キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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調月リオ 〇

「眠い……」

 

 既に日は暮れ、外は真っ暗だったが、それでも仕事は終わっていなかった。

 

「まさかユウカが忙しくて来れなくなるなんてなぁ……」

 

 ミレニアムEXPOが終わって数週間が経った今日、当番の予定では、ユウカが訪れるはずだった。しかし、どうもその時の費用の整理が追い付かないようで、予算のかさまし、横領、限度額越えの部活に対して強制執行を発動、どうしてもシャーレに手伝いに行けないというものだった。

 書類の山を改めて見つめる先生。

 

「はぁあああ………」

 

 盛大なため息を付いた先生は、改めて机に向かった。すると同時に、執務室の扉がノックされる。

 

「はーい? どうぞ~」

 

 こんな時間に誰だろうかと不思議に思っていると、ゆっくりと扉が開かれる。

 

「こんばんは」

「……リオ!?」

 

 訪れて来た生徒の姿を見て、素っ頓狂な声を上げる先生。

 

「そんなに驚くこともないでしょう? あれ以降、時折会ってはいたのだから」

「いやまあ、それはそうなんだけど、まさかリオが急に来るとは思ってもみなくて……今日はどうしてここに? また何か困ったことでも?」

 

 リオはため息をつきながら、先生の机の上に置かれた書類を半分ほど持っていく。

 

「前、恩返しと言って、私の隠れ家に招いた事があったでしょう? でも、結局あの時は貴方に「お世話」されてしまったから……今度こそ、恩返しをしようと思ってきたのよ。それに、ユウカが今日来れない理由も半分は私のせいだし……」

 

 実際、EXPOでリオが裏で暗躍した影響は大きい。警備システムの半分ほどはリオ、セイア、ネルが破壊したと言っても過言ではない。

 

「あはは……恩返しか、気にしなくていいよって言ったのに」

「そうゆう訳にはいかないわ。ただでさえ貴方にはして貰ってばかりなのに、これ以上貯めすぎては、いずれ返せるものではなくなってしまう。そうなる前に、少しずつでも返していくことで、公正な人間関係を維持できるはず。それこそ、合理的な判断というものよ」

 

 相変わらずの口癖を添えて、リオは自身のタブレットを起動し、書類捌きに取り掛かる。

 そこからの進展は早かった。

 

「こっちは終わったわ」

「は、はやいね……」

「書類仕事のパターンはあらかた記憶しているわ、最も効率的に終わる方法を実践しただけよ」

 

 さっと髪をかき上げ、クールな横顔が覗く。

 

「流石だね……ちょっと待って、もう少しで終わるから」

 

 数分待って、先生は大きく伸びをする。

 

「どうやら終わったようね」

「うん、まさか日付をまたぐ前に終えられるとは思わなかったよ。ありがとう、リオ」

 

 リオは先生の机の上に置かれた書類を覗き込み、終わっている事を確認する。

 先生はそんなリオの頭へと手を伸ばした。

 

「っ!?」

 

 リオは自身の頭の上に置かれた先生の手に驚きながらも、少し表情を赤らめ、それを受け入れる。

 

「いきなりは……驚くわ」

「ふふ、ごめんね。リオが可愛い反応してくれるからさ」

 

 いたずらっぽく笑い、手を退かす先生。一瞬リオの表情に名残惜しさが浮かぶが、悟られまいとすぐにいつもの冷静な表情に戻る。

 

「それじゃあ、今日はここで失礼するわ」

「もう行っちゃうの?」

「ええ、今日来た目的は果たしたもの」

 

 ちらりと時計を見る先生。

 

「こんな時間だし、送って行くよ」

 

 その言葉に、数秒沈黙したリオだが、小さなため息を付いて答える。

 

「断らせては、くれないのでしょ?」

「そうだね」

 

 そんなやり取りの後、二人は冬の夜道へと繰り出した。

 

「いやー、流石に寒いね」

 

 先生は自身の手を擦りながらそう呟く。

 

「そうね……でも、冬の夜は好きよ」

 

 空を見上げながら、リオは零す。

 

「星が良く見えるから」

「そう言えばリオは、星を見るの、好きだったね」

 

 それに倣って、先生も空を見上げる。

 

「別に、天体観測が好きな訳ではないわ。ただ、過去と現在を同時に観測できる事象であるから、面白いと思っているだけ」

 

 無言で空を眺める二人。その沈黙を先に破ったのはリオだった。

 

「私は、未来に希望を持つことが怖いの。何が起こるか不確定である以上、常に最悪を想定して動くのが、最も合理的な判断だと、そう理性が告げているから」

 

 先生は何も言わず、リオの続く言葉を待っている。

 

「だからきっと、私はまだセミナーに戻れないでいる。ユウカやノアにかけた迷惑を、まだ清算できていないように思うから。今戻ったところで、私の居場所なんて、どこにもないように思うから……」

 

 キュッと自身の手を強く握りしめ、震えながらリオはその言葉を絞り出す。

 

「でも、先生。貴方が私の側にいてくれたら……何か、もっと希望を持った判断ができるような気がするの。アリスたちを導けた貴方を私の未来予想に組み込む許可をくれたなら……」

 

 リオの手に、先生の手が重なる。握り締められた手が解され、互いの手のひらが重なる。

 

「大丈夫。私は、ずっとリオの側にいるよ。心配なら、この手を離さずにいればいい。不安になったら、いつでもシャーレに来ればいい」

 

 優しい微笑みが、温かい手のひらが、リオの心に沁み込んでいく。

 

「いつでも私は、生徒の、リオの味方だよ。いつでも、私を頼っていいからね」

「……そう、ありがとう。先生」

 

 半歩、リオは先生の側へ寄り、手を握る力が強くなる。

 リオの隠れ家にたどり着くまで、その手が離れる事はなかった。

 

《リオEND:未来》

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  • 1.第二次エデン条約編
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