とある魔術の大遊園地≪カーニバル≫   作:natsuki

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終章 また元通りの日常 Nothingness
第二十二話


 事件から三日後。

 アーク・アイランドは営業を再開した。

 もちろん表向きには何も起きていないことになっている。

 巨大遊園地で世界崩壊寸前の魔術儀式が行われていたなどと発表出来る訳がない。

 ニュースで報じられたのは、

 

『一部設備のシステム障害』

 

 ただそれだけだった。

 学園都市らしいと言えば学園都市らしい。

 何でもかんでも機密扱いにしてしまうのだから。

 

「それで?」

 

 御坂美琴が呆れたように言った。

 

「何でアンタは補習受けてるのよ」

「不幸だからだよ」

 

 上条当麻は机に突っ伏した。

 六月とは思えないほど眩しい日差しが窓から差し込んでいる。

 外では蝉が鳴いている。

 夏だった。

 完全に。

 容赦なく。

 

「いや意味分かんないんだけど」

「俺だって分かんねえよ!」

 

 上条は顔を上げる。

 

「何で世界を救った直後に数学の追試を受けなきゃならねえんだ!」

「世界は救ってないでしょ」

「そこは空気読めよ!」

 

 美琴は肩を竦めた。

 その様子を見ていた土御門が笑う。

 

「まあ生きてるだけマシだぜい」

「お前にだけは言われたくねえ」

 

 結局。

 事件は解決した。

 ノアの方舟は停止。

 フェンリルは消滅。

 アーク・アイランドも無事。

 表向きには。

 誰も知らないまま。

 世界はいつも通り回り続けている。

 だから。

 上条達もまた日常へ戻る。

 それだけだった。

 

 

「それで?」

 

 ベンチに腰掛けながら水面が尋ねた。

 

「これからどうするの?」

 

 風が吹く。

 夏の匂いがした。

 遊園地の中央広場。

 人々の笑い声が聞こえる。

 平和だった。

 本当に。

 何事も無かったかのように。

 

「分からない」

 

 マリアは小さく笑った。

 以前のような余裕に満ちた笑みではない。

 どこか年相応の。

 少しだけ弱さの残った笑みだった。

 

「今までずっと走ってたから」

 

 世界を変えるために。

 理不尽を壊すために。

 救済を実現するために。

 そんなことばかり考えていた。

 だから。

 全部失った今。

 逆に何をすれば良いのか分からない。

 

「じゃあ」

 

 水面は立ち上がった。

 

「探そう」

「何を?」

「やりたいこと」

 

 当然のように言う。

 

「世界を救う以外にも、きっとあるよ」

 

 マリアは目を瞬かせた。

 それから。

 少しだけ考える。

 そして。

 

「そうかもね」

 

 そう答えた。

 遠くで子供達の笑い声が聞こえる。

 空は青かった。

 雲は白かった。

 世界は相変わらず不完全だった。

 理不尽もある。

 不幸もある。

 救われない人も居る。

 だが。

 それでも。

 少なくとも今日だけは。

 悪くないと思えた。

 

 

 窓のないビル。

 学園都市の闇の中心。

 誰も辿り着けない場所。

 巨大な逆さ吊りの男は静かに目を閉じていた。

 

「終わったようだね」

 

 アレイスター=クロウリーが呟く。

 返事はない。

 しかし。

 彼は気にしなかった。

 

「ノアの方舟」

「フェンリル」

「マリア=ファルスサード」

 

 静かな声が響く。

 

「結果だけを見れば失敗か」

 

 空中に浮かぶ無数のモニター。

 その一つにはアーク・アイランドの映像が映っていた。

 平和な光景。

 何も知らない人々。

 何も変わらない日常。

 だが。

 アレイスターは僅かに笑う。

 

「しかし」

 

 モニターの中。

 一人の少年が映る。

 補習から逃げ出そうとして教師に捕まっている上条当麻。

 情けない姿だった。

 英雄らしさの欠片もない。

 それなのに。

 

「やはり興味深い」

 

 幻想殺し。

 イマジンブレイカー。

 世界の基準点。

 神話を否定する右手。

 今回もまた。

 予定外の結末を生み出した。

 

「計算通りには進まない」

 

 それは欠陥か。

 あるいは可能性か。

 アレイスターは考える。

 そして。

 

「だから面白い」

 

 静かに告げた。

 誰も居ない部屋で。

 誰にも聞かれないまま。

 その言葉だけが闇の中へ溶けていく。

 

 

「待てええええええ!!」

「補習なんだから逃げるんじゃない!」

「先生だって帰りたいんだよ!」

「それは知らねえ!」

 

 校舎の廊下を全力で走る上条当麻。

 それを追いかける教師。

 さらにそれを見て大笑いする土御門。

 呆れる青髪ピアス。

 遠くから聞こえるインデックスの、

 

『お腹空いたんだよ!』

 

 という叫び声。

 そんな騒がしい日常の中で。

 世界は今日も続いていく。

 壊れることなく。

 終わることなく。

 誰かが救われた、その先へ。

 




終わり。
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