キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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鬼方カヨコ 〇

 もう日は高く登る頃、先生はシャーレの仮眠室で目を覚ました。

 

「……あれ?」

 

 目を擦り、何が起こっているのか分からない先生。恐る恐るスマホに目を向けると、画面には11時30分を指していた。

 

 サーッと血の気が引いていく。

 

「ヤバイ!」

 

 今日の朝方まで仕事を続けていた先生、少し仮眠をとろうとワイシャツのままベッドの上に寝転んでいたのだ。しかし、目を覚ませばもうお昼。今日の当番の子もすでに来ているだろうと考えると、焦らずにはいられなかった。

 

「ごめん!」

「あ、先生。おはよう」

 

 シャーレ執務室の扉を開けると、カヨコが既に仕事を始めていた。

 

「今日の当番はカヨコか……ごめんね、寝坊しちゃって、せっかく来てくれたのに」

「気にしなくていいよ。疲れてたみたいだし」

 

 カヨコはそう優しく笑う。日ごろ、怖い顔として無意味に恐れられている人物と、同一人物だとは考えがたい。

 

「カヨコは優しいね」

「どうだろう、皆こんな反応をするんじゃないかな? 皆、先生のこと好きだから」

 

 ごそごそと持ってきた鞄に手を入れ、何かを取り出す。

 

「はい、これ」

 

 布に包まれた箱を先生へと差し出すカヨコ。

 

「これは?」

 

 尋ねながら先生は布をほどく。中からは、透明なタッパーが姿を見せる。タッパーの中には、おにぎりと卵焼き、ウインナーとミニトマトが入っている。

 

「先生の朝ごはん。何も食べないのは、体に悪いから作ってきたよ」

「……やっぱり、カヨコは優しいね」

「ふふ、感謝として受け取っておくよ、先生」

 

 カヨコ特製の朝食をお弁当として食べた先生は仕事に取り掛かる。特段仕事量が多くなかった今日は、夕方、日が完全に落ち切る前には業務を完遂した。

 

「意外と早かったね」

「そうだね。カヨコのお弁当のおかげで、いつもより仕事が捗ったよ、ありがとう」

 

 先生はそう言いながらカヨコの頭に手を伸ばして、触れる直前で手を止めた。

 

「あ、ごめん。いつもの癖で……」

 

 しかし、カヨコはその手を掴み、頭に乗せた。

 

「……なんで、私は撫でてくれないの?」

 

 ほんの少し紅潮した顔で、視線を逸らしながらカヨコは言う。

 

「いや、カヨコは……何というか、皆より大人だから、そうゆうのは嫌がるかなって……それに――」

 

 そこまで言って、先生は口を塞ぐ。何かを隠すように、先生はカヨコの頭を撫で始めた。

 

「それに、なに?」

 

 撫でられながら、カヨコは問う。

 

「いや、なんでもないんだ」

 

 手を離し、先生はカヨコから一歩距離を取る。

 

「さて、早く終わったことだし、夕飯でも食べに行こうか。何かリクエストはある? 朝のお返しとして、奢ってあげるよ」

 

 誤魔化しているのが気に入らないのか、カヨコはムッと不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

「先生、私に隠し事? あーあ、先生もそうやって私を怖がるんだ。撫でたら撃たれるとか考えてるからでしょ」

「そんなことはない! カヨコは怖くない! 心優しいいい子だよ!」

 

 怒涛の先生の反論に、照れながらも少し退くカヨコ。

 

「じゃあ、なんで……なの?」

 

 どこか寂しそうな表情でカヨコは改めて先生に聞く。その表情を見てしまった先生は、これ以上隠すのはカヨコをかえって傷つけるかもしれないと考えた。それでも言いよどむが、決心して、口を開く。

 

「カヨコは、他の生徒に比べて大人っぽすぎるんだ」

「……え?」

 

 予想外の回答に、カヨコは目を丸くする。

 

「その、何というか……カヨコを撫でたら、先生でいられなくなる気がして……カヨコとは、少しスキンシップを控えていたんだ」

 

 自身の頬をかきながら、先生は目を逸らす。

 カヨコは少しの間、その言葉の意味を理解できずにフリーズしていたが、ようやく頭が追い付いてきたのか、一気に顔を赤くし、頭から湯気が上がる。

 

「……そ、そう……なんだ」

 

 気まずい沈黙が、二人の間に流れる。

 その沈黙を破ったのは、先生だった。

 

「さ、この話はもうやめにしよう。気まずい思いをさせちゃってごめんね、カヨコ。おいしい物でも食べに行こうか!」

「うん、そうだね」

 

 まだ少しカヨコの顔は赤い。

 二人は適当なファミレスに入って、たわいもない話をしながら夕食をとった。しかしその間も、カヨコの頭の中には、先生の言葉がぐるぐる回る。

 

『カヨコを撫でたら、先生でいられなくなる気がして』

 

 心の中でカヨコは呟く。

 

(それって、先生は私にそういう目を向けちゃうってこと……?)

 

 普通なら、生徒にそんな目を向ける教師など、嫌悪しても当然なのだが、カヨコは不快になるどころか、嫌に興奮していた。先生がの中で自分は、ただの生徒ではなく、そうゆう目で見ることもできてしまうような存在であることが、カヨコの心をかきみだしていた。

 

 ファミレスを出ると、既に日は落ち、真っ暗な夜道を二人は歩くことになった。

 

「それじゃあ、私はこっちだから、またね、カヨコ。今日はありがとう」

 

 シャーレとゲヘナ方面の分かれ道で、先生はそうやってカヨコに手を振る。

 

「先生、まって」

 

 別れる寸前、カヨコは先生の袖の裾を掴んだ。

 

「どうかした?」

 

 振り返る先生。カヨコを視線で捉えた時には、自分の眼前へとカヨコの顔が迫っていた。

 

「え?」

 

 先生の頬に、柔らかい感触。

 

「……カヨコ?」

 

 何が起こったのか理解できていない先生に、顔を赤くしたままのカヨコが告げる。

 

「私は、別に先生になら、そういう目を向けられても嫌じゃない。むしろ、ちょっと嬉しい。だから、先生さえよかったら……私とも、皆と変わらずスキンシップを取ってほしい」

 

 耐え切れなくなったのか、カヨコは先生に背を向ける。

 

「それで、先生が我慢できなくなったら……私は、受け止めてあげるから。今のキスは、その証拠。じゃあね、先生」

 

 そのままカヨコは走り去ってしまった。

 暗い夜道に、カヨコの黒い服はすぐに見えなくなる。先生は、まるで夢でも見ていたのかと錯覚する。本当は一人で夕食を食べていて、この暗闇に、カヨコの幻を映したのではないかと。

 

 しかし、頬に残る柔らかな感触が、現実に起こったことなのだと自覚させた。

 明日からどんな顔をしてカヨコに会えばいいのか、途方に暮れる先生であった。

 

                        【カヨコEND:スキンシップ】

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  • 1.第二次エデン条約編
  • 2.アビドス復興編
  • 3.ゲヘナ風紀員編
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