『101番目の哿物語』   作:トナカイさん

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ちょっと短めですが、区切りがいいので更新します。


第十三話。一之江の秘密

「それじゃ、撮りますよ」

 

「ああ、向こうに着いたら電話するよ」

 

日没の時間になり、俺と一之江は一緒に『境山ワンダーパーク』のゲート前に来ていた。

『神隠し』事件の顛末を確認する為に、『人喰い村』に通じるゲートが開くかどうかを確認する。

 

「行くぞ」

 

右手側にある機械にチケットを投入し、ゲートが開くのを待つ。

カション、という音と共に目の前のゲートが開く。

 

「……変わらないな」

 

ゲートは開いたが、景色はまるで変化なく、不思議なワープ空間も発生しない。

念のため、5回ほど同じ動作を繰り返してみたが、この間のような村の姿が目の前に映るといった現象もない。これは解決したと判断していいのだろうか?

そう疑問に思った俺は隣の一之江に話しかけた。

 

「解決したって事か?」

 

「あの村そのものは、まだどこかに残っているでしょうね」

 

「そういうものなんだな」

 

「日本各地の、様々な場所から繋がっていると言ってましたから。

まあ、少なくてもこの『境山ワンダーパーク』で発生する『神隠し』は解決したとみて問題ありません」

 

一之江のその言葉に俺はほっとしたような、『止められない』事が悔しいようななんとも言えない複雑な気分になった。

俺達が無事に帰ってきた事により、詩穂先輩から頼まれた『境山ワンダーパーク』で起きる『神隠し』は確かに解決したのかもしれない。

だが、果たして素直に喜んでいいのだろうか?

今でも、日本の何処かで誰かがあの村に行き、そして、彼女(詞乃ちゃん)に殺されて……死んだ村人としてあの村で永遠に過ごし続けるのかもしれない。

そう考えると、焦りのようなものが胸に湧いた。

 

「なんとか出来ないのか?」

 

「残念ながら、それを考えるのは私ではなく『主人公』の役目です」

 

一之江のその言葉に……。

______そういう事か、と納得する。

 

一之江はあくまで『悪いロア』を退治するが、それは自分の噂を強める為で、いわば、生きていく為に狩りをしているのと同じ行動だ。

物語を解決していくのは『主人公』の役目で、特権だと言っているんだ。

なんとなくだが、自分が何をしていけばいいのか解ってきた。

 

「あの子……詞乃ちゃんはちょっと怖い奴だったけどさ。キリカみたいに説得する事も出来るんだよな?」

 

「オバケ萌えですか?」

 

「そういうわけではないんだが、出来るなら平和的解決が望ましいだろ?」

 

まあ、キリカの時が平和だったかと言われればそうでもないんだがな。

 

「私の率直な感想を述べますと、出来ないでしょう」

 

「……だよなぁ、やっぱり」

 

「『魔女』というのは、人間の心を持っていますからね。お話によっては普通に人々の味方をしたりしています。ですが、詞乃さんは『人喰い村』そのものですから。

『村』が人間の心を持っていたりする、という話は聞きません」

 

一之江の説明でやっぱりなぁ、と思ってしまう。

人の姿をしているからといって、人の心を持っているとは限らないらしい。

 

「もっとも貴方の話によると、そんな『村』に名前を付けた者がいるようでしたけど」

 

「……『神隠し』か」

 

「名前を付けられれば、そこに『人格』が生まれます。貴方お得意のナンパ……トークが出来るかもしれませんので、まあ説得の可能性は……」

 

「ありそうか?」

 

「やっぱりないでしょうね」

 

「だよなぁ」

 

はぁー、と溜息を吐いてからガックリと肩を落とした。

一之江の言い方から察するに、「試してみてもいいけど、責任はもちませんよ」という事だな。

 

「そういえば、一之江も信じているのか?」

 

「はい? 自分の美しさをですか?」

 

「それはわざわざ聞かなくてもお前なら信じてるだろう。

そうじゃなくて。ほら、詞乃ちゃんの名前が、『神隠し』に付けられたっていう話だ。

あれは詞乃ちゃんが俺達を惑わせる為についたハッタリ(ブラフ)だったっていう可能性は?」

 

「無いでしょうね。強いロアほど嘘をつけば自分の存在が危うくなりますから」

 

「ん? そうなのか?

そういや、そんな話も前にチラッと言ってたなぁ」

 

「適当な噂が流れれば、信憑性が薄くなっていくでしょう?」

 

「ああ……確かに」

 

一つの噂に余計な尾ひれが付き過ぎると、その噂はつまらないものになって人々の口から語られなくなるな。

 

「それが『嘘』ともなれば、自分の存在を変革してしまうかもしれませんしね」

 

「あくまで噂がベースな存在だけに、嘘をついたら存在そのものが危ういって事か」

 

「我々『ハーフロア』だと人間的な意識があるので、調整が効きますけど」

 

「噂から生まれた『ロア』は、自分のついた嘘に流されるかもしれないんだな」

 

だから嘘はつけない。強ければ強いほど。

 

______キリカもそうなんだろうか、なんてぼんやり思う。

あいつも、隠し事はあってもあんまり嘘はついてない気がするしな。

 

それにしても、俺はまだまだ無力だな。

今回も一之江の能力があったからなんとかなったが、本当にこの調子で残り九十八話?九十七話かな?

『百物語』を無事に完成させる事が出来るのだろうか?

 

「おや、珍しいですね、しょんぼりした顔をして」

 

「いや、せっかく一之江とテーマパークに来たのに、遊ばないで調査だけして帰るってのももったいないなー、なんて思っただけだ」

 

バレてないよなぁ?

内心の焦りや自身に対して感じた憤りを隠しながら軽口を叩いて誤魔化したが、一之江は俺の心を読むからなぁ。

 

「……なるほど」

 

一之江は納得したようにワンダーパークの中を見て。

 

「今度は一緒にキリカさんも連れてくればいいじゃないですか」

 

口元に笑みを浮かべて、振り向いた。

 

「お?」

 

「なんですか?」

 

「ああ、いや。うん」

 

コイツがキリカと一緒に、なんて言ってくるのは珍しい。

基本一之江はキリカの事も警戒しているので、コイツの口から自然と出たその言葉を聞けてなんだか嬉しく思ってしまった。

ロアをどうこうするだけではない、普通の友達みたいな認識。

そういうのが、一之江の中にも芽生えているのかもしれないな。

 

「そのニヤけヅラを見ていると、また気絶するくらい突き刺したくなります」

 

「落ち着け!冗談だ」

 

「よろしい」

 

あの時の苦しみを思い出し、ドッと冷や汗が流れた。

そんな俺を他所に、ぷいっ、と振り向いて、ゲートから出てくる一之江。

 

その仕草はわかりにくかったが、今のは……もしかして。

 

俺の不安を見抜いた一之江なりの優しさだったりするのだろうか。

普段が冷たい態度のせいで忘れそうになるが、何気に一之江は面倒見がいい。

自分の身よりも俺や音央、他人の身を案じてくれる優しさを持っていたりする節もある。

わかりにくいが彼女はいい奴なんだ。

 

……いい奴なだけに、少し不安に思っている事もある。

 

「なあ、一之江」

 

「なんですか?」

 

「一之江ってこう……」

 

喉から出かかっているその言葉を続けたいが、聞いていい事なのか躊躇ってしまう。

あの村の中で村人を大量に『殺して』確かめた、と一之江は言っていた。

つまり、一之江はそういう時に躊躇いを持たないんだ。

あの時、タッくんやミーちゃん、あるいは村人を相手にした俺はかなり躊躇ってしまった。

最後まで本気で『殺す覚悟』が持てなかったからだ。

俺が甘すぎるっていうのは解っている。

だけど、一之江は……?

 

「一般人でも殺すのか、という問いですか?」

 

俺が言いづらい事を平気で察してくれた一之江は、言いにくい問いに対してズバッと口にしてくれた。

 

「あ……まあ、そうなんだが」

 

「殺しますよ。そうしなければ私が消えてしまいますから」

 

「……そうか。そうだよな」

 

胸の中にモヤモヤした感覚が広がっていく。目の前の少女がまた遠くなったような、そんな悔しさが俺の中でむくむくと起き上がっていき……。

 

 

「……よし‼︎」

 

「ん?」

 

「決めた!」

 

「……何をですか?」

 

俺は心の中で感じた想いを一之江に語り出す。

 

「俺はもっと強くなってだな……」

 

「……はい」

 

「誰にも負けないくらいの強い『主人公』になって」

 

「なって?」

 

「一之江が……」

 

「『誰も殺さなくても立派に生き続けられるような物語に物語を変えてみせる』とかですか?」

 

「ああ。悪いな、一之江。今の俺(・・・)にはこんな台詞しか思いつかないけど、一之江が堂々とお天道様の下を歩いていけるように、お前の物語を俺の物語(ロア)で変えてやるよ!」

 

もう、俺の台詞を取られるのには慣れた。

だったら、いっそ開き直ってやるよ!

一之江に合わせてブルーになるのではなくて、俺はコイツを含めた『俺の物語』として、堂々と胸を張ればいいんだ。そうすればいつか一之江も誰かを殺さなくても生きていける。

俺自身(・・・)がそういう『物語』になればいい。

そんな決意を新たに胸に抱く俺を一之江はまじまじと見つめていた。

 

「貴方は真性のバカなのですね」

 

まじまじと見つめながら溜息まじりにそう告げてきた。

だけど、仄かに感じる嬉しさのようなものを一之江から感じて嬉しくなる。

 

「知ってたろ?」

 

「出会った時から知っていました」

 

一之江はニヤニヤして見つめてしまった俺の顔を見ないように逸らして、そそくさと帰ろうとした。

俺はその背中を追いかけながら、決意を胸に秘めた。

俺は正義の味方にはなれない。

だけどたった一人で戦い続けてきた彼女の味方くらいにはなれるから。

それが最強の物語『月隠のメリーズドール』を『百物語』にした、俺の覚悟だ。

 

「……まあ」

 

「ん?」

 

ぽつりと聞こえるか、聞こえないかというくらいの大きさの声で一之江が呟いた。

 

「一般人を殺す……覚悟はあります」

 

ほとんど囁き声、聞き取れたのかどうなのか、俺の気のせいかもしれないような小声で、一之江は呟いた。

その内容から察するに……。

 

「……っていう事は……」

 

「うっさい、ハゲ」

 

「ハゲてねえよ⁉︎」

 

と、普段通り突っ込みを入れながら思う。

______『覚悟はある』という事は。

 

「なあ、一之江……」

 

「うっさいヅラ」

 

「地毛だっつーの⁉︎」

 

「私の噂に関わるので、絶対に他言無用ですよ」

 

「ああ、解った」

 

一之江が『殺してない』という情報が出回ってしまうと、それだけで一之江は弱くなってしまうからな。だから、ずっと主張し続けるしかなかったんだ。

『どんな相手であれ、殺している』と。

 

______そんな彼女の『秘密』を打ち明けてもらって、俺はかなり有頂天になっていた。

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