キヴォトスの中心でわんわんおと叫んだケモノ   作:Aデュオ

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さくさくしりあるけものふうみ


1話:狼は来ませり アビドスの夜明け後

 

 

 

 ――――煙るような雨は嫌いだ。

 

 

 

 別に、雨そのものは嫌いではない。

 何なら土砂降りの中、持っている傘を畳んで、歌いながら踊ったってかまわない。

 通行人の目など気にもせず、派手な水しぶきをあげながら、水たまりの中でステップを踏んでもいい。

 畳んだ傘をくるりくるりと回しながら、雨の中を跳ね回るんだ。

 きっと楽しいと思って、一度やった事がある。

 

 

 

 ――――あぁ、楽しかった。

 

 

 

 道行く、思考回路が『頭ゲヘナ』と呼び称されるような輩にすら目を逸らされたが、楽しかった。

 まるで小さな子供のように、自分でも分かる程に無邪気に笑っていた。

 降りしきる雨の中、分厚い雲に覆われた空へ向かって手を掲げて、歌ったんだ。

 ただひたすら、自由に。

 

 

 

 ――――この纏わりつくような雨は、嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、中途半端なんだよ、降るならもっとしっかり降れ」

「言いたいことはそれだけ?」

「まぁ待て、そのごっついマシンガンはこのロマンの詰まった私の胸をつつく為にあるんじゃないでしょ?」

「私は面倒が嫌いなの。いいからさっさと服を着て」

「この防水バッグから出したら濡れるじゃないの」

 

 

 つれない。ほんとマジでつれない。

 ヒナちゃん仕事しすぎじゃん? その銃は私なんかよりもっと突きつけるべき相手がいるでしょうに。

 あっしはしがないゲヘナ一般生徒であって、別にむやみやたらと暴れてヒャッハーしてるわけでもないのにさ?

 

 

「濡れるからって服を脱ぎだすのは流石にどうかと思うわ」

「だって傘忘れたんだもん。そういう気分でもないのに、濡れた服なんていう着ていて気持ち悪いのが分かり切ってるものを、この世に生み出すべきじゃないと思うんだ」

「なら私の傘を貸してあげるから」

「ヒナちゃんの傘じゃ小さすぎるし、なんならレインコートでも私には小さすぎてポンチョになりかねんよ? 身長的にも体型的にも」

「…………」

 

 

 つつくな言うに。無言でびしすっと突きつけられた銃口のせいで私のお胸に丸い跡がつきそう。

 この距離から撃たれたら流石に避けられないし、痛いからヤダ。

 ゼロ距離マシンガン連射とかそんな暴挙が許されるのは小学生までだよ?

 言うてヒナちゃん小学生みたいな見た目してるけど。

 

 

「待って、ねぇ待って、私何も言ってないのに段々剣呑な目つきになってくのやめよ?」

「…………」

「引き金に指かけるのやめよ!?」

「なら貴女がするべき事は?」

「服を着ます」

「よろしい」

 

 

 昔は面倒くさがりなだけの可愛らしい子だったのに、今じゃあ面倒くさがりだけど強くておっかなくて可愛らしい子になってしまった。

 よよよー。お姉さん悲しいワー。同い年だけど。

 しょうがないね、身長差50cm以上あるもん。なんなら私のご立派な耳も含めれば実に70cm以上。

 ちょっとくらいお姉さんぶっても致し方あるまいよ、うむ。

 

 

「しゃーない、マコちゃんとこ行って万魔殿の雨天装備かっぱらってくるかぁ」

「程々にね」

「ゲヘナのトップにカチコミ宣言してんのに、止めないヒナちゃんのそういうトコ好きだわー」

「面倒だもの」

「そういうトコやぞっ!」

 

 

 愛しさが溢れてむぎゅむぎゅとハグしてヒナ吸いをしてしまうのは仕様だと思うんだ。

 口と態度の両方で「面倒だもの」なんて表現しながら、聞こえてくる「もう、仕方ないわね」の副音声。

 何せ現在進行形でむぎゅってるのに別に抵抗されないし。

 私の幼馴染可愛らしすぎんか? これはもうヒナちゃんしか勝たん。

 

 

「とりあえず行ってくる! 待っててー!!」

「は? いや、私はまだ仕事――」

 

 

 私のご立派ウルフイヤーでばっちり聞こえたけど聞こえませーん。

 何だったら雨天装備二つかっぱらってヒナぐるみにしてお持ち帰りするのもアリか? アリだね? アリって言え!!

 

 

「ひゃっほー!今夜はゆたんぽヒナちゃんで快眠じゃーい!!」

 

 

 お布団の中で抱きしめてるといい感じのあったかさとサイズ感、そしてもふもふヘアーの手触りで速攻オチるんだよね。

 ヒナちゃんはヒナちゃんで私に埋もれながらしっぽモフモフしてたりするし、それもまた心地いいから困る。

 もっと堪能したいんだけどねー? いやはやこの世界は無情だわ。

 ヒナちゃんの抱き枕性能はバケモノか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これがその翌朝のヒナちゃんってわけ。寝顔も良いけど、寝起きでぽやぽやしてんのもかぁいらしいんだよねぇ!」

「わ~☆ ほんとに可愛らしいですね~!」

「いや、これどう見ても盗撮……」

「セリカちゃん、世の中にはツッコんじゃいけない事っていうのもあるんだよ~?」

「でも風紀委員長さんってちょっと怖い印象があったんですけど、こうして見ると……その、随分と可愛らしい方なんですね?」

「ん、寝起きのホシノ先輩も負けてない」

「シロコちゃんはそこ張りあうとこじゃないよ~?」

 

 

 そうじゃろうそうじゃろう。ヒナちゃんは可愛いんだ。

 特に無防備な顔で寝てる時のヒナちゃんとか天使にしか見えない。中々ご立派な角生えてる天使ヒナちゃんエル。

 天使と言えばトリニティ? ヤツら基本、俗に言う“トリカス”ムーブするじゃない。ゲヘナはゲヘナで頭ゲヘナすぎるからとやかく言わないけどさ。

 いや、中には気の合う子、合いそうな子も結構いるよ?

 正実辺りは風紀委員のお手伝いで何回も会ってるから気心知れてて話しやすいし。

 最初は『なんやコイツ』みたいな視線飛んできてたけど、何回かスイーツ手土産にして遊びに行くついでに身代金目的だとかの頭ゲヘナ鎮圧手伝ったら軟化してったしね。

 大体アイツら、身代金とか成功した試しがほぼ無いようなもんに夢見すぎなんだよ。

 まぁハッスミーンやらツルべぇと仲良くなる礎となったのは褒めてやらんでもない。

 なにせハスミのでっかい翼は、私のしっぽとか耳とは違うしっとりつやつやもふもふ羽毛で手触り最高だし、グラマラスぼでーは抱き寄せると気持ちいいし。

 ハスミ本人も何か私の隣だと比較的小柄に見えるのも相まって、そっと近寄ってきて落ち着いてたりするのがまたかぁいらしい!

 ツルギ? あれただの照れ隠しの下手な乙女でしょ。照れ隠しの暴走と乙女が合わさり最強に見える……気もしたけど最強はやっぱりヒナちゃんだわ。スマン、許せツルギ。

 

 

「私にも見せて欲しいんだけど……」

「イオリちゃんの足をペロペロしちゃったセンセには見せられないんだなぁ、これが」

「えっ……先生、そんな事したの……!?」

「いやセリカ、違うんだよ!? あいや、違わないけど違うの!!」

 

 

 まぁアレは俗に言うツンデレ気質なイオリちゃんのツン部分が悪さした結果、想定外の化学反応が起こった結果ではあるんだけど。

 でもセンセ? いくら同性とは言え、出会って数分も経ってない相手の足を舐めるのは流石にどうかと思うわ。

 しかもブーツと靴下を脱がす手際が異様に良すぎて抵抗する間すら与えなかったし。

 ついでに舐める仕草が色っぽすぎてイオリが若干フリーズしたのもヤベェ。この先生……デキるッ!!

 ……そんな魔の手がヒナちゃんに襲い掛かる可能性を鑑みたら、全世界ヒナちゃん幼馴染選手権18連覇のあっしとしては、ねぇ?

 

 

「熟考を重ねた結果、シャーレの先生殿と言えど、やはりお見せする事はできかねます」

「あれ? 何かいきなり距離置かれた?」

「いや、言ってて思ったけど、先生ならヒナちゃんを言いくるめてペロリそうな気がしたから」

「しないよ!?」

「ちなみにヒナちゃんはペロるよりも吸う方がキクんだなぁコレが」

「ほう……詳しく!」

「――――マヌケは見つかったようだね、せぇんせぇ?」

「待って、これは罠だよ!?」

「あっはっはー! お仕置きじゃーい!」

 

 

 ぬるりと先生の後ろを取って、首筋をがぶっとな。

 力加減はまかせろぃ、ヒナちゃんで慣れて――――

 

 

「あんっ……!」

 

 

 いやヒナちゃんこんな艶っぽい声あげんわ。

 今のとか最早アレやん。嬌声やん。

 思わず出ちゃった、みたいな感じで口元抑えて真っ赤になってるのはそそるものがあるけどさ?

 

 

「…………なんかごめんね、センセ」

「いや、ちが、これはその」

「公衆の面前で性癖開示なんて、ツワモノが自分でやるべき事であって、強制されたら一般人にはツラいよね……」

「あー!? やっぱりそっち方面に持っていくぅ!」

「センセの相手は……私がスるから……。ヒナちゃんには……ヒナちゃんにだけは手を出さないで……ッ!!」

「もはや風評被害!」

「うひ~先生も中々やるね~? でも気を付けないとその人相手だと冗談抜きに食べられちゃうかも?」

「へ?」

「シロコちゃんで知ってるけど、狼の子ってスキンシップにさっきの甘噛みみたいに直接的なのもあるから」

「ん、甘噛みはいい文化。皆ももっとすべき」

「ほーん? ――――シロコちゃんおいでおいでー! がぶー!」

「……がぶっ」

 

 

 …………私がちょっと屈んで、お互いの肩口を甘噛みしあってる妙な状況なんだけどさ?

 意外にもあっさりとノってくれたシロコちゃんへ、思わず口を離して目線を投げれば、あちらも驚いたとばかりの目線を返してきた。

 

 

 ――――――ん。

 

 ――――――ね。

 

 

「先生……先生の性癖から新たな驚愕の事実が発覚した」

「いやシロコ? 私の性癖って言わないで。……で、なんとなーく嫌な予感がするけど、何が?」

「私たちだと、この甘噛み、凄く、こう、しっくりくる」

「親愛が沸いてくるというか、滲み出てくるんだわ」

 

 

 これはヤバい。

 何がヤバいって、そもそも狼の因子持ちっていう同族系統の親近感抱いてたところにガソリンぶちまけてキャンプファイヤー始まったくらいに燃えてくるものがある。

 ヒナちゃんを愛でる時とはまた別ベクトルでクるわこれ。

 

 いや、純粋に甘噛みそのものが割と気持ちいいのもあるんだけど。

 感触的にもそうだけど、控え目すぎる表現でもクッソ美少女なシロコちゃんがハムってくるとかご褒美でしかないわ。

 ごっつぁんでごわす!

 

 

「いや私をダシにして二人で燃え上がり始めるのやめて?」

「これでゴールインしたら先生が二人の仲人やらなきゃね~」

「きゃ~☆」

「ホシノもノノミもやめよ? これ、私は責任取れないよ!?」

 

 

 でもそんなガチモン美少女のシロコちゃんではあるんだけど、私には心に決めたヒナちゃんが……ッ!!

 声も可愛ければ性格も良くてノリも良くて、おまけに同族のシンパシーまで盛られた素晴らしい子ではある。間違いない。

 でもっ……それでもっ……!!

 

 

「式には呼ぶ」

「先生、ご挨拶は私たちのなれそめと先生の被虐癖の暴露でヨロシク」

「何だったらお礼にその場で甘噛みしてもいい」

「飛ばしすぎなんだよねぇ!?」

 

 

 ネタを振られたらついノっちゃう。悔しいっ! でも楽しいからオッケーです。

 先生も先生で、そこはかとなくマジになりながらツっこむ割には、結構面白がってる雰囲気出しはじめたし。

 

 

 

 

 

「そもそも君たちは女の子同士だし急に仲良くなりすぎだしお礼に甘噛みとかもうちょっと自分の体を大事にしなさいよねそれにまだ高校生なんだから式とか早いと思うし何より若い子が性癖とか被虐癖とか白昼堂々と口にするものじゃありませんっ!!」

 

 

 

 

 

 ――――Oh!

 ノンブレスで言い切りおったわ。てかよう言えたな今の。

 流石先生、口が上手くなければ務まらない職だとは分かっていたけど、これ程のものとは!

 

 ……いや、別に今のをノンブレスで言い切る能力はいらんな。

 あんなクソ長セリフを噛まずに聞き取りやすい声色で言い切ったのは素直に凄いと感嘆が沸いたけど、どう考えても才能の無駄遣いだわ。

 黙ってりゃハスミちゃんばりの烏の濡れ羽色ロングヘアーが似合う美女なのに、喋ると割と残念なのは……いや逆にアリか。

 恐ろしいな、シャーレの先生とやらの性能は。新たな性癖がこうも容易く!

 

 

「フーッ……フーッ……!」

「ん、先生の熱い思いは受け取った」

「何か先生がちゃんと先生らしい事を言ったなって一瞬思ったけど、勢いのせいで台無しだわ」

「だからセリカちゃん、そこにツッコミ入れちゃだめだって~」

「大丈夫ですっ! 先生の熱い思いはちゃんと伝わってますよ☆」

「伝わってる……んですかね、これ……」

「きっと伝わってるさ…………少なくともあっしの心には響いたよ。――――なに無駄な高速詠唱し始めてんだコイツ、ってな……」

「それ響いてないじゃん!?」

 

 

 6対1で勝てるとお思いか。戦いは数だよ先生!

 戦闘能力じゃなくて口撃能力ならこうもなるわ。

 銃撃ってヒャッハーする方だと割と簡単にひっくり返せるけど。

 

 私が良くやる『当たらなければどうという事はない。別に当たってもどうとでもなるけど』でもいいし?

 ヒナちゃんじみた『何だァ……今のは……? こそこそ狙撃なんぞしてんじゃぬェい!!』って圧倒的神秘フィジカルムーブでもいい。

 なんだったら『腹ァブチ抜かれたって何の事もありぁあせん。すぐに治るからのォ』の極致みたいな突撃!ツルギ☆スタァイルでもかまわん。

 

 キルレシオ(殺してはない)が50を超えてからがスタートラインぜよ! 携行弾数的な意味で。

 ワンショットワンキルゥ!な戦い方じゃないしなぁ、私とヒナちゃんは。

 ツルギ? ヤツは知らん。何ならゼロ距離ショットガン乱舞してたりするからな、ヤツは。何それコワ……!

 まぁ携行弾数を超えたら超えたで徒手空拳に移行するだけだし、何ならスタートラインに立つ前から移行してたりもするガバガバ具合だけども。

 

 

「まぁまぁ。詳しい話は皆でぱじゃまぱーちーでもしながら語り明かそうじゃないか、先生?」

「パジャマなんて持ってきてないよ……」

「私の貸したげるから大丈夫! ちょっと袖と裾を折れば行けるっしょー」

「……ちょっと、折れば?」

「身長イチキュッパ、ロマンの詰まったスタイルを包んでるパジャマだよ? 入らない心配だけはしなくても……いいと思うよ、うん」

「貴様今どこを見て言った?」

 

 

 チチハラシリ。いや、言えねェよなぁ、こんなん。知ってる限りでの生徒最高身長記録は伊達じゃない。

 縦にこんだけデカくて燃費のいいこの便利な体は正直恵まれてると思う。

 そんな私だからこそ……いや、流石の私にだって武士の情けに理解はある。

 先生が即座に腕で隠した部分がいろんな意味でデリケートな問題に直結するという事も理解しているともさ。

 安心めされよ、先生。

 その道は既にハッスミーン問題で通った道だ。まぁ言うてハスミは太ってるわけじゃなくて、ただ単純に『いろいろとでっかい』だけだから気にする必要はないと思うけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、何だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっし別に武士じゃないもの。

 ならさ? 言うしかないじゃんね?

 そう、今こそ、声高らかに!!

 

 

「あえて言おう、腹であると!!」

「貴様ァ!!!」

 

 

 見るからに運動の苦手そうな先生のよわっちい拳が私に効くとでも?

 涙目になりながらぽっこんぽっこん叩いてくるけど、悲しくなるくらいに非力だ。

 可哀そうだねぇ、可愛いねぇ?

 

 

「ん、先生、別に太ってない。絶妙な揉み心地のお腹だと思う」

「ひゃ、ちょっとシロコ!? シロコさん!?」

「やぁんシロコちゃんセクハラー! つぎ私ね!」

「なら折角だしおじさんも~」

「私も~☆」

「え? え!?」

「……私も!」

 

 

 お、今度はセリカちゃんもノったか。アヤネちゃんは惜しい! あと一歩踏み出そうぜ!

 

 

「んじゃあ各自用意の上で再集合って事でヨロシ?」

『ヨロシ~!』

「よろしくは無いよ!?」

 

 

 

 

 





しゅじんこーちゃん(いち)

しんちょー:いちきゅっぱ
たいじゅー:たっぱがあるからそりゃおもい
すりーさいず:ろまん
いろみ:はいいろ




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