第二話
第三学区。
学園都市の外交の拠点でもあり、技術の展示会も行われる国際展示場が設置されている。
他にも、各国のセレブが宿泊出来るような高級ホテルが建ち並ぶ等、まさに学園都市の玄関口だ。
まあ、学園都市に入るにはそれなりのセキュリティを突破する必要があるのは、紛れもない事実ではあるのだが。
チケットを持った少女が、何かを探している。
ボブカットの少女は、薄いオレンジのワンピースを着ていた。肩からポシェットを掛けている程度で、他に持ち物はないように見える。黒縁の眼鏡をかけていて、焦っている様子が隠しきれていない。
「何処に……、何処に行っちゃったんだろう」
彼女は、それを探さないといけなかった。
探さなければ、何も出来ないのだ。
しかしながら、手がかりがない。だから、何とかキョロキョロと辺りを見渡すしかなかったのだが——。
「……如何したんですの?」
声を掛けられた。
腕章をした少女だった。制服を着ているから、学生なのだろう。
「あ、えと」
「何かお困りごとでしたら、わたくし風紀委員にお任せ下さいまし」
「あ、でしたら……。お願いしたい、です」
おどおどした様子で声を掛けていたのに、風紀委員の少女はうんうんと頷く。
「……ところで、何をお探しなのでしょう?」
「えっ?」
風紀委員の少女がそう言ったので、彼女は目を丸くする。
よもや自分が何をしたいのか当てられるとは思わなかったのだろう——彼女はそう思ったが、
「見ていれば分かる話ですよ。キョロキョロと辺りを見渡している。しかし他には誰も居ない。遊びをしているようにも見えない……。となれば、導き出せる結論は一つ。誰か、或いは何かを探している——と」
「す、凄い」
ぱちぱち、と拍手を送る少女。
深い溜息を吐いたのち、風紀委員の少女は話を続ける。
「さあ、それよりもあなたの不安を解消して差し上げないと。あなたはいったい何をなくして、何を探しているのでしょう? わたくし、風紀委員の白井黒子と言いますの」
「ええっと、わたしが探しているのは——妹、なんですけれど。でも、大丈夫です。きっと、ここにやって来るはずですから」
「そう、ですか」
あっさりと、黒子は引き下がった。
本来であればきちんと最後まで手助けしてあげるべきなのだろうが、踏み込んではいけない雰囲気を察したのかもしれない。
「それであれば、一応、お名前だけでも聞いておいて良いですか? 何かあったときのためです。それ以外には絶対に使いませんから」
「わ、分かりました。……わたしは
水面はそう名乗ると、頭を深々と下げた。
黒子はそれをスマートフォンのメモ帳アプリに記録すると、頷く。
「分かりました。ありがとうございます、閖上さん。では、妹さんと無事出会えると良いですね」
そう言って、黒子は水面の元から立ち去っていった。
黒子が居なくなったのを見てから、水面は深い深い溜息を吐いた。
「……流石は学園都市、といったところなのかな。風紀委員という警察の延長線上の自己防衛組織が居るとは聞いたことがあるが、あんな子供も使役しているとは」
一息。
「とはいえ、油断もしてはいけない……か? あれでも能力者。何を為出かすか分かったものじゃないし」
水面は先程とは違う、流暢に早口に語り続ける。
別に独り言を延々と続けている訳ではなく、その話は気付けば彼女の周囲に浮いている紙飛行機のような何かをターゲットにしているように感じられた。
『——しかし、それでも学園都市。油断はしてはいけないと考えるが?』
紙飛行機から、声が聞こえる。
しかし、その声は多くの群衆には聞こえていない。水面にしか聞こえていない声であった。
「分かっているよ。そっちも、油断しない方が良いと思うけれど? 学園都市は何をするか分かったものではない。何せあのアレイスター=クロウリーが居るのだから」
そうして、会話は終了した。
紙飛行機はいつの間にか霧散し、水面もまたゆっくりと歩き出す。
彼女が雑踏の中に消えるまで、そう時間はかからなかった。