νシン・アスカは伊達じゃない!   作:DestinyImpulse

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 今日、機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY REMASTEREDが発表されましたね!

 バレンタインの日にSEEDの発表とか流石はバンダイ…。

 


26. PHASE-26【宿敵の牙】

 

「あ、あの……私達ほんとに、いいですから」

 

 先程から何度も繰り返した言葉を、キラ先輩はまた口にした。豪勢なホテルを前にして、尻込みしている民間人の少年たちのように見えるかもしれない。だが実のところ、冷や汗をかいているのはホテルの前に並んだザフトの警備兵や中庭に立つザフトのMSの姿を目にしたからである。

 

 あのテロの後、俺達はバルトフェルドさん達が用意したジープに乗って、ザフト軍が仮設司令部にしている高級ホテルへと招待される事となった。

 

 断る事もできずに気づけば敵の本拠地……頭を抱えたくなる…。マユも不安そうに俺とキラ先輩の後ろから離れない…

 

「だめだめ!お茶を台無しにしたってのに、こっちはそのうえ命を助けてもらったんだよ?このまま帰すわけにはいかないでしょ?」

 

 バルトフェルドさんは俺達の焦りにも気づかぬ様子で、車から先に降り立ち、手を差し出す。

 

「だいたい彼女なんか、服ぐちゃぐちゃじゃないの。せめてそれだけでもなんとかしてもらわないと。ねえ?」

 

「いやっ、わ、私はぜんぜん平気だから!」

 

 カガリさんも必死で首を振るが……

 

「それじゃボクの気がすまないよ!」

 

 …とまで言われては、断るのもかえって不自然だろう。俺達は顔を見合わせた後、腹をくくって敵地へと乗り込んだ。

 

「お帰りなさい、アンディ」

 

 バルトフェルドさんの後についてホテルの中へ入り、不意に柔らかな女性の声が聞こえた。俺達の行く手に現れたのは、艶やかな黒髪を流した美しい女性だった。

 

「ただいま、アイシャ」

 

「あら、この子達ですの?アンディ」

 

 バルトフェルドの横に立って、覗くようにカガリさんやキラ先輩を見るアイシャと呼ばれた女性。

 

「アイシャ。彼女をどうにかしてやってくれ。チリソースとヨーグルトソースとお茶を被っちまったんだ」

 

「あらあら、ケバブね?」

 

「それと、その子達も是非連れて行ってくれ。化けると思うよ?」

 

 バルトフェルドさんに言われたアイシャさんは少しの間キラ先輩とマユを眺めると、優しく微笑みを浮かべた。

 

「そうね。素敵になるわ」

 

「なら、頼む……彼がビックリする程にね」

 

 腕が鳴るわね…と返すと、アイシャさんはキラ先輩とマユの肩にも手を掛け、そのまま三人纏めて奥へ連れて行こうとする。

 

「あ、あの!」

 

 流石に敵の本拠地でザフトの人に連れていかれるのはマズイと思って止めようとしたが、アイシャさんが目の前で指を振った。

 

「だめよ、レディの着替えについてきちゃ。すぐすむからアンディと待ってて。男の子は男の子同士、女の子は女の子同士よ」

 

 彼女は甘く叱る調子で言い、楽しそうにキラ先輩達を連れ去った。すでに一室に入りかけたバルトフェルドさんが俺を呼ぶ。

 

 悪意は無さそうだったからキラ先輩達を害するとは思えないが、ここは敵陣のまっただ中だ。俺は後ろ髪を引かれる思いで呼ばれた部屋に入った

 

「ボクはコーヒーにはいささか自信があってね」

 

 バルトフェルドさんはそう言いながら、コーヒーメーカーを弄っている。

 

「まあ、かけたまえ。自分の家だと思ってくつろいでくれよ」

 

 ……いや無理だろ。

 どう考えても自分の家とは思えない。明るく広い部屋はバルトフェルドさんの執務室なのだろうか、中庭に面した側は全面がフランス窓になっていて窓に背を向けてアンティークらしい書き物机が置かれている。

 

 たぶんこの机だけで何百万もするだろう。床には使い込まれたシルクの絨毯が敷かれ、ソフアセットがその上に据えられている。壁にはどうやら本当に火が焚けるようになっている暖炉まであった。

 

 ごく標準的な一般家庭で育った俺には、こういう雰囲気には縁がない。

 

 高級品ばかりだな〜と辺りを見回していると“ある物”が目に入った。

 

 胴体の中場から、翼の骨格を突き出した、誰もが一度は目にしたことのある奇妙な生物の化石…そのレプリカだ。

 

「……エヴィデンス01。実物を見た事は?」

 

 俺がエヴィデンス01に目を奪われている事に気付いたバルトフェルドさんがカップを二つ持って尋ねて来た。

 

 その問い掛けに頭を振って答える。これのオリジナルであるエヴィデンス01は現在プラントにある。かつては地球からも見学ツアーなどが組まれていたらしいが、開戦以降、当然ながらプラントの住民以外には公開されていない。

 

 バルトフェルドさんはしみじみとそれを眺めながら再び口を開いた。

 

「何でこれを鯨石と言うのかねぇ。これ、鯨に見える?これどう見ても羽根じゃない?普通鯨には羽根はないだろう?」

 

「まぁ……初めて見て何に似てるかと言えば鯨なんじゃ?」

 

 しかし本当に何なんだろうなコレ?今後、明かされるのか?……00の映画みたいに戦う事にならないよな?

 

「うーん……確かに既存の生物だと鯨に似てる……のかな?あ、どうだい、コーヒーの方は?」

 

 是非感想を!と言いたげな視線を受けて俺は、手渡されたカップに口をつけた。……苦いな。

 

「ふむ、君にはまだ分からんかなぁ、オトナの味は」

 

 まぁ、13才だしな。

 俺の表情を見ていたバルトフェルドさんは、気を悪くする様子もなく自分は美味そうにコーヒーを口しながらソファにどっかり腹を下ろした。

 

 俺もその向かいに遠慮がちに座る。バルトフェルドさんは再び、エヴィデンス01のレプリカに視線を戻した。

 

「まぁ……楽しくもやっかいな存在だよねえ、これも…こんなもの見つけちゃったから、希望…っていうか、可能性を信じるようになっちゃったわけだし…」

 

 ……言わんとする事は分からなくない。ぶっちゃけコレ以上の宇宙探索はしなくていいと思う。木星まで行って何処ぞの金属生命体に出会しました〜なんて日には人類滅亡だ。

 

 シリーズ内でも屈指のインフレ世界である00ですら真っ向から戦って勝ち目なし、色んなイレギュラーが重なって創始者の想像より早く覚醒した主人公の刹那が様々なバックアップを受けてギリギリ対話に持ち込んだ連中だ。

 

 コーディネイターやナチュラルで争い合う…いや、この世界の全勢力が協力しても無理だろう。

 

まぁ奴等がこの世界に居るのかは分からないが、このまま地球圏で満足した方が良い筈だ。

 

「人はまだもっと先まで行ける、ってさ。この戦争の一番の根っ子だ」

 

 そんな事を考えていると、コーヒーに口をつけながらバルトフェルドさんの表情には街で見せたような陽気さは無くどこか暗い影があるのに気づく。

 

「アンディー」

 

 少しの沈黙が降りた時、部屋の扉が開けられると、先ほどのアイシャさんが部屋へ入ってくる。

 

「ほぉ、可愛らしいじゃないか。なぁ少年」

 

「え、えぇ。似合ってるぞマユ」

 

「そうかな。えへへ…」

 

 アイシャさんの後ろからピョコっと現れたマユの姿は可愛らしい赤のドレスを纏っている。マユもドラマで見る様なドレスを着れて嬉しそうだ。

 

「「…………」」

 

 すると、扉の陰からカガリさんとキラ先輩が少しだけ顔を覗かせた。どうやら入室するのを躊躇っているようだ。

 

 

「あーほら。もう入ってらっしゃい」

 

 そうやってアイシャさんに手を引かれてカガリさんが入室する。彼女は街でいた時とは打って変わって、髪を結い、薄化粧を施されたうえ、翡翠色の裾の長いドレスに身を包んでいた。

 

「ほら!キラ先輩も!」

 

「ちょ、待ってマユちゃん!?ま、まだ心の準備が!?」

 

 キラ先輩もマユに引かれてその姿が露わになるが…

 

「あっ…!」

 

「ヒュー!」

 

 その姿に俺は……目を奪われた。

 

 キラ先輩は青と黒のドレスを身に纏っていた。上半身は鮮やかな青で下にいくにつれて黒く染まっており、カガリさんと違ってドレスは裾が短く、裾の先で左側が長く右側が短い左右非対称の黒いレースがひらりと揺れた。

 

 レースには青いクリスタルビーズやスパンコールが散りばめられており目を奪われる。

 

 そして視線を移されたレースから覗く足には黒いタイツに覆われた足が見えるが、短い右側のレースには左側からでは見えない、太過ぎず細過ぎない絶妙なバランスの右太ももが露になっている。

 

 魅力は下半身だけはなく上半身では胸元が大きく開かれ、存在感のあるキラ先輩の胸の谷間は多くの人を虜にするだろう。

 

 キラ先輩の魅力を余す事なく引き出し、普段は清楚なキラ先輩が醸し出す見る者を虜にする妖艶さが俺を逃がさない。

 

 それは夜空に煌めく星の様に……

 

「……綺麗だ」

 

 気づけば俺は口にしていた……。キラ先輩を見て思った嘘偽りない己の魂の本音を…

 

「っ~~~~~~~~!?」

 

 それに気づいたのはキラ先輩が顔を真っ赤にさせ、マユの小さな体に隠れようとした時だった。

 

「あらあら」

 

「いや〜若いね〜!」

 

「えっ、あ…っ!?」

 

 アイシャさんとバルトフェルドさんの微笑ましい者を見る様な視線と言葉に俺は顔を真っ赤に染めて行き場のない恥ずかしさに体を震わせた。

 

 その後、どうにか持ち直した俺達はバルトフェルドさんとアイシャさんに並べて座らされコーヒーを勧められた。

 

 

「キラ君は言うまでもなく、マユちゃんは可愛らしいけど、君もドレスがよく似合うねぇ。と言うか、“そういう姿も実に板に付いてる”感じだ」

 

 アイシャさんが部屋を去った後にバルトフェルドさんが話を切り出す。ドレスの話を出されて再び顔を真っ赤に染める俺達、チラリとキラ先輩を見ると恥ずかしそうにそっぽ向かれ「シンのバカ」と返される。

 

 そんな俺達をニヤニヤとマユと一緒に見つめるバルトフェルドさんに話を振られたカガリさんが乱暴に返す。

 

「勝手に言ってろ」

 

「喋らなきゃカンペキ!」

 

「よけいなお世話だ!そう言うお前こそ、ほんとに砂漠の虎か?何で人にこんなドレスを着せたりする?これも毎度のお遊びの一つか!」

 

 カガリさんの言葉をバルトフェルドさんは聞き流しコーヒーカップに手をつけながら首をかしげる。

 

「ドレスを選んだのはアイシャだし、毎度のお遊びとは?」

 

「変装してヘラヘラ街で遊んでみたり、住民は逃がして街だけ焼いてみたり。ってことさ」

 

 そこで、バルトフェルドさんの手が止まった。

 

 ………ん?

 

 あれ?今この人、タッシルの事を言った?

 

(何やってんだお前ー!?)

 

 思わず叫びそうになるのを抑える。もう勘づかれているかもしれないけど、まだ誤魔化せるかもしれないのに、軽々しくそんな事を言って、自分達の正体をぐうの音を出ない程に暴かれたらどうするつもりなんだ!?

 

 バルトフェルドさんを見ろよ!先程とは違い観察する目の様な真剣な目でこっちを見てるよ!

 

 

「真っ直ぐだね。…実にいい目だ」

 

「ふざけるなっ!」

 

 センターテーブルを叩きながら激昂するカガリさん、倒れそうなカップをマユが反射的に支えキラ先輩がカガリさんを押さえようと腕を掴んだ。

 

 バルトフェルドさんは、先程までの人の好さが夢のように感じられるほど、冷たく鋭い目で俺達を見る。

 

「……キミも、“死んだ方がマシ”なクチかね?」

 

 その視線に縫い止められたかのように、俺達は硬直する。相手は冗談のようなアロハシャツを着て、ソファにだらりと座ったままだというのに、その体から発せられる雰囲気は肉食獣の酷薄さを漂わせる。

 

 ふいにバルトフェルドさんは俺とキラ先輩を見やった。

 

「君達はどう思ってる?」

 

「「……?」」

 

「どうしたらこの戦争は終わると思う? MSのパイロットとしては?」

 

「お前…どうしてそれを!」

 

その言葉に俺達よりも早くカガリが叫んでいた。とたんに、バルトフェルドさんは噴き出していた。

 

「おいおい……あんまり真っ直ぐ過ぎるのも考えものだぞ!」

 

 カマかけられたな…それに、まんまと乗っかったカガリさんはアレだが、バルトフェルドさん……かなりの曲者だ。

 

 バルトフェルドさんは笑いながら立ち上がる。

 

「戦争には制限時間も得点もない……スポーツやゲームみたいにはね。そうだろう?」

 

キラ先輩がカガリさんとマユを引き寄せ、ソファを回って歩くバルトフェルドさんから目を離さずその前俺が立って身構える。

 

「なら、どうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?」

 

 相手の隙をうかがい、逃走経路を検討しつつ、同時に俺やおそらくキラ先輩の頭は相手の問いかけに対する答えを探す。

 

 どこで、終わりになる?これまで襲ってくる奴等を撃退することに精一杯で、そんな事を考える余裕もなかった。

 

 Gガンダムのガンダムファイトの様な無闇に人が傷つかないある意味で理想的な物とは天と地ほどの差がある、このコーディネイターとナチュラルの戦争は…

 

「敵である者を、すべて滅ぼして………かね?」

 

 バルトフェルドさんが近くあった棚の引き出しを引き抜くと……そこには拳銃があった。

 

 カガリさんが小さく息を呑む音が聞こえる。バルトフェルドさんはその銃を………

 

「………ふっ」

 

 ………取らなかった。

 一瞬呆気に取られる俺達にバルトフェルドさんは笑みを浮かべる。

 

「マユちゃんの様な幼い少女を撃つ程、僕は落ちぶれてはいないよ」

 

「…………オジサン」

 

「ふふ、すっかりオジサンが板に付いてしまったな。本当はお兄さんと呼んでほしいがね。君の兄やキラ君と同じ“コーディネイター”のよしみなんだし」

 

「「っ!?」」

 

 俺とキラ先輩が目を見開き、カガリさんが驚愕の表情を浮かべて俺達を交互に見た。

 

「お前等!?」

 

 カガリさんはこんな場面だというのに、なぜ教えなかったのだと咎めるような目で見た。だが、その表情にも仕草にもフレイ先輩の様な嫌悪感はこれっぽっちも窺えなかった。

 

「キミ達の戦闘は見させてもらった。ストライクの砂漠の接地圧、熱対流のパラメータに金ピカの正確な狙撃に極めて高いコンビネーション……キミ達は同胞の中でも、かなり優秀な方らしいな。あのパイロットをナチュラルだと言われて素直に信じる程、私は馬鹿じゃない」

 

「…………………」

 

「あのストライクのパイロットはどちらか教えてくれると嬉しいだけどね?」

 

 口調は柔かだけどその目は言い逃れは認めないと言わんばかりに厳しい……

 

「……俺がストライクのーー「嘘だな」ーー……っ!?」

 

 っ!?バレた!?いや、コレもハッタリか!?

 

 表情に出さない様にする俺を見てバルトフェルドさんは楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「ふ、必死に腹芸しようとするのは感心だが、コレは経験で磨くスキルだ……まだまだ若いな少年。それに君がそれなりに隠せても後ろの可愛い三人が嘘だって教えてくれたよ」

 

 キラ先輩はともかく、マユとカガリさんに腹芸なんてできる訳がねぇ……。クソ!完全に掌の上じゃねぇか!?

 

「となると、あのストライクのパイロットは君か。可愛らしさとは裏腹に凄まじいな…キラ君」

 

「うっ……」

 

 キラ先輩を意外そうに見つめるバルトフェルドさん。多分ストライクのパイロットは俺だと思っていたのだろう。できれば、その先入観のまま騙されてほしかったが…!

 

「そして君があの趣味の悪い金ピカのパイロットか……なんでフレームが金ピカなんだ、君の趣味かい?」

 

「………初めからフレームが金ピカでしたよ」

 

「……そうか、趣味の悪い開発者だ」

 

 断じてアレは俺の趣味じゃない。そう訴える様に睨む俺を見て笑みを強めるバルトフェルドさん。

 

「それにしても…君の瞳は実にいい。真っ直ぐだが、彼女には無い“力強さ”がある。あらゆる障害を乗り越える“強い意志”が……」

 

「…………………」

 

 その目は先程エヴィデンス01の話をしていたときと同じ、優しくて少し切なげな色をしていた。

 

「………ま、今日の君は命の恩人だし、ここは戦場ではない、帰りたまえ。今日は話ができて楽しかった。良かったかどうかは、分からんがね」

 

 バルトフェルドさんの言葉に嘘は感じられず、俺達は目と目を交わし、相手の気が変わらぬうちにドアに向かった。

 

 ドアを開けると、バルトフェルドさんが声をかけた。

 

「また、戦場でな」

 

 俺達はその言葉に一瞬足を止める。どう返せばいいのか分からず立ち去ろうとした時……

 

「…………っ!」

 

「!?、マユ!?」

 

「マユちゃん!?」

 

 マユが突然、バルトフェルドさんに駆け出した。慌てて俺とキラ先輩が止めようとするもマユは聞かず、バルトフェルドさんもまさか戻ってくるとは思ってなかったのだろう、呆気にとられている。

 

「……今日はありがとうオジサン。奢ってくれたデザート凄く美味しかった。……コーヒーは苦かったけど……凄く楽しかった。………“さようなら”」

 

 バルトフェルドさんの前に立ち止まったマユは次の瞬間、バルトフェルドさんに抱きつき思い思いの言葉を口にする。

 

「…………僕も楽しかったよ。……“さようなら”だ」

 

 それを聞いたバルトフェルドさんも穏やか笑みを浮かべてマユを頭をそっと撫でる。

 

 数秒後、バルトフェルドさんから離れたマユは俯きながら俺達の所に戻ってくる。

 

「………今日はありがとうございました」

 

「………あぁ、行きたまえ」

 

 最後にそう言って扉を閉める。閉める時に一瞬見えたバルトフェルドさんの表情は……、切なそうだった。

 

 廊下にはアイシャさんが佇んでいた。つい身を固くする俺達に柔らかな笑みを浮かべる。

 

「貴女達の服よ」

 

 渡された紙袋には綺麗にされたキラ先輩達の服が納められていた。

 

「あ、じ、じゃ、ドレスを……」

 

「いいの。貴女達にあげるわ。その服。私より似合っているもの」

 

 アイシャさんはさらっと言う。見た感じフレイ先輩ですら着た事がない様な高級品なのに…

 

「で、でも……」

 

 早く此処から離れたい気持ちと、遠慮しがちな性格の板挟みになって慌てるキラ先輩にアイシャさん笑んだ。

 

「本当にいいの。自分より似合うひとのいる服なんて、私は要らないから」

 

 女性ならではの毒のある台詞を、なんの刺々しさも感じさせず言ってのけた彼女に、キラ先輩とカガリさんは一瞬絶句した。アイシャさんの顔にはかわらず、花のように艶やかな笑みが浮かんでいる。

 

「………アイシャさんもパイロットなの?」

 

 その時、先程から俯いてマユがアイシャさんに質問する。思わぬ問いかけに虚を突かれた表情をするアイシャさんだったがすぐに笑みを浮かべる。

 

「……ええ、そうよ」

 

「……………」

 

 それを聞いてマユが先程バルトフェルドさんにした様にアイシャさんにも抱きついていく。

 

「……アイシャさんも今日はありがとう。ドレス……大事にするから…。……“さようなら”」

 

「……えぇ、そうしてくれると嬉しいわ。……“さようなら”」

 

 アイシャさんもバルトフェルドさんと同様に穏やかな笑みでマユの頭を撫でた後に最後に少し屈んで軽くマユの額に口づけをする。

 

「………お行きなさい。他の者は、貴方達の事、まだ知らないわ」

 

 マユを俺達の側に戻し、そう言って去っていくアイシャさんに俺達はそっと頭を下げ、逃げる様にその場を後にした。

 

 

 …………泣きそうなマユを抱き寄せながら。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ねぇ、アンディ」

 

「なんだいアイシャ?」

 

 シン達が去った部屋の中、沈む夕日に照らされて窓辺に佇むバルトフェルドの背中にアイシャが声を掛けた。

 

「………私、子供が欲しくなっちゃった。可愛らしい女の子が…」

 

「………奇遇だねアイシャ。僕もだよ」

 

 いつもの様な妖艶な笑みとは違う、何処か寂しげな笑みで抱きついてくるアイシャにバルトフェルドも寂しげな笑みを浮かべる。

 

 彼等の脳裏には去り際に抱きついてきたマユの姿が過ぎる。可愛らしくて、優しくて……聡明なあの娘の泣くのを我慢する顔が…

 

「………アイシャ」

 

「なぁに?」

 

「……今日は甘えても良いかい?」

 

 そう言う彼の頬をアイシャはそっと撫でる。

 

「……ええ、勿論よアンディ」

 

 その言葉を聞き砂漠の虎は、愛する女を抱き締め…静かに近くにあるベッドにそっと身を沈めた。





 
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