キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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空崎ヒナ・竜華キサキ 誕生日特別編 後編

到着は、距離的に有利だったヒナが先だった。

 

「先生、いる!?」

 

 執務室の扉を勢いよく開け放つヒナ。しかし、見渡す限り先生の姿は見えない。机の上には書類が散らばっているが、よく見るとそのほとんどは処理が終わった物だった。

 その書類に埋もれるようにして顔をのぞかせていたのは、先生のスマホとタブレット。

 

「置きっぱなし……」

 

 バッテリーを見ると、残り数パーセント。昨日から充電されている様子はなかった。

そうしてシャーレを捜索しているうちに、ヘリの音がしていることに気づいた。

 

「ヘリ?」

 

 廊下から窓の外を見ると、そこには山海経の文字が刻まれたヘリから降りて来る人物が一人。ヒナは何か事情を知っているかもしれないと、その生徒を迎えに行く。

 

 ヘリから降りたキサキは、シャーレの廊下にて、鋭い視線を自身へと向ける生徒と出くわした。

 

「……そなたは確か」

「ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナよ」

 

 淡々と自己紹介をしたヒナは、警戒する姿勢を緩めずに尋ねる。

 

「そうゆうあなたは?」

「妾は山海経門主、竜華キサキじゃ。ちと先生に用があってのう」

「……あなたも?」

 

 その言葉に、キサキは首を捻る。

 

「はて、その言葉、其方も先生に用があったとみてよいかの? とすると、其方も音信不通の先生を心配してここにおると?」

 

 ヒナは、キサキが先生に危害を加える存在ではなく、むしろ心配してきた自身と同じ立場と理解し、警戒する姿勢を解いた。

 

「え、ええ……今一通りシャーレを探したけど、先生は見当たらなかった。まだ行ってないのは仮眠室だけよ」

 

 二人は無言で仮眠室へと向かう。この二人は、互いに名前を知ってはいるが、詳しいことは一切知らない。完全なる初対面であった。

 

「……ここね」

「うむ、先生よ、聞こえておるか?」

 

 軽くキサキが声をかけるが、先生の反応はない。

 二人は顔を見合わせ、意を決して仮眠室の扉を開ける。

 そこには、ベッドへと突っ伏す先生の姿があった。

 

「先生!」

 

 ヒナが慌てて先生へと駆け寄るが、返事はない。冷や汗を垂らしながら口元と胸に耳を当てる。

 

「……寝てる」

 

 確認したヒナは、すくっと立ち上がり、そう零す。

 

「ほう、寝ておるか……」

 

 キサキは「ふふっ」と小さく笑みを零す。

 

「心配をかけさせおって……」

 

 ベッドへと近づき、眠る先生の顔を覗き込む。

 

「ふむ、酷いクマにやつれた肌。相当無理をしておったな? どれ、少し手を貸してはくれぬか? 先生をしっかりと寝かせたいのでな」

「え、ええ、分かったわ」

 

 キサキの言う通り、ヒナは先生の体をずらし、ベッドへと寝かせた。それを確認すると、キサキはおもむろに先生の寝るベッドへ上り、先生の隣に寝転んだ。

 

「え? ちょっと、何を!」

 

 ヒナはキサキの行動の訳が分からず、顔を赤くしてあわあわと手を振る。

 

「何をって、見ての通り添い寝じゃが? 疲れた者を癒すのなら、これが良かろうて」

 

 まさか、キサキは先生とそこまで行った関係なのか? とヒナは心の中に僅かなもやが生まれる。しかし、そのもやは、続く先生の言葉で払われることになった。

 

「……キサキ? 何してるの?」

「んん? なんじゃ、起きたのかえ?」

 

 先生はまだ回っていない頭で冷静に、状況を確認しながら、キサキから距離を離す。

 

「これ、離れるでない。折角添い寝をしてやろうと……」

「や、やめなさいって!」

 

 そんなキサキをヒナが引き離す。先生の行動で、一先ずそう言った仲ではないことは確信できたからだ。

 

「あ、あれ? ヒナまで……って、今何時!?」

 

 先生は慌ててスマホを探すも、執務室に置いたままのため見つかるはずはない。

 

「今は2月19日の午後4時よ。おはよう、先生」

 

 ヒナはため息交じりにそう教えると、先生の顔からサーッと血の気が引いていく。

 

「えっと……とりあえず、二人とも誕生日おめでとう! ……それから、ごめんなさい」

 

 その言葉を聞いて、二人は顔を見合わせる。そして、お互い納得したのか小さくため息をつく。

 

「なるほど、だから其方は今日ここまでやって来たと言う訳じゃな?」

「ええ、まさか、同じ誕生日の人がいるとは思わなかったわ」

 

 先生は頭をかいてベッドから降りる。

 

「あはは……本当にごめん。昼はキサキの、夜はヒナの方に行ってお祝いしたかったんだけど……まさか、こんなに眠っちゃうなんて……今日一日開けるために昨日頑張ったのに、これじゃあ本末転倒だね」

 

 まだ足元がおぼつかない先生の後ろを、二人はついて歩き、執務室へと向かう。歩きながら、軽く双方の紹介をすると、立場、年齢、他様々な事が似通っていることを自覚し、自然と二人は打ち解けていた。

 

「何か、運命のようなものすら感じるのう」

「そうね、でも、悪い気はしないわね」

 

 自分がこんな状態で、二人の初対面を迎えてしまったことを先生は惜しく思いつつも、こんな状況でなければ、会うこともなかったかもしれないと考えることにした。

 

 二人を連れて執務室に戻ると、先生は二人をソファーに座らせ、自身はディスクへと向かう。

 

「ちょっと待ってね……あった」

 

 ディスク最下段の引き出しから二つの小箱を取り出した。

 

「こんなみっともない姿だし、恰好つかない状況でだけど……」

 

 その小箱を、それぞれヒナとキサキへと手渡す。

 

「二人とも、本当に誕生日おめでとう。これは、私からのプレゼントだよ。受け取ってもらえると嬉しいな」

 

 黒い小箱に金色のリボンの装飾が施されたキサキの箱。そっと開けると、蝶の柄が彫られた髪飾りが仕舞われている。

 

 紫の小箱に白色のリボンの装飾が施されたヒナの箱。そっと開けると、アメシストが埋め込まれた金色のヘアピンが仕舞わている。

 

「キサキにはかんざしを。いつも蝶の髪飾りをつけているのを見ていたからね。もし気が向いたら、付けてみて欲しいかな。キサキは人の前に立つことも多いだろうから、もしそうゆう場に出ても遜色ないように、品質には拘ったよ!」

「ほう……かんざし、か……ふふ」

 

 意味深な笑みを浮かべるキサキ。

 

「ヒナにはヘアピンを。いつも前髪を止める時に使ってるのを見ていたから。それに、アメシストは紫色で、ヒナのイメージにぴったりかなって思って。ヒナは、前線で戦うことが多いから、あんまり派手なのは邪魔になっちゃうと思って、シンプルなデザインにしたよ。でも、丈夫なものにしたから、ちょっとやそっとじゃ壊れないはずだよ!」

「先生……ふふ、嬉しい」

 

 それぞれのプレゼントを受け取った二人は、ためらうことなく、今付けている髪飾り・ヘアピンを外した。

 

「全く、其方は本当に妾の心をかき乱すのがうまいのぉ。山海経で、髪飾りを送ることがどのような意味を持つのか知らないのであろうな」

「先生は本当に、私のことをよく見てくれてる。いつも貰ってばかりなのに、また一つ、貰ってしまったわね」

 

 ちらりと、先生の方を見る二人。

 

「……其方のことは、なんとなく分かったつもりじゃ。じゃが、退く気はない、恨みっこは無しじゃぞ?」

「ええ、分かってるわ。私たちの誕生日が被ってしまたことによる、たった一つの不運だもの、それで貴女を恨んだりはしない」

 

 なんとも言えない二人の圧に、先生は一歩後退る。

 

「そ、それじゃあ。お詫びもかねてみんなでご飯でも――」

 

 また一歩下がろうとする先生の腕を、二人はそれぞれしっかりと掴む。

 

「ほう、妾にこんな贈り物をしておいて、三人で、かのう? それは少々薄情というものではないか?」

「わ、私も……今日ぐらいは、二人きりでいたい、のだけど。ダメ、かしら?」

 

 ダラダラと額から汗が流れ出て来る先生。まさか、この二人がここまで積極的に自分に迫って来るとは想定していなかった。

 

 二人は、たった今先生から受け取ったものを箱から取り出し、捕まえた先生の手のひらに乗せる。

 

「先生、つけてはくれまいか?」「先生、つけて欲しいな」

 

 微かに震え、選ばれぬ恐怖を謳う声と、触れれば飲み込まれてしまいそうな凛とした灰色の瞳でそう問うキサキ。

 

 やや自信がなさそうに、潤みを見せる儚い瞳と、確かに自分の意思を紡ぐ張りのある声でそう問うヒナ。

 

 差し出された二つの想い。言われずとも、流石の先生も察している。

 

「「先生」」

 

 再び名前を呼ばれる先生、二人の腕を掴む力は強くなる。

 

「妾と」「私」

 

「「どちらを選ぶの」じゃ?」

 

《ヒナ・キサキEND:どちらを選ぶ?》

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  • 1.第二次エデン条約編
  • 2.アビドス復興編
  • 3.ゲヘナ風紀員編
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