とある魔術の大遊園地≪カーニバル≫   作:natsuki

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第十話

「幻想殺しは、確かに奇特な存在です。ある種の特異点であるとも言えるでしょう」

 

 サーシャはマリアに告げる。

 マリアは薄ら笑いを浮かべながら、幾度か頷いた。

 

「魔術とも科学とも違う、新たな領域(カテゴリー)……。今は未だ気付かれていないだけかもしれませんが、何れその希少価値に気付いてしまう何者かが訪れる日がやって来るはず……。いや、或いはもう分かっていて、野に放っているだけなのかもしれませんけれど」

「?」

 

 上条は、サーシャとマリアの会話について一切理解出来なかった。

 

「でも、貴方は何も知らないのでしょう?」

 

 マリアは言った。

 未だ自分しかその事実を知らないのだ、と蔑んでいるようにも見受けられた。

 

「……第二の解答ですが、それは——」

「——分からないのならば、分からないと単刀直入に言っても良いのですよ? サーシャ=クロイツェフ」

 

 マリアの言葉に、サーシャは口を噤む。

 

「簡単な話ですよ? 世界を変えるためには、犠牲を伴います。我々魔術師の感知しない世界には、さらなる上位存在が居る。それこそ、木っ端の魔術師等太刀打ち出来ないような——そうですね、魔神とでも言えば良いのかな? そういった存在が」

「魔神……」

 

 上条は反芻する。

 

「ああ、一応言っておくと文字を読んだ通りの概念ではないことは伝えておきましょうか? 魔術を極めた結果として、神の領域に片足突っ込んだ存在とでも言えば良いでしょうか?」

 

 何だか、それって。

 上条は思い出す。学園都市にも似たような存在が居ることに。

 レベル0からレベル5まで六段階しか存在しないはずの超能力者のさらに上——レベル6のことだ。

 

「ともかく、世界を変えるにはそれ相応の力が必要であるということですよ? 圧倒的な力が」

「それとこれが何の関係性が?」

 

 上条は問いかける。

 未だにマリア=ファルスサードの考えていること——行動の真意が理解出来なかったからだ。

 

「ですから、とっても簡単な話ですよ?」

 

 マリア=ファルスサードは言う。

 

「この遊園地モドキに存在する、太古の昔から存在する本物——ノアの方舟を動かせば良いだけの話なのですから」

 

 

 

 幾ら万年赤点の上条であっても、ノアの方舟ぐらいは聞いたことがあった。

 

「ノアの方舟……って、大洪水から人々を守った、というあの?」

「方向性は若干違いますけれどね? 及第点とでも言えば良いでしょうか。いずれにせよ、その方舟はこの現代には存在しないと——そう言われていた。つい、こないだまで」

 

 それをどうして学園都市が手に入れていたのか。

 

「さあ? トップの考えは、下っ端には到底考えつかないのでしょうね? アレイスター=クロウリー……全世界最高の魔術師にして、一番科学の最高峰に近い人間。その両方を極めた存在であるからこそ、どんな手段だって行使出来る。ある種の禁じ手(ワイルドカード)と言っても差し支えないでしょう」

「ノアの方舟をどうするつもりなの?」

「分からないかしら? 方舟は、世界を洗い流した大洪水から人々を救った物であると言い伝えられている。しかしながら、それはあくまでも多くの人間が知っている伝説に過ぎない。伝説でも何でも、一つの方向だけで物事を完全に理解してはいけない。つまりは」

「……逆説的に考えなくてはならない、ということですか」

 

 サーシャは、マリアの言葉を遮るように言った。

 マリアは小躍りするように歩き始める。

 

「漸く、物事が分かってきたのかしら? まあ、だとしてもこちらを止めることは許されないけれど。その通り——洪水が起きたから方舟が生み出されたのではなくて、方舟が動き出したから洪水が発生した——こう捉えても、何らおかしくはないと思わないかな?」

 

 逆説的。

 つまり、Aが起きたからBが発生したのではなく、Bが起きたからAが発生したのだということ。

 簡単に説明すればそうなるが、しかしそれを簡単に受け入れることは出来なかった。

 

「……方舟を起動させたら、洪水が起きる……って言うのか?」

「まあ、そうなるかな」

 

 マリアは分かりきった雰囲気で、あっさりと言ってのけた。

 上条は、マリアを睨み付ける。

 

「そんなこと——そんなこと! 許されるとでも思っているのかよ!」

「世界を再構成するには充分過ぎる時間が経過したし、別に良いのでは?」

 

 話が通じない。

 マリア=ファルスサードは、自分の考えを崩そうとしないし、話し合いに持ち込もうだなんて全く考えちゃいなかった。

 

「……しかし、邪魔者をこのまま放っておく訳にもいかないしな」

 

 マリアはぽつりと呟き、何処からか小箱を取り出した。

 小さい鍵付きの宝箱だった。オルゴールかと見間違う物であったが、上条もインデックス、サーシャでさえそれが何であるかはっきりと理解出来なかった。

 

「——先ずは、距離を上書きする(、、、、、、、、)

 

 一瞬であった。

 上条達とマリアの距離は、十メートル程離れていたはずなのに、僅か瞬き一つもしない間に、完全に距離が詰められていた。

 

「……!」

「おいで、フェンリル。遊びの時間だよ」

 

 そして、小箱が開かれる。

 同時に、上条の目の前の視界が——真っ二つに割れた。

 

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