キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
2月18日、先生はシャーレ執務室にて頭を抱えていた。
「私は……どうすればいい?」
その悩みの種は、二通のモモトーク。一つはゲヘナ風紀委員のアコから、一つは山海経玄龍門のミナ。それぞれ自身の委員長・門主の誕生日は明日、まさか祝いに来るのだろう? という内容だった。
ヒナとキサキ、二人はそれぞれゲヘナ風紀委員長・山海経門主として、苦労の多い立場にいる生徒であり、先生が特に気にかけている生徒でもある。
「一応、二人分のプレゼントは用意してあるが……」
この二人の誕生日が同じ日なのは、先生も把握していた。だが問題なのは、その周りの盛り上がり方だ。先生は、送られて来たメッセージに対して、勿論、プレゼントを渡しに行くと返事を送ったが、それに対して、『それだけでよいとでも?』ととんでもない圧を感じる返信が飛んできた。
「う、うう……とりあえず、昼間ヒナは忙しいだろうから、夕方まではキサキの方にいて、なんとか抜け出させてもらった後、ヒナを祝いに行こう……」
ヒナとキサキは、こういった行事ごとで、先生に行動を要求したりする生徒ではない。ヒナは『私なんかのために』キサキは『先生が忙しいのは存じておる』などと言って、自ら誕生日を祝ってくれと言いだす生徒たちではない。だが、周りの生徒たちはそうもいかない。
「夜に行ったら、アコに何て言われるかなぁ……それに、途中で抜け出そうものなら、玄龍門の子たちに追いかけられそうだし……」
前途多難な予感を抱えながら、先生は明日事務仕事をしなくても大丈夫なように、疲れた体に鞭打って、高速で書類を片付けて行った。
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その日の夜、空崎ヒナはベッドの上で自身のスマホを見つめていた。
「……明日は、私の誕生日、ね」
風紀委員としての多忙な日々、ほとんどのイベントごとは忘れているか頭にないヒナでも、流石に自分の誕生日ぐらいは……アコに言われるまで忘れていた。
「まあ、私には関係のないことね」
とは言え、ヒナ自身誕生日など興味もない。誕生日だからと言って、問題児たちが大人しくしてくれるわけではないのだから。だが、心の内では一つの思いが渦巻く。
布団をかぶり、明日に備えて目を瞑るヒナ。ふと、意識が曖昧になるその瞬間、思いは言葉となって、口から零れた。
「先生に、祝って……もらえたら、いいな」
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その日の夜、竜華キサキは一人自室で椅子に腰かけ、お香を焚いていた。
「はて、こんな時間に誰かのう?」
スマホが震えたのを見てモモトークを確認すると、ルミからのメッセージだった。
「ふふ、そうか、明日は妾の誕生日、か」
その内容は、誕生日のお祝いに玄武商会総出で御馳走を用意するというものだった。
「まったく、ルミの奴め。いくら玄龍門と玄武商会の仲が改善したとはいえ、大胆なことをする……しかしまあ、悪い気はせんの」
キサキはそれを受け入れる旨を返信し、スマホを閉じる。
「そうな、妾の誕生日と言うのならば……其方にも、祝って欲しいものじゃが……」
窓から遠くを見つめ、キサキは言葉を零す。
「聞いておるかえ? 先生よ」
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翌日、二人はそれぞれの誕生日を過ごした。
ヒナは朝一番にアコから特大のお祝いの言葉とプレゼントを受け取り、風紀委員の面々からもお祝いの言葉を受けた。出撃する先々で言われるものだから、少しヒナもこそばゆさを感じた。
キサキは朝一番に健康診断を終え業務を始めると、ミナを筆頭に玄龍門の生徒たちに祝われ、今日一日は仕事を休むように勧められた。それでもと業務を開始していたキサキだったが、昼近くになって、玄武商会が突撃してくると、強制的に仕事を止めさせられ、とても食べきれない豪華な食事を振舞われた。
しかし、二人の心には一つだけ穴が開いていた。そう、先生がその場にいなかったのだ。
モモトークを送ったミナとアコは不審に思っていた。あの返信以降、先生へのモモトークに既読が付かなくなっていたのだ。
「おかしいですね……」
事務仕事をしながら、アコはそう呟いていた。
「何がおかしいの、アコ? 書類に何か不備でも?」
同じ部屋で書類を捌くヒナが尋ねると、アコは少し迷った後に口を開く。
「昨日の夜、先生にヒナ委員長の誕生日を祝いに来るようお願いしたのですが……」
「何をしているのよ……先生だって忙しいのよ?」
ヒナはため息一つ、ちらりとスマホの画面に視線を送る。しかしその画面には、先生からのメッセージを継げる通知は来ていない。
「それで、先生がどうかしたの?」
「昨日の夜、確かに先生はこちらに出向くと約束していただいたのですが、一向に顔を出さないなと。そればかりか、モモトークに既読すらつかなくて……」
その言葉に、ヒナは数秒沈黙した後。慌てて先生へとメッセージを飛ばす。それから十数分落ち着かない様子で返事を待ったが、既読すらつかない。
「先生……」
いつもなら、遅くとも5分以内に既読が付き、返事が返って来る。嫌な予感が一瞬胸の内を過る。すぐにその考えを振り払おうと、今度は電話をかけてみる。
「お願い先生、出て……」
しかし、一向に先生の声は聞こえてこない。
「……アコ」
ただでさえ白い顔がさらに白くなったヒナは、震える声でアコの名を呼ぶ。
「はい、後はこちらにお任せください。今日はヒナ委員長の誕生日です。我が儘を言ったところで、風紀委員一同、誰も咎めたりいたしません」
その気遣いに、ヒナは少し緊張が和らぎ、優しい笑みが浮かぶ。
「ありがとう、アコ。行ってくるわね」
「はい、もし無事でしたら、どうして今日自分の下を訪ねなかったのか、問い詰めちゃってください」
「ふふ、そうね。そうさせて貰うわ」
銃を背負い執務室の窓を開け放ったヒナは、縁に足をかけ、勢いよく空へと羽ばたいた。
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同じころ山海経でも、ミナが不思議そうにモモトークの画面を見つめていた。
「どうかしたかえ? ミナ」
「あ、門主様。いえ、その……」
言いよどむミナを不思議に思い、キサキはもう一度聞く。
「なんじゃ、妾の誕生日だからと言って気を遣う必要はない。何か問題が起きたのなら、遠慮せずいうてみよ」
ミナは改めて自身のスマホの画面に視線を落とした後、口を開いた。
「本日、門主様に内緒で、実は先生をこの場に呼んでいたのですが……」
「ほう?」
『無用な気遣いを……』と『妾のことをよく分かっている』という二つの気持ちを同席させながら、キサキは続きの言葉を待つ。
「昨日は、来て下さると返事を頂いました。ですが今日になって、一向にこの場に現れないため、何度も連絡を取っているのですが、既読すらつかず、電話も出て頂けないのです」
その言葉に、キサキは目を細める。内心に渦巻くのは、三つの考え。一つは、単にスマホを無くした、その上で自身の誕生日を忘れてしまっている。しかしこれは、すぐにキサキ自身が振り払う。
「あの者が、忘れるはずなかろうて……」
あれだけ生徒のことを想い約束を守ろうとする先生が、一切の音沙汰無しに約束を反故にするとは、キサキにはどうしても考えられなかった。
そうして考えて行くと、キサキの中で、二つの考えが残った。一つはどうしても外せない緊急の用でスマホを触れないほど忙しい。もう一つは、その身に何かが起きている。
「……後者であった場合、うかうかしてはおれんな」
万が一のことを考え、キサキは動くことを決めた。
「ルミ、御馳走さまじゃ。妾は少し、急用ができた」
「あれ? そうなの? 折角の誕生日なんだし、少しくらい業務から離れても……」
そこまで言いかけて、ルミは感づく。
「はは~ん。さては、先生の所に行く気だな?」
にやにやと笑みを浮かべるルミ。
「流石にお主にはバレてしまうか」
「ははは、そりゃあ、その眼を見ればね」
ルミは軽く手を振って、キサキを見送る。
「なんで祝いに来ないんだって、ガツンと言っちゃいなよ~!」
「ふふ、あいわかった」
ルミの言葉に、微笑を漏らすキサキ。
「ミナ、ヘリを準備せよ。シャーレへと向かうぞ」
「は、ただ今」
読むとしたらどれがいい?
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1.第二次エデン条約編
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2.アビドス復興編
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3.ゲヘナ風紀員編