Z世代エヴァンゲリオン   作:あほみね

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第1話

「碇シンジ、我々と一緒に来てもらいたい」

 

「なあにこれ?」

 

学校からの帰り道を歩いていたらいきなり黒服の集団に囲まれた。逃走中のハンターみたいな黒いサングラスとスーツの男が僕を囲んでいる。あれ僕またなんかやっちゃいました?

 

ガチャリと車のドアを開けてスーツは僕にその中へと入るように促す。そんな怪しすぎる場所に入るわけないだろうが常識的に考えて!!⋯⋯だが今全力ダッシュをしたところでこいつらから逃げられるわけがない。この場から離れる上手い言い訳は何かないものか⋯⋯

 

京大卒の父親を持つIQ高め(多分ね)の頭をフル回転させて僕は答えを導き出した

 

「わかりました。あなたたちについていきます。ただその前にお世話になったおじさんたちに一言挨拶しに行ってもいいですか?それが終わったら戻ってきますから」

 

「調査報告によると君とご家族の仲はあまりよくないらしいが?」

 

「なんで知ってるんだよ!?このストーカーがよ!?」

 

「連れて行け!」

 

リーダーらしき人の命令に従いスーツたちは抵抗する僕を抑え込んで車の中に無理矢理乗せようとする。冗談じゃない!最近人生ようやく少し楽しくなってきたんだ!こんな訳の分からないところで訳の分からない目に遭わされてたまるものか!!

 

粘れシンジ!ここが踏ん張りどころ。人生のターニングポイントなんだ!!

 

「ウオオオ!!HA☆NA☆SE☆」

 

「暴れるな!大人しくしろ!」

 

「うわああああ!!やめろ少年相手に大人が大人数で徒党組んで襲い掛かってもいいと思ってんのかバカヤロー!!ここは法治国家なんだぞ!?未成年誘拐罪とか洒落になんないからな!?Z戦士を舐めるなよこのスーツどもが!!」

 

「ちょっと何?騒がしいわねー?」

 

全身全霊で命をかけて暴れ回っていると、車の中から一人の女性が出てきた。スーツたちが頭を下げる。なんだこいつらのボスなのか?んん?この人、どっかでみた覚えがあるようなー⋯⋯

 

「あっ!?エロい写真の人だ!」

 

「うん?なんのことかしら?」

 

「惚けないでくださいよ!胸の谷間強調した写真送ってきた人でしょうあなた!」

 

そう。つい先週のこと。僕をネグレクトしている音信不通の父から来いと一言書かれた手紙が送られてきたのだ。大量に黒塗りがされた謎の紙に雑に来いとたった一文字だけ。

 

当然破り捨てた。

 

だが届いたのはその手紙だけではなかった。知らない女性がおっぱいチラ見せしてくるエッチな写真も入っていたのだ。美人でおっぱいが大きい。数十年前のネットが普及する前世紀なら一家の家宝として額縁に入れていたかも知れない。

 

だが破り捨てた。

 

生憎僕はZ世代なのだ。子供の頃からインターネッツで世界中の欲望をかき集めたエロ画像、エロ動画を嗜んできたZ戦士が今更ちょっと見た目がいいだけの全裸でもない胸チラ如きに欲情する道理はない。エロ本や袋とじをありがたがる老害とは格が違うのだ。大体知らない男子中学生に自撮りエロ画像送るとか控えめに言ってやーばいでしょ。

 

「ん?あー⋯⋯送ったけそんなものも?まあ酒の勢いで?ゴミンネ?」

 

「ババアのてへぺろは殺人兵器。年のほどを弁えてください」

 

「ぶっ殺すわよ?私まだ三十路じゃないから」

 

「ヒィィィィ!?中学生以上はババアなんだよオオオオ!?」

 

「何この子?本当に碇所長の御子息なの?⋯⋯まあとにかく行くわよ」

 

そのまま僕は黒服たちに連れられて車の中にポイっと投げ入れられた。隣にはおっぱいのお姉さんが座る。アクセルが踏まれ車は僕を乗せて走り出してしまった。

 

え?まじで誘拐されたんだけど?ドッキリとかじゃないのこれ?冷や汗が止まらない。僕はこれから一体どうなってしまうのだろうか?逆レか?今からこの年下ショタにエロい写真送るお姉さんに人権剥奪されて逆レの筆下ろしされてしまうのか!?

 

それは⋯⋯ありよりのあり!!やっぱババアは三十路になってから!20代はまだ僕とお似合いの女子中学生なんだわ!!

 

「シンジ君」

 

「はいっ!」

 

「無駄にいい返事ね⋯⋯それで今こうなっている理由、分かるかしら?」

 

「皆目見当もつきません!」

 

「あっそう。あのね先週手紙が届いたわよね?私の写真見たんなら読んだはずでしょ?なんで来なかったの?おかげでこっちはほんっとうに大変な目にあったんだから。世界滅亡一歩手前。冗談じゃないわよ!」

 

「いや、なんでも何もあんな手紙で行く訳ないじゃないですか」

 

ぐしゃぐしゃで黒塗りだらけの紙。一言来いとだけ書かれている⋯⋯バカがよ!?

何も見せる気がないなら黒塗りなんて面倒なんてことせずそもそも機密文書を送らなきゃいいじゃん!

父さんは何がしたいんだよ!?マッキーでちまちま機密事項黒塗りしてたの!?他にもっとやることあるだろ!

 

世界滅亡一歩前?

ならそう書けよ!そんなにやばい案件なら流石に行ってみるくらいはしたよ!でも「来い」としか書かれてないんだもん。あれで人類の危機が迫ってるとか分かるわけないよ父さん!報連草もまともにできないなんてやっぱら碌でもない大人だよあんたは⋯⋯

 

「ほら」

 

「⋯⋯これは確かにひどいわね。でもねシンジ君、人類を救うためには細かいことはつべこべ言ってられないの。あなたは来なくちゃいけないときに来なかった。碇司令、本当にビックリしてたんだから。シナリオにない⋯⋯って顔面蒼白だったのよ?」

 

「あのグラサンがですか?」

 

「そうよ。あのグラサンが」

 

父さん、僕は父さんのメンタルにダメージを入れられたみたいで本当に嬉しいよ。

駅のホームでギャン泣きする僕をネグレクトして電ちゃでさよならしたあの日のこと、僕はまだ根に持ってるからなァ!

 

ところで人類滅亡一歩手前だったというのは本当のことなのだろうか?

父さんが人類を救う何やら重要な仕事をしているということは話に聞いている。具体的に何をしているのかまでは知らないけれど。本当だったらちょっと責任を感じてしまう⋯⋯冗談だといいんだけど⋯⋯

 

「それで人類滅亡一歩手前って何があったんですか」

 

へぇ。使徒と呼ばれる巨大生命体が人類を滅ぼそうと襲ってくるから、汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンとかいうロマンの塊を使ってぶっ殺したと。それで僕がエヴァに乗るはずだったのに、来なかったから使徒に負けそうになった反省してください?

 

なんでそうなるんだよ!?

え?どうして僕がそんな前線で命張ってまともな訓練も受けてないのにやべえやつと戦わなくちゃいけないの?大人が戦えよ!何だって?エヴァは子供しか乗ることができない?エヴァポンコツすぎるだろうがァ!そんな挙動不審なやつに人類の未来任せちゃダメだと思うよ。

 

「それで、結局どうやって使徒に勝ったんですか?」

 

「もう一人のパイロットの少女がすごく頑張ってくれたのよ。

血まみれ包帯まみれで怪我しているのにエヴァに乗って、辛勝を勝ち取ったの。

使徒が爆発した瞬間、私もう何かうるっと来ちゃったわ」

 

おま⋯⋯血塗れ包帯まみれで戦わせるって⋯⋯おま⋯⋯それ人権侵害だろ!?

え?パイロットならエヴァに乗ってるだけでいいんじゃないの?何で怪我まみれになっちゃうんだよ?意味が分からないよ!

 

「やべえよ⋯⋯やべえよ⋯⋯」

 

「大丈夫大丈夫、何とかなるからヘーキヘーキ」

 

こ、殺されてしまう。このままだと僕は確実に殺されてしまうぞォ?

今すぐ車から飛び降りて逃げるべきだ。人類の前にまずは自分を守るんだシンジ⋯⋯

 

「本当可哀想よね。パイロットの子、綾波レイって言うんだけど、あんたが来なかったから代わりに戦わされたのよ?」

 

「えっ?」

 

「シンジ君が来てれば無理して戦う必要はなかったのに⋯⋯

男の子が逃げて女の子戦わせちゃダメでしょ?」

 

「ぼ、僕のせいなのか⋯⋯」

 

いやどう考えたって子供しか乗れない仕様のエヴァが悪いです。というか何で子供の中でも特に僕なの?まあ深く考えたって無駄かァ!

 

エヴァに乗るしかないのかな?第三新東京市に行って人類を使徒から守るためにエヴァに乗るしかないのかな?

女の子に戦いを押し付けるのは確かによくないよな⋯⋯

逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ⋯⋯

 

──でも逃げるは恥だが役に立つとも言うよね?

 

「チッ!渋滞かあ⋯⋯急いでるんだから早くしなさいよ」

 

「今しかねえええええええ」

 

「あっちょっとシンジ君!?」

 

車から飛び降りて僕は逃げ出した。行く当てはない。ただ謎ロボットに乗って意味不明の化け物に殺される未来から逃げられるのであればどこでもいい⋯⋯

 

 

 

「じゃ自己紹介して」

 

「碇シンジです。エヴァのパイロットとして拉致されて今日からこの学校に通うことになりました。よろしくお願いします」

 

逃げたら秒でスーツたちに拘束されて車に連れ戻された。

ハンカチを顔に当てられて意識がなくなり、気が付いたら第三新東京市。

そして最寄りの学校に通わされることになったが、人類救うパイロットがスクールライフを謳歌してもらってもいいのだろうか?

 

他にもっとスケジュールを密に詰めてやることあるよな。

エヴァの操作訓練、使徒の生態についての講義。パイロット同士で円滑な連携をするためのコミュニケーションなどなど──

 

「「「うおお!?エヴァのパイロットォ!?」」」

 

「えっ?」

 

すごい。エヴァンゲリオンのパイロットってすんごい!

女子たちが、女子中学生たちが僕に次から次へと話しかけてくる。連絡先を聞きたい?もちろんです。さあこのQRコードを読み取るんだ。いつでもLINEして来ていいからね?

 

逃げなくてよかった。車から逃げ出した僕を捕まえてくれたスーツさんたちには感謝しかない。

地元の学校ではパッとしない奴だった。でもこの第三新東京市でならエヴァのパイロットとしてキラキラのスクールライフを送ることも夢ではないかもしれない!

 

「じゃあ碇、席はあそこな」

 

「はい」

 

隣の席は女子だった。やったね!青い髪と赤い瞳、儚げな雰囲気を纏った美少女だ。お近づきになりたい⋯⋯

 

「よろしく。名前は碇シンジ。君は?」

 

「⋯⋯綾波。綾波、レイ」

 

ん?どっかで聞き覚えのある名前だな⋯⋯

そうだ!車でミサトさんが話していた子じゃないか!

 

「もしかして、エヴァのパイロットなの?」

 

「そう」

 

「僕もこれからなるんだ!これからよろしく」

 

「⋯⋯」

 

あれ?なんか無視された⋯⋯とても辛い。

 

 

 

「おまえ、エヴァのパイロットらしいな?」

 

「うん」

 

「なら一発殴らせてもらおか!?オラァ!」

 

「ぐわぁ!?」

 

放課後、いきなり呼び出されてもしやいきなり告白かと思ったら柄の悪い関西弁の男に殴り飛ばされた。

い、痛あい!

お、親父に殴られたことないのに!

──そもそも喧嘩できるほどの密なコミュニケーションを取っていないだけなのだけれど!

 

「おまえの操縦したエヴァのせいで妹は大怪我をした。

暴れ回って壊したビルの瓦礫に巻き込まれたんや」

 

「そ、そんなことが⋯⋯」

 

「どない責任取るつもりやああ!?」

 

そういうのはパイロットじゃなくてNERVに言おうよ。なぜ市街地で戦闘してしまうのか?

使徒が襲ってくる所に街作って一般市民済ませるとか頭おかしいよ。

 

確かに妹さんが怪我をしたのは責任問題だ。でもエヴァに乗ったパイロットは僕じゃなくて綾波だよ?こいつ責任の矛先間違えているな⋯⋯

 

「なんとか言えや!」

 

「そもそも僕はパイロットじゃな──」

 

そのとき視界の端を綾波が通り過ぎって行った。チラリと殴られる僕のことを見たが、特に何をするわけでもなくそのまま立ち去っていた。助けてくれないのかよ⋯⋯

 

だが少し考えてみろ。もしここで妹に怪我を負わせたパイロットが綾波だと言ったらどうなる?こいつはターゲットを変えて綾波を殴るのかもしれない。ここは逃げちゃダメな所だ。

 

「はあ。もう好きなだけ殴ればいいよ」

 

「ああ!?」

 

「それとも何か?土下座でもしろって言うならするけど?」

 

盗んだ自転車で嫌な現実から走り出そうとしたとき、警察のお世話になったが、全力土下座をしたらお咎めなしで許してくれたことがある。他にも度々やらかしてしまったことがあったが、土下座をすれば全部どうにかなった。つまり僕は土下座のエキスパートってことだ。

 

「こ、こいつぅ〜!

いい度胸や!全力で殴ってやるさかい覚悟しぃ!」

 

「と、トウジ!もうやめなよ!」

 

「オラァ!」

 

「ぐえっ!」

 

本気で殴られてとても痛かったです。一体僕が何をしたっていうんだ!?

エヴァンゲリオンのパイロット、やっぱ碌でもないな!

今からでも遅くない、NERVから逃げるんだシンジ⋯⋯

 

 

 

保健室に行った後、廊下を歩いていたら綾波とばったり出会った。

何も言わずにまた通り過ぎようとしたので今度は前に立って道を塞いだ。

 

「ねぇさっきの見てた?」

 

「殴られていた」

 

「助けてあげた僕に何か言うことがあると思わない?」

 

代わりにぶん殴られてあげたというのに感謝の言葉一つもないなんてどうかと思う。

エヴァパイロットにも礼儀ありだよ多分。

 

「⋯⋯ごめんなさい。こんなとき何を言えばいいか分からないの」

 

「お礼を言えばいいと思うよ」

 

「ありがとう?」

 

「どういたしまして!じゃあまた」

 

「⋯⋯変な人」

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