キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
トリニティ学園領の外れ、華やかな雰囲気には似ても似つかないスラムのようなエリア。そこには二人の人影があった。
「せーんせ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ~」
「とはいってもね……ちょっとあんまりにもほかと雰囲気が違うから……」
奉仕活動の一環として、正義実現委員会の仕事を手伝っている先生とミカ。
正実が、この一帯で違法な弾丸の流通を確認したため、それの取り締まりと言うことで、有力な委員が総出で出動している。だがそれでも戦力に不安があったハスミが、コハル伝いにミカへ訳を話し、出撃メンバーへと加えた。
「大丈夫だって、私が付いてるんだよ? もし先生を狙う悪い子がいたら、えいって私がやっつけちゃうんだから」
「あはは、頼りにしているよ」
ぶんと拳を振りかざしながらミカは曇りない笑顔を浮かべる。偶然ミカと鉢合わせた先生は、半場強引にこの任務へと参加させられた。コハルやイチカ、他正実メンバーから指揮を期待されたのもあるが、一番の理由は、ミカが先生との時間を過ごしたかったというのが大きい。
それを裏付けるように、現在ミカは先生と二人きりで、こうして遊撃部隊として移動している。
「あーあー、聞こえるっすか? こちらイチカっす」
「ああ、聞こえているよ」
「ああ、よかったっす。こっちは、流通していた物を抑えて、今から首謀者たちの制圧に動くっす。それに合わせて、そっちも始めちゃってください」
先生とミカの任務は、本隊が敵本陣を攻撃中、異変に気付いた別動隊や予備隊員を各個撃破、合流を阻止するというものだった。その後、邀撃が終わったら、本体と挟み込むように合流、全体の指揮を先生が取りつつ、制圧を目指す流れだ
「分ったよイチカ、そっちは大丈夫そう?」
「先生が来るまでの時間を稼ぐぐらいは、十分できるっすよ。なんだったら、合流の前に制圧を終わらせるつもりっす」
「威勢がいいね。じゃあ後でね」
通信を終え、ミカに声をかけようとしたその時、さっとミカの手が先生の動きを遮った。
「先生まって、嫌な気配を感じる」
銃を構えて、腰を低くし、ミカは前方へと走って行った。
先生は、固唾をのんで物陰で様子を窺うと、数回銃声が響く。
「おっけー先生、片づけたよ!」
ミカの気の抜ける声に安心して、ミカの後を追う先生。ミカの足元には、戦闘用オートマタが数体転がっていた。
「ターゲットの一部か……さすがミカだな」
「えへへ~」
先生に褒められると、嬉しそうに頭をかくミカ。
「この調子でどんどん殲滅しちゃおっか」
もっと褒めてほしくて、もっとかまってほしくて、ミカはそう張り切って任務へと当たった。先生の指揮もありつつ、順調に邀撃の任を進め、ついに敵本隊を挟み撃ちする段階へと移行する際、事件は起きた。
「ミカ、用意はいい?」
「うん、任せておいて、先生」
マガジンを変え、コッキングを終えると、ミカは物陰から飛び出し、正実の攻撃から退避する敵へと向かい合った。
「私はこっちだよー」
サブマシンガンで敵を制圧し、肉薄した後、拳を叩きこむ。とても先生の言う『お姫様』には見えない戦闘スタイルで、敵を制圧していくミカ。
「ミカ、次は3時の方向に迂回して、正実を狙ってる狙撃手を片付けよう」
「オッケー!」
少し後方で指揮を執る先生。作戦は順調に進んでいるかのように見えた。
しかしそれは、イチカからの急報によって一挙に瓦解する。
「至急至急! そっちに敵戦闘ヘリが向かってるっす!」
ミカがハッと空を見上げると、豪快なエンジンの音を響かせながら、ロケットポットをぶら下げる戦闘ヘリが、こちらへと機首を向けていた。
「ちょっと気合い入れようかな!」
自身の羽を羽ばたかせ、高く高くジャンプすると、戦闘ヘリに照準を合わせ、引き金を引くが、戦闘ヘリはミカには目もくれずに後退していく。
「まさか!」
ヘリの狙いは、最初からミカではなく、先生だった。
「先生避けて!」
ミカの悲鳴をかき消すように、ポッドから複数発のロケット弾が先生の隠れる建物の影へと殺到する。
「先生!」
目にもとまらぬ速さで先生がいた場所へと向かうミカ。幸いなことに、ロケット弾は先生を直撃せず、周囲をふきとばしただけに留まっていた。しかし、破片や爆風によって、先生の身体にはいくつかの傷跡ややけどが見える。
「私は、大丈夫だから、ミカは戦闘にしゅ―――」
「大丈夫な訳無いでしょ!」
こんな状態でも強がっている先生を無視して、ミカは先生を立たせる。
「先生、走れる?」
ミカの問いに、頷いて答える先生。
「じゃあこっち!」
それを見て、腕を掴み、走りだすミカ。一先ず、戦闘ヘリの視界から外れることを優先した結果だった。
「ミカ、痛いよ」
気持ちが入ってしまったのか、先生の腕を掴む手に少し力が入るミカ。だが、上空から戦闘ヘリ、歩兵も迫っている中、その声を聞けるほど、ミカにも余裕が無かった。
「鬱陶しい!」
向かってくる歩兵を片手で構える愛銃で撃退しながら、先生を連れて走る。もう少し、もう少しで建物が立ち並ぶ路地裏に入れると言うタイミングで、ミカの視界の端に、対物ライフルを構える敵歩兵が映った。
その銃口は先生ではなく自身を見ており、避ける必要はないとミカは判断した。しかし、流石のミカも、対物ライフルは痛い。発砲炎が光るその一瞬、全身に力が入ってしまった。その衝撃に耐えようと、全身の筋肉を硬直させてしまった。
ミカはそのまま対物ライフの直撃に耐え、路地裏まで先生が移動したのを確認し、戦闘へと戻って行った。路地裏で、痛みに耐えかね気絶する先生に気づかないまま。
戦闘が終わったミカは、汗と汚れを拭きながら、先生がいるはずの路地裏へと向かう。
「先生、大丈夫? 戦闘はもう終わったから、救護騎士団の子たちに傷を……先生?」
路地裏、投げ出された足。地面へと突っ伏すようにして寝転ぶ先生には……。
「ね、ねえ先生、どうした――!?」
意識が無かった。
「先生!」
ミカの呼びかけに、先生はピクリとも反応しない。抱え上げられ、ただ力なく、右腕が揺れるだけだった。
♦
到着した救護騎士団に連れられ、病室へと運ばれた先生。ミカは付きっきりで先生の意識が戻るのを待った。
最近会えずにいたことに不服だった、そんな自分の心を満たすために、自分勝手に先生をあんな所へ連れて行ってしまったことを謝りたくて。守り切ることが出来なかった自分の不甲斐なさを謝りたくて、常に側に居続けた。
だが団長のミネが、検査の邪魔になってしまうから一度外で待っていて欲しいと言われ、しぶしぶ病室を出た。
「ごめんなさい……ごめんなさい、先生」
病室の外で、膝を抱え座り込むミカ。病室の扉があくまで数時間、ミカはそこから動かなかった。
「ミカさん」
病室の扉が開き、中からミネが現れると、ミカは入れ替わるように病室へ入ろうとするが、それをミネは遮り、扉を閉める。
「……なんのつもり?」
「ミカさん、貴女が先生を心配している気持ちや、色々伝えたい気持ちがあることは、察しています」
苦しそうな顔で、ミネは言葉を絞り出す。
「しかし、救護騎士団団長として、私は貴女に、先生との接触を無期限禁止としなければなりません」
「……は?」
ミカは最初、ミネが言っていることを理解できなかった。何故私が、無期限接触禁止を言い渡されなければならないのか、それは、私が先生を守れなかったからか? とミカの中でふつふつと感情が沸き上がって来る。
「そんなの、簡単に納得できるわけないじゃんね」
そう言って、扉を開けようとするミカの手を、ミネは強く抑える。
「ダメです。許可できません」
「邪魔しないでよ!」
その行為にカチンと来たミカは、邪魔されないよう強引にミネを吹き飛ばし扉を開ける。
「先生!」
病室には、既に意識を回復していた先生が、ベッドの上で体を起こしていた。
よかった、何事も無かったのだと、喜んで先生へと駆け寄るミカ。
「先生、ごめんなさい! 私が、私が不甲斐ないばっかりに、こんな目に合わせちゃって……次は、次はもっと上手くやるから……お願い、嫌いにならないで」
必死な声掛けに、先生はぎこちなく答える。
「あ、ああ、大丈夫だよミカ。こんなことで、嫌いになったりしない……さ。そんなに自分を責めないで」
ミカは、先生が自分を見る視線に違和感を覚えた。いつもの温かい目じゃない。私のことを優しく見守ってくれた先生の目じゃない。
「先生?」
その目に恐怖したミカは、恐る恐る先生の腕へ触れようと手を伸ばすが、その動きを見た先生は、一気に顔を強張らせ、ミカが聞いたことないような声で叫んだ。
「触るな!」
ビクッと身をふるわせ、ミカは一歩後退る。
「せん、せい……?」
「あ、ご、ごめんミカ……」
ミカの心中で、恐怖心が渦を巻く。
(先生に嫌われた、先生に突き放された、先生に見捨てられた、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……)
その恐怖心を打ち消そうと、ミカは咄嗟に先生へとしがみつこうと手を伸ばす。
「や、やめろ! 来るな! 触るな!」
しかし、先生から発せられる言葉は、どれもミカを拒絶する言葉ばかり、その顔に浮かぶ顔は恐怖と混乱。ついには、涙を流しながら、先生は絶叫を上げた。
「あああああ! やめ、やめああああああああ!」
「先生!」
ミカに吹き飛ばされたミネが、絶叫を聞きつけ病室へと駆け込んでくる。その後ろには、セリナとハナエもいる。
「セリナ、ハナエ! 先生に安定剤を!」
「「はい!」」
二人に指示すると、ミネは絶望の表情を浮かべるミカの顔面へと一発拳を叩きこんだ後、病室から引きずるようにして外へ連れ出した。
救護騎士団の病棟から外に出ると、ミカはミネにしがみつくようにして尋ねる。
「ねえ、先生は、先生はどうしちゃったの? なんで、なんで私を拒絶するの?」
「……だから、接触禁止令を出したんです」
暗い表情で、ミネは検査の結果を語りだす。
「貴女を病室から出した後、身体検査を行いました。結果、数か所のやけどと傷、それから、右腕の粉砕骨折を確認しました」
「骨折……?」
その傷に、ミカは身に覚えが無かった。先生がロケット弾の攻撃を受けた時、ミカは右腕を握って先生を引っぱっていたため、そこが折れていないことなどはっきりと分かっていた。
「……身体検査後、先生の目が覚めたため、口頭での状態チェックも実施。その際、その骨折は、ミカさんが自分の腕を握りしめたため発生したものだと、説明しました」
「……え?」
「ミカさん、状況を聞く限り、貴女は先生を連れて走っている最中、体に全力を込める一瞬があったようですね?」
それを聞いた瞬間、ミカは目の前が真っ暗になる。対物ライフルを食らったその一瞬のことだと、察することが出来たからだ。
「……先生は、ロケット弾による攻撃の恐怖心と貴女のその力を自身の身体で受け、痛みで気絶。その結果、PTSDを発症しました」
そこまで言われ、ミカは全てを理解した。
「PTSDの発作トリガーは……私?」
「……残念ながら」
♦
その日から、ミカには先生への接触禁止令が言い渡された。けして、ミカに悪気があった訳ではないことを知っている一同は、ミカを責めようとはしなかった。
ミカは狂ったように奉仕作業を続けた。いつか、いつか先生のPTSDが治った時に謝罪するために、いい子にしていたと言えるように。
だが、奉仕作業の途中、どうしても時折先生の姿が目に入る。トリニティで仕事をする姿、他の生徒と仲睦まし気に話す姿。
ミカの心は少しずつ、だが着実に、壊れていった。
ある日、しばらく連絡が付かないことを不審に思ったナギサがミカの部屋を訪ねると、そこには、何度も自分の身体を鈍器で殴り、銃弾を撃ち込み続け、気絶しているミカの姿あった。
ナギサはすぐさま救護騎士団へとミカを連れて行った。懸命な治療の結果、ミカの一命はとりとめられたものの。目覚めたミカはただ「死ねなかった。まだ許されなかった」と呟いて以来、一言も話さなくなった。
ミカはそれ以降、ベッドの上から動くことも、表情さえ、動かすことは無かった。
だが時折、同じ言葉を呟いていることだけは確認されていた。
「先生、ごめんなさい」
病室からは今日も、その言葉だけが聞こえて来る。
《ミカEND:先生、ごめんなさい》
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1.第二次エデン条約編
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2.アビドス復興編
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3.ゲヘナ風紀員編