νシン・アスカは伊達じゃない!   作:DestinyImpulse

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 今回から地球編が始まります!


17. PHASE-17【刹那の安らぎ】

 

 地球連合軍第八艦隊の決死の防衛戦のお陰で地上へ降りたアークエンジェルは本来の目的地から大きく離れ、アフリカ大陸北部の砂の海に辿り着いた。

 

 

「お兄ちゃん…!キラ先輩…!」

 

 そんなアークエンジェルの医務室で不安げにマユが呟く。彼女の視線の先には、高熱を出してうなされているシンとキラの姿があり、その顔に浮かんだ汗を冷えたタオルで拭いている。

 

 あの後、アークエンジェルに戻って来た二人はコクピットで気絶。それに気づいたクルーが総出で運び出したのだ。

 

「だからさ、感染症の熱じゃないし、内臓にも特に問題なし。今はとにかく水分を摂らせて、できるだけ体を冷やしておく他、ないでしょう」

 

 医務室の診察スペースにて、軍医がサイ達に説明している。しかし、地球軍の軍医からしてもコーディネイターを診るのは初めての事であった。

 

「まぁ俺だって、コーディネイター診るのなんて初めてなんでね…あまり、自信持って診断出来るわけじゃないけど。連中、とにかく俺達より遙かに身体機能は高いんだからさ、そう心配する事はないって」

 

「でも……」

 

「見た目俺達と同じに見えても、中身の性能は全然違うんだぜ?」

 

 何かを言おうとするミリアリアに、シンとキラは中身の性能は全然違うと軍医は説明する。

 

 コーディネイターは人が望むように遺伝子を操作して作られた存在だ。肌の色や毛髪だけでなく瞳の色や潜在能力と言った人体の殆どを自分の望むままに組み替えて生み出される存在。

 

「二人が乗ってたコックピットの温度、何度になってたか聞いたか?」

 

 軍医の問いに、サイたちは首を横に振ると、彼はお手上げと言わんばかりに肩をくすめた。

 

「俺達だったら、助からない温度だったそうだ」

 

 大気圏突破により高温に熱せられたコクピットは、“常人”が長時間耐えられる温度を超えていたらしい。

 

 その後、二人の様子を見たムウへの説明に席を外した軍医。そんな二人の会話を聞きながらサイは寝込むシンとキラ、そして二人を看病するマユを見て…。

 

「……性能が違う、か」

 

 そう呟いた。

 

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 時は少し遡りムウとマリューは、艦長室で互いに難しい顔を突き合わせていた。

 

「ここがアラスカ……」

 

 ムウが地図を指差しながら、今後について思考する。

 

 無事に離脱したハルバートンの裁量により、ムウやマリューを初め、クルー達は一階級昇進を果たしている。それに伴い、志願して軍務についたヘリオポリスの子供達も、二等兵待遇で戦時任官されている。むろんキラもでありパイロット待遇と言う事で少尉だった。

 

 シンとマユはモルゲンレーテの根回しでジャンク屋扱いなので例外だ。

 

「そんで、ここが現在位置。嫌な所に降りちまったねえ。見事にザフトの勢力圏内だ」

 

「仕方ありません。あそこでストライクを見失うわけにはいきませんでしたから」

 

 そう言って、マリューは沈痛な表情を作る。自分でも、幾分か言い訳じみているという自覚はあるのかもしれない。

 

 沈む表情をしているマリューをムウは心配そうに見つめる。

 

 マリューはまだ若いし、そもそも技術士官だ。しかし敵に包囲されたこの状況下を艦長として、クルーの命やハルバートンの意思を背負わなければならない。

 

 しかし、現在地のジブラルタルは今はザフトに占領されて敵の一大拠点と化している。それに伴い、近海の制海権はほぼザフト軍に握られていた。のこのこ出て行けば、群がってくるザフト軍に袋叩きにされるのは明白だった。

 

 勿論、こんな敵地のど真ん中では援軍も期待できない。アークエンジェルは自力で脱出し、敵陣を横断しなければならないのだ。

 

 しかしマリューは、あの大気圏突入時の決断が間違っていたとは思っていない。あそこで幼い2人の命を見捨てる事ができなかったのだ。

 

 無論、それにはムウも同意だ。

 

「ともかく、本艦の目的、及び目的地に変更はありません」

 

 そこに何があろうとも、アークエンジェルは敵の勢力圏を中央突破してアラスカを目指す事が求められているのだ。

 

 強気に話すマリューの顔を、ムウは覗き込む。

 

「大丈夫か?」

 

 穏やかな目と口調に、マリューもムウを見返す。

 

「副長さんとも?」

 

 不意の質問に、マリューは僅かに身じろぎした。

 

 正直、問題は外ばかりではない。マリューはナタルとの間に幾つかの食い違いがあると感じていた。

 

 ナタルの事は嫌いではないし判断や指示は的確だ。自分には過ぎた副官であるとも思っている。だが規律や規則よりも、クルーを重視しがちのマリューとは意見が衝突してしまう時があるのも確かだった。

 

「大丈夫よ……」

 

 幾分、低い声で答えるマリュー。ムウもその事に気付きながらも「なら、OKだ」と答えるに留めた。

 

「まあ、ハルバートン提督が寄越した新兵器もあるし、アストレイの件でモルゲンレーテが謝礼代わりに寄越した物もある!どうにかなるさ。この俺、不可能を可能にする男だって居るんだからな」

 

 そう言って笑うムウの姿に、マリューはようやく少しだけ微笑を浮かべた。

 

 

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「うぅ……ここは?」

 

 目が覚めたキラは朧気な思考で此処が医務室だと察する。

 

あの時…低軌道での戦闘でアスランとデュエルに追い詰められて、危ない所をシンが助けてくれて、あろう事かデュエルが避難民が乗ってるシャトルを撃とうとして、それをシンが防いで……大気圏に…!

 

「っ!シン!シンはっ!」

 

 そこまで思い出してベッドから飛び上がったキラがあちこちに体を向けシンを探す。そして隣のベッドに誰かが眠っている事に気づく。

 

「……シン…!」

 

 

 恐る恐るカーテンを捲るとそこには静かな寝息を吐きながら瞳を閉じているシンの姿があった。

 

「よかった…!」

 

 シンの無事な姿に安堵したキラはベッドを出て近づき彼の頭を撫でる。キラの細い指が、彼の髪を駆け抜ける度に快感にも近い高揚感が溢れ尚更幸せな気分になる。キラの心臓が、トクン、トクンと心地よく跳ねていく。

 

 

『いやなに、もしかして君達は……“そういう”仲なのではないかね?』

 

 

 

 脳内再生されたその一言、それはラクスを返す時にクルーゼに言われ時の事だ。

 

 自分とシンは“そういう”仲…つまり恋人関係ではない。でも、その言葉の意味が何故か心に残る。

 

(私は……)

 

 どうして自分は恥ずかしかったのだろう?好きでもない相手との交際を揶揄われたら激怒するか、嫌悪を抱くのに……

 

「…シン………」

 

 

 もう何度目になるか分からない、彼の名前を呼んでみる。また、心臓が優しい音を立てて跳ねる。跳ねる度幸せな気持ちが溢れて、それでいて胸を締め付けてくる。

 

 

『キラ先輩!』

 

 

 そして思い出される、自分の事を慕ってくれて、助けてくれて……。笑顔で自分の名を呼ぶ彼の姿が脳裏から離れない。

 

 ふと、眠るシンの顔を見る。整った美形、下手すれば女の子に見ても不思議ではなく細身の体も加わり、女の子と間違えられてナンパされた時もあった。

 

 その時のシンは中身が詰まった缶ジュースを握りつぶし、怒りに染まった眼力で追い返したのは記憶に新しい。

 

自分を慕う可愛いシン。自分やみんなを守る為に前に出るほっとけないシン。モルゲンレーテの科学者で多忙な両親の代わりに家事をマスターしており、ズボラな自分に美味しい弁当を作ってくれた優しいシン。

 

(私は……そんなシンが…)

 

 

「……?先…輩?」

 

 キラの中で様々な思考が巡っている時にシンの瞳が薄っすらと開き始める。まだ、思考が働いていないのか目の前に居るキラをじっと見つめている。

 

「…うん、そうだよシン」

 

 

 

 今はこの静かな時間を感じていたい。そう思ったキラは目覚めたシンに笑みを浮かべてキラは先程の思考を心の奥底にしまい彼の頭をそっと撫でる。

 

 見舞いに来たマユにがっつり見られて顔を真っ赤に染めるまで…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「え!キラとシン!気がついたの?」

 

「うん、ちょっと前にね」

 

 翌日、ヘリオポリス組は朝食をとりながら会話に花を咲かせていた。キラとシンが目を覚ましたニュースはアークエンジェル中に広まっておりミリアリアが声をはずませた。答えるサイも安堵した様子だ。

 

「大丈夫らしいって言うんで、もう部屋に戻ってる。食事はマユちゃんが持ってったけど」

 

「本当にもう大丈夫なのね…」

 

 サイの言葉に反応して食事を食べ終えたフレイが立ち上がる。

 

「………やっぱり違うのね。体のできが…」

 

 しかし、それは二人の無事に対する言葉には聞こえずミリアリアとトールが顔を見合わせる。危うい空気を打ち払うようにミリアリアが明るい声を出した。

 

「で、でも良かったじゃない。元気になって」

 

「フレイも少し休んだらどうだ?」

 

 大気圏突入でドタバタしたのがようやく落ち着いたのだ。先程まで民間人だったフレイを気づかうサイの言葉を遮るように、フレイは冷ややかに答えた。

 

「私は大丈夫よ。まだ、みんなみたいに艦の仕事がある訳でもないし……二人の看病だってあの子に取られちゃったし」

 

 しかし、フレイは突っぱねる。確かに現在、フレイはサイ達と違って艦の仕事は割り当てられていない。二人の看病を志願しても、それは同じく志願したマユに任された。

 

「仕方ないわよ。実の兄が高熱で倒れたんだから、キラにだってマユちゃんは姉の様に慕ってるし」

 

「……そうね。とにかくに二人が目を覚ましてくれて良かった。()()()()()()()()()()()()

 

「ん?」

 

 部屋を出ようとするフレイに違和感を感じたサイが引き止めようとする。

 

「なぁ、フレイ」

 

「何よ!」

 

 しかし挑むように彼を見据えたフレイにサイだけでなく、ミリアリア達もフレイの態度に驚いた。この艦に乗ってからずっと、事あるごとにサイにベタベタと纏わりついていたフレイなのに、この変化はなんなのだろう?

 

 彼女は目線を落とし、硬い口調で切り出した。

 

「サイ…貴方との事はパパが決めた事だけど…。そのパパも、もう居ないわ。まだお話だけだったんだし、私達の状況も変わったんだから…何もそれに縛られる事はないと思うの」

 

「ふ、フレイ…!」

 

 一同が話の内容に唖然とし、サイも己の聞き間違いを疑う。皆が呆然としているうちにフレイは前へ向きなおり食堂を出て行った。

 

「フ、フレイ……」

 

 我に返ったサイがその名を呼んだが、彼女は振り返りもしなかった。

 

  行き先など特になく廊下を歩くフレイの脳裏に父親を乗せた船がコーディネイターの手によって消える光景が過ぎる。

 

(……勝ったのよ。私は賭けに勝ったのよ…!)

 

 泣いて地球軍に志願したフレイだったが、本人は地球軍として闘う覚悟など欠片もなかった。

 

 自分が志願した理由は至極明解。大好きなパパを殺したコーディネイターに、一人でも多く自分と同じ様な報いを受けさせる為…。

 

 その為の手段がアークエンジェルにある。

 

 そう、キラ・ヤマトとシン・アスカを上手く使えばいい。コーディネイターのラクス・クラインを人質にする自分の言葉に従わなかった、あの甘いマリュー・ラミアスはアークエンジェルから降ろそうとしたが、そうはさせない!

 

(キラは…!シンは…!戦って戦って…戦って死ぬの!)

 

 闘うのが役目の癖にパパを死なせた、それなのに自分達だけ家族の元に帰るなんて許せる筈がない!

 

 だから軍に志願したのだ。思ってもいない事を口にして、サイ達をその気にさせてアークエンジェルに留まらせた。

 

 そうすれば後は勝手に事が進む。

 

 キラにとってあのイージスのパイロットは仲が良かった幼馴染だ。少なくともラクスを連れ出したタイミングなら、自分がコーディネイターである事や仲が良かったラクスや幼馴染に協力してもらい安全を保証させる形で投降する事だって現実的だ。

 

 でもキラはそうしなかった。理由は簡単、キラはサイ達、学友を見捨てる事ができない。ホント、コーディネイターの癖に友達を気取って気持ち悪い。

 

 そしてキラが残ればシンだって留まる……そして守る為にコーディネイターを殺す。

 

「ううぅ…シンのバカ、エッチ、スケベ…」

 

「え!アレ、俺のせいなんですか!?」

 

 そんな時に向こうの通路からキラとシンの声が聞こえ反射的に身を隠してしまう。

 

 顔を真っ赤にして言い合う二人。その様子はとても仲睦まじいものだった。

 

「………ッ!」

 

 フレイは自分の心の底からドス黒い何かが込み上げてくるのを感じていた。

 

 どうして自分がこんなに不幸なのに、アイツらは笑い合っているの?

 

 パパを殺されたのも、自分が軍に入る選択をしたのも、元はコーディネイターがパパを殺したから…コーディネイターがパパを守らなかったから…!

 

「…そうよ、この理不尽な不幸はコーディネイター(キラとシン)に償ってもらわなくちゃ…!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その頃、砂漠に接地したまま息を潜めているアークエンジェルから距離を置き、密かに監視する目があった。一台のジープに乗る男性が、双眼鏡でその先に鎮座するアークエンジェルを見つめている。

 

「どうかなぁ?噂の天使の様子は?」

 

 まるで緊張感がない様子でコーヒーの準備をしながら、監視している部下へそう問いかける男性。

 

 彼の名はアンドリュー・バルトフェルド。

 

 ザフト軍アフリカ方面軍司令官にして、“砂漠の虎”の異名を持つ。

 

「は!依然なんの動きもありません」

 

「地上はNジャマーの影響で電波状況が滅茶苦茶だからなぁ。彼女は未だスヤスヤとおやすみか」

 

 部下であるマーチン・ダコスタにそう告げて、準備していたコーヒーを口にする。

 

「ん!?」

 

「ど、どうしましたッ!?」

 

 何かに気付いた様なバルトフェルドに慌てて双眼鏡に目を当てるダコスタ。

 

「今回はモカマタリを5%減らしてみたんだが、こりゃ良いな」

 

 飲んでいたコーヒーの感想と知り、ダコスタは思わず脱力した。

 

 ザフト地上軍の名将とまで呼ばれるこの男はコーヒー愛好家としても有名であり。オリジナルブレンドと言う密かな趣味を持っている。

 

 次のブレンド計画を口ずさみながら歩いていく上官の後を慌てて追うダコスタ。

 

 その視線の先には、待機している部隊の姿がある。

 

 中でも目を引くのは犬に似た四足歩行型MS…その名はバクゥ。

 

 ザフトが開発した地上戦用のMSであるバクゥの活躍により地球軍の戦車隊は壊滅、ザフト軍は地上における覇権を確たる物としたのだ。

 

 その他にも多数の攻撃ヘリが待機している。

 

 飲み終わったカップをダコスタに投げ渡したバルトフェルドは待機していた兵士達の前に立った。

 

「ではこれより地球軍新造艦アークエンジェルに対する作戦を開始する。目的は敵艦、及び搭載MSの戦力評価である」

 

「倒してはいけないのでありますか?」

 

そう言った部下につられるように、何人かが笑い声を上げ、バルトフェルドも肩をくすめる。

 

「うーん、その時はその時だが…あれは遂にクルーゼ隊が仕留められず、ハルバートンの第八艦隊が決死の覚悟で地上に降ろした艦だぞ?その事を忘れるな。一応な…では、諸君の無事と健闘を祈る!」

 

「総員、搭乗!」

 

 次々と愛機へと駆けて行く兵士達を見送りながら、バルトフェルド自身もダコスタの運転する指揮官車両に乗り込む。

 

「ん〜コーヒーが美味いと気分が良い」

 

 そう告げたあとに開かれた目には、既に闘争心の炎が揺らめいていた。

 

「さあ、戦争に行くぞ」

 





 今回はνシン君とキラちゃんの絡み等を含めた休憩回でした。

 多分、このssのフレイは結構荒れますね…
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