「フェンリルという武器は、ロシア成教にさえもデータが残っていません。それは、紛れもない事実です」
サーシャは上条とインデックスに説明をする。
彼らは今、マリア=ファルスサードを探しに、監視カメラで映し出されていた場所へと向かっていた。
正直、上条も北欧神話が何だかあまり良く理解していなかった様子だったのだが、
「……えーと、つまり番犬みたいな感じか? 何か、三個の頭が生えている犬みたいな存在とか、居なかったっけ?」
「それはケルベロスなんだよ。しかもそっちはギリシャ神話だね。北欧神話とギリシャ神話は似て非なるものがあるから、そこだけはこんがらがっちゃいけないんだよ」
「……へー、そりゃあどうも」
インデックスの完全記憶能力は、こういう時にとても助かる。
魔術に関してはからっきし素人な上条にとって、インデックスの説明は有難い面の方が大きいからだ。
「ケルベロスは一旦置いておくとして」
サーシャは上条とインデックスの会話に割り込む。
「第一の解答ですが、いずれにせよフェンリルの存在は未知数であることに変わりはありません。フェンリルは武器である——それぐらいしか情報がないのですから。マリア=ファルスサードの魔術と結びついて、最悪の方向に転がっていることは間違いありません」
「ええと、確か……『上書き』の魔術、だったっけ?」
上条はさっきサーシャから聞いた情報を反芻する。
上書きの魔術。
簡単には言っているが、その魔術そのものを完全に理解しきっている訳ではない。
色々な物理法則を『上書き』することが出来る——これはかなり
「第二の解答ですが、上書きの魔術は、ロシア成教でもかなり危険視されていました。……当然と言えば当然のことではあるのですが、やろうと思えばどんな物理法則でさえもマリアが有利な条件で上書き出来る——そう考えられていたからです。尤も、本人からそんなことを聞いた覚えはありませんけれども」
「フェンリルとは別で……ってことだよな」
「ええ、そうなりますね。フェンリルは、それこそロシア成教で管理している代物でした。しかしながら、ある日突如してマリア=ファルスサードが回収していった……。一説には、彼女の魔術の弱点を補うためだとも言われていますが」
上条は考える。
そもそもマリア=ファルスサードが何の目的を持って、この学園都市にやって来たのかは明らかになっていない——それは間違いない。
しかしながら、予測しなければならないのも分かる。
アーク・アイランドは遊園地だ。遊園地に遊びに来た——なんてそんな理由な訳がない。
確実に、ここに来なければならない理由があったはずだ。
「……おや? どうしてここに居るのかな、サーシャ=クロイツェフ」
声がした。
目の前に立っていたのは、白いワンピースのようなドレスを身に纏った、金髪の少女だ。
彼女が誰であるか、上条もインデックスも——無論サーシャも知っていた。
「マリア=ファルスサード……!」
上条の言葉に、マリア=ファルスサードは首を傾げた。
「おやおやぁ? どうして私の名前を知っているのかな?」
一瞬、間を置いてサーシャの方を見る。
「サーシャ。もしかして魔術師以外の人間に私のことを言ったのかな? だとすれば、心外だな。サーシャ=クロイツェフ、お前はそんなことをする魔術師ではなかったと記憶しているのだけれどね」
「第一の解答ですが、人は何時だって変化を好む生き物です。貴方だってそうでしょう、違いますか?」
「未だそんな回りくどい言い回しをしている訳? はあ、何というか面倒臭い。もっと直線的に話をしていくべきでは?」
マリアは言った。
上条が話者に交代する。
「……何でこの学園都市にやって来たんだ? わざわざ魔術を行使しに、科学サイドの最高峰に足を踏み入れて」
「…………ああ、誰かと思えば
いきなり上条は幻想殺しの話が出て、目を丸くする。
「何故、それを?」
「まさか、魔術サイドには一切その情報が漏洩していないとでも? 場違いな錬金術師に、