キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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京極サツキ 〇

 ゲヘナに呼び出された先生は、パンデモニウムの執務室の扉をノックする。

 

「いらっしゃい、そのまま入っていいわよ」

 

 中からサツキの声が聞こえ、そのままノブを回す。

 

「やあ、こんにちは……って、それは?」

 

 サツキが手に持っていたのは、予防接種と書かれた紙だった。

 

「ああ、もうそんな時期だっけ?」

「え、ええ。今日先生を呼んだのは他でもない、この予防接種を何とか回避―――」

「ダメだよ」

 

 先生はノータイムでサツキの言葉を否定する。サツキはたまらず先生に詰め寄った。

 

「なんでよ!」

「予防接種は健康のために必要なものだからね」

「だとしても、注射よ!? 針を自分の体に刺すのよ!? 痛いじゃない!」

 

 サツキは痛みに弱い。自分が痛いのも嫌だが、他人が痛がることも好きではない。そんなサツキにとって、予防接種、特に学校の生徒全体で行う集団予防接種は恐怖そのものだった。

 

「まあまあ、でも一瞬だけだから。それで一年間健康でいられるんだよ?」

「絶対に嫌よ!」

 

 頑なに受けようとしないサツキ。どうしたものかと先生は頭を悩ませる。

 そんな時、モモトークの通知音が鳴る。送り主はセナで、まだサツキが予防接種を受けていないというもの。

 

「仕方ないな……予防接種受けてくれたら、NKウルトラ計画をまた少し手伝ってあげるから」

「あうう……」

 

 NKウルトラとは、サツキが進める催眠術の計画のことだ。しかし、いまだにサツキの催眠術はマコトと自身にしかかかったことはない。

 

「イブキも受けたんだよ?」

 

 先生の言葉の畳みかけによって、サツキはとぼとぼと先生と共に予防接種の会場へと向かった。

 たどり着くなり、サツキは先生にしがみついて離れないでいた。パンデモニウムのメンバーに見守られ、イブキに応援されながら。サツキは半泣きになりながらセナから予防接種を受けるのだった。

 

 サツキは先生にしがみついたままパンデモニウムの執務室へと戻ってきた。

 

「先生、予防接種受けたんだから約束通り計画に付き合ってもらうわよ!」

 

 びしっと指を立ててそう告げると、さっそく糸先にコインをぶら下げたいかにもな道具を取り出す。

 

「はいはい、いつでもいいよ」

 

 少し苦笑いしつつも、先生は椅子に腰かけ、サツキの催眠術を受ける体制を取る。

 

「ふふふ、今回は今までとは違うわ! 先生、これを飲んでみて頂戴!」

 

 差し出されたのは、やや濁った液体だった。

 

「ゲヘナ情報部に、山海経から見つけた情報を元に作らせた特性の催眠薬よ!」

 

 怪しさ満点すぎるその液体の効果を、ぺらぺらと饒舌にサツキは語るが。要するに催眠にかかりやすくなる薬品だそう。

 

「とにかく、これを飲めばいいんだね?」

 

 自信満々に頷くサツキ。

 

 一瞬躊躇うが、一気にその液体を飲み干す。舌をしびれさせる辛み、体内が火照る感覚。先生はすぐに気づいた。これはアルコールだと。

 

「さあ、これを見つめて。ゆっくり動きを目で追うのよ」

 

 いつものように5円玉を取り出しふらふらと揺らすサツキ。この催眠薬ないしアルコールは後で取り上げるとして、その作成までの長い道のりを聞かされていた先生は、少しぐらい、効いているふりをしてあげてもいいかと判断した。

 

「……はい」

「もしかして……本当に効いてる?」

 

 かけている本人が、一番驚いているが、気分を高ぶらせながら、サツキは続ける。

 

「今からあなたは、私の聞くことに全て正直に答えるようになーる。答えたくなーる」

 

 ありきたりな言葉を言った後に、サツキは少し考えて、尋ねる。

 

「先生の……そうね、この後の予定を教えて頂戴」

「今日この後は、サツキとの用事が続いても大丈夫なように何も入れてきてないよ」

 

 すらすらと、先生の口から言葉が続く。

 

「な、なら。先生が信頼している生徒は誰?」

「……もちろんみんな信頼しているけど、やっぱりヒナのことは特に信頼してるよ。実際何度も助けてもらっているからね」

 

 先生が特定の誰かを個別で名指しするのは珍しい。それを見てサツキは、先生が完全に催眠にかかったと喜んだ。

 

「ふふ、うふふふ! ついに、ついに成功よ!」

 

 サツキはぴょんぴょんと跳ね回りながら催眠の成功を喜んだ。先生はそんな姿を見ながら微笑む。それはそうと上下にばるんばるん跳ね回る二つのドデカマシュマロに視線が行っていたが、大きく動くものに目が行くのは人間の自然な反応だ。

 

 そのままサツキは先生に質問を投げかけ、どうでもいいことからパンデモニウムとして欲している情報などを聞いてきた。先生は、応えられる範囲でそれに答え、時折嘘やあいまいな表現をしながらその質問を切り抜けていった。

 

「そ、それじゃあ最後に……ちょっと、私的な質問にはなってしまうのだけど……」

 

 そろそろ正気に戻ろうかと先生が考えだすころ、サツキは妙にもじもじしながら聞いてきた。

 

「せ、先生が一番好きな生徒は……誰?」

「私はみんなのことが大好きだよ」

 

 ひとまずそう答えてみる先生、サツキは首を振って続ける。

 

「それは知ってるわ。その中でも、特に……先生と生徒ではなく、一人の女性として、好きな生徒は、誰かいるの?」

 

 その体躯に似合わないほどいじらしい質問に、先生は少しドギマギしながら、サツキの質問に答える。せっかく最後の回答になるんだし、少しぐらいからかってみようかと、口を開いた。

 

「……そうだね。女性的な魅力を感じてる子は……サツキ、かな」

「へえ……へ? 私!?」

 

 唐突な告白に素っ頓狂な声を上げるサツキ。面白い顔が見れたと満足した先生はネタ晴らしをしようと口を開きかけるが、サツキは食い気味に肩を掴み、質問を続けた来た。

 

「わ、私の、どんなところが好きなの……?」

「え、ええっと、一番は痛がる人を見たくないっていう、その優しい気持ちかな」

 

 あまりの圧に催眠にかかっているふりをするのも忘れ、素で先生はそう返す。

 

「そう、そうなの。そうなのね、先生は私のことが……ふふ、んふふふふ!」

 

 サツキは満足げに微笑んだ後、がっと先生に覆いかぶさる。

 

「なら、なら先生は……このまま私だけの言うことを聞きなさい。催眠は解かないわ。ずっと、ずーとこのまま……先生が催眠なしでも私の言うことを聞き続けるようになるまで……」

 

 呆けた表情をしながらサツキは先生へと距離を詰めてくる。これ以上はまずいと我に返った先生は、両手でサツキの肩を抑える。

 

「ストップ! サツキストップ! 冗談! もう催眠解けてるから!」

「へ?」

 

 サツキははっきりとしている先生の瞳を認識し、今の状況を改めて確認する。

 

「じゃ、じゃあ……私が一番好きって言うのは……?」

「ご、ごめん、少しからかいたくなって、まさかそ―――」

 

 サツキの目に涙が浮かび、不服そうな表情が浮かぶ。

 

「つまり、先生は私を騙したってわけね……?」

「そうゆうわけじゃ、いや、そうゆうことになるのか……?」

 

 サツキは先生の煮え切らない返事を待たずして、ガッとそばにあったソファーへと押し倒す。

 

「別にいいわ。たとえそうだったとしても、本当のことに、今からしてしまえばいいのだから」

 

 自身の服に手をかけながらサツキは目元に涙を浮かべながら、告げる。

 

「あの、さつきさん? さすがにそれはまずい―――」

「逃がさないわよ」

 

 少し低い声でそう言われた先生は、まるで本当に催眠にかかったかのように、その場から動けなくなるのだった。

 

 《サツキEND:強制催眠》

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