことを自慢したら、皆から銃撃を浴びました。でもへっちゃらです。先生に撫でられた幸せが勝ります。
今日も正実にはお仕事があります。
「本日は、トリニティ学園近隣にある、不良のたまり場を一掃します」
ハスミ先輩が今日のお仕事の説明をしています。どうやら今日は大仕事みたいです。不良たちの一掃、少し緊張します。
「各員、気を引き締めてかかるっすよ」
私はいつも通りイチカさんの隊に組み込まれました。イチカさん指揮下の戦いは慣れていますし、いつものメンバーで戦えるので、やりやすいです。
それから半日かけて私たちは不良たちのたまり場を一掃しました。途中何度かしりもちをついちゃったり、爆発に吹き飛ばされたりしましたが、イチカさんが気遣ってくれて、なんとかお仕事を完了しました。
「ふいー、こんなもんっすかね。皆さん、おつかれっす~」
さすがのイチカさんも疲れたのか、額を流れる汗を拭っています。私も、かなり疲れました。早く帰って、明日のお休みのためにゆっくり眠りたいです。
「それじゃあかえり―――」
そう言ってイチカさんを先頭に帰ろうと歩き出した時でした。
突然、目の前が真っ白になりました。何か甲高い音が聞こえた気もします。その後は……。
♦
痛い。
全身を駆け巡る痛みで、私の意識が呼び起こされました。
「―――! ――――!?」
まだ薄っすらしか見えない視界で、イチカさんが私に何か言っているのを認識しました。でもおかしいですね、音が聞こえません。
「―――ま―――救護――ま――っす!」
あ、少しずつ聞こえてきました。
聴覚と視覚が少しずつ回復してくると、ほわほわしていた頭も冴え始め、自分に何が起こったのかを理解しました。
ひざ下の感覚がありません。それに、全身の痺れが激しく、呼吸が苦しいです。おそらく、何か爆発物を下半身に受けたのでしょう。
「イチカ、さん……私は……?」
「大丈夫っす! まだ、まだ助かるっすから!」
目を開いて、額から汗を流しながら、イチカさんが私に声をかけ続けてくれます。しかも凄く顔が近いです。ちょっと照れちゃいますね。
「なんで、なんでこんなところに地雷が……」
イチカさんの呟きで、私に何が起きたのかをハッキリ理解しました。どうやら私は地雷を踏んでしまったようです。この吹っ飛び加減から、恐らく対戦車地雷でしょう。対人地雷程度でしたら、いくら私でも、ここまでの重傷は負わないと思います。
そして、もし踏んだのが対戦車地雷でしたら……私は多分、死にます。
「あ、先生……」
救護騎士団と一緒に、私の元へ先生が駆け寄ってきてくれました。見たことないほど焦った表情をしています。なんだか、自分のために先生がこんな表情をしてくれていると思うと少しだけ、嬉しいですね。
「―――ちゃん!」
先生が私の体を抱きかかえてくれます。イチカさんの顔を間近で見れたり、抱きかかえられたり、死ぬ間際は役得ですね。
「セリナ、なんとか、なんとか!」
助けてほしい、そんな表情で先生は駆けつけた救護騎士団のセリナさんを見つめますが、セリナさんは私の体を見て、首を振りました。ああ、助からないんですね……。
「そんな……」
先生の力が強くなりました。先生の瞳に涙が見えます。
嫌ですね。私のせいで、先生が泣いてしまうなんて。
「せん……せ、い……なかない……で、くだ……さい」
私はモブちゃんですから、先生という遠い存在の方にお近づきになることすらおかしいのです。
……もしかしたら、この最期の一瞬だけ、私はモブではなくなったのかもしれませんね。
もう、力が入りません。最期を先生の腕の中で迎えられるなんて―――幸せ、ですね。
♦
「……ご臨終です」
セリナが消え入りそうな声で、先生にそう伝える。
「―――ちゃん……」
まだほんのり温かい体を抱きしめる先生。
「……イチカ、他に、怪我した子は?」
「この子だけっす。後は皆、擦り傷程度っす……」
「そっか……」
思い沈黙が辺りを包む。
「その子は、まだ、幸せだったと思いますよ」
いつの間にか現れていたハスミが、言葉を零す。
「エデンの時は……皆、誰にも看取られず、死んでいきましたから……その現場に居合わせた正実の子は、皆私たちや先生に助けを求めていたと……」
一人のモブが、多くの生徒の視線を集める。もはや―――を、モブと呼ぶ者はいないだろう。
《正実モブちゃん:―――×》
読むとしたらどれがいい?
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1.第二次エデン条約編
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2.アビドス復興編
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3.ゲヘナ風紀員編