とある魔術の大遊園地≪カーニバル≫   作:natsuki

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第十七話

 巨大な方舟が視界の中央に鎮座していた。

 アーク・アイランド最大のアトラクション。

 否。

 今この瞬間だけは、それを遊具と呼ぶにはあまりにも異様だった。

 白い外壁。

 巨大な船体。

 まるで街の中心に山脈が一つ横たわっているかのような圧迫感。

 それを見上げながら、上条当麻は眉を顰めた。

 

「……冗談だろ」

 

 周囲に居る一般客はまだ事態を理解していない。

 家族連れは楽しそうに会話をしている。

 学生達は記念写真を撮っている。

 恋人同士は次にどのアトラクションへ向かうか相談している。

 誰一人として知らない。

 あと少しで、この日常が吹き飛ぶかもしれないことを。

 

「ここですね」

 

 隣でサーシャが静かに言った。

 

「ああ」

 

 上条は短く返す。

 返事をした瞬間だった。

 ぞわり、と。

 全身の産毛が逆立った。

 嫌な予感。

 説明出来ない不快感。

 幻想殺しを持つ右手が、何かを警告している。

 

「来るぞ」

 

 御坂美琴が前へ出る。

 同時に。

 ぱちぱち、と青白い電撃が彼女の身体を走った。

 

「……おや」

 

 声が響く。

 聞き覚えのある少女の声だった。

 

「ちゃんと来てくれたんだね」

 

 振り返る。

 そこには白いドレスを揺らす金髪の少女が立っていた。

 マリア=ファルスサード。

 彼女は相変わらず微笑んでいた。

 まるで旧友と再会したかのように。

 

「歓迎するよ」

「歓迎される覚えはねえよ」

 

 上条は吐き捨てた。

 しかしマリアは気にした様子もない。

 

「そうかな?」

 

 そう言って。

 彼女は懐から小箱を取り出した。

 鍵付きの小さな箱。

 上条は知っている。

 あの箱を。

 あの中に入っているものを。

 

「マリア!」

 

 サーシャが叫ぶ。

 

「やめなさい!」

「嫌だよ」

 

 即答だった。

 躊躇いがない。

 迷いがない。

 それが逆に恐ろしい。

 

「だって、ここまで来たんだから」

 

 ぱちん。

 小さな音がした。

 箱が開く。

 瞬間。

 空気そのものが裂けた。

 轟音。

 衝撃。

 周囲のガラスが一斉に砕け散る。

 

「っ!」

 

 上条は反射的に顔を庇った。

 その視界の先。

 そこに居た。

 巨大な獣。

 狼。

 いや。

 狼というには巨大過ぎる。

 建物と見紛うほどの体躯。

 赤黒い毛並み。

 黄金色の瞳。

 存在しているだけで周囲の景色が歪んで見える。

 

「フェンリル……!」

 

 サーシャが呟く。

 獣は低く唸った。

 それだけで地面が震えた。

 

「なるほど」

 

 美琴が笑う。

 引き攣った笑みだった。

 

「怪獣退治まで仕事に含まれているとは聞いてないんだけど」

「俺もだ」

 

 上条は拳を握る。

 嫌な汗が流れる。

 勝てる保証なんてない。

 だが。

 逃げる訳にもいかない。

 

「マリア」

 

 上条は叫んだ。

 

「まだ間に合う!」

 

 マリアは首を傾げる。

 

「何が?」

「方舟なんて起動させるな!」

「どうして?」

「どうしてって……!」

 

 言葉が詰まる。

 マリアは本気だ。

 本気で世界を救おうとしている。

 本気で世界を壊そうとしている。

 だから厄介なのだ。

 

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