とある魔眼の殺人貴【凍結中】   作:深淵の守人

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ちょっと遅れ気味の更新です。
今回は外伝の超電磁砲からです。


二話

~二話 兄と妹の現状報告~

 

 

 

あれから数年、俺こと御坂志貴は二度目の高校生活を体験していた。

俺が偶々拾われたここは学園都市と呼ばれる場所らしい。

東京西部に位置する完全独立教育研究機関。

あらゆる教育機関・研究組織の集合体であり、学生が人口の8割を占める学生の街にして、外部より数十年進んだ最先端科学技術が研究・運用されている科学の街。

そして、この学園都市は所謂『超能力』を人工的に開発する場所でもある。

学園都市では全学生を対象に 『時間割(カリキュラム)』という超能力開発が実施されている。

 

伊達に異能の類を見てきただけに軽く不安になったのだが(例をいうなら能力者の犯罪事件とか)、美鈴さん(母さん)によると、警備員(アンチスキル)と呼ばれる警察組織だったり、風紀委員(ジャッチメント)とかいう能力者の取り締まりを行う集団がいるので大丈夫とのこと。

その風紀委員(ジャッチメント)を学生が行っているということには流石に納得し得なかったけれど。

子供に治安を任せるなんてこの学園都市の設立者は何考えてんだと思ったけれど、美鈴さん(母さん)曰く、能力を持たないただの大人が治安を守っているより同じ能力者を当てる方が周りに対する被害も少なく済むらしい。

それに風紀委員(ジャッチメント)は志願者から構成されるものだそうで無理強いではないのだそうだ。

腑に落ちないが、本人たちが納得しているのなら仕方ないのかな、と口にした時、美鈴さん(母さん)が苦笑していたのを良く覚えている。

また、警備ロボットが巡回していたり、人工衛星や監視カメラによって常時監視されているらしい。

一都市が人工衛星打ち上げていいなんてこの世界ホントどうなってんだ、と一人ツッコンでいたなぁ。

 

あれ、話がズレてきてる?

よし、話を戻そう。

学園都市では育脳(かいはつ)と呼ばれるものがあり、薬物投与や催眠術による暗示、直接的な電気刺激などを施すことによって脳の構造を人為的に開発するのだそうだ。

そうして生まれた存在を学園都市(ここ)では、『能力者』と呼ぶ。

能力者は身体検査(システムスキャン)という学園都市内の制度により、定期的に能力レベルの測定を試験と同時に実施されていて、能力の威力、効果範囲、制御などを測っている。

この結果によってレベルが決められ、成績の一つとなっている。

能力は、0から5までの6段階に分けられていて、レベル0を無能力者、レベル1を低能力者、レベル2を異能力者、レベル3を強能力者、レベル4を大能力者、レベル5を超能力者と数字が高くなるごとにランクが高くなる。

 

えっ、俺?

無能力者ですけど?

当然といえば当然なのだが、『直死の魔眼』は学園都市の総合データベースである書庫(バンク)にも登録されていない。

『直死の魔眼』は俺の世界では『魔眼』という名に対して超能力の類であり、この世界の能力で謂うならば『原石』の能力だ。

超能力を科学で作り出せる物と定義されているこの世界と、超能力をオカルトと捉えている俺の世界とでは目線が違うのだ。

その為、俺の『直死の魔眼』は科学では説明できないとなり能力として該当せず、必然的に無能力者となるのだ。

 

これは青子(せんせい)のお姉さんの橙子さんに超能力について手ほどきを受けた時の話だ。

脳をテレビのチャンネルに見立てる。

大多数の人間、超能力を持たない者は常に一つのチャンネル、一番視聴率のいい番組にあっている。

そのチャンネルが一番みんなが見ている番組、謂わば常識なのだ。

常識という中で生きて、常識という絶対法則に守られて意思疎通が出来てしまう。

しかし、少数の超能力者(俺の世界での、だ)は、そのチャンネルを持っていない、あるいは一つ以上の他のチャンネルに常時あっている。

言ったとおり、その世界、時代において、大多数の人間が見ているのが常識とされているならば、彼らが見ている物は異常なのだ。

その他に該当するチャンネルでは、大多数の人間の見ているチャンネルに流れている常識はない。

チャンネルにはそのチャンネル独自の“番組(ルール)”が流れているのだからだ。

そのチャンネルには大多数の常識は通用しない。

だが、そんな異常に社会が気付けないのは、たいていの超能力者は大多数が見るチャンネルと他のチャンネルを使い分けているからだ。

チャンネルなのだから見たい時に切り替えられるのが当然だ。

故に社会に紛れ込んでいる超能力者は発見することが難しいのだ。

 

また、原則的に能力は一人一つしか持てないとされている。

過去に多重能力者の研究がされていたが、脳への負担が大き過ぎるために際限なく失敗を繰り返し、結果として多重能力者の可能性は否定されたそうだ。

 

ああそうそう、因みに我が妹美琴は超能力者(レベル5)だ。

秋葉と言い、美琴と言い、俺は妹より低位置になるのが真理なのだろうか?

この学園都市では能力で上下が決まるので、それによって差別とかあったりする。

最近じゃ美琴も兄の俺が無能力者であることを恥じているのか、俺が頼りないのか口すらきいてもらえなくなった。

後者なら俺が努力すればいいが、前者だったならば流石に傷つく。

昔はあんなに可愛かったのに、なんて言いたくなるのが今日この頃。

現状、兄と妹の関係、良好とは言い難し。

 

「って感じだけど、美琴は母さんに何て言ってるの?………って聞いてる?」

『………くっくく、アハハハハッ!!志貴も大変ね、フフフ』

「酷いな、母さん。こっちは真面目に困ってるのに」

『御免御免。でも美琴が意地っ張りなのは貴方も知ってるでしょう?少し時間をあげたら?』

「解ってるよ。美琴だってもう中学生なんだし、兄を鬱陶しく感じてんのかもしれないけど、最近会ったとき露骨に顔逸らされたんだよ?流石に傷つくよ………」

『だからこそ、よ。時間って言うのは現在の解決できない問題をたいてい解決してくれる物よ。気長に待ちなさい』

「それって母さんの職柄上認めていい言葉?………まあ、やってみるけどさ」

『うんうん、流石お兄ちゃん。あ、もうそろそろ時間だから切るわね。また面白い話があったら連絡頂戴ね♪』

プッと電話が切れる音が携帯の受話器から聞こえてくる。

「ハァ、これ一応相談の電話だったんだけど………」

相変わらずの調子で母さんが元気なのが解ったから、まあ良しとしますか。

ベッドのわきに置いてある魔眼殺し(メガネ)をかけ、制服に着替える。

現在朝七時、今日も一日が始まる。

 

 

 

 

二度目の高校生活は学園都市内で最もレベルの低いとされる学校だが、それなりに充実している。

と言うのも、前の世界じゃ四季の能力による影響で頻繁に体調崩していたから殆ど休みがちだった。

まともな高校生活を送れなかった俺としては非常にありがたいものだ。

無能力者だから一つの成績は確実にゼロだが、学業に関しては前の世界で学んだことを復習してるような感じだから割と成績はいい。

学年で五位ぐらいだからこれで能力が使えたら、などと職員室で話題に上がっているのを聞いた時は流石にへこんだが。

 

「なぁ、志貴。お前の妹、どうにかなんないの?」

寮への帰宅の際、ツンツン頭が特徴的な黒髪の友人、上条当麻が話しかけてくる。

こいつとは、前の世界で言う有彦みたいな存在で、俺と同じ無能力者だ。

高校で初めての友達が当麻だったりする。

「無理だって。最近じゃ目も合わせてくれないのに、俺がどうにかできると思う?」

「ああ、不幸だ。昨日なんか逃げ切るまで1時間もフルマラソンしてたんだぜ?最近日に日に使う用途増えてるし、俺このままだと何時か殺されるよ」

ああ、砂鉄のチェーンソーとかね。

「当麻が正義感が強いのは解るけど、美琴に関しては放っておいてあげた方が吉だよ?美琴は本当は優しいから、無能力者にはちゃんと加減するし」

「あのぉ、そこに俺は入ってないのでしょうか?」

「その右腕を能力だって言わないならね」

「ですよねー」

ハァ、と項垂れる当麻。

彼も同じ無能力者(レベル0)とされている異能の持ち主。

確か、異能の力なら例えそれが神の奇跡だろうが問答無用で打ち消す『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と言う能力を持っているらしい。

なんでも俺と知り合った次の日に美琴が不良に絡まれているところに遭遇して人助けのつもりで介入してその能力を使ってしまい(美琴に対してだそうだ)、今に至るらしい。

美琴にしてみれば、レベル0に庇われるのが癪に障ったのだろう。

その上、事あるごとに当麻に戦いを仕掛けて全敗(当麻は逃げるのが目的なのだから、怪我一つ無く逃げ切っている当麻の勝ちに他ならない)しているのだから、そりゃあ対抗意識も湧くだろう。

 

そんなことを考えていると、リン、と鈴の音が鳴る。

辺りを見回すと、そこには黒猫(レン)がいた。

「レン。迎えに来てくれたの?」

そう言う俺に、レンは近づいてきて足に擦り寄る。

「ああ、お前の所の猫か?どうしてこんな所に居るんだ?」

そう当麻が言うと、何処からかチラシを持ってくる。

「えっと、クレープ屋が新しく出来たんだ」

そう言えば、最近はレンにケーキを食べさせてあげられなかったな。

その代わりと言ったところだろう。

「成る程、食べに行きたい訳ね。はいはい、じゃあ行こうか。悪い、当麻。今日は寄り道して帰るわ」

「おーう。後で感想聞かせてくれー」

そう言って、当麻と別れた。

 

 

 

 

大きなビルが立ち並ぶ中心にある小さな公園で、件のクレープ屋はあった。

だが、今日は見学に来ている子供たちが居るのか、親子連れの人々で列が出来ていた。

「人気があるのか。レン、ちょっと遅くなるかもしれないけど我慢してくれ」

そう言う俺に、レンは素直に頷き列の先頭を見つめていた。

数十分並ぶこと、漸く列の先頭まできて注文が出来た。

メニューに納豆があったのは何というか呆れてしまった。

別に学園都市(ここ)じゃあそういうゲテ物は珍しくない。

自販機で『いちごおでん』とか作成者の味覚を疑いたくなる飲み物が売られているぐらいだからだ。

ていうか、学園都市の食品衛生法はどうなってんの?

それはさておき、代金を払うと最後の一つです、とカエルのキーホルダーを貰った。

こういうの美琴が好きそうだなぁ、なんて考えていると後ろでドサッと音を立てて崩れ去る影。

突然の事に吃驚するも、その子の髪の色は艶やかな茶色で………最近避けられている美琴だった。

「えっと、美琴?何やってんの?」

「は。え、何でアンタがここに居んのよ!?」

「いや、クレープ買いに来ただけだけど………何に落ち込んでるのか知らないけど、これ上げるから元気だしなよ?」

そう言って、さっき貰ったキーホルダーを渡す。

「………いいの?」

「どうせ美琴にあげようと思ってたし」

「………なら貰っとく」

それだけ言うと、美琴はまたそっぽ向いてしまった。

ああ、何か会話が全然続かない。

昔みたいにはいかないか。

「あのう、どちら様ですか?」

恐らく美琴の友達なのだろう。

近くにいた長い黒髪の女の子が話し掛けてきた。

「ああ、えっと………」

美琴をちらっと見る。

明らかに不機嫌そうだ。

でも聞かれている以上答えなければならないし。

「御坂志貴、美琴の兄です」

「あ、お兄さんだったんですか?」

「まあ、ね」

もう一度様子を見る。

さっきより不機嫌さが上がっているような気がする。

これ以上ここに居るのは拙いか。

経験上(秋葉とか)、この手の場合は長いしないに越した事は無い。

レンを連れて離れようとした時だった。

「何処に行くのよ。丁度いいから一緒に食べるわよ。どうせ場所取ってないんでしょ?」

美琴に捲くし立てられてしまった。

どうやら、逃げるのコマンドは不可らしい。

 

 

 

 

片手にクレープ、もう片方の手で肩に乗るレンを落ちないように押さえながら美琴と同じ茶髪を左右に結んだ常盤台の制服の女の子と花飾りを黒髪に乗せた女の子が座るベンチに案内される。

ツインテールの女の子が美琴の隣を歩く俺を見て怪訝そうな表情になる。

「お姉様、そちらの殿方は?」

お姉様って誰?なんて思っていると、美琴が言う。

「私の兄さんよ」

別の意味で衝撃だった。

美琴が、まさかそんな趣味だったと―――――

「勘違いしないでよね!こいつが『お姉様』とか呼んでるのは勝手にやっていることで、私が呼ばせてるんじゃないんだから!」

やや興奮気味で、勘違いする前に訂正してくれました。

んんっと咳払いをして、ツインテールの女の子が改めて話し始める。

「お初にお目に掛かりますわ、お姉様のお兄様。(わたくし)白井黒子と申しますの」

「あ、ご丁寧にどうも。兄の御坂志貴です」

着ている制服が美琴と同じって言うことは常盤台中学か。

流石お嬢様学校、言葉遣いまでキチンとされている。

美琴は外じゃ砕けてるけどね。

次に横に座っていた女の子が挨拶してくれた。

「私は初春飾利って言います。よろしくです」

こちらは、おっとりした性格なようで話すペースが少々遅い。

甘ったるい声がそれをより一層引き立てている。

そして一緒に来た長い黒髪の女の子が思い出したかのように言う。

「忘れてた。まだ自己紹介してませんでしたよね?私、佐天涙子です。よろしく、先輩」

佐天さんは美琴に劣らず活気のある女の子みたいだ。

そして、全く関係ないことに気付く。

男子一人の割合に女子五人(レンも含めて)、居心地悪すぎる。

「あー、美琴。邪魔しちゃ悪いから俺は別の場所で―――」

「いいから座りなさい」

「はい………」

何でかな、秋葉と言い、美琴と言い、逆らえる気がしない。

俺は大人しくベンチの端に座るのだった。

 

 

 

 

アイツは、私の兄なのに本当に頼りがいが無い。

無能力者だし、おきらくだし………。

別に無能力者だから嫌っているわけではない。

あいつが自分が無能力者(レベル0)だということに対してなんとも思っていないことが腹立たしいのだ。

小さい頃の私は何時もアイツに助けられて、何時かお兄ちゃんを悪から守れるくらい強くなりたい、そう思って努力し続けた。

その結果、今では超能力者(レベル5)になった。

なのに、アイツは能力者になりたがらない。

なろうとしない。

努力をしないでそのままなんて負け犬同然だ。

私が慕っている(アイツ)が、だ。

無性に腹が立つ。

だから私はアイツを避けるようになった。

中学に上がってからはよりそれが顕著になっている。

顔を見合わせただけでわざと顔を背けたり、無視したり………。

私は意地っ張りだ。

だからどうにかしないと、と思って空回りする。

アイツが無意味に争いの火種になりかねない力を欲しがらない平和主義者だということは解っている。

だって、アイツは優しいから。

私に笑いかけてくれたあの優しげな笑顔は本物だと思うから。

 

「お姉様~」

腹部に腕を廻し、黒子が抱きついてきた。

「ちょっ、黒子、離れなさいっ!!」

身を捩って脱出を試みるが、逃げられない。

「何のつもりよ!離れなさいってばっ!」

あいつや初春さん達から離れた場所で何時ものように奮闘(じゃれあい)が始まる。

「お兄様がいらっしゃる今のうちに(わたくし)とお姉様の関係を見せ付けておいて差し上げないと!お兄様がお姉様の将来を心配なされますの!」

「要らないわよ、そんな必要!!」

奮闘(じゃれあい)は数十秒におよび、黒子が引き下がる形で収まる。

「?どうしたのよ?」

何時もならこのまま第二ラウンドまで突入するのだが。

「お姉様は、あのお兄様の事嫌ってらっしゃりますの?」

「ハァ?いきなりね。何でそんな風に思うのよ?」

「気付いてらっしゃりませんの?何時に無く険悪な表情になっていらっしゃりましたの」

え?

「そんなに?」

「ええ。端から見たら空気がギクシャクしているの丸解りですわ」

そんなに表に出ていたのだろうか。

最近どうも不安なのだ。

自分でそうしているのだけれど、アイツと話す機会が無くなくて私の知っているアイツに自信がもてなくなってきているのだ。

もしかしたら昔のように接してくれないかもしれない。

さっき貰ったばかりのキーホルダー(これ)に関しては嬉しかったのに、素直に言葉に出せず結果的に空気をより悪くして、もしかしたら愛想尽かされたかもしれないなどと想像に想像が絡み合ってジレンマに陥る。

「何かあったのでしたら、(わたくし)がビシッと―――」

「ああ違うのよ、黒子。全部私が悪いんだから。ただの自己嫌悪よ」

「何か理由でも?」

………仕方が無い。

話せば気が楽になることだってあるし、黒子には話しておくか。

 

 

 

 

「「義兄妹?」」

「そうなんだ」

美琴達が離れて白井さんとじゃれ合っている中、レンにクレープを食べさせてあげながら、初春さんや佐天さんにさっきの険悪な雰囲気になった大凡の理由を想像で言っていた。

「美琴がまだ七歳の時に、路上で倒れてる所を拾われてね。だから兄妹って言っても血は繋がってないし、そういうのも原因の一つかな。一種、俺は他人だしね」

「そう言うもんかな。漫画とかならくんずほぐれつになったりするんじゃないの?」

おいおい。

「佐天さん、茶化しちゃ駄目ですよー。お兄さん真面目に悩んでいるみたいですし」

「御免御免」

佐天さんは佐天さんなりに気を紛らわそうとしてくれたのだろう。

「まあ何と言うか、隔たりがそう言うところにあるんじゃないかなってね。御免ね、遊びに来てたのに空気悪くしちゃって」

「ああいえいえこっちは気にしてないんで先輩も気にしなくていいですよ。でも私達はあんまり力になれそうにないかなぁ。今日知り合ったばっかだし」

「あ、そうだったの?」

「初春の知り合いが白井さんで今日は白井さんの伝で御坂さんとも知り合ったんですよ」

「なら尚の事居心地悪かったでしょ?俺は(レンが)食べ終わったらすぐに帰るつもりだから、皆で遊んできなよ」

俺はそれだけ言うと、何やら二人で話している美琴と白井さんに視線を向ける。

「先輩はいいんですか?」

唐突に佐天さんが聞いてきた。

「ん?何が?」

「御坂さんとこのままでいいんですか?」

痛い所ついてくるなぁ。

「今はお互い無理する必要は無いんじゃないかと思うんだ。今までは楽しかったんだ。だから、これからもきっと楽しいよ」

何時か青子(せんせい)と話した時、言った言葉だ。

どうせ未来なんて解りっこないんだから、信じた方がきっと楽しい。

そんな言葉を聞いて、佐天さんは何処か安心したような顔をする。

「先輩もちゃんと考えてるんですね。なら私達がどうこうする必要も無いみたいだし、後は『頑張れ』という事で」

「うん。何か相談乗ってもらっちゃったみたいで悪いね。今度なんか奢るよ」

「ホントですか!?流石、先輩!」

佐天さんが喜ぶ中、ヒョコッと横から初春さんが顔を出して言う。

「佐天さん、最初からその気満々だったじゃないですか。いの一番にメアド交換したりして」

図星だったのか、佐天さんの顔が少し赤くなる。

「ちょっ、初春!この、軽い口にはこうだ!」

そう言って、佐天さんは初春さんの頬を両方から引っ張る。

いふぁいですよ~、と言いながら初春さんが抵抗する。

何だか、遠い日の夢を見ている気分だ。

ベンチの背もたれに寄りかかり、空を見上げる。

「ん?どうしたんですか、先輩?」

振り返った佐天さんに聞かれる。

「いや、何か平和だなぁって」

そう答えると、何ですかそれ、と佐天さんは苦笑を漏らした。

 

 

 

 

「要するに、お姉様はお兄様の事が好きなんですね?」

なんて黒子が言うものなんだから、一口齧ったクレープが器官に入ってしまった。

「な、何言ってんのよ!ていうか、どうなったらそういう考えになる訳!?」

「しかし、そんなことは認めませんの!!例え血の繋がりの無い兄妹だとしても!!」

「聞きなさい!!」

だが黒子は既に一人妄想の世界に飛び立ってしまっている。

こうなれば手のうちようが無いので、放っておくとする。

結局悩みの解決にはならない。

後目で見ると、もう食べ終わったからなのか何処かへ行こうとしているアイツが目に入る。

この機会を逃せば、次何時になるかわからない、そんな焦りが生じて走り出した。

 

 

 

 

「ちょっと!何処に行くのよ!?」

あ、美琴に見つかった。

まいったな、もう帰るつもりだったのに。

「ああ、もうそろそろ帰ろうかと思ってね。夕飯の支度しなくちゃいけないし」

「だからって何も言わず帰ろうとしなくていいでしょ!?」

「ええっと、何ていうか邪魔しちゃ悪いかなって」

だから睨まないで下さいお願いします、と。

「もう。今度ゆっくり話したいから暇空けといて」

「へっ?」

意外だ、美琴から話があるだなんて。

いや、丁度いい機会なのだろうけれど。

用件が済んだのか、美琴はすぐにそっぽ向いてしまった。

「良かったじゃないですか、先輩。嫌われてないみたいで」

「あははは………有難う、佐天さん」

佐天さんに応援された。

しかし、白井さんが面白くなさそうにこちらを見ているのは何故か。

その視線に耐え切れなくなり、視線を逸らすと何かを見つめている初春さんが目に入った。

「どうかしたの、初春さん?」

「あ、いえ。あそこなんですが………」

そう言って指を指す。

「銀行?」

「はい。どうして昼間にシャッターを閉めてるのかな、って」

言われてみれば………。

同時だった。

響く轟音。

シャッターは爆風で吹き飛ばされ、中からけたたましい警告音(アラート)と煙が漏れる。

「初春!」

「は、はい!避難誘導と警備員(アンチスキル)の要請ですね!?」

二人は慌しく盾をモチーフにした腕章をつけると駆け出した。

………それにしても真昼間から強盗とは、

「節操の無さに呆れるな。全く」

ポケットの奥に突っ込んでいる愛刀(七つ夜)に手を掛けた。

 

 

 

公園に来ていた見学者達の避難を開始した最中、子供が一人いない事に気付いた美琴達は子供の捜索を開始した。

散り散りになって捜索していた際、強盗犯の一人が件の子供を人質にしようとし、それを涙子が止めようとした。

子供を奪いかいされ、逆上した強盗犯が涙子に蹴りを入れようとした。

数秒と立たずに当たるだろう蹴りの痛みを想像し、涙子は目をギュッと閉じた。

 

その瞬間、何かが二人の間に割って入る。

蹴りは当然それに当たる。

 

ガツッ

 

鈍い音がする。

しかし何時までも来ない痛みに不思議に思い、涙子は目を開ける。

そこには日本人特有の黒い髪を持ち、眼鏡を掛けた青年。

先程話していた時に見せた柔和な顔が霞むほどの鋭い目をした殺人貴(志貴)がいた。

片手は蹴り上げられただろう脚を低い位置でしっかりと止めている。

志貴はゆっくり口を開いた。

「言いたいことは色々あるけれど。まずはさ、子供や女の子に手は出しちゃ駄目でしょ?」

場違いな台詞だが、今の志貴には何処か畏怖するべき何かが感じられ、強盗犯も動揺し脚を戻し怒鳴る。

「うるせぇ!!餓鬼がヒーロー気取ってんじゃねぇッ!!」

言葉と同時に発せられる拳。

しかし、突然志貴がぶれたかと思うと、強盗犯は宙を舞っていた。

 

                 閃鎖・一風

 

まるで重さを感じてないかのように軽々と投げ飛ばされた強盗犯は強く腰を打ちながらも立ち上がり、車に乗り込む。

「あちゃー。叩きつけておくべきだったかな?」

走り出した車を見て呟く志貴。

しかし、その心配は杞憂だった。

強盗犯の車が戻ってきたのだ。

 

 

 

 

「逃げればいいのに」

俺は強盗犯の視線の先を見る。

そこには美琴がいた。

拙い。

何が拙いって、今明らかに怒っている美琴に突っ込む事がだ。

美琴は誰かが傷つくのを極端に嫌う。

俺は兎も角、佐天さんが蹴られそうになったのを見過ごす美琴じゃない。

下手したら怪我じゃ済まないかも。

そう思った時、魔眼殺し(メガネ)を外す。

世界(しかい)が一変する。

黒い線が至る所に走り、黒い点が点在する死があふれた世界。

構うことなく、美琴の前に出た。

 

 

 

 

「ちょっと何やってんのよ!!」

超電磁砲(レールガン)の射線上に出てきたアイツに怒鳴る。

しかし、何処か様子がおかしい為、思わず口を噤む。

まるで()()()見えているように視線を一点に向けている。

その眼は()()()()

アイツが口を開く。

「少し怪我するかもしれないけれど、悪く思わないでくれよ」

そう言って何時の間にか手にしていた短刀をアスファルトに()()()()()

その瞬間、突き立てた短刀を中心に亀裂が走り、地震が起きた後かのように地割れができる。

此方に突っ込んできていた車は足を亀裂にとられ、ハンドル操作ができず、電柱に突っ込んだ。

幸い強盗犯は気絶しただけみたいだ。

唖然としている私達をおいてアイツは何処と無く他人気に言う。

「このとおり、ただの無能力者の餓鬼がやる事だってあるんだからさ。これに懲りたら少しは大人としての自覚を持つことだな」

眼鏡を掛けたアイツは何時もの様な雰囲気で黒子の追及をやんわりかわすと、黒猫(レン)を引き連れて帰ってしまった。

 

去り際の背中を見ながら、さっきの違和感を感じつつも、アイツは相変わらず優しいと再認識したのだった。

 

 

 

 

 




次から本編です。
成長した志貴と美琴との間に少し距離があります。
カップリング考えてませんけど、どうせなら志貴にデレて欲しいですね。
はてさて、この作品の美琴は何時デレるだろうか。
次回をお楽しみに。
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