『101番目の哿物語』   作:トナカイさん

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第七話。俺の背後に立つな、って某殺し屋が言うのも防衛反応の一種。人には不可侵領域ってあるんです。

2010年7月10日23時00分 白ヶ咲ホテル 801ROOM

 

 

氷澄やラインとの特訓を終えた俺は、自分の部屋でくつろいでいた。今日一日中動きっぱなしだったせいか、足がぱんぱんになり動けないでいた。前世……武偵高時代は今よりもっとハードな動きを……ヒスっていれば一日中出来ていたが、今のこの体ではラインに合わせ、軽く音速を超えた体の動きをしただけで疲れてしまう。といっても、普通の人間が行う動きを超越した動きが軽くできるくらいに、人間離れしているが。

 

「なんかどんどん人間離れしてきてる気がするな。……理子が言ってた人間離れ人間になりかかってるぞ……」

 

……いかん。いかんぞ。金次。このままでは人間辞めた人間コース一直線だ。

百物語を完成させて、今度こそ俺は普通の人間になるんだ。そして、前世では馴染めなかった普通の生活を送るんだ!

そう思っているのに……そんな決意をすればするだけ、どんどん俺は人間離れし始めている。アリアと出会ってから感じていた事だが、俺が行動すればする程、俺の意思とは間逆に平穏な生活から遠ざかっていく。

……そういえば、ロアの能力を使えば拳銃生み出せちゃうんだよなぁ……。

そんな現実に直面し、手元に拳銃があれば高確率で拳銃自殺をしたい衝動に駆られながらベッドから降りる。

俺が宿泊しているこの部屋はわりと高級感が漂うそれなりに良い4人部屋で、俺と氷澄とアランは同室なのだが、アラン曰くこの部屋の番号にはちょっとした悪意があるようだ。なんだよ、801(ヤオイ)号室って⁉︎ 801号室なんてどこにでもあるだろ?

それなのに、この部屋番号を伝えられた時のアランの引き顔と一之江の「三人で仲良く、バラバラしててください」と言う言葉が気になる。女だらけの部屋で過ごすより、俺は普通に男だらけのこの部屋がいい。そう伝えたら、「さすがはモンジです……」とか言われた。意味がわからん。

部屋に入って復活したアランの奴は、気分転換に有料サービスをTV視聴する為のカードとやらを買いに行くと言って部屋を出ていった。映画の有料レンタルサービスでもやってるんかな? カードがないと見れない番組というのが気になるが……俺も後で買いにに行こうかな。氷澄はラインと何処かに出掛けたまま戻って来ない。特訓の続きでもしてるのだろうか?

 

「特訓、かぁ……」

 

氷澄との特訓の後、あいつらは涼しい顔をしていた。俺だけが汗だくになっているという現実を見せられ、焦りを感じてしまう。自分でも何でこんなに気持ちが焦るのかはよくわかっていない。前世ではもっと動けていたから? 武偵として、凶悪犯や人外達と死闘を繰り広げていたから?

……違うな。

がむしゃらに体を動かしたくなるほど、俺はショックなのかもしれない。

詩穂先輩がロアである可能性。それも、俺を殺すかもしれない『ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』を封印しているロアという可能性があることに。

一之江はあの時、言った。

 

「『2000年問題(ロスト・ミレニリズム)』……か」

 

考えるだけで、ゾクッとする。

親しい人が俺を殺すかもしれないという可能性に……。

武偵高時代では『死ね』『殺す』は挨拶だったが……学校では実際に『死』の恐怖を向けられることなんか、ほとんどなかった。それこそ、任務中で『標的』と対峙しない限り。『死』は他人事というか、軽かったんだよな……あの学校では。

それが、今は『予言』として、『死の運命』を告げられている。

ロアという『非現実』的なモノが普通にいる世界だからか、死が『現実』として受け入れやすいのだ。

先輩が、俺を……? どうして? どんな理由で? どんな能力で?

 

「『2000年問題(ロスト・ミレニリズム)』……」

 

その都市伝説が流行り出した頃、俺はまだ小学生になったばかりだったな。

もう、10年くらい前になるが、テレビや金融機関が大騒ぎしていたのを子供の頃、なんとなく覚えている。

父さんが死んで、数年経っていて俺も兄さんもまだまだ子供で、爺ちゃんの家で暮らしていて、爺ちゃんや婆ちゃんとテレビのある居間で、他人事のようにニュースを眺めていたな。

遠山家にはコンピューターなんて、ハイカラなものは当時なかったし、携帯電話もあの頃はまだ持ってなかった。じゃあ、なんで知ってるかというとニュースや特番で『全てのコンピュータが対応に追われていて大損害だ』とかやっていたからだ。

つまり、マスコミすらも広めた噂……それが『2000年問題』。

先輩がそのロアだと確定したわけじゃない。本当に先輩がロアやハーフロアなんて、はっきり断言なんかできない。かと言って、確認することも…それが今の俺には出来なかった。

 

「返事、保留中だからな」

 

告白の返事が保留中である以上、別件で話しかけるという行為も躊躇れた。

普通に話しかけたらいいとは思うが、女子と二人で何を話せばいいのか皆目見当もつかん。病気(ヒス)持ちの身としては女子と二人だけで話したくもない。なら、他の奴に頼めばいいやと思い。

真っ先に女子に話しかける奴として思い浮かんだ見た目だけなら二枚目な、アランの奴なら話しかけれると思ったのだが……『僕は女子と二人きりだけで話をする勇気はない』と言ってトイレに駆け込んでしまったから……それ以来、他人に頼むという選択肢も捨てた。

一之江やキリカにそれとなく探ってもらうことも考えたが、そうすると告白の事も洗いざらい白状しなくてはいけない流れになる気がして……なんとなく頼みにくい。

告白の事がなくとも、『先輩って、ロアですか?』なんて聞けるわけねぇ!

そもそも、現状、先輩がロアであろうが、なかろうが実害もないから動きようがない。

最も、一之江の言うように先輩が『ノストラダムスの大予言』を封印している『2000年問題』のロアという可能性がある以上、楽観はできないのだが……俺は、武偵憲章にある『悲観論で備え、楽観論で行動せよ』という教えに従うことにする。

つまりは『最悪な事態を想定しながら普段通りに過ごす』ということ。

『ノストラダムスの大予言』については、今のところ特に問題がない以上あんまり刺激したくはないし、そもそも、『2000年問題』としても、とっくに解決してる問題なのではないか、ってことだ。

とっくに2000年は過ぎていて、今は2010年だ。

『2000年』問題のロアならとっくに、そのロアとしての役割は終わってるはずだ。

それとも、『ノストラダムス』のロアを封印してるから、『〜年』とかは関係ない、とかあるのだろうか?

うーむ……わからん。

……って、そういえばいるじゃん。そういう噂話に詳しい専門家がすぐ近くに!

一之江やキリカ以上にこの手の噂話に詳しい人が……。

____『千の夜話(アルフ・ライラ)』という、都市伝説を終わらせる『対抗神話』を使いこなすロア。

終わらない(エンドレス・)千夜一夜(シェラザード)』という『最強』の主人公が。

こんな俺を『好きだ』と言ってくれた可愛い従姉妹であり、妹のような存在の女の子、須藤理亜。

俺はズボンのポケットから携帯を取り出すと、それを操作し、アドレス帳に登録してある理亜の番号を押そうと思い……思いとどまる。

理亜に聞くのは簡単だ。理亜の事だから、きっと俺の為に一生懸命調べてくれるだろう。

だが、当の『2000年問題』は、『最強の主人公』である理亜が怖がった『ノストラダムスの大予言』を封印していると言われているロアだ。その話をすることで余計な心配を理亜にかけることになるんじゃないのか?

なにより……。

 

「それが、先輩かもしれない、って話すのもな……」

 

確証もないのに、推測だけで話していい内容じゃないよなぁ。

 

「となるとやっぱ直接本人に聞くしかないか」

 

告白の返事を貰っていないのに、別件で本人と対面しないといけないこの間の悪さ……さすがは、運の悪さに定評のある2年の遠山。ああ、不幸だ……。今は一文字だけど。

俺は思わず、ベッドの枕に頭を突っ込んだ。

女子と二人っきりで話すのはもの凄く嫌なのだが、仕方ない。覚悟を決めろ、金次!

そんな覚悟をした、その時だった。

 

 

……ピンポーン♪

 

部屋のチャイムが鳴った。

このタイミングで鳴るチャイム……?

……なぜだろう、経験上ろくなことにならない気がする。が、出ないとさらにろくなことにならない気がする。つまり、詰んでる。

俺は探偵科(インケスタ)で習ったなるべく音を立てない歩き方で、ドアの前まで移動し、ドアスコープから外を覗く。

小さな穴から見えたのは……?

 

「り、理亜か?」

 

「はい、そうですよ。兄さん、少しお話しよろしいですか?」

 

話し? こんな時間に一体なんの用だ?

それに女の子が一人で男が宿泊している部屋なんかに来るものなんだろうか。いや、でも、理亜は妹みたいなものだし。妹なら夜でも兄の部屋に来るのは普通のことなのかもしれない。金女(かなめ)の奴もよく、俺の部屋に不法侵入して来るし。

 

「お、おう」

 

とはいえ、ちょっと緊張するのは仕方ないことだと思う。最もかなめとは違い、理亜は俺が寝てるベッドに潜り込んで来たり、脱衣所に突撃して来たりしないし、包丁をブンブン振り回したりしないはずだし。……しないよな? しないといいなー……。

 

「明日の予定についてなんですが……」

 

あ、なんだ。明日の予定を確認しに来ただけか。そうか……そうだよな。理亜はかなめとは違って良識ある可愛い妹だもんな。俺の部屋を物色したり、下着漁ったりとかするはずないもんな。疑って悪かった。

 

「……なんだか、大変失礼な事を兄さんが考えてる気がします」

 

そして、とっても鋭い妹だ。

あと……この癖(・・・)、もう辞めにしないか?

理亜は当たり前のように、ドアを開けずに(・・・・・・・)会話しようとしてきた。昔からの癖だ。恥ずかしやなのかもしれないが、このまま会話続けるのは変だろう。

俺はドアを開けた。

 

「あっ!」

 

開けたドアの先に立っていた理亜が、自身が着ているパジャマ姿を庇うように、両手をクロスさせるようにしながら、後ずさる。その姿に思わずドキッとしてしまう。

 

「どうかしたか?」

 

「あ、いえ……パジャマ姿が恥ずかしい、ので……」

 

理亜が着ている薄いピンク色のそのパジャマは彼女にとても似合っていた。そんな理亜の髪からはふわっ、と甘いシャンプーの香りが漂り、鼻をつく。湯上がりで、パジャマ姿の妹のようなとても可愛い女の子。肌もツルツルしているように見えるのは、夕食時に音央に誘われていた『エステ』とやらの効果かな? とても綺麗だよ理亜。

 

「これは部屋に入れたらドキドキしっぱなしになって、大変だね。でも、俺は嬉しいよ。こんな可愛い妹と一夜を共に過ごせるのなら」

 

「え? 兄……さん?」

 

「おっと、声に出していたみたいだね。あまりに理亜が可愛い過ぎて見惚れていたせいか気づかなかったよ?」

 

ああ、だめだ。止まらない。止められない。なっていく。なってしまった。ヒステリアモードに……。

 

「ふぇぇ⁉︎ か、可愛い……」

 

「ああ、とても可愛いよ。まるで物語に出てくるお姫様みたいだ」

 

「はふぅ」

 

俺の言葉に、理亜は顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。

ちょっとやり過ぎたかな? だけど、仕方ないと思うな。本当に可愛いから。

 

「ははっ、あんまり見ないようにするから、お部屋にどうぞお姫様」

 

ウィンクしたら、さらに顔を赤くしてしまった。

……少し心配だな。将来、悪い男に騙されないか、兄として心配になってしまうよ、理亜。

 

「……氷澄さんは?」

 

「ラインと深夜デートにでもしてるんだろうね」

 

「え、あ……そうなのですね……あぅ……お邪魔します……。あ、広いですね。兄さんの部屋は四人部屋なんですね」

 

「ああ、男三人だけなのに部屋が広すぎて落ち着かないんだ」

 

「三人? ああ、なるほど……キンゾーさんもこのお部屋なんですね。兄さんはそうかもしれませんね」

 

その説明で納得するのかー。あと、キンゾじゃなくて、アランの奴と同じ部屋なんだが……うん、アランよ、おまえの死は無駄にしないぞ。

などとアホな事を考えていると、理亜は部屋に入ってから、困ったように辺りを見渡すと真っ赤な顔をしたまま、ベッドに腰掛けた。

 

「え、ええと……」

 

恥ずかしそうに右手の人差し指をちょっと曲げて唇に当てているが、そんな可愛い姿をしたら……ああ、ほら。血流がより強くなってしまった。

 

「とても綺麗だよ理亜」

 

「ふぇ⁉︎」

 

うん、少し自重しないとな。

 

▼たたかう→理性

 

「そんなに緊張するなって。リサ達と一緒にいつも俺の部屋を片付けてくれてるんだろ? 男の部屋なんて慣れてるんじゃないのか?」

 

「兄さんがいない時に、です」

 

俺から目線を逸らすように顔を伏せるようにして、目を合わせようともしない。

……やり過ぎたかな?

 

「あ……すみません、寝ていたんですか?」

 

俺が先ほどまで寝ていたベッドに触れながら、おずおずと尋ねてきた。

そして、何故か俺が使っている枕を手に取り、両手で抱きしめ顔を近づける。

 

「ふふっ、兄さんの匂いがします」

 

「あー、ゴロゴロしてたからな」

 

「なるほど。何か悩んでいたのですね?」

 

真っ直ぐな視線を俺に向けてきた。

 

「……俺って、そんなにわかりやすいのかな?」

 

「ふふっ、兄さんは昔からそうですから。何か悩んだり困ったりしたら、ベッドの上でゴロゴロするんです。高校に進路を決める時もそうでした」

 

昔を懐かしむようなそんな視線を俺に向けてくる理亜。

俺の記憶にも確かにその記憶はあるが……すまん。お前がその眼差しを向けるべき相手は今の俺ではなく、本来の一文字疾風に向けてやるべきものだ。同化した今となっては、俺は俺で。俺は彼奴で。彼奴は俺なんだけど……ああ、もう、ややこしいなー。

 

「誰にでもそういう自分だけのスタイルがあるそうですよ」

 

「なるほどなぁ。理亜にもそういうスタイルがあったりするのか?」

 

「あ……多分あるのかも。自分では気づいていないスタイルがあるのかもしれません」

 

そう言って、理亜がようやく、くす、と微笑んだ。理亜が微笑んだだけで、俺は安心してしまう。

 

「すみません、兄さん。やっぱりちょっと緊張していたようです」

 

「いいって、俺もだよ」

 

俺の場合、ヒステリアモード(今の)俺が余計な事を言わないか、という心労もあるっちゃあるんだが……。

それを悟られないようにしながら、理亜と二人して笑いあった。

 

「なので、良ければ兄さんも一緒にベッドに座ってください。一緒に座った状態なら、そんなに緊張しないと思いますから」

 

「そんなもんなのか?」

 

「少なくとも、真正面に立たれるよりかは」

 

ああ、そういや昔、探偵科(インケスタ)で習った心理学の授業であったな。

確か……『パーソナルスペース』だっけ?

他人の前や背後に立ったり、逆に立たれると、急に話しかけ難くなる心理的な縄張りみたいなものが人にはあって、特に女性は男性に真正面に立たれると、『恐怖』や『不安』が増してしまうとかなんとか。

いけないな。可愛い妹に威圧感を与えるのは。

理亜に言われた通りにベッドに腰掛ける。すると、理亜は身体を俺の方に傾けて静かに微笑んだ。その可憐な笑みを見ていると……いかん。また血流が強まってしまった。

 

「本当に可愛いな理亜は」

 

「あ、う、その……ありがとうございます?」

 

顔を赤くして俯いた姿も可愛いなぁ。

 

「それで明日の予定だっけ?」

 

「あっはい。スキューバダイビングをする場合、色々準備が必要らしいので。身長と体重と足のサイズを知りたいみたいです。スキューバダイビングをするのに使うダイビングスーツやフィンのサイズの確認ですね。その為に事前に申告しないといけないみたいです」

 

「あーなるほどね」

 

「女性陣はもう申告しましたから」

 

ダイビングスーツってあの身体に密着したスーツだよなー。

女性の場合、身長や体重以外も色々申告しないといけないんじゃないかなー?

何処とは言わないけど。

 

「兄さんには絶対に教えませんよ?」

 

「それは残念だね。俺は理亜の事なら全部知りたいんだけど……うん、好奇心猫を殺す、って言葉もあるしね。それは後々の楽しみにとっておくさ」

 

「の、後々の……って一体私に何をする気ですか!」

 

「さあてね? 理亜は俺に何をされたいんだい? 言ってごらん、理亜? さあ……理亜」

 

これはかつて、水上バイク上でアリアに使った事がある、『啄木(きつづき)』。

言いづらい事が回答になっている質問を用意するもの__。

 

「……それはその、えっと……に、兄さんが考えてください。兄さんが望むなら私は、何でも……」

 

俺の術中に嵌り、力なくモジモジする理亜の手をそっとぎゅっと握り、そして、理亜の顔に身体を傾けて頬にチュッと、軽くキスをしてやる。

ははっ、恥ずかしがる理亜はとても可愛いね。今のキスで有耶無耶に出来たみたいだね。

だけど、からかい過ぎたかな?

 

「ちょっと待ってくれるかな?」




大分、間隔空いたなー、そろそろ更新しないと忘れられそうだなー……そんな気になって書きました。
色々、伏線やら原作だとあまり活躍していないあのキャラをどうするかで悩んだりしましたが、原作通りにやる必要はないな、ってことで今後、あのキャラには色々頑張ってもらいます。

ヒス金の口調、難しい。
女を口説く台詞、女の子がときめく台詞や展開やらが出てこない。
女たらしと呼ばれるようになるには、大分かかりそうです。頑張れ俺!
あ、いや、目指してないけど……
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