こちらの作品は「アナザーエデン 時空を超える猫」の二次創作小説です。
極力原作ゲームの世界観や設定に沿うようにしているつもりですが、作者小麦の誤解・曲解が存在する可能性があります。
また創作の都合上、個人の解釈で各キャラクターの過去や背景、未来を描写する箇所があります。
※少しでも世界観を崩したくない方、キャラクターの設定を忠実に守りたい方は読まれるのをご遠慮ください。※
※暴力やグロテスク、性的な表現は含まれておりません。※
※ネタバレについて※
※今回ネタバレに含まれる内容
※ミーユES キャラクエスト
今回の内容について
短編1話完結のつもりが、話が壮大になり過ぎてしまいました。
以上、苦手でない方のみご覧くださいませ。
〜〜
〜ミグランス城 謁見の間〜
「姫様!どちらにいらっしゃいますか!?」
大声で呼び掛けるのは、眼帯の騎士。
「はい。こちらに。いかが致しました?」
高貴な衣装の女性が、少し不安そうな様子で応える。
「はっ!魔獣軍が前線を突破…我が国の主力部隊が敗走したとの知らせが!」
騎士は冷静さを保とうとしながらも、焦りに駆られた様子が窺える。
「何ということ…まさか陛下率いる軍勢が敗けるなんて…お父さま…いえ、陛下は?」
「…騎士団長と共に、消息不明と聞いております。」
「そんな…まさか…」
「…まだ、消息不明というだけで、詳細は分かりません。前線は未だ混乱しておりますゆえ、正しい情報は伝わらないものかと……」
「そうですか…」
王女は少し顔を伏せる。
「……姫様。お辛いかと思いますが…今は…」
眼帯の騎士も苦しそうな顔をしながら言う。
「大丈夫です、承知しております。国王に緊急の事態があった場合、もしくはそう推測される事態の場合、軍の指揮権は騎士団の統括者…その次は嫡子に…私に引き継がれます。」
切り替えたように見える王女が言う。
「左様でございます。前線のセレナ海岸を突破された以上、まずは新たな防衛線を築く必要があります。」
「そうですね…この城から動かせる部隊はどのくらい残っているのですか?」
「私の部隊ともう1部隊で、2部隊は待機しております。」
「王都の西側に駐在している兵は?」
「それぞれは1小隊にも満たない人数ですが…バルオキーや、各村や拠点を守る部隊が点在しております。」
騎士は思案しながら答える。
「そちらの隊を呼び戻して、拠点の防衛へ回しましょう。」
「確か西側には、あやつが遠征中だったはずです。」
騎士が思い出したように言った。
「そうでしたね、彼女が居てくれれば頼りになります。」
「あとは、義勇軍や自警団などですが…」
「義勇軍はあくまで有志の国民です。彼らには補給部隊の支援と、王都の民を保護していただきましょう。呼び戻した正規兵は補給が完了次第、防衛線へ進軍させます。」
王女は毅然と言い切る。
「承知しました。」
「まずは取り急ぎ前線の統率が必要ですね。あなたが先行して、指揮を執っていただけますか?私はもう1部隊を率いて、後から向かいます。」
「承りました。その方が良さそうですな。」
騎士は頷く。
「では、陣地で合流しましょう。」
「はっ。姫様はどうか身の安全を第一にお考えください。私は今や姫様のお側付きではありませんが、いつでも御身を案じております。」
「ありがとうございます。あなたこそ、無理はしないでくださいね。」
「はっ。では準備がありますので、これで失礼いたします。」
「はい。頼みましたよ、ベルトラン。」
王女はベルトランと呼ばれた騎士が向かった先を見ていたが、やがて自らも出立の準備へ向かう。
「……ここまで来てしまっては、戦争を避ける道どころか、止める術すら無いのですね……」
哀しさと諦めを帯びた呟きが、誰にも聞こえず消えていった。
〜セレナ海岸 ミグランス王国軍拠点〜
「奴らを近くまで寄せさせるな!動ける者に弓を持たせるんだ!当たらなくてもいい!」
防壁近くで弓を持つ兵士が周囲の兵に声を掛ける。
周辺は敵味方の死傷者が横たわり、武器や軍旗、物資が散乱している。味方は立っている者の方が少ない。
「このままでは、押されるのは見えている…陛下も騎士団長もいらっしゃらない…どうするべきか…」
臨時で一帯の兵の指揮を執っていた弓兵が呟く。そこへ、誰かの声が聞こえる。
「王都からの援軍だ!」
敗戦色の濃い中の吉報に、兵士たちが沸き立つ。
「勇敢な兵たちよ!指揮官不在の中、よくぞここに留まり、守ってくれた!ここからは、私が防衛線を立て直す!」
眼帯の騎士が大声を上げる。
「おお!ベルトラン様!これは心強い!」
よく通る声での鼓舞により、兵たちの士気が戻った。
「まず、私の部隊で前線へ進軍して時間を稼ぐ!その間に補給物資を下ろしてくれ。そして空になった荷車へ負傷者を乗せて、王都までの退かせよう。」
ベルトランが指示を出し、兵たちは動き始めた。
「さあ…我々は守る為に攻めるぞ!」
「「オォーッ!!」」
ベルトランは作業に入る兵たちと負傷者たち、拠点の崩れた石塁や防護柵を
〜ミグランス城 正門前〜
「私たちも、援軍に向かいましょう。」
周囲には姫が率いる騎士団が出陣の準備を終え、出発しようとしていた。
「姫様!」
動きやすさを重視した青い装束、淡い黄金色の槍を携えた騎士が声を掛ける。
「ミューフィルユ……?もう到着するとは。」
王女は少し驚き、その後に安堵した顔を見せた。
「前線が押されていると聞き、王都へ向かっていたところでした。途中で伝令から緊急招集の命を聞いて、急いで参ったところです。」
「そうでしたか、ミューフィルユが早くに来てくれたのは心強いです。ベルトランが先に向かっています。」
「…その、陛下と騎士団長が敗けたという報せは…」
ミューフィルユが言いづらそうに聞く。
「残念ながら、事実のようです。王都は義勇軍に任せて、残った正規兵で前線を立て直さなくてはなりません。」
王女は冷静さを保って答えた。
「…承知しました。わたくしも共に参りましょう!」
「ええ。助かります。」
2人は兵士たちを率いて城の入り口を離れた。
〜〜
王都の城門を出たところで、ミューフィルユが王女に話しかける。
「姫様、大丈夫ですか?」
「え?」
王女は虚を突かれたようにミューフィルユの方を向く。
「いえ、陛下のことは…」
ミューフィルユは王女の様子を窺いながら言う。
「大丈夫です。心配してくれて、ありがとうございます。」
先刻城の前と同じ、冷静な様子で答える。
「いいえ…どうか無理はしないでくださいね。」
「ありがとうございます…あなたと会えるのが、こんな状況でなければ良かったのですが。」
王女は喜びを表しつつも、その表情は暗い。
「久しぶりですものね。」
「ええ、何年ぶりだったか…」
2人の間で懐かしむ、同じ思いを乗せた空気が流れる。
「でも間に合って良かったです。姫様のことは、わたくしが必ずお守りします。」
「はい、頼りにしています。」
「いざとなれば…」
ミューフィルユは顔を伏せ、自身に言い聞かせるように言う。
「ミューフィルユ?」
「いえ、念の為、わたくしは隊列の前方で哨戒しますね。」
何かを振り切るように言った。
「え?はい。お願いします。」
ミューフィルユは携えた槍を見ながら、隊列の前へと進んでいった。
王女も、先へ進んでいく騎士を見つめていた。
〜セレナ海岸 戦場〜
眼帯の騎士が1人、また1人と敵軍の兵を倒していく。街道から少し外れた平地で、複数の敵兵たちと相対していた。
戦場は、紫を帯びた群青色、魔獣軍の軍旗が大勢を占めている。
騎士は突くというより薙ぎ払う、突くならば身体ごとの突撃、という槍の重量を活かした戦い方で敵を一掃する。
敵の剣や槍、矢は鎧と槍で弾き、一歩も下がらない。
「どうした、掛かってこないのか?命が惜しいのか!?」
ベルトランが威圧する。配下の兵たちは後ろを守る。
敵兵は距離を取って囲もうとしていたが、いくら人数で攻めても不動のベルトランを見て徐々に及び腰になっていった。
その後も魔獣兵たちは幾度か攻撃を繰り返すも、やがて互いに顔を見合わせるようになり、ついに撤退を始めた。
「少しは押し戻せたか。」
退いていく敵兵たちを見ながら呟く。少し先に敵軍の軍旗の並ぶ陣地が見え、風景の一部が群青色と化している。
「よし、追う必要は無い!一旦こちらの陣地まで退くぞ!」
目的は自陣の立て直しと、援軍が来るまでの時間を稼ぐこと。ここまでで充分それを達成できていると判断し、数十人の兵へ指示を出す。
「今の戦闘での負傷者は?」
副官の騎士へ聞く。
「傷を負った者も少なく、それぞれも軽微なもののようです。」
「そうか、こちらの勢いに敵も
「はい、防戦一方だった我が軍が、ここまでの勢いで攻めてくるとは思っていなかったのでしょう。」
「そう何度も通用する手ではない。早く拠点の防御を固めなければならん。」
「はっ。」
〜〜
拠点への戻りの道中、ベルトランはもともと前線に出ていた兵の話を聞いていた。
「陛下と騎士団長は状況を打開する為、拠点を出られ魔獣軍の真ん中へ突撃を…」
兵は最後まで言い切るのは難しい様子で話す。
ベルトランは目を瞑り、深く息をついた。
「その後は行方知れずという訳か。」
「はい…」
「なるほど…そもそもセレナ海岸まで戦線を押されてはいたのだ。その突撃があったからこそ、こちらの拠点を占領するまではできなかったのかもしれない。」
「そうですね…」
拠点を取られれば、その先から王都までは遮るものは無い。
無謀な策ではあるが、防戦で押し切られるよりは賢明。
「さすがは陛下。英断…か。しかし結果的には王都への侵攻を遅らせただけ…とも言える。」
隊列を離れ、誰にも聞こえないように呟く。
「しかし、拠点を立て直したとして、その後はどうする?王都からの兵だけでは劣勢は覆せない…」
自問するところへ、
「ベルトラン様!」
拠点の方からの伝令が駆け付ける。
「どうした?」
「王女殿下が到着されました!」
「分かった。俺も合流するとしよう。」
〜〜
ベルトランが陣地へ戻ると、明るい声が聞こえた。
「ベルトラン!ご無事だったのですね!」
「む?あ、貴方は、いや、お、お前は、ミ、ミューフィルユ…?」
「ふふふ…そんなに驚かれなくても。わたくしも急いで戻って来たのです。」
「…そうだったか。もっと時間が掛かると思っていたのでな。」
「何とか間に合ったようですね。」
「ああ。もう少しで王都まで攻め入られる寸前だった。しかし、劣勢であることに変わりはない。姫様は?」
「わたくしは先頭だったので、もういらっしゃるかと……あ、あちらに。」
ミューフィルユが顔を向けた方に、馬上で甲冑に身を包んだ姫の姿があった。
「ベルトラン!」
王女はミューフィルユの側のベルトランを見つけすぐ声を掛けた。
「姫様!」
「ご無事でしたか。良かったです。」
「ええ、何とか。」
「王都の戦える兵は、私と一緒の兵たちで全員です。この状況で2人が一緒であることは、心強いです。」
王女は話しながら馬を降り、手綱を護衛の兵士へ渡し、2人へ近付く。
「こうして3人でお会いするのは、久しぶりですね。」
ミューフィルユが言う。
「そうですね。こんな戦場でなければ、本当に良かったのですが…。」
「姫様…。」
ベルトランは王女の伏せた顔を見やる。
「いえ、弱気なところは見せられません。これは戦争。戦わなければ国を、民を失ってしまう…。」
王女の様子を見て騎士2人は目を合わせ、ミューフィルユが声を掛ける。
「姫様。わたくしたちの前では、どうか無理をなさらないでくださいね。」
「…ありがとうございます。でも、今は無理をしなければならない時なのです。大丈夫です。」
「そうですか…。」
「まず、拠点を立て直すのですね?ベルトラン。」
王女は上に立つ者の顔を取り戻す。
「はい。防戦では再び崩されるのは自明。攻めに転じる他、生き延びる道はありません。そして、攻める為には足場を固める必要があります。」
「そうですね。ベルトラン、頼めますか?」
「はっ。設営の指示を出して参ります。」
ベルトランが兵たちを分担させ、石塁の積み上げや、防護柵の建て直しを指示する。
「あの、姫様…?」
「どうしました?」
拠点の様子を見ていたミューフィルユが聞く。
「王都からの援軍は、わたくちたちだけ…なのですね?」
「ええ…まだ後発の隊が来る予定ですが、彼らは補給部隊です。」
「そうですか…。それならば、この拠点を固めた上で、仮に攻めに転じられたとしても、こちらに不利な消耗戦であることに変わりはないかと思われます。」
既に考えていたことなのか、淀みなくミューフィルユが説明する。
「確かに…そうですね。しかし、それ以外にできることが…もしかして、何か考えが?」
王女はミューフィルユへ先を促す。
「はい…。勝つまでのものかは分かりませんが…負けない為の作戦を思い付きました。ベルトランとも相談したいです。」
「分かりました。」
そこへベルトランが戻って来るが、不安を口にした。
「物資はありますが、人の手が足りませぬ。精鋭を前に出して時間を稼ぐしか…」
「ベルトラン。提案があります。姫様と一緒にご相談したくて…」
「ミューフィルユ、何か策があるのだな?」
「はい。実際にこの場所の様子を見て、思い付いた作戦なのですが…作戦地図のような物はありますか?」
「ああ、あの建て直している指揮所の天幕にあると思う。」
ベルトランは、設営中の大きなテントのうちの1つを指す。
「では、そこで説明しましょう。」
〜〜
「……なるほど…これは…」
「なかなかの奇策、ですな。」
ミューフィルユの立案を聞いた2人は、地図を見ながら感心している。
「今の戦力を無駄にしないことを第一に考えた結果ですが…。」
「当初は突拍子もない策に聞こえましたが、有効な作戦かと思います。姫様、いかがでしょう?」
「私も、現状はこれ以上の方法は無いかと思います。」
「あとは、不確定要素、というより推論でしかない要素もありますが…」
「それはもしかすると戦局すら変わるかもしれない要素だが、作戦そのものは変わらない。」
「そうですね。予想というより、こうあってほしいという希望かもしれませんが…」
「いや、言われて気付いたが、理屈の通る予想ではある。前向きに捉えよう。」
「姫様、もし予想が違っていたら…」
「いいえ、違っていても大丈夫です。覚悟はできています。」
「…決まりですな。では、私は拠点の兵たちへ声を掛けて参ります。」
ベルトランが指示を出しに動くと、ミューフィルユが引き止める。
「あ、ベルトラン。わたくしも一緒に参ります。その後の作戦についての仔細も皆に伝えますので。」
「そうだな、頼む。」
「私は王都への連絡と、兵たちの様子を見て参ります。」
「承知しました。落ち着いたら、この指揮所でお会いしましょう、姫様。」
「分かりました。」
王女と2人の騎士は、それぞれ準備に向かった。
〜〜
「…この作戦の為に、今やっている作業を…」
ベルトランが土塁や石塁、木材を積む兵たちへ説明をしている。
「そうです。それで、その後の動きは…」
ミューフィルユも別の兵たちへ説明し、質問に答えている。
自陣を一周し、2人は指揮所の天幕の近くへ来ていた。
日は傾きかけ、影は長い。
天幕は出来上がっており、中に置く装備や兵糧が運ばれている。
「これで一通りは説明できた筈だ。」
「そうですね。あとは敵の動き次第ですが…」
「恐らくは今夜、か。」
「魔獣軍からすれば、見通しの良い平地でもあるので、より奇襲のし易い夜に攻撃を仕掛けようとする、はずです。」
ミューフィルユの意見にベルトランも頷く。
「そして敵軍側は勝てる見込みのある中で長期戦をする意味は無い。早くに決着をつけるなら今夜。あとは待つのみだな。」
「はい。ところでベルトラン、もしできればのお願いがあるのですが…」
ミューフィルユは少し間を空けて問いかけた。
「どうした?」
「この後、槍の手合わせをしてくれませんか?」
「構わないが…作戦開始は敵軍次第とはいえ、おそらくまだまだ時間はある。」
ベルトランは手元の槍を見て答える。
「助かります。しばらく実戦から離れていたので、ちょっとなまっていると思って。」
「久々にやってみるか。」
「ふふ、久しぶりですね。お手柔らかにお願いします。師匠?」
「何を言う…いつも言っているだろう。姫様の護身術の稽古のついでだった。何も教えてなどいない。」
「ベルトランこそ、いつもそう言いますが…結局そう言いながらちゃんと、先生をしてくれていましたよ?あれが無ければ、今のわたくしは居ません。」
「ほとんど自己の鍛錬で強くなったのだろう。俺にとってのお前は好敵手として見えている。腕はそうだが、頭に関しては俺も及ばん。」
「それは光栄です。お世辞と言えない程度には、鍛えていたつもりなので、覚悟してくださいね。」
「なまっていると言うのは口実で、実力を試したいだけか。まあいいだろう。」
「ありがとうございます。」
張り詰めた空気が少し緩み、2人とも明るい顔を見せていた。
〜〜
拠点の再建作業も落ち着き、兵たちは交代で休息を取っている。
陽は地平に近く、赤い。
少し開けた場所で、両者が槍を構え対峙する。
青い装束に金色の槍を構える若い騎士。
黒い鎧に大型の槍を構える眼帯の騎士。
「行きますよ!」
「ああ。」
ミューフィルユから仕掛ける。
直線の最短距離を詰め、右手へ全身の力を乗せて突きを入れる。
鋭く風が鳴る。
軌道を見たベルトランは、左へ避ける。
避けた体勢から、そのまま身体を戻す勢いで反撃。
ミューフィルユは退く姿勢に移っており、そのまま大きく下がる。
ベルトランは追わず、構え直す。
間髪を入れず、再び突きを入れる。
彼は横へ避けようとするが間に合わず、大きな槍を斜めに当てて受け流した。
ミューフィルユの槍の切っ先は逸れ、勢いを失う。
受け流されて即座に身体を退き、距離を取った。
間合いを詰め、突き、躱し、退く。
同じ応酬を何度か繰り返す。
両者の位置は初めから殆ど変わっていない。
「さすがはベルトラン。一歩も退きませんね。」
「退くどころか、隙が無くて動けないのだがな。」
「本当ですか?そんなことを言って、余裕がありそうですね?」
「そんなことはない…。」
ベルトランが一歩踏み出し、槍を突き出す。
大きな槍に沿い、風が低く唸る。
ミューフィルユは後ろへ下がる。
ベルトランは避けられたのを見ても槍を下げず、そのまま少し振り上げ、右へ逆袈裟斬りに薙ぎ払う。
ミューフィルユは更に大きく退き、躱す。
躱した反動を利用して、突きを返す。
ベルトランは払った槍、右へ身体の重心を持っていかれている。
しかし半ば背を向ける姿勢で、隙間を埋める形で平型の剣状の金属を付けた外套型の鎧を左手で引き上げ、槍を防いだ。
ミューフィルユは切っ先を跳ね返された勢いのまま槍を回転させ、逆向きに得物を持つ。
穂先と反対側の石突きの部分で、上から打ち掛かる。
ベルトランは正面に向き直り、今度は両手に水平に持つ槍で防いだ。
金属音が大きく響く。
力が均衡し、交差した槍越しに目が合ったのは一瞬。
2人同時に後ろへ下がり、間合いを取った。
今度は互いに動かない。
それぞれ隙を窺っている。
いつの間にか周りで、設営を終えた兵たちが見物している。
1人、また1人と集まるが、誰も声は上げない。
静寂と静止した時の中、均衡を破ったのはベルトランの槍。
低い風斬り音と共に突きを入れる。
ミューフィルユは右横に躱し、突きを返す。
ベルトランは両手で素早く引いた手元から再び、浅く突く。
ミューフィルユは反撃を中断し、大きく右横へ避けた。
ミューフィルユはもう一度、槍を構える。
ベルトランも再度突く体勢。
互いに引かず、ほぼ同時に突く。
軌道は対称的、それぞれの右から突く。
2人共が左半身を下げて避けた。
地平に近い陽が、長い影を作る。
地面の影は槍の穂先が互いを貫いているように見える。
右足が踏み込んだ分、距離は近く、正面の胴を晒していた。
ミューフィルユが先に動く。
槍を上に向け、一瞬手を離して短く持ち直した。
至近距離からの疾い突き。
ベルトランは避けようとするが、近過ぎて間に合わない。
槍を斜めに両手で構え、受け流した。
ミューフィルユは短く持った槍を引き、角度を変えた突きを2度入れる。
ベルトランはどちらも槍で防ぐ。
ミューフィルユは槍を長く持ち直し、直前より重い攻撃を加えようとする。
ベルトランは、両手で防御の構えをとっていた槍を上へ振り上げる。
振り上げられた槍を見てミューフィルユが一歩退くと同時、ベルトランの槍が地面へ叩きつけられた。
大型の槍の一撃に地面が震える。
土煙と砂埃が舞う衝撃。
地に沈んだ槍が、今度は振り上げられようとする。
ベルトランは地から槍を振り上げる勢いから突きに転じる姿勢。
重心が前へと傾く。
だが、その大型の槍の先に、ミューフィルユは左足を掛ける。
てこの原理により、ベルトランが全身で持ち上げる力より、ミューフィルユが片足で押さえる力が小さく済んでいる。
槍を地に押さえられ、防ぐ術の無いベルトランの正面へ槍を構える。
しかしベルトランの槍は止まらなかった。
膂力で槍が持ち上がる。
槍の先から土が落ちる。
ミューフィルユは左足を持ち上げられ、姿勢を崩しそうになる。
刹那、全体重を槍に掛け、両足それぞれで槍と地を蹴り、宙に飛んだ。
ベルトランの視界から、ミューフィルユが消えた。
ミューフィルユはベルトランを飛び越えながら、身体を斜めに回転させ、空中でほぼ横向きの姿勢になる。
そして回転する勢いで、右から槍を突き出す。
ベルトランは振り向きざまに槍を両手で水平に構える。
ミューフィルユの槍の穂先が直角に当たり、金属音が響く。
宙空のミューフィルユは防がれた槍を支点に、腕の力で着地の距離を空けた。
この攻防で両者の息が上がる。
互いの間合いの外で見合う。
いつの間にか辺りは暗くなり、陽が落ちかけていた。
見合うまましばらく動かない。
目を合わせる2人は、同時に構えを解いた。
力を抜き息をつく両者。
「このくらいにしておこう。」
「そうですね。」
2人は互いに手合わせの最中とは違う目を合わせ頷く。
「相変わらず俊敏なことだ。追い付くだけで必死だった。」
「そちらこそ、守りの固いこと…攻め手が見付かりませんでした。」
「やはり戦うと相性は悪い。互いに敵にはしたくないな。」
ベルトランは疲れながらも苦笑いの顔を見せる。
「ははは…違いないです。」
ミューフィルユも苦く笑った。
周囲で見物していた兵たちは拍手を送る者、興奮して今の手合わせの一挙一足について話す者、鼓舞されて自らの戦い方を見直す者、それぞれ解散していった。
「ベルトラン。手合わせしていただき、ありがとうございます。」
「ああ。俺も良い肩慣らしになった。」
ミューフィルユがその場に腰を下ろすのを見て、ベルトランも続く。
「鍛錬の為に身体を動かしたいということもあったのですが、ちょっと考え事をしていて。ずっと頭から離れなくて…」
「考え事?」
「姫様のことです。」
「ああ、あの姫様が戦場に来られてしまった、ということか?確かに心配ではある…」
「はい。そう、争いを好まれない姫様が、無理をされているのではないかと…」
「そうだな…戦闘が激化する中でも、和平交渉を続けられていた姫様のことだ。このようになってしまったのは、さぞ不本意であろう。」
ベルトランは上を向き思い返すように言う。
「ええ…陛下が消息不明であることもあり、その御心のうちでどれだけ苦しまれているか、計り知れません…」
「……我々にできることは、お守りすること。そして支えとなることだ。ここまでの状況になってしまった以上はな。」
「はい…わたくしたちに出来ることをするしかありませんね。」
騎士たちの意志は固い。
兵たちがつけ始めた
「そうだ。国が敗れてしまっては何にもならん。ここへミューフィルユが来てくれたのは幸いだった。」
「国防の要とも言えるベルトラン将軍と、わたくしが揃えば怖いものなどありませんね。」
ミューフィルユも続いて立ち上がった。
「戦力という意味もあるが…知略を尽くせる者が必要だった。今回の策についても、さすがはミューフィルユと言ったところだ。」
「ああ、それは…わたくしは雷心王時代からの戦記や、資料を読むのが好きだから…今回の作戦のヒントも幾つかはそちらから引用しています。」
「そういえば、そうだったな。いつも稽古前に、姫様と俺で書庫へ呼びにいったな…」
「ふふふ…懐かしいですね。」
「ああ。あの頃は休戦をしていて…今よりずっと平和だった。」
ミューフィルユは自身の槍を見て少し逡巡した後、意を決したように話す。
「……ベルトラン。」
「む?」
「今回の戦い、作戦が上手くいったとしても、最悪の結果を逃れられないかもしれません。」
「……最悪の結果を想定しておくのは、戦いにおいて必要なことではある。」
「はい。ただ、もしそうなってしまった場合、わたくしはこの槍に秘められているという力に頼るかもしれません。」
ミューフィルユは自身の槍を持ち上げながら言う、
「確か『救国の槍』…だったか。」
「姫様とベルトランにはお話ししたことがありましたね。聖女メアリの祈りの力が込められたと言われる、この槍のこと…」
「王家の遠戚である騎士の家系、ミューフィルユの家に伝わる槍…。」
ベルトランが後を続ける。
「はい。救国の槍の名の通り、王国の危機に目覚める…という言い伝えの残る槍ですが、わたくしの家では『身命を賭した思いを
「しかし、それも言い伝えに過ぎない、と話していなかったか?」
「はい、わたくしも完全に信じていた訳ではなかったのですが……今は僅かながら槍に魔力を感じると言いますか…力を分けてくれているような気がして。」
「話は本当だったということか。」
「それに今暗くなって分かったのですが、ほら…」
ベルトランへその槍を見せる。
「……何と。うっすらと光っていないか?」
「やはり魔力を帯びているのだと思います。実は王都へ向かう途中から槍からの力を感じるようになり、言い伝えについて少しずつ確信を持ち始めていました。」
「本当に王国の危機に目覚めたのか…」
ベルトランは感心したように言う。
「恐らくは、危機感を感じたわたくしの心に呼応したのかもしれません。」
「なるほど…」
「ただ、本当にこの槍が力を発揮するのか、そもそもどうやって力を発現できるのか、もしできたとしてもどのような力なのかすら分かっていません。あまり頼りにはしない方が良いでしょう。」
「そうだな。」
「同じ聖女メアリゆかりの物としては、王家直系に伝わる『天鼓の袋』の方が信憑性は高いですが、あれは直系に伝わるもので、かつ認められなければならないという伝承ですし…」
「ふむ…どちらにせよ、その槍のことは戦力に数えずに作戦を立てたのであろう?ならばやることは変わらない。」
「そう、ですね。しかし今はこの根拠も無い力に縋らなければ、勝ち目は見えないかもしません。その時は…」
「いいだろう。その時は力を発揮できるよう、邪魔が入らないように力を尽くそう。」
「はい、お願いいたします。」
〜〜
2人が指揮所の天幕へ向かうと、王女が伝令の兵と話していた。
「…では、王都の民の避難の準備もできているのですね?」
「はっ。義勇兵の主導で馬車や荷車の準備と、先に乗せる子供や老人たちの準備もできております。」
「いざという時の備えではありますが、今できることはここまででしょう。王都との連絡は完了です。ご苦労様でした。」
「はっ。」
伝令の兵は下がり、出て行った。
入れ替わりで2人が入って来る。
「ミューフィルユ、ベルトラン?作戦の準備が整ったのですね?」
「はい。あとは敵軍の動き次第です。恐らくは夜明け前に作戦開始になるかと。」
ミューフィルユが答える。
「分かりました。では、我々も少し休みましょう。特にベルトランは戦いの疲れもあるでしょう。」
「はっ。今できることは全て尽くせました。あとは待つのみ、ですな。ミューフィルユ、姫様のことを頼む。」
ベルトランは王女からミューフィルユへ視線を移し、少し頭を下げる。
「はい。わたくしは作戦開始まで、姫様と陣の守りにつきます。」
「分かりました。ミューフィルユ、頼みます。」
「はい。」
「私は作戦の開始地点で休ませていただきます。」
ベルトランは言う。
「ベルトラン、ご武運を…いえ、どうかご無事で。」
「姫様こそ。どうか御身をお大事になさってください。生きていてこそ、姫様の目指される和平への希望はあるものです。」
「ベルトラン…」
「戦うしか能の無い私では、姫様の理想とする世界、戦争を決着させずに和平を実現しよう、というのを想像するのは難しいです。」
「……」
「しかし、姫様は兵たち、私のような戦う者には見えない視点で、戦争の終わらせ方を示されました。戦争に勝つ、武力でねじ伏せるのではなく、対話で戦争を終わらせるとという方法を。」
ベルトランの言にミューフィルユが続く。
「…そう、姫様は戦争が当たり前、敵であることが当たり前の世界でずっと、和平の道を探し、訴え続けられてきました。ベルトランの言うように、戦う身には思い付かない考えでした。」
「戦争がここまで進んでしまっても、対話の道はあるのてしょうか?互いが失った家族、仲間の数は、憎しみの大きさでもあります…」
姫は少し顔を伏せる。
「確かに憎しみで戦う気持ちは誰しもにあります。私も長く戦ってきた分、失ったものも多くあります。しかし、憎しみで戦いを続けるうちに…気づくのです。このままでは延々と終わらない、繰り返しているだけだ、と。魔獣が同じことを思うかは分かりませんが…」
ベルトランは自らの苦しみを吐き出すように言った。
「魔獣も人間と同じく、心はあるはずです。同じように家族も、仲間も、愛する者たちが居るのです。話せば、いつかはお互いが同じであると分かるはずです。」
王女も内にあるものを話す。
「その優しい心を持つ姫様が生きられている限り、希望があるように思います。…いえ、そう信じたい、と言う方が正しいでしょうか。」
「ベルトラン…ありがとうございます。」
「同じ思いであるのは私だけではないでしょう。ずっと戦い続けてきた兵たちや、和平交渉を後押しされていた陛下もそうでしょう。」
「私も、3人で一緒に過ごして、稽古をしていた小さな頃から、姫様の優しさに触れ、その考えを聞いて育ったのです。同じです。」
ミューフィルユは王女の正面から、両手をとり目を見て言う。
「ミューフィルユ…」
「…さて、私はこれで失礼いたします。」
「はい。ベルトラン、お休みなさい。」
「お休みなさいませ、姫様。ミューフィルユ。」
「また明るい陽の下でお会いしましょう。」
ミューフィルユの言葉に槍を上げて応え、ベルトランは天幕を出て行った。
〜〜
天幕の奥、簡素な仕切りの先に並んだ寝袋に、姫とミューフィルユが座っていた。
「さて、私たちも休みましょうか。」
「はい。」
「…ミューフィルユ。」
「姫様?」
「私は、私の掲げる平和が絵空事に過ぎない…対話による和平など、現実的ではないことを、分かっていたつもりです。」
「……」
「最初にお父さまや周りの人たちから空想だと言われた時は、逆に意地で考えを曲げなかった面もありました。」
「ええ。」
「でも、当時は最前線で戦っていたベルトランが側に仕えるようになり、改めて考えたのです。」
「ベルトランが?」
「はい。あの頃のベルトランは、激しい戦いで心身共に疲れ切っているように見えました。お父様はそれもあって、私の側仕えという役職にしたのかと思います。」
「そうだったのですね…」
「彼は戦争のことも、自身のこともあまり語りませんでした。表向きはただ穏やかに優しく接してくれていましたが、一緒に過ごせば過ごすほど、その優しさの反面には心の傷があるように見えてきました。」
「……」
「ベルトランだけではない、兵士もその家族たちも、そして多くの民が癒えない傷を負っているのでしょう。戦争さえ、争いさえ無ければ…私は理想ではない、現実の平和を求めるようになりました。」
「姫様は陛下や家臣たちを説得し、交渉の場を設けられました。戦争が始まって以降、初めてのことです。」
「ええ、でも幾度かの交渉は失敗し、今に至ります。憎しみ合う敵同士、簡単に上手くいくものではないですが…」
「そう、ですね…」
「今は、ミューフィルユの作戦通りに負けないこと。ベルトランの言うように、生き残ることを考えなければなりません。」
「はい。」
「厳しい戦いになるでしょうが…ミューフィルユ、あなたもまずは生き残ることを考えてください。」
「…はい。まずはこの作戦が上手くいくように、最善を尽くします。」
「そうですね…あなたの言葉ですが、願わくばまた明るい陽の下で会えるように。」
「はい。わたくしはもう少しだけですが、お側に居ますので、安心して休んでくださいね。」
「ありがとう。あなたも少しでも休んでください。」
「ええ、お休みなさいませ、姫様。」
指揮所の天幕から離れ、自陣の中から外へ続く道。
ベルトランは歩いていた。
「明るい陽の下で、か。」
〜〜
戦場に近い、王国の陣地内、テントでできた野戦病院。
その寝具の1つに横たわる、片目に包帯を巻かれ、身体に多くの傷を負った騎士が目を開ける。
「…俺は、生きているのか。」
「仲間は…既に全滅していた。俺だけが残ったのか…」
「何故、俺だけが残ってしまったんだ…」
「皆は逝ってしまったのに、俺だけ残されても…」
「あのまま終われば、こんな思いをすることも無かったのではないか…?」
「国の為に、と勇んで向かった戦場が、こんなにも暗いものだとは。」
頭の中で自問を繰り返す。
身体が動かない分、考えばかりが先回りする。
隻眼に映るのは仲間たちの顔、過ごした時間だった。
〜〜
「ベルトラン、わたくしにもやりをおしえて!」
「駄目だ。お前は騎士の家系ではあるが、いずれ姫様の護衛ではなく補佐として仕える勉強の為に、城へ来ていると聞いたぞ。」
「いやだ!わたくしもひめさまをまもるの!」
「いや、駄目なものは駄目だ。」
「ベルトランのいじわる!」
幼い娘が大声で泣き始めた。
「うーむ…」
眼帯の騎士は途方に暮れたように考え込む。
「ベルトラン?私の護身術の稽古のついでに、ミューフィルユの相手をするのはいかがでしょう?」
そこへ少し離れたところにいた王女が声を掛けた。
「姫様…しかし…」
「稽古の時、あなた自身も鍛錬をしているでしょう?それを見せるのはいかがですか?見るだけで学ぶものもあるはず。」
「そういうことではないのですが…」
ミューフィルユはいつの間にか静かになり、成り行きを指の間から見ている。
「それに、私は3人で過ごす時間が好きです。窮屈な王宮暮らしの中、その楽しみすら、ベルトランは奪いたいのですか?」
「姫様、そうは言っておりません!…まあ素振りを見せるくらいなら…」
ベルトランは諦めたように言った。
「やったー!」
少女は両手を上げ喜んだ。
「む?いつの間に泣き止んで…さては嘘泣きか!」
「へっへーん。ひめさまとのやくそくなんだから、ちゃんとまもってね、ベルトラン!」
「…まあいい、あくまで姫様の稽古のついで、だからな。」
「ありがとう!ベルトラン!ひめさま!だいすき!」
「ふふ…ミューフィルユと一緒に居ると、何だか暖かいですね。」
「えー?きょうは、ちょっとさむいよ?」
「そうですね、この胸のあたりが暖かくなるのですよ。」
「えー!じゃあさむいからぎゅーっとして!」
「こら、姫様に何てことを…」
「いえ、いいんですよ。ほら…」
〜〜
明るい陽の下。あの場所を守る為になら戦える。
眼帯の騎士は暗い道へ歩いていった。
夜明けは、まだ遠い。
〜続く〜
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こちらの作品は、原作ゲームである「アナザーエデン 時空を超える猫」の製作・運営に携わる全ての方々への敬意と感謝の上で書いております。
また、個人の趣味で楽しむ範囲の二次創作であり、商用での利用は一切考慮、予定しておりません。
小麦