νシン・アスカは伊達じゃない! 作:DestinyImpulse
投稿が遅れて本当にすみませんでした。
今年最後の投稿をさせてもらいます。
「………先輩遅いな…」
あの騒動から二日後、タッシルからの難民を抱えて、また先日来の戦闘で消耗したアークエンジェルと明けの砂漠は、物資の補給を必要としていた。
故に日用品と“一般では手に入らない”物資の調達任務を俺達は言い渡されていた。
弾薬等の一般の店舗では手に入らない物は、サイーブさんとキサカさんの同行のもとでナタルさんとトノムラさんが担当し、日用品は俺やキラ先輩、そしてマユが任された。
俺やキラ先輩はともかくマユに関しては完全に息抜きをしてほしいマリューさんの計らいだろう。
しかし土地勘のない俺達だけでは不安なので、カガリさんも同行する事になった。
そうして定められた出発時間が近づくにつれて移動用の車に人が集まり残るはキラ先輩とマユだけになった。
しかし時間が経てど二人がやって来ない。一応出発時間はもう少し先なのだが、待っている身としては苛立ちが募るのだろう。ナタルさんとカガリさんが苛立った表情で貧乏ゆすりをしている。
それを宥めるトノムラさんや我関せずのキサカさんやサイーブさんを他所に俺もぼーっとしていた。
「すみません!遅れました!」
その時、ちょっと焦った様なマユの声が聞こえてくる。全く、時間ギリギリだ…ぞ…
マユの声がする方に顔を向けて俺は固まった。マユは涼しそうな年相応の服装をしている。これはいい、見慣れているからな。
「え、えっと…ご、ごめんねシン。マユちゃんとミリアリアが服装に五月蝿くて…」
「当たり前だよ!せっかくのお出かけなんだからオシャレしなきゃ!キラ先輩って意味のないベルトが沢山ある変な服装ばかり着てるんだし!」
「い、意味の無い…!?へ、変な…!?」
問題はキラ先輩だ。ドストレートにファッションセンスをディスられ落ち込んでるキラ先輩だったが、その服装はいつもと違っていた。
涼しげな黒のシアーブラウスに細身の黒パンツを合わせたワントーンコーデ。キラ先輩の持つ物静かな落ち着き感を引き立てつつ、いつもと違う黒を主役にした着こなしで大人っぽさを感じさせていた。
明らかに普段のキラ先輩とは違う雰囲気に俺は勿論、周りのみんなも驚きを隠せなかった。
「ん、んん!ヤマト少尉、マユ・アスカ…遅いぞ。時間ギリギリだ、もう少し余裕を持った行動を心掛けろ」
「は、はい。すみません…」
「ご、ごめんなさい」
我に帰ったナタルさんが時間ギリギリに来たキラ先輩とマユへ注意をしている。
ま、まぁこれで全員揃ったし後は連れて来られる“アイツ”を待つーー「お兄ちゃん!!」ーー……なんだけど…
車に向かうとした俺の手をマユが掴んでくる。その目は“何勝手に行こうとしてるの?”と言いたげだ。
「キラ先輩に言う事があるでしょ?」
「…………」
マユに言われてキラ先輩を見る。普段と違う服に若干の恥ずかしさがあるのか頬を染めて俺を見つめる姿勢には何かの期待が籠っていた。
女心がちょっと分からないνシン・アスカでも、これだけ露骨なら分かるが……
横目で周りを見ればマユだけでなくカガリさんやナタルさん、トノムラさんも俺を見て“さっさと言え”と言いたげな視線を向けている。先程まで我関せずのキサカさんやサイーブさんもだ。
しかも物陰に隠れてキラ先輩もコーディネートしたであろうミリアリア先輩やマードックさんも此方を見てニヤニヤしている。
………こんな状況で言えとか罰ゲームかな?
しかも“良いと思うよ”とか“似合ってるよ”とか安直な言葉を言えば間違いなくブーイングの嵐だ。
安直にならず変に着飾らない言葉でキラ先輩を喜ばせる…難易度高くね?
「し…シン?えっと…どう…かな?」
しかし既に退路はなく、何よりキラ先輩をガッカリさせたくない。怖くて、恥ずかしくて、今すぐにでも逃げ出したくなる気持ちを必死に抑えながら、俺は勇気を振り絞る。
「…………綺麗です…とても」
改めてキラ先輩を見る。黒は女を引き立たせると聞いた事があるが正にその通りだろう。
「いつもは可愛く見える先輩がマリューさんの様な大人っぽさが感じられて……一人の女性として…今の先輩は俺には魅力的に見えます」
俺の声がやけに響いていた。周りの音がやけに静かに聞こえて、これで良かったのか?もっと他に言葉があったのか?変な考えがグルグルと回り出す。
「し、シン…!」
しかし恥ずかしさで顔を真っ赤にしても、小さく笑みを浮かべるキラ先輩を見て安堵すると同時に恥ずかしさが込み上げてきて限界だった。
「っ〜〜〜!!?」
「あ!ま、待ってよシン!」
キラ先輩に背を向けて車に乗り込んだ俺を見てキラ先輩が隣に乗り込んでくる。
いや、恥ずいんで顔を見ようとしないでください!あの聞いてますキラ先輩?ちょ!や、やめ!やめろ〜!
「おー!お兄ちゃんやる〜!最初の一言で終わったらブーイングだったよ〜!」
「いや、この後どうすればいいんだよ!私は嫌だぞ!アイツ等の後に車に乗るのは!」
「……………トノムラ軍曹」
「え!?自分ですか!?」
「……キサカ、コーヒーをくれ」
「………私が欲しいくらいです」
「キラもシンも顔を真っ赤にして〜。早く付き合えばいいのに〜」
「まぁまぁ、坊主と嬢ちゃんにもペースがあるんだ、楽しく見守ろうや」
コソコソと何かが聞こえるが恥ずかしがる俺の顔を見ようと迫るキラ先輩の対処に夢中でよく聞こえなかったが、絶対に碌な事じゃないだろう……
結局、出発時間になる迄に俺達以外誰も車に乗る事なく、いざ出発した車内はやけに静かな雰囲気であり、側でニヤニヤしていたマユ以外、みんな居心地が悪そうだった。
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車に乗ってアークエンジェルを出て2〜3時間後、目的の町が見えて来た。このまま進めば1時間後には着くだろう。しかし俺達は進む事なく一度止まった。
「……降りろ」
「……………」
それは捕虜である“イザークを解放”する為だ。普通は然るべき措置が施された上で捕虜は解放させるのだが、タッシルの難民を抱えている状況で捕虜を抱える余裕が今のアークエンジェルにはないのだ。
それにフレイ先輩が起こした事件もあり、これ以上悩みの種になるのなら早急に解放した方がいい。
故に“砂漠の虎”の本拠地の街に行くついでに解放する事になったのだ。
あの後、連れてこられたイザークは終始口を開く事なく外の景色や時折りマユに視線を移して静かだった。降ろされた今だって静かに指示に従っている。まぁ、余計な事をしない様に手錠はかけられているし、この後外されたとしても無手では碌な真似ができないだろう。
「ここからなら歩いて三、四時間あれば街に着く。水は充分あるが、後先考えずにがぶ飲みして干からびて死んでも責任は取らんからな」
「……ああ、分かった」
車で一時間かかる距離だ徒歩だと倍以上はかかるし、休憩を挟めばもっとだ。故に砂漠の民であるサイーブさんの指示で適切な水と日差しを防ぐ服装を用意させた。
コレなら余程の馬鹿をやらかさない限り干からびて死ぬ事はないだろう。手錠を外され無言で渡された水を受け取るイザーク。
「…………何故、貴様は俺を助けた?」
「…?」
用は済んだし街に向かって出発しようとした時、碌に口を開かなかったイザークが問いかけてきた。……相手はマユだ。
マユもまさか自分に話しかけるとは思わず目を見開いている。それにコレまで自分達を追いかけて来たザフトの軍人であり、厳しい目で見つめるイザークが怖いのだろう俺にしがみついている。
「俺は貴様の兄やキラ・ヤマトを殺そうとした敵だ、そんな俺を何故貴様は危険を冒してまで助けた。あのまま俺が死ねば危険は減る筈だ」
イザークはそんなマユから視線を逸らす事なく言葉を続ける。
「相手を殺さなければ、そいつはまた新しい機体に乗ってやってくる。俺はそう教わり、その教えに沿って戦ってきた。………だから逃げ出した腰抜け兵が乗ってると思ったシャトルを攻撃した」
「……っ!」
シャトルの話に先輩が僅かに反応した。けど、イザークが言ってる事は一つの真実だった。
敵を完全に倒さなければ、傷を癒した敵は新しい兵器を使ってやって来る。それで仲間が傷ついたら?それで家族が殺されたら?あるいは……自分自身が殺されたら?
「………ま、間違ってると思ったから…」
「マユ…」
戦争の残酷さを改めて考えていると、黙っていたマユが意を決してイザークに語りかける。
「い、イザークさんは殺したくて戦っているんですか?」
「……………少なくとも俺はプラントの為、コーディネイターの未来の為に戦ってきたつもりだ…」
マユの問いかけにイザークは静かに答えた。少なくとも彼は殺しを楽しむサイコパスではなく、ナタルさんの様な軍に誇りを持った人物なんだろう。
マユも相手がアルテミスのハゲや最近のフレイさんの様な若干話の通じない怖い人物じゃないと分かったのだろう、次第に震えは収まってきた。
「……あの時は無我夢中だった…でも止めようと動いていたんです」
「……生き残った俺が再びお前達を攻撃するとしてもか?」
「私は…まだ子供で、戦争の事なんて全然分かってなくて、戦争は!私が思っているよりも、過酷で、残酷で、恐ろしくてモノだって……でも!」
イザークの鋭い視線から目を逸らす事なくマユは臆する事なく言った。
「少なくとも動けない人を…!何の抵抗のできない人を…!一方的に殺すのは……間違っていると思います!」
「……!」
それは紛れもないマユの本心だった。戦争は過酷なモノで人を殺しても咎められる事はない。しかしそれは互いに大義を掲げて、それを武力で示すしか道がない上で、互いに武器を持って戦うからこそ成り立っている。
抗う術がなく武力を持たない人間を一方的に殺すのは“戦争”じゃない“虐殺”だ。
それは間違いだからこそ、最低限のルールがある。それを破る人間は確かにいるが、それがあるからこそ、“戦争”と“虐殺”が明確に分かれている。
「………そうか」
マユの言葉に目を見開いてたイザークは静かにマユの言葉を噛み締める様に呟いて……
「随分遅くなったが……命を救ってくれた事…感謝する」
……頭を下げた。
ほんの僅かしか関わりがなかったが、イザークという人物はプライドの塊の様な男だと思っていた。それが10歳にも満たないマユに頭を下げている事実に俺は勿論、キラ先輩も、車に乗っていた誰もが目を丸くして唖然としている。
「あ、あの!?」
「……最後に名前を聞いてもいいか?」
「…ま、マユ。マユ・アスカです」
マユもいきなり頭を下げられて困惑していたがイザークに名前を聞かれて自分の名前を口にする。
「マユ…アスカ…か。この恩はいつか必ず返す。……もういい行ってくれ」
満足したのだろうイザークの言葉を聞いて車が街に向けて動き出す。だんだんと離れていくイザークの姿をマユは窓から顔を出して見なくなる迄じっと見つめていた。
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「……………マユ・アスカ……か」
走り出して車が見えなくなる迄見つめていたイザークは不意にマユが言った事や自分自身について思い返していた。
いつからだろう……ナチュラルを倒す事で自分のプライドや自尊心を磨く様になったのは?
最初はそんなんじゃなかった筈だ。
コーディネイターの未来の為に奮闘する母の為、母の掲げるコーディネイターの未来をナチュラルから守る為にザフトの軍人になった筈だ。
そうしてディアッカ達と切磋琢磨してエリートである赤服を纏いザフトの英雄であるラウ・ル・クルーゼの直属の部下になって……自分はエリートという意識やプライドが強くなった。
だからこそ、自分のプライドを傷つけたストライクとアストレイが許せなくて……その二機を倒す事に拘って……周りを見ずに無抵抗な避難民を“虐殺”しようとした。
「……………」
イザークは己の額に刻まれた傷を摩る。あの時、ストライクに刻まれた傷。これを消すのはストライクを倒した時と心に決めていたが……今にして思えば随分とちっぽけな拘りに思えてくる。
このままザフトに戻って暫くしたら、再び足つきと戦う事になるかもしれない。
また、あの二機……シン・アスカとキラ・ヤマトと戦う時になるかもしれない。
マユと話して思う所はあるが自分はザフトの誇りある赤服だ、プラントの為にもアストレイやストライクを含めた足つきは見逃せない使命感は変わらない。しかし、そこにかつての様な恨みはない。
あの二人が仲間や家族を守る為に戦うのなら、自分もまたディアッカ達、仲間や母の居るプラントを守る為に戦う。
「……とりあえず歩くか」
色々と思い返して見つめ直したが、こんな砂漠のど真ん中じゃこれ以上は思考できないだろう、干からびるのは御免だと笑みを浮かべて歩き出す。
その笑みは狂犬の様に思われていた以前のイザークとは違う穏やかなモノだった。
鳳仙花「ッ!?」
プラントのとある鳳仙花さんが何かを感じた所で次回をお楽しみ。
とりあえず、砂漠編は形になったのでボチボチ投稿します。
それでは皆さま、良いお年を!!