νシン・アスカは伊達じゃない! 作:DestinyImpulse
あけましておめでとう御座います。
今年もよろしくお願いします。
「じゃ、四時間後だな」
車から威勢よく降りながらカガリさんが言い、続いて俺とキラ先輩とマユも車から降りる。
「気をつけろよ」
「分かってる。そっちこそ、アル・ジャイリーってのは、気の抜けない奴なんだろ?」
車に乗ったままのキサカさんと向き合い、言葉を掛け合うカガリさん。カガリさんは少し心配そうな顔で、キサカさん達が向かう交渉相手の名を出す。
一方で前の車に乗っていたナタルさんがこちらに振り向き、「ヤマト少………」と呼びかけて慌てて「…女」と誤魔化した。ここで「少尉」などと呼びかけたら、せっかく現地の人間らしく変装してきた意味がまったくなくなる。隣のトノムラさんが俯いた。多分笑いを堪えているのだろう。
「た、頼んだぞ」
その後、キサカさんやナタルさん達を乗せたジープが走り去り、雑踏の中に俺達四人だけが残される。
タッシルから更に東に位置する、砂漠の虎の駐屯地バナディーヤ……それが今俺達が居る場所だ。
「わぁ…!」
マユの歓喜の籠った声が聞こえる。それもそうだろう、街は賑わいや活気に溢れていて、とてもザフトの勢力下とは思えない穏やかな空気を漂わせている。
「おい、なにボケっとしてるんだ!」
崩壊する前のヘリオポリスの様な活気のある街の様子に、俺もキラ先輩も目を奪われている中で、カガリさんに声を掛けられ我に返る。
すでに少し先まで歩いており、少しむくれた顔をするカガリさんの後に慌てて続く。
「マユはともかく、お前らは一応、護衛なんだろ。ちゃんとついてこいよ」
「…ねぇ、ホントにここが虎の本拠地なの?随分賑やかで平和そうだけど…」
雑踏を慣れた様子で進むカガリさんについて歩きながら、キラ先輩が彼女へそっと囁きかけた。
コレまでの印象からザフトの支配する街は暗い雰囲気に満ちた街ではないのかと思っていたが、実際に見ると、正にキラ先輩が言った通り賑やかで平和という言葉が似合う街に見える。
「……ついて来い」
緊張感のないキラの問い掛けに、カガリさんは鼻に皴を寄せながら顎をしゃくった。
雑踏をかき分けて数分歩き、角を曲がったところで見たものに、俺達は思わず足を止めた。窓に張り渡されたロープには洗濯物が翻り子供たちが駆け抜けていく。輝くように白い土壁の続く路地、その真ん中に、ごっそりと地面を抉り取ったような爆撃の跡があった。周囲の風景が平和そのものであるだけに、その地に刻まれた破壊の跡は、際立って見えた。
「平和そうに見えたって、そんなものは見せかけだ」
苦い口調で吐き捨てたカガリさんは、平和な日常の地に似つかわしくない破壊の跡地の向こうにある、巨大な艦を見据えていた。
レセップス………アンドリュー・バルトフェルドの旗艦だ。
「あれが、この街の本当の支配者だ。逆らう者は容赦なく殺される。ここはザフトの…砂漠の虎のものなんだ」
「………」
俺の隣に立つキラ先輩が、カガリさんの言葉を聞いてから、瓦礫が散らばる地面と背後にある平和な街並みに目を向ける。
視線の先には、楽しそうに路地を駆ける子供達の姿があった。
消されるというのならば、逆らわなければいいのではないのか?
多分、キラ先輩は今そう考えているのだろう。
街行く人達はのどかで平和そうに見える。なのにどうして戦いを求めるのか?
勝てもしない戦いをした結果が、守るべき家族や住み慣れた街の崩壊だとしたら……?
大切な人達を守る為に必死に戦う俺達には、その愛する者たちを犠牲にできる人々の気持ちは理解できない。
愛する人々や大切な居場所より大事なものが、命を捨ててまで守らなければならない物が、他にあるのだろうか?
「……………………………」
原作のシン・アスカならどう言ったんだろうな……そんな事を考えながら俺達は来た道を戻った。
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シン達が出発した後、マリューとムウは艦長室で今後の事について話し合っていた。避けては通れない砂漠の虎との決戦や、どうすればキラをシン達と一緒にオーブへ降ろす事ができるのか?
「……ハァ」
悩めど悩めど決定的な策が浮かぶ事はなく、溜め息が出始める。
「しかし、思い切った事するねぇ艦長」
このまま悩んでも名案など浮かぶ筈もないと、気分転換としてムウが話の話題を変える。
思い切った事というのは、アークエンジェルの戦力の大部分と言ってもいいストライクとアストレイのパイロットであるシンとキラの二人を数時間とはいえ、艦から離れさせるという行為の事だろう。
その二人が艦から離れるという事は、それすなわち現在、アークエンジェルの戦力がごっそりと抜け落ちる事を意味する。
「ヘリオポリスからここまで戦い続きでしたから。……少しでも息抜きをしてほしくて」
「………そうだな。マユのお嬢ちゃんもあんな事件があった後だ、リフレッシュさせる必要がある。タイミング的には良いと思うぜ」
マリューの気持ちはムウには痛い程分かった。
今こうして自分達が生き延びているのは、シンとキラのお陰だ。パイロットとして優秀であるが故に、正規の訓練も何も受けていない子供達に戦わせて、自分達は生き延びている……。
そして、これから先を生き延びる為にも、自分達は彼らに戦いを強いなければならない。大人として軍人として情けないが、コレが現状だ。
ならば…ほんの少しでも息抜きが出来ればと考えたマリューは、シンとキラの二人に日用品の買い出しを命じた。
そして、あんな事件が起きた後だ、幼いマユにだって精神的ストレスは溜まっている筈。だったら実の兄であるシンと姉の様に慕うキラと共に少しでも楽しい時間を過ごしてほしい。
「………今後、戦闘は激化していくだろうし…少佐、解消法に心当たりはありません?」
「え?」
「今回の様な息抜きが今後できるとは限りませんから…他の解消法、パイロットとして先輩でしょ?」
艦長であり大人として今後、精神的ストレスが溜まりやすくなるシンとキラのメンタルケアのアイデアをパイロットとして経験あるムウにマリューは求める。
解消法、解消法と、ムウは考えながらマリューを見つめる。いつも艦長として気を張っている彼女だが、自分を見上げる時だけはその表情に脆さが覗くと思うのはムウの自惚れだろうか?
こうして改めて見てみるとスタイル抜群だ。足首とウエストがきゅっと引き締まっているあたりが彼の好みだ。
胸も同年代より実っているキラより二回り大きいし、唇はキスしやすそうな可愛い形をしている。
そこまで考えて、下心を見透かすような彼女の目が、冷ややかに自分を注視していることに気づいた。
「あー、えーっと…。あまり参考にはならないかも?」
「そのようですわね……!」
マリューがつんとして言い返し、素っ気なく背中を向ける。その背中には「男って奴は」という軽蔑がにじみ出ている。
「け、けどさ…あの二人は俺達が心配する程追い詰められていないと思うぜ」
若干の罪悪感を感じつつムウがそう言うとマリューも軽蔑の雰囲気が少し残りつつもムウの言葉に興味を持ったのか顔を向ける。
「坊主には嬢ちゃんがいて、嬢ちゃんには坊主がいる。アイツ等が良いコンビなのは知ってるだろ?」
「…………」
シンにはキラが、キラにはシンが…同じコーディネイターであり、戦争に巻き込まれた者同士であり、共に背中を預けて戦う相手…。
互いが互いの苦しみを分かち合える…。
「それに二人はマユのお嬢ちゃんも居る。きっと問題ないさ」
それに二人はマユが居る。過酷な状況でもシンとキラとマユが揃った時、彼等は幸せそうだった。
「…………どうにか降ろしてやりてぇな」
「ええ…そうね」
地球軍に志願してしまったキラは必ず二人と一緒にオーブに降ろしてみせる。それが唯の民間人である彼女達を巻き込んでしまったマリューやムウの一つの償いだ。
「……心残りがあるとすれば、坊主と嬢ちゃんの恋の結末が見れない事かな?」
「ふふふ!そうね、出発前にシン君、オシャレしたキラさんをベタ褒めしたそうよ。空気が甘くてナタル達が死にそうだったってマードック曹長が言ってたわ」
できれば、降ろす前に決着がついてほしいが、シンもキラも奥手で互いの感情に気づいていないのから難しいだろう。戦争中で余裕がないのも原因の一つかもしれない。
「良いよね〜若者は〜!」
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「はぁ~…」
「そ、そのゴメンねシン?」
アレから一時間、俺はカフェの椅子にへたり込んだ。その脇には大きな買い物袋がいくつも並んでいる。今回は任務だから拒否権はないのだが、女の買い物には付き合うべきではない。
マユもカガリさんも当たり前の様に荷物持ちにしやがって…!
「ん〜!美味しい〜!!」
マユは悪びれもせずにジュースを飲み、カガリさんは平気な顔で買い物リストを検討している。
今でこそ申し訳なさげにしているキラ先輩だが、買い物中はマユやカガリさんと一緒にそれはもうノリノリだった。
まぁ、楽しそうなキラ先輩が見れて満足だったが…。
「これで大体揃ったが…。おい、このフレイって奴の注文は無茶だぞ。エザリオの乳液だの化粧水だの、こんな所にあるもんか」
知るかよそんなの…。反応からして高級品か?
まぁ、あの人お嬢様だしな……アレ?聞いた話じゃフレイ先輩って戦争を終結させたいとか、父の意思を継ぎたいとか、戦争を知って見て見ぬふりはできないとか言って軍に志願したんだよな?
それなのに……「あ!来た来た!」……ん?
マユの嬉しそうな声によって思考の渦から戻った俺は視線を移すと俺達の前に、給仕がお茶と料理を並べた。
薄いパンの上にトマトやレタスなどの野菜と、こんがり焼いた羊肉のスライスが載っている。
コレってケバブか?前世だとよく祭りの屋台やイベントの屋台車の常連のイメージだったな。
「なに、これ?」
「ドネル・ケバブさ!あーっ、腹減った。お前らも食えよ!ほら、このチリソースをかけて…」
物珍しそうに尋ねるキラ先輩に答えながら、カガリさんはテーブルからソースの容器を手にして、それを俺達に向けて差し出した。
「あいや待った!」
その時だった。どこからともなく声が掛かり、俺達は驚きそちらを見遣る。
「ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ!このヨーグルトソースを掛けるのが常識だろうがぁ」
陽気なシャツと帽子を着たサングラスの男性は、テーブルに置かれた白いヨーグルトソースを持って高々と力説する。
「いや、常識というよりも…もっとこう…んー…そう!ヨーグルトソースをかけないなんて、この料理に対する冒涜だよ!」
「はぁ!?なんなんだお前は!見ず知らずの男に私の食べ方にとやかく言われる筋合いはない!ハグッ…」
胡散臭そうに熱弁する男性を見ていたカガリさんは構わず…というより、男性に見せつける様にケバブへチリソースをぶっかけた。
もっともな意見であるが、見せつけるようにアグッと頬張ったあと、見ず知らずの男に顔をしかめてみせるあたり、大人げない……マユが真似したらどうしてくれるんだ。
「あーっ、うっまーい!」
「あぁ…なんという…」
「「「………」」」
大人げないカガリさんと打ちひしがれる男性。そんな二人を無言で眺める俺とキラ先輩とマユ。
「……俺はヨーグルトソースかな」
「……私も〜辛いのはちょっと」
しかし、このまま料理が冷めるのは勿体無いので食べるとしよう。別に好き嫌いがある訳ではないが、俺達兄妹はあまり刺激が強いのは好みじゃないのでヨーグルトソースを選ぶ。
「おお!君達はよく分かってるじゃないか!関心!関心!」
「ぐぬぬ…!」
そんな俺達を見てぱぁっと笑みを浮かべては俺の肩をバンバンと叩き、マユの頭を優しく撫でる。一方のカガリさんは居心地が悪そうにしている。
「ん〜美味しい〜!」
「だろ?ケバブにはヨーグルトソースが一番だ!君は味の分かる娘だね!」
「先輩も食べます?」
「あ、じゃぁ」
かけ終わったヨーグルトソースをキラ先輩に手渡す。美味しそうにケバブを食べるマユを見てキラ先輩がヨーグルトソースをかけようとする。
「お、おい!ケバブにはチリソースが当たり前だ!」
「ああっ、待ちたまえ! こんな“仲睦まじい家族”を邪道に堕とす気か!?」
それを見て焦った様にチリソースを勧めるカガリさんと、それを止めようとする男…性……っ!?
「「か、家族!?」」
男性の言った言葉に俺とキラ先輩はソース論争の事など忘れ顔を真っ赤に染めて男性に問い詰める。
「ん〜?実に仲睦まじい家族じゃない?結構若いけど、デキ婚?若いね〜!」
「な、何を言ってるんだ!?アンタって人はー!?」
「で、デキ婚!?ち、違いますよ!?」
何つ〜事を言うんだ!?俺はまだ14歳だぞ!?マユの大きさからして不自然だろ!?この人、分かってて揶揄ってるだろ!?
「パパ〜!ママ〜!マユ、デザート食べたい〜!!」
「マユ!?」
「マユちゃん!?」
しかも、それに乗っかってマユも変な事を言い出してきた。てか、それこの店で一番高いヤツだろ!?どさくさに紛れてとんでもない物を要求してくんな!!
「はははは!!微笑ましいねー!顔はお父さん、髪の色はお母さん似かな〜?」
「えへへ、でしょ〜!」
笑い合うマユと男性。チラリと互いに顔を見るとお互いに顔を真っ赤にして恥ずかしさで限界だった。
「「ち、違う!違うー!!」」
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「チッ!いい気なもんだぜ」
そんなシン達のやり取りを物陰から見ていた怪しげな男が、怒りを含んだ声で毒づく。
「あのテーブルに居る子供は?」
「その辺のガキだろ、どうせ虎とヘラヘラ話すような奴だ。殺しても何ら問題ない」
「それに見ろ。茶髪の女の顔立ちと黒髪のガキの赤い眼……コーディネイターだ!殺してしまえ!」
彼らの手には黒く光る銃が握られている。この時のために入念な準備の元で潜入したのだ。失敗は許されない。
「では行くぞ。開始の花火を頼む」
「ああ。魂となって宇宙へ還れ!コーディネイターめ!」
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「いや~はっはっはっ。悪かったねぇ~つい、揶揄ってしまったよ」
「ううん!楽しかったから良いよ〜。奢ってくれてありがとうオジサン!」
「…………できればお兄さんと呼んでほしいな」
あの後、割り込んできた男性は快活な笑い声をあげながら先ほどの行為を謝罪しマユに要望していた店で一番高いデザートを奢ってくれた。
てかマユ、美味しそうにデザート頬張りながら何でお前が許してんだよ…。キラ先輩なんか顔を真っ赤にしてショートしてるんだぞ。
そして彼の隣にいるカガリさんは絶賛不機嫌状態である。
「しかし凄い買い物だねぇ。パーティーでもやるの?」
「五月蠅いなぁ、余計なお世話だ!大体お前は何なんだ?勝手に座り込んであーだこーだと…」
「まあまあ…若い内にあんまりに怒ると皺が増えるよ」
「そうだよ、カガリさんはキラ先輩の様にもう少しお淑やかになったら?」
「何だとぉぉぉぉぉぉ!!!?」
「……?」
男性とマユの言葉にカガリさんが激昂する最中、俺は妙な違和感を感じだ。さっきまで現地住人で賑わっていたはずの街が………静かだった。
「ッ!!?」
瞬間、久方ぶりに頭にキュピーンと電流が走った感覚が迸る。その感覚に従う様に俺はキラ先輩とマユの腕を掴み……
「伏せろ!」
男性の言葉と同時にキラ先輩とマユを引っ張って共に地面に伏せさせる。
次の瞬間、カガリさんと機嫌よく話していた男性が勢いよくテーブルを上へ蹴りあげその陰にカガリさんを引っ張り込んだ。テーブルに載っていたケバブとお茶が、カガリさんの上に盛大に降りそそいだが、かまわず俺はその頭を押さえるように伏せさせる。
同時に店内に撃ち込まれたロケット弾が炸裂した。悲鳴が上がり、俺達は襲ってきた爆風や破片をテーブルの陰に身を縮めてやり過ごす。
「無事か!?」
「なんとか!!」
「ならいい!来るぞ!」
帽子を吹き飛ばされた以外は傷ひとつない男性が、足首のホルスターから拳銃を抜きながら大声で尋ねる。その声に返した直後に店の外からマシンガンを連射しながら、男達が突入してくる。
「死ね、コーディネイター!宇宙の化け物め!」
「青き清浄なる世界のために!」
襲撃者達が口々に叫ぶ怒号を聞き、カガリさんが「ブルーコスモスか!?」と日を見開く。ブルーコスモスとはコーディネイターを排除しようとするイカれた勢力だ。あの血のバレンタインも奴等の仕業と言う噂もある。この男たちはその中でも極右の過激派グループだろう。
「先輩はマユを頼みます!」
「……うん!」
非常事態に先程までショートしていたキラ先輩も真剣な表情で怯えるマユの手を掴んで頷く。マユも怯えつつもキラ先輩の手を握りジッと言われた通りに物陰に隠れて伏せている。
テーブルの陰から同席の男性が身を乗り出して撃つと、襲撃者たちの銃口は一斉に彼へ向けられた。
しかしその時客の一人が隠れていた物陰から立ち上がり襲撃者の一人を撃ち殺した。それを皮切りに店の至る所から同じように応戦している者がいた。
いや…客というよりも偽装していた何者かだろう。
「かまわん、すべて排除しろ!」
彼らに向けて同席だった男性は命じる。さっきまでの軽薄さが嘘のような、命令することに慣れた鋭い声だ。
銃声が入り乱れる中、カガリさんを体の陰に庇いながら俺は男の姿を見上げる。この時点で嫌な予感がビンビンだが、今はそれどころじゃない。
その時、襲撃者かそれとも「客」の誰かが撃たれ、弾みで俺の足元に拳銃が転がってくる。装備の差をものともせず、同席の男性とその仲間達はテロリスト達を着実に倒していった。テーブルに身を隠していた男性は立ち上がり逃げようとする襲撃者に銃を向けた。
「……っ!?」
様子をうかがっていた俺は、視界の端でキラリと光るものに気づいてはっとする。壁に身を潜めるようにしていた一人のテロリストが、立ち上がった男性に銃口を向けたのだ。
「……クソ!!」
考えるよりも前に、足元へ転がって来た拳銃を拾って立ち上がる。驚いた様子でキラ先輩とマユにカガリさんが見上げ、そして男性もまた何事かと横目でこちらを見てくるが構わない。
俺は銃を構えて………引き金を引いた。
「ぐぁっ!?」
乾いた発砲音と共に放たれた銃弾は“狙い通り”に狙撃者の右肩を撃ち抜き狙撃は失敗。狙撃を阻害された男は、再び銃を構える前に男性の銃弾を受けて倒れ込む。
気付くと銃声は止んでいた。
周囲を見回せばうっすらと漂う硝煙と、至る所に横たわる死体と怪我人が店内を埋め尽くしていた。
「………………」
しかし、それよりも俺は自身の右手に握る銃と“震える右腕”に視線が映っていた。
MSで俺は人を殺したが……“銃で人を傷つける”のはコレが初めてだった。
手に持つ銃が重く感じて投げ捨てようと思ったが暴発するかもしれないのでそっと……近くの椅子に置いた。………置いても手の震えは消えなかった。
その時、ドスっと音を立てて誰かが背中に抱きついている………マユだった。
「………無事だったか?」
「…………うん」
怖かったのだろう体は今だに震えていた。無理もない、楽しい会談が一瞬で血みどろの地獄に変わったんだ…
「シン!」
「おい!」
とりあえず一息吐こうとした時だった。
震えた大声と怒鳴り声に呼び掛けられ振り返るとキラ先輩が怒った顔で此方を見ている。
「え、えーと無事でよかった…」
「無事で良かったじゃないよ!?突然、飛び出して!シンのバカ!バカバカ!」
俺の胸をポカポカ叩きながら罵倒してくるキラ先輩……地味に痛い。
そんなキラ先輩の背後では、怒鳴り声を上げたカガリさんがキラ先輩の剣幕に怯えてオロオロしていた。
それに頭からケバブのソースや飲み物をかぶったカガリさんはかなり悲惨な状態になっており、思わず吹き出しそうになるが、例の同席者が、じっと俺を見ていたことに気づき顔が強張る。男の目はサングラスで隠されて見えないが、視線はたしかに俺を捉え、その口元には奇妙な笑みがあった。
「いやぁ、助かったよ。少年」
男性は笑みを浮かべて俺に近づき、震える俺の右手に気づく。
「…………初めてだったかい?人を銃で撃つのは?」
「………ええ…まぁ…」
先程まで浮かべた笑みは消え去り目はサングラスで見えないが声は明らかに低く真剣味を帯びている。
「…………すぐに慣れるさ」
「………………………」
短く、まるで昔誰かに言われた様に懐かしんだ声で俺の肩に手を置いて男性は言った。
その彼に、店内にいた仲間らしき者たちが駆け寄る。
「隊長!ご無事で!?」
………隊長?
その単語を聞きとがめた俺達に顎をしゃくり、男性は言った。
「ああ、私は平気だよ。彼のおかげでな」
そして、顔を隠していたサングラスを取る。後ろでカガリさんの息を飲む音が聞こえた。
「アンドリュー・バルトフェルド……!」
「「「!?」」」
小声で呟かれたその名を聞き、俺達も硬直する。
「ああ、自己紹介がまだだったね?彼女の言う通り……アンドリュー・バルトフェルドだ。よろしく頼むよ」
目を見開く俺達に笑みを浮かべて男性…バルトフェルドさんはそう言った。