とある魔術の大遊園地≪カーニバル≫   作:natsuki

16 / 19
第十四話

 暗礁に乗り上げてしまった。

 漸く目の前にマリア=ファルスサードが居たにも関わらず、だ。

 

「正直、このままもう一度対峙するのは得策ではないわよね」

 

 美琴の言葉に、上条は頷くことしか出来なかった。

 上条当麻が持つ力——幻想殺しの対処法を知っている。はっきり言ってそれは、非常に厄介だ。

 

「……確かに、そうだ。それに、あの謎の獣……で良いのか?」

「第一の回答ですが、フェンリル、ですね」

 

 上条の質問に、サーシャは回答する。

 マリア=ファルスサードが従えている、異空間に存在する獣——フェンリル。

 それに対する突破口も考えなくてはならなかった。

 

「突破口、とは言うけれど。どうやって、アレを退治すりゃあ良いのよ……。皆目見当がつかないわよ」

「いえ、突破口はあります」

 

 サーシャの言葉に、上条は目を丸くする。

 

「……あるのか?」

「グレイプニルもそうですが、我々が用いる霊装は全て条件があります。そうしないと永久に動き続けてしまい誰もコントロール出来なくなってからです。言ってしまえば、最終手段のような扱いではありますが」

「何なんだ、それは?」

「——所有者が行動不能に陥れば、自動的に停止するというものです」

 

 行動不能。

 簡単に言うその四文字は、色々深い意味を齎してくれるような、そんな気分だ。

 

「……具体的には?」

「別に命を絶つ必要はない、はずです。あくまでも行動が出来なくなれば良い。それは、魔術師としての終了も含むであろうと」

「魔術師としての終了?」

「第二の回答ですが、即ち、霊装の起動には魔術師でなければならないのです。つまり、所有者が魔術を使えなくなるということ……それが行動不能の定義であると言われています。真偽は定かではありませんけれどね」

 

 

 

 マリアと水面は未だ地下通路を歩いていた。

 

「………………流石に教えてくれても良くない?」

 

 水面の言葉を聞いて、マリアは踵を返した。

 

「何が、だ?」

 

 マリアは首を傾げ、再度水面に問いかける。

 

「だって、ずっと教えてくれないじゃん? 何がしたいのか、ってことを」

「……毎回思うけれど、だったらどうして一緒にここまでついてきてくれたのかな? 普通、そこまでしないと思うのだけれどね。何がしたいのかを一切聞くこともなく、ここまでやってくるなんて」

「面白いことに対する嗅覚は強くてさ」

 

 水面の言葉に、マリアは笑うことしか出来なかった。

 

「相変わらず、面白いね? まあ、だからこそ水面ちゃんらしいけれどさ」

「それ、褒めているの?」

「褒めているさ。精一杯の、ね」

「……なーんか、本当に褒められているのか疑問が浮かぶのだけれど、まあ、別にそこまでああだこうだと言う必要はないか」

 

 水面はマリアを良く分かっていた。

 分かっているつもりだったからこそ、そういう言い方だって出来た。

 でも。

 だからと言って——ここまで続けてくる必要もない訳だ。

 マリア=ファルスサードは、わざわざ学園都市にやってきて方舟を使って——一体何をするつもりなのだと言うのだろうか?

 

「ノアの方舟は、どうして作られたのだと思う?」

「どうして?」

 

 マリアの問いに、水面は悩んだ。

 ノアの方舟の神話をそう深く知っている訳ではなかったからだ。知っていたとしても限界はある——そしてそれが真実という保証さえもない。

 あくまでも、言い伝えは言い伝えだ。

 存在すら危ぶまれていた程の、歴史的価値が非常に高いものなのだから。

 

「……方舟は、洪水が起きると予言されていたから作られたっていうのが、多くの歴史書なり神話を書き記した書物に書かれていること。しかし、それは大きな誤りだった。そもそもどうして誰も気付かなかったのか。或いは、気付くことはしなかったのか。気付きたくなかったのか……、まあ、それを今延々と議論する場面ではないのだけれど」

「マリア。あなたさっきから長々と何を……」

 

 マリアと長く居るとはいえ、やはり未だに彼女の行動は読めないことが多い。

 普通ならばしないはずの行動を、いとも簡単にやってのけてしまう。彼女についていく人間の身にもなって欲しいものだ、などと水面は思っていたが、しかしながら今それを考える場合でもない。

 マリアの笑みは、妖艶であり底知れずであり——畏怖をも抱かせるものだった。

 

「……洪水が起きたから方舟が作られたのではない。方舟が起動したから洪水が起きたのだ——ということに。どうして誰も気付かないのかしら?」

 

 マリアは、そう言って小躍りするような感じに、ある一定のリズムを刻んで歩いていくのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。