キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
狐坂ワカモは指名手配犯されている。罪状は度重なる破壊行為。しかしそれはワカモにとって趣味同然の行為のため、取り締まられても本人はそれを止める気などさらさらなかった。
しかし、そんなワカモが破壊行動を止め、破壊衝動を抑え込もうとする理由が一つだけある。それは……
「ああ、あなた様。今日もお仕事に忙殺され、疲れた表情を……」
先生である。シャーレビルから離れた位置にある別のビルから、望遠鏡越しにワカモは先生の様子を観察していた。
「いっそのこと、連邦生徒会を消し飛ばしてしまえば……ああ、しかしそんなこと、あなた様は望みませんでしたね」
ちらりとスマホの画面に目を落とす。今日は4月2日、明日はワカモの誕生日であった。
「誕生日ぐらい、あなた様とゆっくり過ごしたかったのですが……忙しいのでは仕方がありませんね。邪魔をする訳にはいきませんし」
残念ではあったが、それでも愛する先生の利を最優先に考えるワカモは、無理にその要望を先生に伝えることは無かった。無かったのだが……。
日付が変わると同時に、ワカモのモモトークに一件のメッセージが届いた。
『こんばんは、ワカモ。誕生日おめでとう。最近はあまり君が暴れているという話を聞かないから、少し安心しているよ、私の言うことを守ってくれてありがとう。でも、あまり会う機会がないから、元気にしているか少し心配でもあるんだ。今日は頑張って仕事を早く終わらせるから、13時にシラトリ区近隣公園の外ベンチで会えないかな? 君にプレゼントを渡したいんだ。夜遅くにごめんね、他に用やしたいことがあれば、全然気にしないでそっちを優先してあげてね。おやすみ』
メッセージを読んだ直後、ワカモは耳と尻尾をピンと起立させ、興奮した様子で返信を打ち込む。
『あなた様からのメッセージ、大変うれしく思います。誕生日を覚えていただいていたというだけで感激ですのに、プレゼントまで頂けるなんて、このワカモ、高ぶる気持ちを抑えきれません。明日、いつまでもあなた様をお待ちしております。おやすみなさいませ、あなた様♡』
静かにスマホを閉じた後、ワカモは大きく深呼吸した後、黄色い声を上げる。
「あ、あなた様からプレゼントを頂けるなんて……感激ですわあああああああああ!」
目にはハートが浮かび、尻尾は振り回される。そのまま興奮を抑えきれず、ワカモは振袖のなかに仕舞われていた手榴弾のピンを抜いては辺り一帯へと振りまくのだった。
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4月3日、ワカモは目一杯綺麗な私服を着込み、ほんのりと化粧を施した後、和傘を差して約束の場所へと向かった。
「あら……少し早すぎましたね」
約束のベンチにたどり着いたワカモはそっと腰を下ろし、スマホを確認すると、現在時刻はまだ10時40分、約束より2時間以上早かった。
「うふふふ、こうしてあなた様を待つ時間も、嫌いではありませんから、ゆっくりと待つことにいたしましょう」
ワカモはゆったりと流れる時間を観察する。広場で遊ぶ子ども、空を流れる雲、どこからか聞こえる銃声と爆発音。流石にヴァルキューレのパトカーのサイレンが聞こえた時には警戒したが、おおむね平和に時間は流れていた。
普段ここまでゆったりとした時間を過ごすことが無かったため、ワカモはすっかり気が緩み、気づけばコクコクとうたたねを始めていた。
「はっ、いけません。あなた様がもうすぐ来られると言うのに……」
しかし、つい最近までべったりとヴァルキューレの追跡を受けていたワカモの精神疲労は思ったより重なっており、約束の13時には、スースーと寝息を立てていた。
仕事をなんとか終わらせ、公園へたどり着いた先生は、直ぐにワカモの姿を見つける事が出来た。
「あ、ワカモ、待たせた……かな?」
少しずつ先生は声を小さくしながら近づいた。ワカモが、瞳を閉じ、尻尾を膝の上にのせ、穏やかな寝息を立てていることに気づいたからだ。
「……君も、疲れているようだね」
先生はベンチの脇に手荷物を置き、ワカモの隣に腰を下ろす。
「あなた、さまぁ……」
気配に気づいたのか偶然か、ワカモは柔らかな笑みを浮かべ、先生のことを呼びながら体を倒す。
「おっと……」
それを肩で受け止める先生、ワカモのふわふわの耳が頬をくすぐり、こそばゆく感じるも、ワカモを退かすなどと言う無粋な事はしなかった。
このまま、目が覚めるまで自分もゆっくりしようと、先生は静かにワカモの頭を撫でる。数分経って、日々の激務の疲労もあってか、先生も寝息を立て始めた。
少し経って、もぞもぞとワカモが体をよじる。好きな匂いがする。愛しい気配がする。心地よい呼吸音が聞こえる。そんな幸福感に包まれながら、ワカモはゆっくりと意識を覚醒させる。
「あら、私……居眠りを……」
まだぼんやりする意識で、ワカモは自身が体重を預けている存在に気づく。
「え……」
ゆっくりと体を起こすと、隣に居た人物、自身が体重を預けていた人物も続けて目を覚ました。
「ん? ああ、おはよう、ワカモ。気持ちよさそうに眠っていたね?」
「せん、せい……」
先生の肩を借りて眠ってしまった、寝顔を見られた、その事実が嬉しいやら恥ずかしいやらでよく分からない感情が噴き出し、今にも湯気を出しそうなほど顔を真っ赤にして小刻みに震える。
「ワカモ大丈夫? 顔が真っ赤だよ? もしかして熱が?」
顔を近づけ、覗き込んでくる先生。手を伸ばし、ワカモのでこに手を当てる。ピタリと手が触れた瞬間、ワカモの耳と尻尾がピンと逆立つ
「ぴゃい――」
甲高く短い悲鳴を上げた後、ワカモの思考回路はショートしてしまった。
「わ、ワカモ!?」
気を失ってしまったワカモ。先生の膝枕で眠ること数分で目を覚ました。だが、膝枕されているという現状に再び思考回路はショート寸前になったが、なんとか素早く体を起こし、一旦距離を取ることで、踏みとどまった。
「こ、こほん。お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません」
「ふふ、大丈夫だよ。真っ赤になったワカモも可愛かったからね」
先生は、ワカモを自身の隣に改めて座らせ、笑いかけながら改めて切り出す。
「ワカモ、お誕生日おめでとう。はい、これはプレゼントだよ」
包装された小箱をワカモへと差し出す。ワカモは尻尾を左右に揺すりながら、その小箱へ手を伸ばす。
「ああ、あなた様からの贈り物……うふふふ、嬉しくて嬉しくて、高ぶってしまいます」
大事そうに受け取った小箱を抱きしめると、とても趣味、破壊とは思えぬ可憐な少女微笑みを浮かべる。
「開けてみても、よろしいでしょうか?」
ワカモの問に頷く先生。丁寧に包装をはがすと、中には桜の枝が装飾された木箱がある。そっと蓋を取ると、紫色のクッションの上に寝かされた、明るい茶色の櫛が存在感を示す。
「桜の木を使った櫛なんだ。ワカモのイメージにぴったりだと思ってね。椿油も一緒に買ってきたから、これで、ワカモの綺麗な髪と尻尾の手入れをしてくれたら嬉しいな」
激しい戦闘で綺麗な髪が痛んでしまっていないか、それを心配した先生は、プレゼントに櫛と油を選択した。自身を気遣ってのプレゼント、ただでさえ先生から貰えると言うだけで嬉しかったのに、ワカモは喜びのあまり、涙すら流れていた。
「ありがとうございます、あなた様」
「な、なんで泣いてるの? もしかして、いらなかった?」
「そんなわけありません! あなた様が私を想ってくれていると分かって、感極まってしまって」
ワカモは蓋を戻し、涙を拭う。
「私は問題児です。停学処分を受けていますし、指名手配もされています。幾度となく破壊を繰り返し、あなた様にもご迷惑をおかけしてしまっている……だと言うのに、あなた様は私にここまで優しくしてくれる……どうすれば、その愛をあなた様へお返しできるのでしょうか?」
「大げさだよ。ワカモは私の大切な生徒の一人、優しくするのは当然さ」
「そうでしたね、あなた様は、そうゆうお方……」
喜びと同時に、少しばかりワカモの心には寂しさが浮かぶ。
生徒として大切にしてくれている、数多くいる生徒の内の一人として。ワカモは、先生の中で、自身が特別な生徒ではないことを分かっていた。
だからこそ、今だけは、今日だけは、今日ぐらいは。先生の中の特別になりたかった。
「あなた様、御迷惑を承知で、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「なんだい? 今日はワカモの誕生日だからね、私にできることなら、喜んでワカモの望みを叶えさせてもらうよ」
「でしたら……今日が終わるまで、御一緒させてもらってもよろしいでしょうか? 町を周り、お夕飯は私がお作りいたします。あなた様のお家で夜を越し、日が昇るまで、あなた様のお傍に……」
真っすぐ目を見れないのか、ワカモは先生から視線を逸らし、落ち着かない自身の尻尾を握りしめながら訪ねた。
「私の家に泊めるのは、流石にまずいからシャーレになっちゃうけど、それでもよければ、今日は一緒にいようか。それじゃあ早速、町に出かけよう!」
「は、はい! そ、それでは……その……」
立ち上がったワカモは、もじもじと先生の手を見つめる。
「ふふ、いいよ、手を繋ごうか」
差し出された手を、ワカモはひしっと両手で掴み、ふるふると耳を震わせる。
「もう、死んでも悔いはありませんわ……」
「それは、私が困るかな」
読むとしたらどれがいい?
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1.第二次エデン条約編
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2.アビドス復興編
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3.ゲヘナ風紀員編