えりな様
初めてあの編入生、中條リョーマと会ったときは編入試験のときだった。
異質で異常。
それが彼の料理を食べたときの印象だった。
…まぁそこそこ……私の方が絶対にもっとおいしく作れるわよ。当たり前! ……美味しいエッグベネディクトを作ってくれたわ。けど、火の入れかたも甘いし、その他にも色々と調理上のミスも目立った。
まさに独学で学んだだけの素人料理。
それなのに……そんなことを帳消しにするかのような旨さがあの料理にはあった。
だからこそおかしい。料理とは完璧な食材と完璧な調理によって完成するもの。
だけど彼の料理には調理なくして完璧に近かった。
この私が合格させるかどうかについて考えすぎて、完食してしまうほどに……。
だからこそ、まぁ編入生にしてはなかなかやるやつね…と思った。
最後の挑発がなかったらだけどね!
幸平ソーマにしても彼にしてもどうしてあんなに挑発的な態度をとったのかしら!!
とっても腹立たしいわ!
…幸平ソーマは絶対に許さないとしても、中條リョーマに対する怒りは始業式の時になくなった。
ま、まさか彼が緋沙子のことをす、好きだったなんて…ね。
どうやら編入試験のときに一目惚れしたみたいだし……。
私は恋というものを生まれてからしたことがない。憧れてはいるのだけれどね…。
だから少し中條リョーマと緋沙子が羨ましかった。
中條リョーマも顔の造りはいいし、料理の腕もまぁ、これから遠月で退学になることなく学んでいけばかなりのものになるだろう。
そんな彼に一目惚れされるなんて緋沙子はまるで、あ、あの少女マンガの主人公みたいだ…。
最近では毎日緋沙子と彼についての話をする。
そうすると緋沙子は顔を赤くして照れてしまう。
それを見てるとカワイイなーと思う。
恋ってすごいなーと思う。
きっと二人はこの学園で幸せなカップルになるのだろうなって思う。
…けどそれが儚い夢となりそうだった。
私は遠月の十席、研究棟はいくらあっても足りない。
だから丼研に圧力をかけて食戟をさせようとした。
行ってくれたのは同じ学年の水戸さん、彼女なら丼研の部長なんて容易いだろうと思ったから。
けどいざ食戟の内容を聞くとなんと戦う相手はあの中條リョーマだ。
しかも退学をかけてだ。
私は耳を疑った。
もし負けたら、緋沙子と彼の恋はどうなってしまうのだろう。
できれば退学にならないでほしい。けれど、研究棟は欲しい。板挟みの気持ちだ。
そして早くも食戟の日がやって来た。
上からの観客席に入ったのだけど、調理台のところで立っている彼と目があって腹が立った。
あなた、緋沙子のことはどうするのよ!って。
けれど彼はあっさりと勝ってしまった。
調理パフォーマンス…すでにそれを行った時点で彼は勝利していた。だって私を含めて此処にいる皆が彼の方しか見ていなかったもの。食べる前からあっちを食べたいと思わせた時点で彼の勝ちよ。
…狙ったのかどうかは定かではないけれどね。
あと私ならそんな小手先の技を使わなくてもいいレベルの料理人だけれどね。
それに彼がパフォーマンスを行おうと、私の完璧な料理なら余裕で勝てるわ。今程度の技術しかもたないのならね。
……退学にならなくてうれしいのだけれど研究棟が増えなくて残念だし、なんだか微妙な感じね…。
まぁいいわまた違うところからもらえばいいか。
秘書子ちゃん
私の人生はアイツと会ったときから狂わされたようなものだ……。中條リョーマ…あの男絶対に許さん!!
奴に、そ、その告白されたときから毎日毎日えりな様が私をからかってくる。
そのたびに私の頭にはあの男が浮かんで、少し顔が赤くなる。それをまたえりな様に指摘されてさらに顔が赤くなる……。
本当にやめて欲しい……。
それに最近たびたび女子から遠巻きに見られたり噂されるようになってしまった。
あの中條くんが好きな子なんでしょ?
えーかわいいけどさ、彼に比べたら…ねえ?
あの子より私の方がかわいいし…
ふふふふふあなたさえ消えれば私がえりな様の秘書に……
もうたくさんだ!!
た、確かにカッコいいけど……。今までそれほど気にしていなかったが、所謂好みのタイプというやつだし…。
け、けれど奴は無理!絶対に無理!
そんな時に最近えりな様の周りをチョロチョロしている水戸郁魅と中條リョーマが食戟をすると聞いた。
しかも中條リョーマは退学をかけてだ。
……心配なんかしてないんだぞ。負けてほしいと思ってるんだ。
…本当だぞ。
えりな様の秘書であるからにはえりな様の小飼である水戸郁魅には勝ってもらわなければいけない。
けど……
まぁそんな心配は及ばなかったようだ。
奴は勝ったのだ。
その時私は少しだけホッとしてしまった。
水戸郁魅が負ければえりな様の品格が落ちてしまうというのに。
そんな自分に気がついたときに奴がこっちを見ているのがわかった。
えりな様が去っていく。
従者である私はそれについていくときにキッと奴の方を見て、あっかんべーをしてやった。
散々振り回した罰だ。