キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
そうして二人は町へと繰り出し、ウィンドウショッピングやクレープを食べたり、何事もなく平和な散歩を終えた。夕飯の買い出しを行って、シャーレへと二人は戻った。
「それでは、お夕飯をお作りいたしますね。あなた様はそちらで少し待っていてください」
「うん、ワカモの手料理楽しみだよ」
「うふふ、腕によりをかけてお作りいたしますね」
数十分待つと、軽く仕事をしながら待っていた先生の元へと、良い匂いを漂わせながらワカモは料理を運んできた。
「さあ、出来上がりました。白米と葱、わかめの味噌汁。大根とこんにゃくの煮物、ほうれん草のお浸しを副菜に、主菜には鯖の塩焼きをご用意いたしました、箸休めにはたくあんと梅干を」
「す、すごい……」
机に並べられる色とりどりの料理たち、まるで旅館に泊まりにでも来たかのようなメニューに、先生は思わず唾を呑む。
「ご飯とお味噌汁のおかわりも用意してありますので、お腹一杯、お召し上がりくださいませ」
「凄いね……ワカモは、いいお嫁さんになれるよ」
本心からそう先生は零す。
「まあ、嫁に欲しいだなんてそんな! ああ、このワカモ、喜んでその申し出、受け入れさせて頂きます!」
「い、いや、私なんかよりもっといい人がいるから……それじゃあ、冷めちゃう前に頂こうかな」
「むう、無理に話題を逸らされたような気もしますが……焦らされるのも、嫌ではありませんね。ええ、冷めないうちに、どうぞ」
ワカモの料理を食べる間、先生は終始笑顔で「おいしい!」を繰り返し、久しぶりに食べたちゃんとした料理に感激しながら食べ続けた。
「ごちそう様でした。ふう……本当に美味しかったよワカモ、ありがとう!」
「ふふ、おそまつさまでした」
食後のお茶を飲みながらゆったりと会話をしている内に、時間は過ぎて夜も更けて来た。
「それじゃあ、もうこんな時間だし、そろそろシャワーでも浴びてこようかな。ああ、それともワカモが先に浴びる?」
「ご一緒しては、いけないのですか?」
思わずお茶を吹き出しかける。
「今日一日、ずっとこのワカモをお傍に置いていただけるのではなかったのですか?」
「それは、お風呂も適応なんです?」
「勿論、私はそのつもりでいましたが……?」
数秒先生は沈黙する。要望には応えて上げたいが、生徒とシャワーを浴びるなど、倫理的に許されない。しかしそれ以上に、先生は別の問題を意識していた。
ちらりとワカモを先生は一瞥する。一言で言えば、ワカモの顔身体は、魅力的過ぎる。タオル一枚巻いたところで、自身の男としての欲求を抑えられるかが不安であった。
数分かけて説得し、同じ布団で寝ることを許すからその代わりに風呂は別にしてくれることになった。
しかし、シャワーを浴びながら先生は思う。
「あれ、同じ布団も、十分ヤバくないか……?」
頭を抱える先生だった。
♦
「さああなた様、こちらへ」
シャワーを浴び終えた二人は、約束通り、仮眠室のベッドへ向かった。
ワカモはパジャマを持っていないため、下着の上に先生のYシャツ一枚だ。もはやそれだけで、先生の理性には亀裂が入っていた。
先に布団に入ったワカモは、先生を迎え入れようと、掛け布団を持ち上げる。
「う、うん……そうだね」
頼むからもってくれ、自分の理性。そう先生は自身に言い聞かせ、布団に入る。
「ああ、あなた様がこんなお傍に……」
そっと手を伸ばし、先生の頬に触れるワカモ。いつもならば、自身から先生に降れることはめったにないが、今は状況がワカモを酔わせていた。
「あなた様……今日は私の我が儘を聞いていただいて、本当にありがとうございました」
「いいんだよ、誕生日ぐらい。それに私も、久しぶりにワカモとずっと一緒にいられて楽しかったからね」
「身に余るお言葉です」
そっと布団の中で先生の手を握りしめるワカモ。その瞳は微かに熱を帯びている。
しばしの沈黙を破ったのは、ワカモの一言だった。
「先生、本日頂いた櫛ですが……先生は、女性に櫛を送る意味をご存じですか?」
手を握られ寝返りがうてない状況のため、先生は至近距離でワカモと向き合いながら会話を続ける。
「えっと、何か深い意味が?」
「ふふ、やはり、御存じなかったのですね」
ワカモは握りしめた先生の手を自身の薬指に触れさせる。
「女性に櫛を送ると言うのは、一般的に永遠の愛を誓うこと……プロポーズの時によく用いられます」
「ぷろ、え?」
先生は、自身の行った行為の重大さにようやく気付いた。
「あなた様は、そんなつもりはなかった、と言いたいのでしょうが……どうか、それは言わないで頂けないでしょうか?」
いつもの上ずった猫なで声ではなく、どこかしっとりとした色気のある声でワカモは語りかける。
「もうすぐ、日付が変わります。ですので、これが最後のお願いになると思います」
あまりにも雰囲気が危うい。それは先生も理解している。だからこそ、最大限鋼の意思を持って、聞き返した。
「何かな?」
「私が、あなた様にとって、数多くいる大切な生徒の内の一人であることは理解しています。何をしたとしても『生徒』の域を出ることはないのでしょう……でも、それでもやっぱり、私は、諦められないのです」
手を握る力が強くなる。
「あなた様の特別な人になりたい……死が二人を分かつまで、時間を共有したいのです」
真っすぐに、曇りもやましい気持ちもなく、純粋なる大きすぎる愛を、そのまま先生へとぶつけるワカモ。
しかし、先生はそれにすぐに答えることはできない。
「……ふふ、良いのです。あなた様はきっと、お答えできないでしょう。ですから今は、私の思いを聞いて、知ってくれれば、それで……」
「ワカモ……そう、だね。ごめん。私が先生という立場である以上、その思いには答えられない。だから、だからせめて……」
先生は、切ない表情を浮かべるワカモの顔を、自身の胸の中に収める。
「あ、あなた様……!? こ、これは……」
先生は何も言わない。言ってしまえば、それは先生と立場を超えたものになってしまうから、だから精一杯、行動でその気持ちに答える。
「ふふ、うふふふふふ、うふふふふふふふふ……少なくとも、拒否された訳では、なさそうですね……」
ワカモは決める、いつか時が来たら、再びこの人に気持ちをぶつけようと。
ワカモは誓う、この優しすぎる人を、あらゆる脅威から守ろうと。
ワカモは囁く。
「愛しています、せんせい」
《ワカモEND:プロポーズ》
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