νシン・アスカは伊達じゃない!   作:DestinyImpulse

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18. PHASE-18【燃える砂漠】

 

 

 

「ふー、少佐!今日はこれくらいにしときましょうや。あとの調整は、実際に飛ばしてみないと、分からねぇですよ…」

 

 夜が深まった時間の中で、マードックは疲れたように大気圏用の新型戦闘機である“スカイグラスパー”の調整をしていたムウに呼びかける。

 

「そうだなぁー。坊主も嬢ちゃんも元気になったし、明日には移動するかもしれんからな…」

 

 スカイグラスパーを見上げていたムウは、ふと気になった事を口にする。

 

「そういや、アストレイの方は大丈夫なのか?」

 

 ストライクと違って大気圏突入に耐えられるスペックではなく色々と無茶をして大気圏を突破したアストレイは果たして運用できるのか?

 

「フェイズシフトの右腕は問題なく、ボディも重点的に防御していて目立った損傷なし。ただ、足がちょっとヤバイですね」

 

 そう言ってアストレイを見上げる。金色のフレームは、所々が溶け始める兆候が見られるが十分に修理可能。しかし、トリケロスとシールドに守られた両腕と違って脚部の装甲は溶けフレームも損傷している。このまま運用すれば崩壊するのが目に見える。

 

「おいおい、大丈夫なのか?これからも坊主の力は必要だぜ?」

 

 本来ならオーブに降りる筈だったシンとマユは特攻してきたザフトの攻撃から逃げてアークエンジェルに着艦した……のを言い訳にキラ達を助ける為にアークエンジェルに協力している。

 

 方針としてはこれ迄通りに自己防衛として協力してもらい、この砂漠を越えて海へ出た時に、オーブの勢力圏の近くで、大気圏突入時に使ったシャトルに乗ってオーブに帰る。

 

 これがマリュー達と話し合って決めた事だ。

 

 それ迄に襲いくるザフトを退けるにはシンとアストレイの力が必須だ。

 

「大丈夫ですよ。前の時の様に移植すればいいんですから…アレの」

 

 そう言うマードックの視線には両足が外された“デュエル”の姿があった。

 

 あの時、アークエンジェルに着艦する時に大気圏の超高温からアストレイを守る為に盾にしたデュエルは当然、あの後に回収された。

 

「あの機体のパイロットも命に別状はないか……。全く、コーディネイターっては凄いもんだな」

 

 デュエルのパイロットであるイザークは気を失った状態で発見され、命に別状がない事の確認と、応急処置を施した後に牢屋に入られている。盾にされたデュエルの熱はアストレイやストライクより高く、未だに意識は戻っておらず、意識が回復した後に事情聴取が行われる。

 

「本当なら坊主がデュエルに乗った方が早いんですが、オーブと契約しているジャンク屋扱いの坊主を乗せる訳にはいかねぇですからね」

 

 デュエルは細かな調整をすれば、そのまま動かせる。しかし、地球軍に入隊したキラとは違いシンはモルゲンレーテと契約しているジャンク屋の扱いだ。機密やら何やらで面倒くさい。

 

 だったら脚部以外が問題ないアストレイに脚部を移植させて別れる時に外せば、ある程度はマシだ。

 

 アストレイにはG兵器の技術が利用されており、武装やフレームは互換性が高く問題なく移植できる。

 

「移植はブリッツの時に慣れてますから、明日にでも作業を始めますよ。マユのお嬢ちゃんも手際良くなってきましたからね」

 

 整備士見習いとしてマードックの手伝いをしているマユ。親がモルゲンレーテの優秀な科学者であり兄であるシンも技術方面で優秀。マユも才能があったのか、着実にスキルを身につけていった。

 

「………やっぱり気張ってるのかね。兄や姉の様に慕う嬢ちゃんが戦っているから」

 

「………そうっすね。目は離さないでおきます」

 

 命懸けの戦場に兄であるシンや姉の様に慕うキラが飛び込んでいる。故にその手助けをしたい、単純だが幼いマユにはこれ以上ない理由だ。

 

「………嬢ちゃんをこのままアラスカに連れて行くつもりなんですか?」

 

 コーディネイターであるキラを地球軍の本部とも言えるアラスカ基地に連れて行けば碌でもない事になる可能性がある。

 

 MSの整備などでシンやマユ、キラと交流が深かったマードックとしては、まだ青春を謳歌する年代のキラの身を案じていた。

 

 しかし、キラはトール達の様に志願して地球軍のパイロットとなっている。シンやマユと共にオーブ領域の近くで降ろす訳にはいかない。

 

「……分かってる。その件も含めて、今後の事を艦長と色々と話すつもりさ」

 

 ムウも真剣な表情で、どうすればキラをオーブで降ろせるが思考錯誤していた。

 

〈第二戦闘配備発令!繰り返す、第二戦闘配備発令!〉

 

 その時、アークエンジェル内で放送が響きわたる。どうやら砂漠の夜はこれからが本番の様だ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お兄ちゃん…!」

 

「マユは部屋で待っててくれ!」

 

 鳴り響く敵襲に対する放送に夢の世界から叩き起こされた俺は、同じく起き上がったマユに部屋で待つ様に言って部屋を飛び出て、更衣室へ直行してパイロットスーツへ着替える。

 

「とにかく飛べる様にしてくれって!」

 

「それが無茶だって言ってんでしょうが!!弾薬の積み込みも間に合わねぇし……」

 

 格納庫に向かえばムウのおっさんとマードックさんが言い合いをしていた。どうやらおっさんのスカイグラスパーはまだ使えないらしい。

 

「マードックさん!アストレイは!?」

 

「坊主!無理だ!今のアストレイは派手に動かせねぇ!」

 

 クソ!薄々考えてはいたが、応急処置が済んだばかりのアストレイでは、いつもの様に派手に近接戦はできない!

 

「シン!私が何とかするから、ここで待ってて!マードックさん!ランチャーで出ます!」

 

「…………いや、俺がランチャーを使います」

 

 そこでパイロットスーツに着替えた先輩がストライクへと走ろうとするが、それを止める。

 

「俺がアグニを使って援護します。先輩はエールで出てください」

 

「おい、坊主!さっきも言ったがアストレイは!」

 

 派手に動かせない……だろ?

 

「固定砲台の代わりにはなるでしょ?甲板でアグニを撃つだけならアストレイに大した負担にはならないはずです」

 

「で、でもシン!」

 

 死ぬ一歩手前の状況に陥った後だ、先輩からすれば俺に無茶な事をしてほしくないんだろう。

 

「俺だって、あんな事があった後に先輩達を心配させる様な事はしたくないですよ」

 

 このνシン・アスカ。無茶はすれど無謀な事はしたくない。

 

「ストライクは宇宙用の機体だ。それを初めて地上で使うんです、色々と宇宙と勝手が違う。それに、ここはザフトの勢力圏。相手は地上戦を知り尽くしている。そんな状況で先輩だけを出撃させる訳にはいかないですよ」

 

 しかも、ここは砂漠だ。幾らキラ先輩でも宇宙と勝手が違い過ぎて適応するのに時間がかかる筈だ。

 

「それに、もし立場が逆で俺が待っててくれって言って先輩は待っててくれるんですか?」

 

「そ、それは…」

 

 絶対に出てくる。何故だが知らないが軍に残ったトール先輩達を見捨てられずに軍に残ったキラ先輩だ、あれこれ考えて、持ち前のスキルで無茶を道理に変えて助けにくるのが目に見える。

 

「…………無茶はしないでよね」

 

「ええ…先輩に引っ叩かれたくありませんからね」

 

「っ〜!!シンのバカ!」

 

 そんな乱暴な事しないよ!と言いたげに顔を真っ赤にしたキラ先輩が逃げる様にストライクのコクピットに乗り込んでしまった。

 

「んじゃ、アグニを用意してくれマードックさん」

 

「…………おう、ご馳走さん」

 

 ? なんか苦い顔したマードックさんがアグニの準備を始める。隣に居るおっさんも胸に手を置いて苦しそうだ。

 

「……?」

 

 その事に疑問視しつつ俺はアストレイに乗り込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あっ、出てきました!あれがX-105ストライクですね」

 

 双眼鏡から見える光景。こちらの航空隊の攻撃を受けるアークエンジェルから人型であるストライクが砂漠へと降り立った。だが、砂の大地に適応できていない。

 

 それを冷静に眺めながら、バルトフェルドはダコスタへ次なる指令を伝える。

 

「よし、バクゥを出せ。反応を見たい」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「くそっ、足場が…!」

 

 ストライクに搭乗し砂漠に降り立つキラ。航空隊の攻撃を宇宙の時の様に機敏に躱そうとキラもフットペダルを踏み込んだが、砂漠の足場で踏ん張りが利かず、ストライクは再び地に膝をついてしまう。

 

 ランチャーだったら喰らっていたが、エールの機動力でどうにかヘリの攻撃を回避する。

 

 しかし、それに安堵する暇はなかった。砂丘を飛び越えて現れたザフトの地上用MSバクゥが三機編成でストライクに襲いかかる。

 

「くぅ…!地上のMS!?」

 

 三機のバクゥは四つ足での疾走から脚部に設けられたキャタピラに動作を切り替え砂漠を滑るように移動し始める。背部に設けられたミサイル砲とリニアキャノンを駆使して、砂漠に足を取られ自由に動けないストライクへ猛攻を加えていく。

 

「宇宙じゃどうだったか知らないがな」

 

 そう言って飛び上がったバクゥは、ビームで迎撃するストライクを嘲笑う様に翻弄する。

 

「ここじゃこのバクゥが王者だ!」

 

 三機のバクゥに翻弄されるストライクを見ている事をしかできないブリッジの面々。

 

「くぅ、スレッジハマー!撃て!」

 

「しかしストライクに当たります!」

 

 見かねたナタルがミサイル発射を命令するが、ストライクに当たる危険性があった。

 

「PS装甲が〈何バカな事を言ってんですか!?〉…ッ!アスカ!」

 

 フェイズシフトなので直撃しても問題ないと言うナタルに準備が終わったアストレイのコクピットでシンが激昂する。

 

〈味方を背中から撃つ馬鹿がいますか!俺が先輩の援護をします!発進許可を!〉

 

「分かったわ!お願いシン君!」

 

〈了解!シン・アスカ!アストレイ、行きます!!〉

 

 マリューの許可をもらいアストレイが両手にアグニを抱えてアークエンジェルの甲板に降り立つ。エネルギーケーブルを接続しパワー切れの心配をなくしたシンはストライクに襲いかかるバクゥに狙いをつけた。

 

「先輩に手を出すんじゃねぇゾイド擬き!」

 

 放たれた高出力ビームがストライクに背部から襲い掛かろうとしていたバクゥの後ろ足を掠める。理論上ではコロニーの壁を破壊できるアグニはその余波だけでバクゥの後ろ足を破壊した。

 

「ナニィ!?」

 

 

 後ろ足を失い、空中でバランスを崩したバクゥは背中から砂漠に落ち、背部のミサイルポッドも機体の重さで潰れた。こうなってはもう動けまい。包囲に穴が空いた隙をエールの機動力でストライクが脱出する。

 

〈お待たせしました先輩!〉

 

〈シン!〉

 

 シンの援護に笑みを浮かべてキラはこの砂漠で戦う為の打開策を口にする。

 

〈運動プログラムを砂地に対応させるから、それまで援護をお願い!〉

 

〈……相変わらず無茶苦茶ですね!〉

 

〈……シンが居るから…かな〉

 

 戦闘中にプログラムの切り替えと言う神技を、さも当たり前の様にやる気のキラに苦笑いが溢れるが、彼女に頼られている以上……

 

「やるしかないよな!」

 

 距離を置こうとするストライクに迫るバクゥ達にアグニを連発する。アグニの威力を目の当たりにした以上、バクゥ達は絶対に当たらない様に必死に逃げるしかない。

 

「設置圧が逃げるなら合わせればいい!逃げる圧力を想定し、摩擦係数は砂の粒状性をマイナス20に設定!」

 

 その隙にキラは横に収納していたキーボードを取り出して目にも留まらぬタイピングでプログラムを更新していく。

 

 飛び上がったストライクが砂漠の大地に着陸する。しかし、先程の様にバランスを崩す事なくバクゥにビームライフルを向ける。

 

「んん?」

 

 それを名将、バルトフェルドは見逃さなかった。アグニの砲火から逃げ延びた一機のバクゥがストライクに飛び掛かる。

 

「いい加減に!」

 

「ッ!はぁぁ!!」

 

 しかし、もう先程の砂漠に足を取られるストライクではない。カウンターとして放たれた膝蹴りがバクゥを空中に蹴り飛ばす。

 

「シン!」

 

「このぉ!!」

 

 心の叫びが通じたのか、シンが放ったアグニの一閃が逃げる術のないバクゥを穿ち爆散する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「………撤退だ、ダコスタ」

 

「隊長!?」

 

 それを静かに見ていたバルトフェルドが何の迷いもなく撤退を宣言する。

 

「この短時間に運動プログラムを砂地に適応させた…あのストライクのパイロット…本当にナチュラルか?それに報告にあった趣味の悪い金ピカの奴も侮れん」

 

 アークエンジェルの甲板でアグニを構えるアストレイ。よく見れば所々、機体に損傷が見られる。パイロットもそれを気にしてか、派手は動きをせずに静かに、それでいて的確な射撃をしている……紛れもないエースパイロットだ。

 

 不確定要素の多いストライクと、それを補佐するアストレイ…それを見てバルトフェルドは笑みを浮かべる。

 

「いいコンビだ。僕とアイシャ並に……今の戦力では崩せんよ」

 

 元々、今回は偵察だ。下手に部下を失う訳にはいかない。

 

「部隊に打電、直ちに撤退しろ。残ったバクゥは動けないメイラムを……ん!」

 

 撤退の指示が飛び、撤退しようとした航空隊を無数のミサイルが襲う。

 

 ミサイルが飛んできた方へ双眼鏡を向ければ、砂丘を乗り越え、数台の戦闘バギーが飛び出してくるのが見えた。

 

 バギーに乗っている者達は、次々と手にした大型のランチャーを放ち、飛んでいるヘリを撃ち落していく。

 

「隊長!明けの砂漠の奴等です!」

 

「………好機と思って出てきたか…」

 

 突然の奇襲に航空隊は壊滅し、更にシンによって動けなくなったバクゥに次々と攻撃する。流石のMSも傷つき動けない状況では何も出来ずに爆散する。

 

 その様子を先程とは違う、冷たく鋭い目でバルトフェルドは見ていた。

 

「………残存部隊を纏めろ。この戦闘の目的は達成した、撤収する」

 

「は、ハッ!」

 

 戦場に背を向けジープに乗り込むバルトフェルドは去り際に明けの砂漠の面々に視線を向ける。

 

「…………少々、悪ふざけが過ぎたな」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「へ!ザマァ見ろ虎め!」

 

 撤退してくるバクゥ達を勝ち誇った笑みで見る“明けの砂漠”の面々。

 

 ここに降り立ったアークエンジェルを偵察中に始まったザフトとの戦闘。上手く転べば利になるとストライクとアストレイに目が行ったザフトの横っ腹を突く事ができた。

 

「上等な餌に夢中だったからな」

 

 そんな中で一人の少女が厳しい表情でストライクとアークエンジェルに視線を向ける。

 

 髪は金髪で顔立ちは、何処かキラに似ていた。

 

 

「………P01…!色々と問いただしてやる!」

 

 アークエンジェルの甲板で佇むアストレイを少女は並々ならぬ表情で睨んでいた。





 と言う訳でデュエルさんの両足が移植されます!

 イザークは盾にされた影響で今だに気を失っています。

 次回で遂に人気No. 1のあの人と対面です!
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