キヴォトスの生徒と先生がイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
ある日、トリニティの一角。いつもの喧騒。そして……。
「閃光弾、投擲!」
「うわぁ!」
まばゆいフラッシュと破裂音。スズミお手製のスタングレネードの音だ。
カフェでカズサとスイーツを楽しんでいた先生の耳にも、その音は届いていた。仕事に戻る前に様子を見ておこうと、カズサと別れた先生は、音のした方へと向かって行った。
先生が現場に付く頃には、既に電柱にぶら下がった不良たちが、頭にヘッドフォンを付けて並べられていた。
「スズミ」
先生が声をかけると、そんな不良たちの前で腕を組んで仁王立ちしていたスズミが振り返る。
「あ、先生。お疲れ様です」
先ほどまで浮かべていた表情は崩れ、柔らかい笑みが浮かぶ。
片手で遊んでいた閃光弾をしまい、銃にセーフティーをかけた後、スズミは先生へと近寄り、一礼。
「うん、スズミも、パトロールお疲れ」
軽く言葉を交わし、状況を確認した先生は、特に問題はないと判断した。
「それじゃあ、私はそろそろシャーレに戻るよ」
「でしたら、私が帰り道を護衛させていただきます」
意気揚々とスズミはそう名乗り出る。
「パトロールはいいの?」
「はい、丁度一帯見まわった後ですし、今日はもう切り上げようと思っていたところでしたので」
それを聞くと、先生は頷く。
「分かった、それならお願いしようかな」
「はい、お任せください!」
そうして、二人はシャーレへの帰途につく。
その間、スズミは先生へと、こんな問を投げかけた。
「先生、一つ、聞いてみてもいいでしょうか?」
「ん? なんだい?」
「その……どうすれば自分は女の子らしくなれるでしょうか?」
歩みを止めることなくそう問うスズミ。先生はノータイムで返答する。
「スズミは十分可愛い女の子だと思うけど?」
ボッとスズミの頭から蒸気が吹き出んばかりに紅潮したスズミは、あわあわと否定する。
「ま、またそんなこと言って。わ、私なんか、全然―――」
「え? 可愛いよ? そうやって慌ててる姿も、年相応に悩む姿も、自警団としてパトロールしている時も。しっかり者で、まじめなスズミは可愛いと思うけど?」
声にならない叫びを上げながら、スズミはプルプルと震えた。さらにそんなスズミに追い打ちをかけるように、先生は微笑む。
「可愛いって言われ慣れてないからか、そうやって照れちゃう姿もね」
スズミはげしげしと先生の背中を軽く小突き、抗議の意を示す。
「はは、少し意地悪しちゃったかな、ごめんね。それで、どうして急にそんなことを聞いたの?」
「……いえ、特に深い意味はないのですが、先ほどの不良たちに、もう少し女子らしくして見ろよ、と言われたもので」
「そっかぁ……」
少々落ち込んでいる様に見えた先生は、半歩後ろを歩いていたスズミと歩幅を合わせ、頭に手を乗せる。
「大丈夫だよ、そんな言葉気にしなくて。スズミはスズミがするべきだと思ったことをすればいいし、こんなにスズミは可愛いんだから。ちょっと生真面目な、立派な女の子だよ」
スズミは、優しく自身の頭を撫でる手の感触に浸り、小さく照れ笑いを浮かべる。
「そう……ですか。先生がそうおっしゃって下さるなら……ふふ」
「どうかした?」
「いえ……なんだか、こそばゆい感じがして。先生と話している時は、まるで、家族と話しているのと同様に力を抜くことが出来るので……なんだか不思議な感覚です」
スズミのその言葉に、先生は苦笑する。
「はは、スズミにとっては、私もお父さんぐらいになるのか……まだ若いんだけどなぁ」
スズミは少し考えた後、少し躊躇い気味に呟く。
「父親と言うより―――」
「ん? ごめん、なんて?」
ずいっと先生の顔がスズミの側へとよる。
「い、いえ! なんでもありません! さ、さあ、残りの道も気合を入れて護衛しますよ!」
スズミはブンブンと首を振って、先生の半歩前へと出る。
何を呟いたのかは気になるが、深く踏み入っても可哀想かと思った先生は、特にその後深堀はしなかった。
そうこうしているうちに、シャーレビルの入口へと到着する。
「到着、だね。スズミ、護衛ありがとうね」
「いえ、これも自警団任務の延長ですから」
胸を張って答えるスズミ。
「それでは、また護衛を頼みたい時など、困ったことがあれば連絡してくださいね、兄さん」
「え?」
「はっ!」
スズミは慌てて自身の口を塞ぐ。
「スズミ、今、兄さんって……」
「い、言ってません」
「いや、確かに―――」
「言ってません!」
先生は道中での会話を思い出した。『父親と言うより―――』その言葉に続く先は……。
「私のことをお兄さんみたいに感じてたんだ?」
「う~」
スズミは自身の不注意で飛び出した失言に頭を抱えるが、先生は反面嬉しそうにニコニコしている。
「ねえスズミ、もう一回、もう一回だけ言って?」
「い、嫌です! 恥ずかしい……」
「私、ずっと妹が欲しいって思ってたんだ! お願い、もう一回だけだから!」
スズミの照れる顔が見たいあまり、先生はそうスズミに迫る。困った顔を浮かべるスズミだが、本当に嫌がっている様子ではない。
「……に、兄さん」
視線を逸らし、頬を紅潮させ、膝をもじもじとこすり合わせながら、スズミはそう呟く。
「……可愛い」
あまりの破壊力に、思わず先生は本心からただそれだけ零れた。
「も、もう! 私は帰りますからね!」
スズミは逃げるようにしてその場を去って行った。
先生はそれ以降、閃光弾で怒られるまで、スズミに兄さんと呼んでもらおうと迫るのだった。だが、まんざらでもなかったスズミは、二人きりの時だけは、呼んでもいいかなと内心で思うのだった。
《スズミEND:兄さん》
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3.ゲヘナ風紀員編