が、文字数はいつもより少なめです。
今回は番外編です。
本編とは関係ありません。
……今はまだ。
神奈川県横須賀市。
軍港として栄えるこの街に僕はいた。
誰もいない深夜。
「準備出来ましたよ。お父様」
高台にある中央公園のベンチに座る僕の背後からその声は聞こえた。
「ありがとう、”
背後を振り返らないまま、僕は後ろにいる彼女に話しかける。
「今日のマフラーもなかなか似合うよ、”綾,,君」
視力を失っている僕はそれがどんな色をしているのかとか、どんな形をしているのかは目では判断出来ないが。マフラーが風に靡いた時に発する微かな匂い、布の擦れる音、”綾,,君がマフラーに触れた時に出す呼吸音や空気の流れからそれがどんなものなのかは推理出来てしまう。
卓越した推理は予知に近いていくものだからね。
『
それがこの僕最大の能力だ。
「ありがとうございます。このマフラーとってもお気に入りなんです。お父様が初めて買ってくれたものですから」
「そうかい。世界中を回って買ってきた甲斐があったよ」
「私の為に選んでくださるなんて。……ラブラブですね、ぽっ」
口では『ぽっ』なんて言ってるが僕には解る。
実際の彼女の顔に変化はないということは。
推理出来てしまうから。
「実は”綾,,君。君には一つやってもらいたいことがあるのだが……」
「そんな……まだ早いですよ、お父様。そういうのはもう少し私が大きくなってからでも……でも、お父様がそう望むのなら……」
「……一体何の話しだい?」
おや? なんだか会話が噛み合っていない気がするな。
おかしいな。僕の推理ではこの後、彼女は僕の言いつけ通りに彼女に師事を受けるはずなんだが……。
「お父様はちっちゃい子が好きなんですね? なら、全然大丈夫です。私、まだ小学生ですから。バッチコイ、です!」
「ふむ。……何だか会話が噛み合っていないようだね。一体何故そうなったんだね?」
「え? だって私とえっちぃことヤりたいのですよね?」
「何故そうなるのだね⁉︎」
「え? だって雪さんが……『
「……後で雪女を連れて来なさい。大事なお話しがあるから」
しっかりとO HA NA SHI をしなければ!
僕は決してちっちゃい子が好きなのではない。
たまたま周りに小さな子が集まるだけだ。
曽孫のアリアは緋弾の影響であんな体型になってしまっただけだし。孫や鬼の一族、覇美も色金の影響でそうなっていただけだ。
僕は決して幼女が好きなのではない。キンジ君とは違うのだよ、キンジ君とは!
僕は幼女が持つ美しさ、幼さ故の脆さや儚さが好きなだけのただの紳士なのだよ。
だから昔、理子君が言ったようなロリコンではない! 断じて違う。
「……なんか、怖いです。お父様」
「おっと、怖がらせてしまったようだね。大丈夫だ。さあ、おいで。君の都合が良ければ、おいで。悪くても、おいで」
ベンチから立ち上がり、後ろを振り返って両手を広げて彼女が飛び込んでくるのを待つ。
父親代わりの僕が出来る最大限の愛情表現が抱っこだ。
ぼすん、と飛び込んできた”綾,,君を受け止めて抱き抱える。
「夏場とはいえ、やはり夜は冷えるね。そろそろ行こうか」
「はい、お父様」
落とさないように気をつけながら僕は公園を後にした。”綾,,君を抱き抱えながら昔を思い出す。
”綾,,君との出会いを……。
「ねえねえ、私、綺麗?」
夕暮れ時の路上。
『勢力』の長として、全国各地を旅していた私は突然背後からそう声をかけられた。
声をかけられた瞬間、気づいた。
周りから『音』が一切聞こえないことに。
そして、おそらくどこまで走ってもこの永遠と続く夕方の『世界』からは逃れられないということを。
試しにこの世界からの脱出方法を推理したが……出来なかった。
どうやら私の『
おそらく、相手が定めたルールから大きく逸脱出来ないように制限がかかってしまっているのだろう。
都市伝説が実体化した存在『ロア』。
ルールに縛られる彼らと対峙する時には彼らが定めたルールに従わなければいけない時もある。
おそらく、今のこの世界には『迷い込んだら、どこにも逃げられない』というルールがあるのだろう。
「ねえねえ、私、綺麗ですか?」
もう一度声をかけてきた彼女を見る。
赤いワンピースを着た、とっても可愛い美少女。
口元には何故かつぎはぎだらけのマフラーを巻いている。
その少女の姿を見るだけで、僕の本能が警告を発した。
あれは____『死』そのもの__だと。
「ねえねえ、私、綺麗だよね?」
口を開いてはいけない。
口を閉じてもいけない。
そう、『条理予知』が導き出している。
彼女は『口裂け女』のロアだと。
YESと返しても、NOと返しても、無言のままでもいけない。
遭遇したら最後……絶対に相手を殺せる『最強』のロアの一人だと。
「ふむ。懐かしい都市伝説だね。口裂け女とは……」
日本でも流行ったという噂は何度か聞いたことがある。
確か、社会的ブームとなって。あまりに有名になり過ぎたせいで語られなくなった悲劇の都市伝説。
それが口裂け女だったはず。
「ふむ。『ポマード』……は効かないか」
口裂け女は魔女と同じくらい弱点が露見している都市伝説でもある。
何故か整髪剤が苦手だったり。犬やべっこう飴で撃退できたり。
「はい、最近はその『ぽまーど』とかいうのを付ける人もあまりいませんから」
「なるほどね、進化しているのだね。君達みたいな物語も」
弱点はいずれ克服されるもの。
人は日々成長していくものだ。その人によってもたらされた噂が変化していってもおかしくはないか。物語的なルールに縛られているとはいえ、噂に縛られる彼女のような存在なら、噂に縛られるからこそ、進化、成長していても不思議でない。
「とはいえ、まだまだ甘いね。僕は毎朝ポマードでガッチリ固めているのだよ!
このオールバックを維持するのに大量のポマードを使用しているのさ」
「な、なんですって⁉︎」
はははっ! 150歳生きる僕を舐めたらいけないよ?
「さあ、今から君を僕のポマードでたっぷりと塗り潰してあげよう」
「お父様。お父様……」
腕の中の綾がもぞもぞと動き出す。腕の中で眠っていた綾の寝顔はとても可愛らしかった。
目を開けた綾の瞳が僕を見つめる。
「うん? なんだい?」
「初めてお父様とお会いした日のことを思い出したのです」
奇遇だね。僕もだ。
「あの時のお父様……今思うと、かなりの変態さんでした!」
グサリ。
娘同然に接している子の言葉は僕の胸に突き刺さる。
こんなにダメージを受けたのはキンジ君に頭突きされた時以来だ。
あっちは物理的なダメージを受けたが、今のは精神的にきた。
この僕に一撃を入れるとは。綾……恐ろしい子だ。
ち、違うのだよ! 僕は決して変態ではないのだ。
「あの後の
ただ……」
「ただ、なんだい?」
「____です」
「”綾,,君は賢いねえ。さすがは僕の娘だ。もう少ししたら僕のような推理が出来るようになるかもしれないね。いや、ひょっとしたら……さらにその先の段階にも進めるかもしれないよ」
「お父様みたいなことが出来るようになったら私と結婚してくれますか?」
「まだ、早いかな……」
結婚はともかく……普通の推理が出来るようになるまでまだ何年もかかるだろう。
アレに関してははっきり使えるとは断言出来ない。
推理を越えた未来予知。
あの領域にたどり着けたとしても何十年も先のことだろう。
「まだ?」
「言葉の綾……いや、あやだよ」
「……なるほど、脈ありだね」
ぐっ、と拳を握る綾君。
その姿はとても可愛らしいのだが、その可愛さ故に悪い男に引っかからないか、育ての親としてはかなり心配になる。10年くらいしたら、彼女も恋人とか作るのだろうか?
想像も推理もできない。色恋沙汰は推理出来ない分野だからね。ただ一つはっきり言えるのは……いずれ僕は彼女の前からいなくなるということだ。
僕がいなくなったら、彼女は生きていけるのだろうか?
そんなことを考えながら歩いていると目的地の港に着いていた。
「お待ちしておりました
「出迎えご苦労様。フラン君」
フランケンシュタイン……のロアであるフランにそう返事を返して僕は何もない海上の上を歩く。
「さて、いよいよ出航の時が来たようだ。さあ、始めようじゃないか!
この歪んだ世界を破滅させる為の僕らの戦いを……」
僕の言葉に呼応したかのようなタイミングで海中からソレは現れた。
大きな木造帆船。地獄の番犬を象った船首。帆には大きく漢字の伊を囲むようにUの字が描かれている。
見た目は朽ち果てた幽霊船のような船体だが、中身は外形とは違いかなり近代的な造りに改修されている。
超大型潜水船、『ネオ・セレスト号』。
メアリー・セレスト号という都市伝説に尾ひれが付き、この船は何もない海域から、何もない海中から突然現れるゴースシップだという噂によって誕生した新世代のロアなのだ。幽霊船と無人漂流船が融合し、さらに海中移動が出来るという潜水要素を得たロアだ。
まあ、これは僕の実験によって偶然出来たロアの一体なのだが……それを知るものは少ない。
そう僕はある目的の為に噂を操作して人工のロアを作り出そうと研究を重ねているのだ。……まだ成功例は少ないが。
船内を歩いていると見知った人と遭遇した。
「あっ、お帰りなさいませ。
「やあ、ただいま
僕が彼女にそう言うと、腕の中の”綾,,君は何故か不機嫌な表情を浮かべた。
名前を呼んだだけなのだが……何がいけなかったのかね?
女心は難しいものだ。
「お荷物をお預かり致します」
僕に深々と頭を下げるこの女性は
手紙や荷物を体内に収納できる運び屋的な人材。
いるとかなり便利なのだが……1つ問題が。
「そういえばこの前預けた物品購入要求の書類はあるかね?」
「はい、こちらに……」
それは……
「おげえええぇぇぇ!!!!!」
預けた荷物を取り出す際には彼女は吐き出さければならないことだ。
ゲロ塗れの書類を手に取ることになる僕の心中を察してくれ。
『
体内に収納したものを相手に強制的に受け取らせる能力。
拒否出来ないという制約がある為、例えゲロ塗れでも相手は受け取らなければならない。
「はい、どうぞー」
「あ、ああ……どうも」
重要書類や大切なものは文君には預けられない。どこよりも安全なのは確かなのだが……取りだす際にゲロ塗れになるのは勘弁してほしい。
条理予知でも文君のゲロは防げない。
わかっていてもどうにもならないことなど、この世にはたくさんあるのだよ。ワトソン君。
「? どうかされましたか、教授」
「いや……なんでもないよワトソン君」
「ワトソン?」
「いや、なんでもないのだよ文君」
ゲロ塗れの書類を手に取り、これ以上汚れないように注意する。
うっ……匂いが服に付いた。これはまた雪女に怒られてしまうではないかね。
洗濯家事全般を担当してくれるのはいいのだが、彼女を怒らせると、全身凍傷にされかねないから怒らせたくないのだよ。
「出航の準備は……出来ているようだね」
文君に確認を取ろうとしたその時、僕の背中が突如発火した。
「お父様⁉︎」
綾君の慌てる声が響き渡る。
背中から発火した火の熱さとは別に人の温もりのようなものを感じていた。
熱くはない。いや、服は燃えそうだったが水の魔術や風の魔術を使える僕にとってこの程度の炎では熱さは感じられない。
「やあ、派手な登場だね。君は
「わざわざ確認しなくても推理出来てるだりょにゃん」
「それはそうだが、こういうことは直接言葉で伝えた方がいいのだよ、火車君」
『火車』。猫の姿をした妖怪。
遺体安置所や葬式の火災場などから死人を浚うとされる妖魔の一種。
『火の車』と呼ばれる車の怪異と混合されることもあるようだが、日本に昔から伝わる都市伝説の一つだね。
「出航の準備出来てるにゃ。早く来るにゃ、みんな待ってる」
「では行こうか」
水の魔術を使って消火をし、風と火の魔術で服を乾かした僕は先頭を歩いて甲板に向かう。
甲板にはこれまで僕が集めた世界各地のロアやハーフロアが集まっていた。
僕は集まった全員の顔やその姿を見渡して声をかける。
死体を攫ってその血肉を喰らうとされる雷鳴と共に現れる猫又『火車』
公文書や手紙、大事な家財道具などを体内で保管できるという配達者『文車妖妃』
雪山などで遭難した男性を助けて唇を奪い、氷漬けにするとされる雪の化身『雪女』
沼や湖を作ったと言われる国造りの神の眷属、大巨人『ダイダラボッチ』
何人もの女性を切り裂いて快楽に溺れていたとされる殺人鬼『夜霞の切り裂きジャック』
触れたものや人を切り裂く、風の精『月隠の鎌鼬』
座ると必ず死ぬとされる椅子『
きゅうりが大好物で、頭の上の皿が干からびると死ぬと言われる『境川の河童』
血の契約により、契約者を守るとされる妖刀『叢雲』
手にしたものに聖なる力を与えるとされる聖剣『エクスカリバー』
人の形をした真っ黒な影『シャドーピープル』
細身で長身、真っ黒なスーツを着たスレンダーでのっぺらぼうな怪人『スレンダーマン』
見たものに必ず災いをもたらすとされる呪いのビデオ『終わらない呪いの貞子さん』
齢800年以上生きてるお稲荷大好き妖狐『玉藻御前』
男か? 女か? 真の性別は誰も知らない絶世の美人間。『天衣無縫な天邪鬼』
……他にもいるが全員紹介はまた今度にしよう。
「誰に言ってるのですか? お父様」
「番外編だからなんでもありなのだと、そう推理したよ。気にしたら負けなのだよ」
これが僕が集めた『勢力』だ。新生伊・Uというべきかな。
さあ、キンジ君。君にこの僕が止められるかな?
もうすぐだ。もうすぐ僕の願いが叶う。
さあ、この世界に『破滅』をもたらすとしようじゃないか。
補足
文車妖妃→おまもりひまりの文をモデルにしてます。
火車→ロザリオとバンパイアの猫目先生をモデルに……。
綾→サイトウケンジ先生のもう一つの都市伝説作品のキャラクターをちょっと早めに出しました。
年齢的には小学生の頃……かも。
巷で囁かれていたシャーロックロリコン疑惑を形にしてみました。
本当のシャーロックはロリコンではありません。紳士です、紳士なんです!