キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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内海アオバ ×

 口ではそう言うも、心の中では先生の言葉を反響させる。

 

「私に、期待している……ってことなんですかね」

「そうだね、私もアオバに期待してるよ、君ならそんなじゃじゃ馬車輛でも直せるってね」

 

 

 翌日、先生の言葉を胸に、アオバは任されたじゃじゃ馬車輛の車庫へと向かった。

 

「これをちゃんと走らせられれば、先生の期待に応えられる……」

 

 常に期待し、それに応えてくれる先生。偶には、自分がその役割を代わったっていいはずだと、そう自分に言い聞かせる。

 

「先生の期待に応えられるなら、頑張るのも、悪く……ない、かも?」

 

 ネジを締め、錆を落とし、電子機器を確認するアオバ。その顔には、どこか笑顔も浮かんでいた。いつもは退屈で、只辛いだけのこの仕事に、妙にやりがいを感じ、幸せを感じていた。

 

「よし、こんな感じで大丈夫、ですかね……」

 

 昼前に整備を終えたアオバ。

 

「お、アオバ、もう終わったの?」

「あ、はい。とりあえず大丈夫だと思いますけど、使用は試運転してからでお願いします」

「分かってるって、今日はありがとね~」

 

 他の整備員の生徒に見送られ、アオバは早めに上がることができた。

 偶にはゆっくりお茶でもしようかと、適当なカフェに入る。

 

「いらっしゃいませ~おひとり様ですね、お好きな席どうぞ~」

 

 キョロキョロと辺りを見たアオバは、店の隅にあるテレビが良く見える一人がけの席へ腰掛けた。

 適当に注文を済ませると、スマホのモモトークに通知が届く。先ほどの整備員の生徒からだった。

 

≪列車、試運転でも問題なかったよ~ありがとね~≫

≪これなら今日からの増便にも間に合いそうだよ≫

「よ、よかった」

 

 試運転を終えた内容であったようで一安心するアオバ。少し考えた後に、先生のモモトークを開く。

 

≪先生、あの、今日の整備について、またお話ししたいので、後日シャーレに遊びに行っても、良いですか?≫

 

 返信はすぐに来た。

 

≪勿論、明日の午後は特に外に出る用事はないから、いつでもシャーレへおいで≫

 

 また明日、先生に会える。その期待で、胸が膨らむアオバ。自然と笑みが溺れた。満足げな表情で、頼んでいた料理を食べ、ゆっくりと食後のジュースを楽しみながら、ぼーっとスマホをいじりながらテレビを見つめていた。

 なんとも中身のないクロノス報道のニュースが流れていたテレビ。その画面に、緊急速報の文字が映った。

 

「ん?」

 

 何事かと思いスマホを置いてテレビ画面へ目を移すアオバ。

 

≪速報です、現在ゲヘナ地区を通過中だった車輛が、不良生徒の攻撃をうけているとのことです!≫

「いつものことじゃないですか……」

 

 アオバはあきれた様子でスマホに目を落とした。

 

「ハイランダーの車輛は、そんなことで破壊されるほどやわにできてないですよ。こんなの日常なんですから」

≪ああ! 今、車輛の最後尾が大きくぐらついている!≫

 

 画面の先で、車輛は大きく揺れ、連結部が限界を迎えたのか、テレビ越しでもはっきりと聞こえるほど甲高い音を立てて金具がはじけ飛ぶ。

 

「え?」

 

 横転する。アオバは本能でそう察する。次の瞬間、高速で走っていた客車は横揺れのエネルギーを吸収しきれず脱線、そのまま地面を横転していった。一回、二回と地面を叩き、一回転した後、左側面を下にして止まる。

 

≪え! それ本当!?≫

 

 報道部のシノンが焦った表情でマイクを握る。

 

≪たった今情報が入りました! 現在横転している車輛には、シャーレの先生が乗っていたとのことです!≫

「え……?」

 

 スマホを落とすアオバ。

 

「せん、せい?」

 

 改めてテレビの画面を凝視するアオバ。横転し、ぐちゃぐちゃにへこんだボディー、はじけ飛んだ車輪と連結部、映し出されたその車輌には、見覚えがあった。

 

「これ、私が整備した……」

 

 そう、アオバが今日の朝整備した車輛だった。

 

「嘘、だよね? 嘘ですよね、先生?」

 

 恐る恐る落としたスマホを拾い上げ、先生に電話をかけるアオバ。10秒、20秒、30秒、いつもならすぐに出てくれる先生。それが今はどれだけ待ってもあの声が聞こえない。自分に、唯一期待を持たせてくれた先生の声が。

 

「先生が……先生が、私の直した車輛で……おぇ」

 

 急激な吐き気に襲われ、アオバは椅子から口元を抑える。

 

「私の、ミスで……私が浮かれたせいで……期待したから……うっ、おえっ―――」

 

 考えれば考えるほどさっき食べたものが胃の中で暴れ、机の上に吐き散らかされる。

 

「お客様!? 大丈夫ですか!?」

 

 店員の心配する声など、アオバの耳には入らない。

 

 やっぱり、期待なんかするんじゃなかった。また明日、先生に会えるなんて。呼べば来てくれるだなんて。人生生きていれば楽しいこともあるんだなんて、思うんじゃなかった。

 

 ただひたすらに、アオバは自身のことを呪う。

 

 自分のせいで、先生が死んだ。自分が先生を殺した。

 だがアオバは、それを悔やんで死ぬことができるほど強い子では無かった。ただ一度もこの先、夢も期待も抱かずに、早く寿命が来ることばかり祈って、生きるだけ。

 

 アオバが唯一期待できる人物は既に、いや、自分の手で、この世界から決してしまったのだから。

 

《アオバEND:期待なんてしなければ》

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  • 1.第二次エデン条約編
  • 2.アビドス復興編
  • 3.ゲヘナ風紀員編
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