とある魔術の大遊園地≪カーニバル≫   作:natsuki

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第十三話

「そうだ……俺は、確か」

 

 上条は思い出す。

 突如として行われた右腕の切断、そしてその後の意識の欠如——。

 

「あれから、彼女は逃げてしまいました」

 

 サーシャは、トーンを抑えた声で言った。

 

「駄目、全然引っかからない。もしかしたら、何処かに身を隠しているのかも」

 

 同時に扉を開けて入ってきたのは美琴だった。

 

「御坂……?」

「一応助かったのね。どうなることかと思ったわよ、ソイツがあると電気を流して無理矢理心臓を動かすことも敵わないし。何というか、不便ではあるのよね」

「いや、それより引っかからない、って?」

「さっきと同じく監視カメラのサーバーにちょっと潜ってみたのだけれどね。残念ながら同じ格好の人間は何処にも見当たらなかった。あれだけ目立つ格好をしていれば、直ぐに分かると思ったのだけれどねえ。残念と言えば残念かも」

 

 美琴はつまらなさそうな表情を浮かべ、スマートフォンを見ていた。

 

「……御坂も、ありがとうな」

 

 上条の言葉に、美琴は思わず吹き出してしまった。

 

「べっ、別に……! 別に、あんたのためにやったんじゃ……」

 

 図らずもツンデレな台詞を言ってしまった美琴だったが、冷静にサーシャは咳払いを一つして、

 

「お取り込み中申し訳ありませんが……、先ずは物事をきちんと先に進めないといけませんね」

 

 サーシャの言葉を聞いて、上条も幾度か頷く。

 

「確かにそうだな……。でも、宛てがあるのか?」

「第二の解答ですが、あるかないかと言われればないと答えるしかありませんね。残念ながら、彼女に辿り着く切欠は何一つとして存在しませんから」

「なら、」

 

 どうする?

 どうすれば、マリア=ファルスサードへと辿り着く?

 いや、辿り着いたところで……。

 

「マリア=ファルスサード……アイツは、右手《コイツ》の対処法を知っていた」

「知っている人は多いでしょうね。幻想殺し——その能力は、魔術師にとっても脅威ですから。さりとて、幻想殺しは一部的な脅威であると考えている魔術師が多い、とわたしは考えます」

「?」

「だって、そうでしょう? 幻想殺しは上条当麻の右腕に宿っている。ならば、右腕を無効化してしまえば良い、と。尤も、上条当麻そのものと幻想殺しを紐付けられるのかどうかは微妙なところがありますが。我々ロシア成教も、幻想殺しには注意しているのです」

「なら、どうして協力しようと思ったんだ? 脅威と思っているのなら、あの魔術師……マリア=ファルスサードと同じく、俺を襲ってくるはずだろう?」

「さあ、どうしてでしょうね? わたしは、あくまでも一介の魔術師に過ぎません。上の考えることなんて、これっぽっちも理解出来ませんから」

 

 

 遊園地には、地下通路が存在する。

 それは表向きの業務用通路を作るスペースがないから、としか言いようがない。遊園地はファンタジー——即ち理想の仮想空間を作り上げる上で、現実に近しいものを作り出すことも表現することも出来ない。幾ら学園都市が全世界の科学技術よりも何歩前に進んでいようが、そればっかりは隠しきれないものだからだ。

 そういう隠しきっているものについては、都市伝説が纏わり付くのは半ば自然かもしれない。

 とはいえ、現実は残酷だ。

 そんな都市伝説の多くは、机上の空論で存在するはずがない。

 遊園地にはただ、無数の地下通路が存在するばかりだ。

 但しその通路の全ては——従業員でさえも覚えられないぐらいの規模ではあるが。

 

 

 閖上水面が、地下の通路を歩いていた。

 無数の地下通路のうちの一つ、従業員が把握し切れていない通路の一つでもある。

 隣に歩いているのは、マリア=ファルスサードだ。

 

「……水面。何故、才能のある人間は早世すると思う?」

 

 マリアの質問の意図は、水面には分からなかった。

 さりとて、それに疑問を抱くこともなかった。

 マリア=ファルスサードはいつもこうやって意図が分からない質問を投げかけるのだ。

 それを聞いて何になるのか、と水面は思うことだってあるけれど、それはそれ。

 

「どうしてだろうね。才能を使える時間が少ないから、とか?」

「ふむ。その考えもありかもしれないけれど、こうは考えられないかな? 神様ってのは、才能を近くに置きたがる、って。まあ、そういう意味では近いのかもしれないよね。才能をこの世界で使える時間が限られているから、自ずと早世にならざるを得ない——難しいことではあるのだけれど」

「マリア。あなた、一体」

「何を考えているのか、って?」

 

 マリアは水面の言いたいことを先回りして、告げる。

 

「ノアの方舟は、世界のリセットを促す機関だ。即ち、殆どの存在が神の元へと赴くことになる。方舟を起動すれば、リセットが始まる」

「……ねえ、マリア。本当に方舟を」

「水面。分かっているでしょう?」

 

 マリアは微笑む。

 それぐらい、分かっていたのに。

 マリアがそういう反応をすること、そういう行動を取ることぐらい——とっくのとうに分かっていたはずだった。

 

「私は、やらないといけないの。方舟の起動を。そのためには……どんな犠牲だって、厭わない」

 

 マリアは再び歩き始める。

 目的地など、水面には分かりやしなかった。

 

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