ホロライブ・オルタナティブver.IF正式版~メインストーリー事変~ 作:天野空
チャキ丸のメンテナンスに向かっていると聞いた俺は、一緒に刀鍛冶のおじいさんの元に訪れる。
おじいさんから鬼切丸に限界がきている事を聞いて、それを直す為、【魔乃ペンダント】と【総帥の角の粉】を預ける。
翌朝、新たに生まれ変わった【魔乃鬼切丸】を持って、いろはちゃんにグランドジョブの元へと案内してもらった。
そこには刀を持つ朱色の着物を羽織った男性が待っていた。
「朱雀さん?」
俺は縁側の上に足を組んで座る男性を見た。
「そうでござる。
【ホロライブワールド】グランド・侍の薬師寺朱雀先輩でござる」
いろはちゃんが紹介してくれる。
「ん?
あんた?
プレイヤーか?」
「は、はい、よろしくお願いします」
頭を下げる。
「いや、なんでプレイヤーがここにいるんだ?
メインストーリーなら、メインストーリー専用の俺のところに行くだろ?」
朱雀さんは首を傾げる。
「あ、この人は少し特殊でござるよ。
そら先輩から虹色ダーツをもらった【世界の答え】ですので」
「は?
そら先輩の虹色ダーツ?
【世界の答え】?」
「あ、元【世界の答え】でして」
驚く朱雀さんに俺は訂正する。
「いや、元だろうが今だろうが関係ないって。
そっか、あんたがこの世界を救ってくれたのか」
朱雀さんは縁側に足を下ろして座った。
「それで、その大物がここに来たって事は…
やっぱこれか?」
朱雀さんが自分の刀の柄を見せる。
柄の頭の部分に宝石が填まっていた。
「魔集石です」
肩のセレスが教えてくれる。
「はい、それです」
「やっぱりな。
おかしいと思ったんだよ。
普通は俺のところにこんなものが来るわけない。
だから、何かが起きたんだろうと思ってた」
朱雀さんはゆっくりと立ち上がった。
「それで、あんたは何がしたい?」
朱雀さんは俺の対面に立つ。
「ある理由があって、その魔集石をいただきたいです。
それとメインストーリーを進めたい」
「なるほど、な」
キ、キン!
「!!」
音が鳴った次の瞬間、目の前で朱雀さんといろはちゃんが斬り結んでいた。
「いつも以上に悪ふざけがすぎるでござるよ、朱雀先輩」
ギチギチと刃が重なり鳴っている。
「いや、どのくらい強いのかと思ってな」
そう言って笑う朱雀さん。
「っと」
朱雀さんは、バックステップして元の場所に戻った。
いろはちゃんは刀を構えたまま、俺の前に立つ。
「もうしないよ。
それに全然見えてなかったって訳でもないようだしな」
朱雀さんは俺を見る。
確かに朱雀さんがこちらに来るのは分かった。
だけど、鬼切丸を出すのは間に合わなかった。
いろはちゃんが助けてくれなかったらやられてたな。
「それで、さっきの事だが。
両方とも1つの事で叶うぞ」
「それは?」
俺は鬼切丸をアイテムボックスから取り出す。
「もちろん、俺を倒す事だ」
朱雀さんはそう言って微笑んだ。
「分かりました。
通らないといけない道なら」
俺は鬼切丸を構える。
「いいだろう。
ほら、これからは一対一だ」
「キミ殿が決めたのなら」
いろはちゃんはこちらを見た後、チャキ丸を納めて後ろに下がる。
「さぁ、立ち合おうか」
俺は頷き、朱雀さんと向き合う。
「僭越ながら、かざまが立会人にならせていただいてよろしいですか?」
「構わないぜ」
「お願いします、セレス」
肩のセレスに声をかける。
セレスは頷いて、いろはちゃんの肩に移った。
「それじゃ、勝負について言っておく。
俺の体に一撃いれればそちらの勝ちだ。
あと、この場は特殊なエリアになっている。
リスポーンしてもペナルティはない。
思う存分、リスポーンしろ。
そっちの負けは、諦めた時だ。
俺に勝てないと思ったら出直せ」
朱雀さんはそう言うと刀を鞘に納めて左手に持った。
両手をだらんとたらし、右足を少し前に出した半身の姿勢。
「これが俺の構えだ。
気にするな。
手加減をするつもりはないが本気も出すつもりはない。
だが、そちらは本気でこい」
「分かりました」
朱雀さんが半身になった時点で、さっきより圧を感じる。
(もちろん、本気でいく。
いかなければやられるくらい、俺でも分かる)
「なら、始めようか」
俺はじっと朱雀さんを見る。
さっきは防げなかったけど、今回は鬼切丸を出している。
(間に合うはず)
「そら、いくぞ」
ギン!
「よ、よし」
「ああ、上手く防げたな」
目の前の朱雀さんが笑う。
「でも、それじゃダメだ」
朱雀さんのその言葉と同時に目の前がブラックアウトした。
「え?」
目が覚めたような感じがした。
「俺は?」
「リスポーンしたでござるよ」
仁王立ちする俺にいろはさんが教えてくれた。
「リスポーン?
あれが」
(初めてリスポーンした。
あんな感じなんだ)
「でも、防いだはずなのに」
朱雀さんを見るとさっきの場所に同じ体勢で立っていた。
「さ、続けるか?」
「もちろん」
朱雀さんの言葉に頷き俺は鬼切丸を構えた。
(さっきは確実に防いだはずなのに、なぜリスポーンした?
何か俺の分かってない事があるんだ)
「始めるぞ」
その言葉と同時に消える朱雀さん。
しかし、多くのホロメンを見てきた俺には、その動きに追い付く事はできる。
ギン!
袈裟斬り。
「そうだ。
それは正解だ。
だが、違う」
目の前の朱雀さんの刀は右下に振り下ろされていた。
そして、また俺は目を覚ます。
「また、やられた」
さっきと変わらず立つ朱雀さん。
いろはちゃんは何かを言いたそうにしているが、じっと我慢しているようだった。
(いろはちゃんにはこのからくりが分かっているんだ)
「どうした?
このまま同じ事を繰り返すのか?」
朱雀さんはじっと俺を見ながら言う。
(何かを見落としている)
俺はそう感じている。
「続けます」
俺は鬼切丸を構える。
「俺は構わないよ。
そっちが折れるまで何度も斬り捨てる」
そして、朱雀さんとの相対が続いた。
「はぁはぁ」
「リスポーンは精神的にきつくなるだろ。
一応、死を体感する事だからな。
ま、それに慣れるのもやばいんだが。
で、どうする?
終わるか?」
あれからどのくらいリスポーンしただろう。
朱雀さんの動きは見えている。
攻撃も防いでいる。
でも、リスポーンする。
こちらから攻撃しても、防がれ反撃され、それを切り返そうとするがいつのにかリスポーンする。
(何故だ?
どうして、防いだ後にやられる?)
「やめるか?」
朱雀さんが静かに聞いてくる。
(何かを見落としているんだ。
何だ?
何を見落としている?)
ふと、いろはちゃんを見る。
いろはちゃんが不意に耳を触った。
(耳?)
いろはちゃんを見た朱雀さんが一瞬、しょうがないなといった顔で微笑んだ。
(いろはちゃんが何かを伝えてくれたんだ。
なんだ?
耳?
は!)
その時、俺の中に電気が走ったような気がした。
(そうか、俺は見落としたんじゃなかったんだ)
「続けさせてください」
俺は何度か目の挑戦をする。
「ああ。
それに何か分かったみたいだしな」
朱雀さんは微笑みながら、あの構えをする。
俺も構えをとる。
(俺の思っている事があっているなら)
「いくぞ」
朱雀さんが消える。
(くる)
ギン!
俺は朱雀さんの袈裟斬りを受ける。
その瞬間、バックステップした。
「く」
左肩から下へと鈍い痛み。
(だが、今度はリスポーンしてない)
着地と同時に俺は回復魔法を自分にかける。
「ほう」
逆袈裟斬りの体勢で朱雀さんはこちらを見ている。
「やっぱり、初め打ち込んできた体勢と違う」
「分かったか?」
朱雀さんはそのまま抜き身のまま立つ。
俺は回復魔法を続けながら頷く。
「二撃目があるんですね。
それも一撃目とほぼ同時に」
俺の言葉に朱雀さんはニヤリと笑った。
「無間二連」
いろはちゃんが俺に向かって言った。
「それが朱雀先輩の技です」
「やっぱり、あのいろはちゃんのヒントは音だったんですね」
俺は回復魔法を終え構える。
(そう、いろはちゃんはあの初めの斬り結びの時の音を教えてくれていたんだ。
朱雀さんの刀を受けた時2回音が鳴った。
それはいろはちゃんが朱雀さんの攻撃をあの一瞬で2回防御した)
「だが、どうする?
それが分かったところで、やりようはあるか?」
朱雀さんが刀を納める。
また、あの構え。
「あります」
俺はそう言って構える。
種が分かれば対策も分かる。
ただ、それが今の俺に出来るかどうか。
俺はふとある事を思い出す。
(そうだ、あれを使えば…)
「では、いくぞ」
そして、また、朱雀さんは姿を消した。
だけど、俺には見えている。
今度は横薙ぎ。
(これならやれる)
俺は迫りくる朱雀さんの刀に打ち込む。
「強打!」
ギャン!
「な!」
そして、俺はそのまま朱雀さんにタックルする。
ドン!
俺の肩が朱雀さんの胸に当たる。
「まさか、俺の初撃に強打を当てるとはな」
朱雀さんが微笑む。
(強打は俺が戦士で覚えた技。
使った相手を一瞬怯ませる。
そう、その一瞬でいいんだ。
一撃目を怯ませた事で二撃目の発動をキャンセルする)
「賭けでしたけど」
「なら、賭けはそっちの勝ちだよ」
その言葉を聞き、俺は朱雀さんから離れた。
朱雀さんも刀を納めて俺から離れて振り向く。
「勝負あり!」
向かい合った俺達の間でいろはちゃんが手を上げて宣言した。
「や、やった」
俺はその場に座り込む。
「ナイスガッツだったでござるよ」
いろはちゃんがこちらに駆け寄り声をかけてくれた。
セレスも肩に乗ってきて頬をペチペチ叩いて労ってくれた。
「まさか、こんなに早く攻略されるなんてな」
朱雀さんは鞘を肩に乗せ愚痴る。
「手を抜いた朱雀先輩の油断でござる」
いろはちゃんが朱雀さんに言う。
「ふ、そうかもな」
ブワァ
『!!』
「な、なんだ!」
いきなり朱雀さんから、感じた事のない圧が放たれる。
「す、朱雀先輩!」
いろはちゃんが焦った声で朱雀さんを呼ぶ。
「な、なんだ、これ」
朱雀さんの刀に付いている魔集石から赤黒い気が溢れだして、朱雀さんを包み込もうとする。
「くそ、これはヤバい!
逃げろおまえら!」
朱雀さんはそう悲痛な叫びをあげた後、そのまま俯いた。
「キミ殿。
いけるでござるか?」
いろはちゃんがチャキ丸を抜く。
「もちろんです」
俺も何とか立ち上がり鬼切丸を構える。
「少しは役に立たないといけないですね」
『え?』
いつの間に肩にいたセレスが、本来の姿に戻っていた。
「長くこの姿にはなれませんが、助太刀します」
セレスの手から暖かい光が俺達を包む。
(回復していく。
それに補助も。
これが本来のセレスの力?)
「助かるでござる」
セレスの光が終わると同時に、朱雀さんが顔をあげる。
見開いた目は真っ赤に染まり、赤黒い気をその身に宿していた。
「コロス」
先ほどまでとは明らかに違う声。
「このエリアの条件も書き換えられています。
リスポーンすれば、キャラデータが崩壊するように設定されました」
セレスが静かに状況を教えてくれる。
「どうすればいい?」
俺の質問にセレスは朱雀さんをじっと見る。
「やはり魔集石が原因です。
あの石を刀から取り除いてください」
セレスの言葉に俺はいろはちゃんを見る。
頷くいろはちゃん。
(いろはちゃんとの共闘。
それにセレスもいてくれる。
なら)
「やれる」
俺は自分に気合いを入れた。
「やるでござるよ」
「おう!」
俺の返事と同時にいろはちゃんは、朱雀さんへと飛び出した。
ギ、ギンギンギンギン!
目にも止まらぬスピードで、いろはちゃんと朱雀さんが打ち合っている。
俺も準備に入る。
(シオン師匠得意魔法。
これでスピードはホロメンにも負けない)
俺は再び絆を結ぶ為にシオン師匠のところに訪れた。
その時に教えてもらった、紫電を纏う魔法。
それを唱える。
「紫電・纒」
解放の言葉を放つ。
俺の体に紫の雷が纏わりついた。
その瞬間、鬼切丸に埋め込まれた宝石が紫の輝きを放った。
『絆を紡いだ相手の力を借りれるようになるじゃろう』おじいさんが言ったあの言葉。
俺のステータス画面の【紫電・纒】の文字が揺らぐ。
そして、【紫電・纒改】へと変化した。
「な」
体に漲る力が上がった。
ステータス上でも倍になっている。
「これが、絆の力。
シオン師匠、力を借ります」
俺は激しく打ち合う2人の侍へと突撃した。
チラッと俺を見るいろはちゃん。
「やぁ!!」
いろはちゃんは力強く朱雀さんを後ろに斬り押す。
朱雀さんがたまらず下がった。
俺はその間に飛び込み、いろはちゃんと変わる。
ギン!
ギンギンギン。
数合打ち合う俺と朱雀さん。
さっきよりスピードも威力も遥かに強い。
でも、さっきまであった朱雀さんの技量がなくなっている。
今はただ闇雲に力をふるってるだけ。
「【模擬真眼・改】【鬼武者】【鬼神大元】!!」
背後でいろはちゃんの声がする。
そして、背後から迫る気迫。
俺はその気迫が背中に来た瞬間にバク転した。
俺の背中の下を通る、緑の気を纏ったいろはちゃん。
「はぁ!!」
チャキ丸と緑の気で出来た刀で、朱雀さんの刀を打ち上げる。
着地した俺は、横に流れるように動くいろはちゃんの横を通り、狙いを定める。
大きく振りかぶらされた朱雀さんの柄の頭に怪しく光宝石。
「ここだぁ!」
俺は紫電を纏う鬼斬丸を突き伸ばした。
ギャン!
石と刀が擦れ合う音。
そして、石が刀から外れ飛ぶ。
ブワッと石から赤黒い気が霧散した。
朱雀さんは力が抜けたように、その場に倒れていく。
ガッ。
俺はなんとか倒れないように朱雀さんを支える。
「ありがとな」
力なく朱雀さんは俺に体を預けながら言った。
「すまなかったな」
縁側に座る朱雀さんは、少し顔色は悪いが正気に戻っていた。
「これってこんな効果もあるんですか?」
俺は手に持つ魔集石を見る。
きちんとセレスに調べてもらって安全は確認している。
「いや、この石にはそんな効果はありません。
何者かに後付けされた痕跡がありました」
セレスが静かに言った。
「なら、他のグランドジョブの方々も心配でこざるな」
いろはちゃんが不安そうな顔で言う。
「俺、すぐに他の場所に向かいます」
「いや、無理をしなくていい。
おまえはプレイヤーだ。
無理をすれば倒れてしまう。
俺達もそこまでやわじゃないさ」
朱雀さんは微笑みながら言った。
「さ、手を」
朱雀さんはそう言ってこちらに手を伸ばす。
俺はその手を握った。
『グランドジョブの試練をクリアしました。
侍のレベル上限が解除されました。
また、朱雀の絆を手に入れました』
「朱雀の絆?」
「ま、それは特別だ。
これから何があるか分からん。
だから、少しでも力になろうと思ってな」
「ありがとうごさいます」
俺は朱雀さんに頭を下げる。
「こっちこそ、ありがとな」
そう言って朱雀さんは笑った。
それから俺は朱雀さんといろはちゃんと別れた。
いろはちゃんは、少し周辺を確認してから【魔王城】に戻るらしい。
俺はイベントエリアを出て、近くの乗り合い馬車乗り場に向かった。
歩きながら地図を開く。
「次はどこにするかな」
セレスは肩の上から「ここはどうですか?」と指差した。
「よし、なら、そこにしよう」
俺はそう答えて新たな場所へと向かった。
お待たせいたしました。
グランドジョブの1人。
グランド・侍の薬師寺朱雀さんの登場です。
いろはちゃんも侍のジョブ持ちなので、もちろん戦って限界を超えてます。
また、刀鍛冶のおじいさんの家が近いので、たまに稽古をつけてもらいにいっているみたいですよ。
ですので良く知っている訳ですね。
さて、次回は新たなグランドジョブの元へ。
誰が現れるかはまた次回のお楽しみという事で。
それではまたよろしくお願いします。
感想もお待ちしてますので、気軽にお願いします。