とある魔術の大遊園地≪カーニバル≫   作:natsuki

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第十八話

「この世界は壊れてる」

 

 マリアは静かに言った。

 

「科学と魔術は対立している」

「人は争い続ける」

「才能は浪費される」

「命は失われる」

 

 彼女は笑う。

 悲しそうに。

 寂しそうに。

 

「だから一回全部やり直した方が早いよね」

 

 その瞬間。

 上条は理解した。

 この少女は悪人ではない。

 だからこそ危険なのだ。

 善意だけで暴走している。

 誰よりも。

 誰よりも救いようがないほどに。

 

「フェンリル」

 

 マリアが呟く。

 

「お願い」

 

 巨大な獣が牙を剥く。

 次の瞬間。

 地面が爆発した。

 フェンリルが飛んだのだ。

 真っ直ぐ。

 上条達へ向かって。

 

「来るわよ!」

 

 美琴が叫ぶ。

 青白い雷光が炸裂した。

 轟音。

 閃光。

 超電磁砲が放たれる。

 だが。

 直撃したはずのフェンリルは止まらない。

 

「はあ!?」

 

 美琴が目を見開く。

 

「何よコイツ!」

「上書きだ!」

 

 サーシャが叫んだ。

 

「物理法則そのものを書き換えている!」

「つまり?」

「常識が通用しません!」

「不幸だあああああああ!!!!」

 

 上条は叫びながら走り出した。

 巨大な牙が迫る。

 避ける。

 地面が抉れる。

 再び飛ぶ。

 追い付けない。

 速い。

 速過ぎる。

 だが。

 上条の視線はフェンリルを見ていなかった。

 その向こう。

 マリアだけを見ていた。

 あいつを止めなければ終わらない。

 そして。

 少し離れた場所から。

 もう一人の少女もまた、マリアだけを見ていた。

 

「……マリア」

 

 閖上水面は呟く。

 震える指を握り締めながら。

 ゆっくりと。

 方舟へ向かって歩き始めた。

 誰よりも先に。

 彼女へ辿り着くために。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 世界の終わりは、案外騒がしく始まるらしい。

 そんなことを考えながら、閖上水面は歩いていた。

 背後では轟音が響いている。

 雷鳴。

 爆発。

 何かが砕ける音。

 誰かの叫び声。

 フェンリルと上条達が戦っているのだろう。

 きっと壮絶な戦いだ。

 だが。

 今の水面にはどうでも良かった。

 見なければならないものは別にある。

 追いかけなければならない人も別にいる。

 だから彼女は歩く。

 一歩。

 また一歩。

 巨大な方舟の内部へ向かって。

 

「……来たんだ」

 

 声がした。

 見上げる。

 そこにはマリアが居た。

 方舟の中央。

 巨大な制御装置らしき祭壇の前に。

 まるで最初から待っていたかのように。

 

「来ると思ってた」

 

 マリアは微笑む。

 水面は立ち止まった。

 

「そう」

「うん」

 

 短い会話だった。

 沈黙が落ちる。

 昔ならば。

 きっとこんな空気にはならなかった。

 もっと笑っていた。

 もっとくだらない話をしていた。

 もっと近くに居た。

 それなのに。

 今は数メートルの距離が果てしなく遠い。

 

「ねえ」

 

 先に口を開いたのはマリアだった。

 

「怒ってる?」

 

 その問いに。

 水面は少しだけ考えた。

 

「……分からない」

 

 それが正直な答えだった。

 怒っているかもしれない。

 悲しいのかもしれない。

 寂しいのかもしれない。

 感情が多過ぎて整理出来なかった。

 

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