νシン・アスカは伊達じゃない! 作:DestinyImpulse
ライトニングストライカーに対するコメントありがとうございます!
アストレイ第三形態ももう少しで登場します!
「当たらない?」
明けの砂漠の救援に来たキラは照準を顔の前からどけた。ビームライフルの射線が、不自然に目標から逸れるのだ。しかし一時の思考で彼女は原因に気づいた。
「そうか、砂漠の熱対流で…!」
日照により急澈に温度が上がり始めており大気が激しく対流している状態だ。ビームはそれによって曲げられ、目標物を捉えられない。ストライクを動かしながらキラの指が素早くキーボード上を動く。再び跳躍した時には、すでにプログラムの書き換えは終わっていた。
高みから照準を覗くキラの目は冷静だ。伸ばしたライフルの砲口が火を噴き、バクゥのミサイルポッドに命中する。とっさにパイロットがポッドを離脱し、それは空中で大爆発を引き起こした。
「ほう......」
戦闘を見ていたバルトフェルドは、感嘆の息をついてスコープを下ろした。
「なぜストライクが?救援に来たのか?地球軍が、レジスタンスの?」
運転席に居るダコスタが解せない表情だが、それにはまったく注意を払わず、バルトフェルドは呟く。
「ビームの照準......即座に熱対流をパラメータに入れたか…」
彼の意識はすでに『なぜ』とか『何の目的で』とかいう問題から離れていた。それより、あれについてもっと知りたい。あれの戦闘能力を…そしてコックピットの中にいる者のことを…
先日の戦闘でもそうだったが、ストライクのパイロットは戦いながらMSのOSを改良している。それ程のプログラミング能力と卓抜した反射神経と運動能力を持つ、地球連合軍のパイロット……気になる。
あの金ピカのMSも気になるが居ない者を強請ってもしょうがない。
先程脚部ににレジスタンスの砲撃をくらい、動けなくなっていた部下のカークウッドのバクゥが復調したらしい。キャタピラを回転させ、前肢を動かしてジョイント部に問題がないことを確かめた後、のそりと立ち上がった。それを見てバルトフェルドは無線を手にした。
「カークウッド、代われ」
くはっ!?>
無線から虚を衝かれて聞き返すパイロットの声が入る。隣のダコスタが驚いて、「隊長!」と声を上げるが、構わずバルトフェルドはカークウッドを口説く。
「今度一杯おごってやるから!」
〈じゃ、アルコールの入ってるもんでお願いします〉
隊長ご自慢のブレンドコーヒーを飲まされた事のあるパイロットは、しぶしぶ答えた。
ダコスタが、今度は非難の調子を漂わせて呼びかけた。指揮官たる者、どっしりと腰を落ち着けて、他人の働きを見ていろと言いたいのだろう。
だがバルトフェルドはクルーゼと同じくパイロットとして現在の評価を得るまでになり、そして、今もなおパイロットなのだ。先程から体が叫んでいた、あのパイロットと対戦したくてたまらなかった。
バルトフェルドは困った顔をしている副官に向かって、にやりと笑ってみせる。
「撃ち合ってみないとわからないこともあるんでね」
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バクゥがミサイルを連射しストライクがそれを躱しジャンプする。敵機もそれを追って高く跳び上がる。勢いをつけて蹴りつけてこようとしたところを、キラはシールドではじき返した。空中で体勢を崩すバクゥに、すかさず照準を合わせる。
(もらった!)
ターゲットマークが目前で点灯する。そこへ、横殴りの衝撃があった。
「……っ!?」
右側面から発射されたミサイルが着弾したのだ。キラは慌ててそちらへ機体を振り向けようとしたが、間を置かず二発目をくらう。
「三機目!?まだ動けた?」
戦力外と切り捨てた一機が、いつのまにか戦線に加わっている。バクゥは三機で合流し、編隊を組むように横に並んで、そのままキャタピラを駆動させ、高速で突っ込んでくる。避けきれずに跳ね飛ばされキラは衝撃にうめく。
その隙をついてバクゥが眼前に躍り出た。
「うわああっ!」
とっさに頭部バルカンを撃ったが、そのときには凄まじい蹴りを胸部に受けた。すんでのところでバーニアを吹かし、かろうじて地面との激突は避けられたが、上空にいるバクゥの射撃からは逃げられない。容赦なくミサイルを撃ち込まれ、キラは懸命に機体を操った。
(な、なに…!?)
キラは自問する。さっきまでと比べてバクゥ達の動きには、明らかに変化があった。あの三機目の機体が戦線に参入した瞬間から、統制が取れ、高度な戦術を駆使するようになったように思える。それは決して数が増えたからというだけではなかった。これではこちらが息つくヒマもない。幾らフェイズシフト装甲が通常弾頭を防ぐといっても限度がある。装甲自体が一定の電力を必要とする以上、被弾すればするだけ電力消費は増え、それだけフェイズシフトダウンのタイムリミットが近づく。
あの時はシンがその身を削って助けてくれた…しかし、今そのシンは居ない。
いや例え居たとしても、もうシンにおんぶ抱っこの無様な自分にはなりたくない!
その思いがキラの
知覚が研ぎ澄まされ、全てが同時に感知される。発射され、自分に向かってくる十数発のミサイルがたどる軌跡を……
キラはミサイルを充分引きつけたところで、逆制動をかける。ストライクの鼻先でミサイルは収束し互いがぶつかり合って激しい爆発が起こった。
その頃にはキラの手はスロットルを限界まで叩き込み、足はフットペダルを蹴り入れている。ストライクが大きくターンし、バクゥの前面を横切って脇へ抜ける瞬間、キラはシールドを手放した。
そのシールドは外側の一機に当たり、フォーメーションから抜けさせる。そしてすばやく空中で向きなおり、ビームライフルが火を噴き、バクゥは辛くもそれを避けたもののフォーメーションは完全に崩れた。
着地の瞬間を狙って放たれたミサイルを、キラは身をかがめて難なく避ける。
着弾直後を叩こうと飛びかかったバクゥは、抜き放たれたビームサーベルで翼の片方を切り落とされ、体勢を崩して落下した。
なおも撃ちかけられたミサイルの目前で、ストライクは急制動をかける。足のバーニアから推進ガスが噴射され砂煙が上がった。そこヘミサイルが突っ込み、今度は激しい爆煙が上がる。一機のバクゥが爆煙を避けて飛び越えようとした。
煙が晴れたとき、パイロットが見たものは、バクゥと同じ速度で並行して低空を滑るように飛ぶストライクだった。
「ッ!」
キラがトリガーを引く。熱線がコックピットを貫き、バクゥは砂漠に落下しながら炎を噴き出した。ムキになった様に向かってくる最後の一機に、キラはサーベルを一閃させた。交錯する二機。着地したバクゥの背後には、斬り落とされた前肢が転がった。
「はぁ…はぁ………ふぅ…」
雌雄は決した。引き上げていくバクゥを見送り、キラはシートにへたり込んだ。
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キラが降りていくと、レジスタンスのメンバーがどこか気まずい表情で彼女を迎えた。
キラはめったになく苛立っていた。ひしゃげた車の残骸や、立ちのぼる煙、砂に塗れた死体。
キラが倒したバクゥの残骸もあるが、この戦闘で受けた被害は殆ど明けの砂漠に集中している。
必要がなかったこの戦闘で、多くの命が失われた。
「…ッ!」
この場にシンが居たら、どうしていたんだろう?
そんな考えが脳裏に過ぎりキラは珍しく泣きそうな顔で自分の前に立ったカガリや、サイーブ達に向かって、低く言った。
「……死にたいんですか」
頭に来ていた。バギーとランチャーなんかで、この人たちは本気でバクゥを倒せると思ったのだろうか。
そりゃマリューやシンが馬鹿な事を…と叫んだのも納得だ。
幾度となく、ストライクに乗りMSと対峙し、それがどれだけ無謀で愚かな行為か思い知っているキラはこれ以上ないほど冷ややかな声で続ける。
「こんな所で…なんの意味もないじゃないですか」
「なんだと!?見ろ!彼らに同じ事を言えるのか!?」
とたんにカガリが噛みついた。彼女はキラの胸元を掴み片手を振って背後を指した。
そこには何人かの死体が横たえられていた。先日見た、キラやシンとそう変わらない少年の変わり果てた姿もある。カガリは目に涙を溜め、なおもヒステリックに喚いた。
「みんな必死で戦った!戦ってるんだ!大事な人や、大事なものを守るために必死で…!」
守る。守りたいから、戦う。
キラだってそうだ。大切な人を守りたいから戦う。でも、自分の力だけじゃ無理な時も多く、だからこそシンと一緒に力を合わせて戦ってきた。
自分が危ない時はシンが助けてくれたし、シンだって本当に危ない時は自分を頼ってくれる。本当はもう少し頼ってほしいが…
でも、自分やシンがどれだけ必死に戦っても守れない命もあった…
世界は歌の様に優しくはない……。なのに、この少女はその場の感情に駆られ、いつまでも同じ事を繰り返そうとしている。
キラは自分を抑えられなくなり思わず、喚き続けるカガリの頼を張り飛ばしていた。
「気持ちだけで、いったい何が守れるっていうの!?」
叩かれた頬を摩るカガリは目を見開き、キラを見つめる事しかできなかった…
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「アンディ」
少し鼻にかかった、柔らかな声が背後から名を呼んだ。彼をそう呼ぶ者は一人しかいない。キラとの戦闘から撤退して、官舎として接収した高級ホテルに戻ってきたバルトフェルドは、ぼんやりと噴水を見つめたまま、しなやかな腕が背後から首に回されるのを感じて微笑んだ。
「アンディ、お食事は?」
「ああ、もうそんな時間かい?アイシャ」
アイシャと呼ばれた女は艶やかに笑みをこぼす。長い黒髪がむき出しの肩を滑り落ち、バルトフェルドの頬に触れた。美しい黒髪は両脇に一房ずつ金のメッシュが施され、顔立ちは猫のように甘やかでいて危険な雰囲気を漂わせる。
彼女を『砂漠の虎』の『愛人』と言い出したのは誰なのか、バルトフェルドは知らない。独身の彼に愛人もないものだが、アイシャの纏うミステリアスな雰囲気は、『恋人』にも『妻』にも当てはまらないという事は言える。
「今日は何があったの?マーチンくんが怒っていたわよ」
「勝手に怒らせておけばいい。いい事があったんだ」
「まあ、なんですの?」
「このところの退屈を吹き飛ばしてくれるような、いい事だ」
「ああ、なるほどね」
何がおかしいのか、アイシャはくすくすと笑った。
退屈…。そう、バルトフェルドは退屈していた。彼は予測できないもの、計算で割り切れないものが好きだ。それは彼が、他人より遥か先までを見通せてしまう頭脳を持っているからこそなのだが。
彼が愛するのは、どの豆とどの豆を足したら美味くなるか計算できないコーヒーの味、そして、アイシャ。
だが、もっとも楽しいのがMSに乗ることである事は否定できない。だからこそ、ここに彼を満足させるような相手が居ない事が、彼の密かな不満だったのだ。せいぜい出かけていって一つの街を焼き払うことが、ここで彼に求められていることであり、彼の敵はバギーと小さなハンドミサイルでバクゥに向かってくるレジスタンスなのだ。
「……弱いものイジメは、もう飽きた」
今日は久々に気分がいい。あのストライクは、いつもは眠らせておくしかない自分の能力を、最大限まで引き出してくれそうな相手だった。あんな戦闘は経験したことがない。あんなに夢中になって打ち込めるものを、彼は今まで見いだしたことがなかった。
今日は出てこなかった、あの金ピカのMSもストライクと同等か、もしくはそれ以上の強さかもしれない……
そう思うとワクワクが止められなかった。
「素敵ね」
その言葉が自分に対するものか、それとも今日の出来事に対するものか、バルトフェルドには分からない。もしかしたら別の何かかもしれない。アイシャの事はいつまでも“分からない”だろう。彼は『愛人』を膝の上に引き寄せ、軽く口づける。
アイシャは微笑み、彼の顔を見つめながらいたずらっぽく言った。
「でも、マーチンくんが心労で禿げちゃったら、あなたが責任とって鬘を作ってあげるのよ」
バルトフェルドは呆れた様に声を立てて笑う。
「いいとも。でもアイシャ、たぶん彼の遺伝子にハゲの素因はないよ」
アイシャは疑うように首をかしげて彼を見上げたあと、もう一度キスをせがんだ。
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砂漠の虎を追った“明けの砂漠”の救援に行った先輩が帰ってきた。
「………おかえりなさい、先輩」
「……うん、ただいま」
ストライクから降りてきた先輩の表情は暗かった。“明けの砂漠”の無謀さに苛立っているのか…それとも助けられなかった自分にか……。とにかく、今の俺にできるのは先輩を労う事だけだった。
「おい、聞いたか?あのデュエルのパイロット、目が覚めたらしいぞ」
「マジかよ…よくアレで生きてたな」
「ああ、念の為にもう一度診断を受けてから事情聴取が始まるらしい」
そんな時に整備士達の会話が耳に入る。どうやら、あのデュエルのパイロットが目を覚ましたらしい……あの時、シャトルを攻撃しようとしたパイロットが…!
「ッ!」
「せ、先輩!?」
心の奥底で怒りが込み上げてきた。先輩も同じだったのだろう、ヘルメットをほっぽり出して走り出してしまった。
パイロットスーツから着替える事なく走る先輩の後を慌てて追う俺、行き先は当然…パイロットが運び込まれた医務室だ。
目の前の先輩を追って医務室へと続く通路に辿り着いた時……
パァン!!
銃声が響いた。
キラちゃんの粛正ビンタの炸裂とラストの銃声で終わりました…。
それと、実は此処まで書き溜めていたモノを投稿していたのですが、今回で書き溜めていた物が尽きてしました。
ですのでこれからは一日投稿ができない時がありますが、何とぞ、ご了承ください。