十九世紀・イタリアの魔術師、アルベルト・リガノの著書『魔王』より抜粋
……この恐るべき偉業を成した彼等に、私は『カンピオーネ』の称号を与えたい。
読者諸賢の中には、この呼称を大仰なものだと眉を顰める方がいるかもしれない。或いは、私の記録を誇張したものと見做す方もいるかもしれない。
だが、重ねて強調させて頂く。
カンピオーネは覇者である。
天上の神々を殺戮し、神を神たらしめる至高の力を奪い取るが故に。
カンピオーネは王者である。
神より簒奪した権能を振りかざし、地上の何人からも支配され得ないが故に。
カンピオーネは魔王である。
地上に生きる全ての人類が、彼等に抗う力を所持できないが故に!
「……此処、何処だろうなぁ」
暗くとも夜とは思えない赤い空を見て、一人の男がごちた。
見渡す限り岩、岩、岩。草一本も見えない、見事な荒野だった。所々自然に出来たにしては、疑問に感じる奇岩だったり、注連縄があったりもするが……まぁどうでもいい。
男はつい数分前の行動を振り返ってみる。
男はこの間まで、ぶらり気楽な一人旅に出ていた。短いながらも濃密な旅であったが、男の満足感は確かなものであった。
その為、今日は久しぶりの帰宅である。旅から帰れば、その時家に居合わせた妻達を抱き、離れていた分の空白を埋める様に愛を睦会う。それが男のルーチンワークであった。
それが気付けば霧の中、晴れてみれば
そして……
「ま、何とかなるか」
男も慣れたもの、一瞬で疑問符を取り払い歩を進め始めた。どうやら男は"
………………
…………
……
それから男は、偶然迷い込んだ学生と思われる少年を助けた後、再び一人荒野に立つ。
「じゃあ取り敢えず……、──ッ!?」
動かなければ始まらないと一歩踏み出そうとして、突如頭痛に襲われる。その原因に男は心当たりがあり……
(パンドラ、か……!)
パンドラ。男にとっては第二の母とも言うべき存在。この痛みは、そのパンドラが外側から知識を入れ込む事で起こるものであった。
("魔都"……"
情景と共に頭に流れ込む言葉、それに付随する知識の詰め込みが終わり頭痛が治まった瞬間。
──突如目の前の地面が盛り上がり、何かが飛び出した。
それは巨体だった。
骨の能面と表現する様なおどろおどろしいのっぺり顔に、アンバランスではあるが筋骨隆々な黒い肉体。所々骨ばっているものの、それが却って恐ろしさを増す要素となっている。
それこそ、正に「醜い鬼」と言いたくなる存在が、そこに立っていた。
これが"醜鬼"であると、男は直ぐ様理解した。
先程詰め込まれた知識のせいか、それと併せて浮かんできた情景のせいか。男は複数のそれらから一瞬で二つを結び付け、目の前の怪異が醜鬼と呼称されるそれであると判ったのだ。
そして、その醜鬼は一体ではなかった。目前の個体の直ぐ後ろに、続けて二体似た様な容貌の巨体が現れる。
ギィギィと唸っているそれを視界の端で確認していると、最初の個体が徐に腕を振り下ろした。到達予想は、当然だが男の頭部。このままでは、男の頭が地面に叩きつけた柘榴の様に飛び散るのも時間の問題だろう。
だからこそ、そうならないように風切り音と共に迫る剛腕に男が対応するのも、当然ではあるだろう。
「……我は最強にして、全ての勝利を掴む者也。人と悪魔──全ての敵と、全ての敵意を挫く者也。故に我は、立ち塞がる全ての敵を打ち破らん!」
男は何か告げた後、目前に迫っていた醜鬼の腕を拳で迎え撃った。
本来なら、虚しい抵抗だと嘆くところだろう。
だが、その結果は。魔都の常識を知る者にとっては想定外の状況を齎した。
「……魔獣よりも弱いな」
その結果として、醜鬼は腕どころか上半身が消し飛んでいった。男の予想に反しあまりに弱すぎて、うっかり言葉を漏らしてしまった程だ。
振り抜いた拳の先で、残った下半身がボロボロと崩れ去る。そしてそれを待たず、控えていた二体が飛び掛かって来た。
「コイツ等もさっきのと同じ位なら……」
男は素早く二体目の到達より先に懐へ入り、鋭く拳を放つ。そして塵となると同時、三体目の腕を回し蹴りで弾いて首を引きちぎった。
男のその姿に、連綿とした技術は感じられない。だが、ただ只管に積み上げられた経験が、死線修羅場を潜り抜けた濃密な戦勘が、先程の動きを可能としている事をその背が物語っていた。
「……おいおい、まだ来んのか」
塵になって崩れていく醜鬼達に目もくれず、男はそう言って再び前方を注視する。男の人外じみた五感が、数秒後の醜鬼の群れの襲来を告げていた。
程無くして、十体前後の醜鬼が地面を割って現れる。いずれも男を標的としている様だ。
男も臨戦態勢に入り、右手を翳し──
──突如、岩山の方面から一体の醜鬼が降り立った。
他の個体よりやや気色悪い顔に、鬣の様な物が生えている。厳つい首輪が嵌められており、繋がる鎖の先には……
(誰か、乗ってるのか?)
「もう襲われているとは、運の無い奴だな」
冷たく凛々しい声が響く。視線を向ければ、その背に乗っているのはどうやら女性らしい。黒の軍服を身に纏い、薄く紫がかった銀髪を靡かせている。その光景に、男は思わず構えようとした腕を下げていた。
「私の後ろに隠れていろ」
彼女は腰に佩いた刀に手を掛け、一気に振り抜いて咆えた。
「──屈服の時間だぞ!!」
同時に飛び出し、猛然と醜鬼達に斬りかかっていく。次々と切り捨てていき、その姿は一種の美しさすら感じさせる。
(軍服で、女か。……もしかして、魔防隊ってやつか?)
だがしかし、醜鬼達もやられっぱなしではない。側面から迫る個体が、彼女の騎乗する醜鬼を爪で切り裂く。
「ちっ、コイツではやはり脆いか!」
咄嗟に男の傍に飛び降り、彼女は男を背にして襲い掛かる醜鬼達を返り討ちにする。それと同時、さっきまで騎乗していた醜鬼はボロボロと崩れていく。だが彼女は見向きもしない。確かな修練が見えるその動きで滅多斬りにし、醜鬼は一体また一体と刀の錆になっていく。
そのままの勢いで最後の一体を斬った彼女は、刀身に付いた汚れを掃う。
「魔都災害の遭難者だな? 魔防隊七番組組長、
振り返り、京香と名乗った女は薄く笑いかける。
「安心しろ、助けてやる」
──京香の涼し気な笑みに、不覚にも男は思わず見惚れてしまった。
と、数秒呆けていると、二人へ近づいてくる『ドドドドド──!』という地鳴り。振り返れば、先程の比ではない数で向かってくる。皆唸り声を上げ、我先にと襲い掛からん勢いだ。それを受け、男はチラリと視線をその後方へやる。
(あの辺の山でも的にすりゃいけるか)
「……、主は──」
「乗れ!」
「うわっ!?」
そして対処しようとする前に、強引な声と共に後ろに引っ張られる。見れば、京香は新たに醜鬼を鎖に繋いでおり、それに跨っていた。
「ジッと捕まって口を開くな、舌を噛むぞ」
言うが早いか、二人を乗せた醜鬼が走り出す。
京香は勢いそのままに、前方から迫る醜鬼達を斬り捨てる。それでもあくまで日本刀の間合いである以上、その外側の個体には届かず、また後ろから追ってきた個体に対しても距離を置くしかない。
それでも押されている様にも見えない為、大っぴらに手を出す必要は無いと思うが、念の為口は出してみる。
「なぁおい、何匹か漏らしてるみたいだけど?」
「黙っていろ!」
(余裕無さそうだな……)
他人事の様にそう考えていると、京香の攻撃の合間を縫って醜鬼が爪を振り下ろす。
「! 右に回避しろ!」
「ギィ……」
(反応が鈍い……!)
京香は指示を出すが、元より手負いの個体という事もあってどうしても反応が遅れる。そして運が悪い事に、背後からも二体迫っている。
間に合わないと判断し、京香は男を抱え飛び上がる。
──直後、騎乗していた醜鬼と、迫っていた三体。その全てが弾け飛んだ。
「なッ!?」
(気付かれてない、か……?)
驚く京香を見つつ、男はそんな事を思う。醜鬼達を片付けたのは、どうやら男の仕業らしい。抱えられた事によって三体の醜鬼が視界に入ったタイミングで、先程の様に何某かの力を使った様だ。
だが京香も呆けていたのは一瞬。着地と同時に札を取り出し、刀で地面に縫い留める。すると光がドーム状に広がり、二人の事を包み込む。
「簡易的な結界を張った、パニックになるなよ」
「おー、ホントに簡易っぽいな。今にも破られそうだぞ」
「貴様……今自分が危険な状況だと理解しているのか?」
男の言葉に若干ムッと来た京香だが、すぐに気を取り直して結界の外に意識を向ける。
──────
(私一人ならどうとでもなるが……)
要救助者である男もいる以上、強引な突破は出来ない事を京香は理解している。そうすると、その思考は自身の事へと向かっていく。
(……桃の恩恵、我ながら本当に外れの能力だったな)
思い出すのは、今まで散々言われてきた言葉。
──京香自身は強くても能力がねぇ……
──"総組長"になるのは夢のまた夢だね
(──ふざけるなよ。私は必ず、組長達を束ねる総組長になってやる)
──────
意識が現実に戻ってきても、状況は変わらない。今もバキバキガンガンと音を立て、醜鬼が腕を振り下ろし結界が悲鳴を上げる。
男の方に視線を向けると、男は暢気そうに、しかし何故か隙が見当たらない雰囲気を纏って、結界の外の醜鬼達を見ている。その雰囲気を見間違いだと切り捨て、京香はふと思う。
(……役に立たんだろうと男に試した事は無かったが、腹を決めるか)
「……お前、名前は?」
「あ~、そういや名乗ってなかったか。俺は……護堂、草薙護堂だ」
京香が名前を訊けば、男──護堂は数秒迷ってから本名を教えた。もしかしたら名前に反応するかもという思惑もあっての事だが、特にそういった動きも無く京香は口を開いた。
「では護堂。ここを出る方法があるが、お前にも働いてもらいたい」
「あ~、やっぱりか。いいぜ」
やはり自分が動く必要があるかと、護堂は否も無いと承諾する。
「よく言った。ならば今から──
──お前を私の奴隷にする」
「…………は?」
京香の思わぬ言葉に、護堂はついつい間の抜けた声を出してしまった。その顔は頭のおかしな人を見る表情になっている。折角美人なのに何言ってんだ、と言外に告げているようだ。
「奴隷とした生命体の力を引き出し使役する、それが私の能力だ」
そんな護堂の様子に気付いていないのか敢えて無視しているのか、京香は自身の能力の説明を始める。それを見て気にしてもしょうがないと察した護堂は、京香の説明に先程の騎乗醜鬼を思い出す。力を引き出してと言う割には他と大差無かった気がするが……まぁ、触れるべきではないだろう。
「お前自身が強化されれば、この場を生きて脱出できる」
「いや、俺には必要な──って、おいっ!?」
やんわり拒否しようとした瞬間、京香は突然護堂を押し倒し馬乗りになる。
「助かるなら何でもするのだろう?」
「そんな事を言った覚えは無い!」
サラッと発言を捏造する京香。当然の様に抗議する護堂だが、京香は有無を言わさぬ、それでいてどこか楽しんでいる様な笑みを浮かべて、手袋を外した右手を護堂に向ける。
「屈服の時間だ」
(あ……)
その時護堂は、まるで見えない力に突き動かされた様に。今までも行ってきた習慣かの様に自然に、京香の指を舐めた。
そして、光に包まれた。
───
その瞬間、
自身の能力、《
自分の生命力が吸われる……否、そんなものではない。まるで抜き取られる様にごっそりと無くなっていく感覚に、京香は寒気を覚えた。
次に、物凄く強烈な弾かれる感覚。
とても深い所にある根源的な何か。それが別の深い所に侵入しようとして、強烈な力で拒絶される様な衝撃。それが何であるか、この時の京香は知る由が無かった。
───
護堂を中心に発生した強烈な光と爆風が止み、結界の中は煙に包まれる。その煙も晴れるとそこには……
──狛犬を模した様なプロテクターを纏った護堂の姿があった。
胸や腰、手足にヘッドギア等、要所要所を守る実用性を重視した鎧姿。その姿の護堂は、正しく歴戦の戦士といった風貌だ。
「おぉ……、ん?」
自分の姿を見回して感嘆の声を上げていた護堂だが、ふと気になる部分が見つかり疑問符を浮かべる。
何故なら、自分の手首を覆う枷と、それに繋がる鎖があったからだ。
そして鎖の伸びる方向を見て、何となく嫌な予感を覚えながら視線を辿ると……
「素晴らしい力を感じる……ここまで強化されるとは!」
「な、なぁおい、羽前? 気付いてるか?」
「京香でいい。何の事だ?」
どうやらまだわからない様で、護堂は繋がった鎖を引っ張ってアピールする。すると
「……………何っだこれはぁっ!!?」
京香が自分の首輪に気付き驚愕の叫びを挙げるのと同時、ついに結界が限界を迎えて砕け散る。
「……しょうがないか。じゃあ京香、我慢しろよ!」
「なっ!?」
確認するやいなや、護堂は鎖で京香を引き寄せ、有無を言わさず抱き上げる。途端、今まで結界で阻まれた事で苛立っていたであろう醜鬼達が押し寄せる。
「っ、護堂!」
「わかってるよ!」
返事と同時、護堂の手が何かを掴む様な形を取る。そこにはいつの間にか光り輝く剣があり、それを躊躇い無く振り抜く。
その斬閃は正面のみならず、周囲の岩山をも切り裂いて、空中の残光は鋭利なドームを作り出した。
「う、くっ……!」
「あー、やり過ぎた。"雄牛"で十分だったか」
その一撃で発生した衝撃波と風圧に、京香は腕で顔を庇った。と同時に、その視線は切り裂かれた醜鬼達ではなく、この光景を生んだ護堂へと向かう。
(なんという力、そして速さだ! 動きがまるで見えなかった!)
先程京香自身が語った通り、《
それはつまり、今の護堂は
そんな力を
そして程無く、一刀両断された醜鬼達の残骸が消えた途端に更に多量の醜鬼が現れ、その輪郭が溶け合い一体の巨大な個体になっていく。
「! 護堂!」
「おう」
京香の呼びかけに、護堂は剣を消して飛び上がる。そして選ぶのは、中空の身でも発動できる中で最も単純な条件且つ、十分な破壊力を齎す砂の王の権能。
「その腕は血で砂を満たし、嵐を伴い死に叛旗を翻す」
醜鬼を見据えた護堂が言葉を──神々がその神威を示す権能を振るう為の聖句を唱えると、その身を迸る荒々しい呪力が漲っていく。それと同時に何処からか風が吹き、その風に砂が乗っていく。
「我は力ある王にして、蛇を掃う者。殺戮を以て冥府を廃し、我は渇きと破壊を求め齎さん!」
嘗て砂漠を支配した破壊の神の聖句と共に、護堂はその拳を振るった。
砂嵐を伴った拳撃は一瞬にして醜鬼の巨体を圧縮し、岩山の残骸ごと地面を崩壊させた。その暴風と砂塵のミキサーに飲み込まれる様を、京香は護堂の腕の中で見つめていた。
………………
…………
……
護堂が着地して京香を下すと、役目を終えたとばかりに二人を繋ぐ鎖が光と共に崩れていき、護堂のプロテクターも消えていった。
「……驚いたぞ。お前にこれ程の力があったとは」
「そりゃどうも」
首輪があった辺りを撫でながら、護堂の力に驚嘆を示す京香。対する護堂は慇懃な言葉で返す。その姿に先程の様な荒々しくも精悍な覇気は無く、京香と出会った時の様な飄々とした空気が戻っていた。
……因みに、京香の首輪は消えた訳では無く、痣となって今も首に残っている。それに本人が気付くのは後の話。
「醜鬼って奴、思ったより大した事ないんだな」
「ほう、それは頼もしい。私の奴隷としてこれからも働き続けるといい」
「なんでだよ」
悪戯を思いついた様なあくどい笑みを浮かべる京香に、護堂は目を眇める。しかし京香は護堂に近づき……
「……だがそれには、私の能力について話しておかないといけないな」
───唐突に、護堂に口づけた。キス、接吻、マウス・トゥ・マウスである。それもディープキス。舌と舌を絡め合う、思いっきり濃いタイプの。
(はっ?)
その時護堂の脳内を埋め尽くしたのは、当然の如く疑問符である。別にキス自体初めてではないし、それ以上の行為も数えきれない程経験している。
だがそれでも、出会って十分も経たない様な相手からディープキスされれば疑問に思って当然だろう。
「──ぷはっ……こう来るか、変態め」
「イヤ、状況的にそれはお前だろ」
「能力の代償だ」
護堂の反論を無視して、京香はその"代償"とやらの説明を始める。
「
自分で説明しておいて、京香は理解できないという顔をした。直後、瞬間湯沸かし器の様に沸騰し、顔を真っ赤にして訴える。
「どういう事だ!? 何故私の口が勝手に!」
「俺に訊かれても……お前の能力なんだろ?」
「違う! 私の《
そう。それが京香の持ちうる能力の
先程護堂に対して発動した時に、護堂が宿す権能の幾つかが反応し、京香の《
これによって、"京香を主、対象を奴隷"とする《
「つまり、今の状況は想定外って事か。って事は、キャンセルとかは……うおっ」
「元々、この代償行為は私の意思に関わらず勝手に身体が動く! 途中で辞めたりは──」
困惑する護堂に捲し立てながら、京香の身体は自動的に動く。自分より上背のある護堂を尻もちをつく様に押し倒すと、そのままズボンに手を掛けて……
「できな、い……? っ、っ! なん……これ、え、はっ……」
護堂のソレを見て、顔を赤くして固まってしまう。
幼少期から鍛錬に明け暮れてきた京香は性に疎く、この手の行為は勿論男女交際の経験すらない。
それが能力の強制があるとはいえ、いきなりこれだ。混乱も相まって頭がパンクしてしまうのも無理はない。
しかも──
(……っ! や、やめ……止まれ! 止まってくれ!)
心でそう思っていても、京香の身体は止まらない。
一旦立ち上がった京香は、羞恥に赤く染まりながら衣類に手を掛け、その苛烈さに反して傷一つ無い白い柔肌を晒していく。護堂への奉仕として、見せつける様に。丁寧にゆっくりと、しかし滞る事無く一枚一枚、京香を守っていた鎧が剝がれていく。
程無くして、一糸まとわぬ裸身を晒した京香。豊満な双丘も、その頂点を彩る突起も、未開の秘所も、何一つ隠す物は無い。
せめてもの抵抗で必死に局部を隠そうとするものの、あくまで護堂への奉仕を目的とする強制力は絶対のようで。京香の身体は護堂を喜ばせる為に自らを晒し続ける。
「お…お待たせしました、ご主人様。色を知らない、未熟な身でありますが……どうぞ、満足の行くまで──お使い下さい……っ!」
そして、遂に言ってしまった。強制力に浮かされたその口で、限界まで達した羞恥の顔で、男に抱かれる為の誘い文句を垂れてしまった。
そして──
「──っ、京香!」
「ご、護堂……?」
今度はどこか焦った様子の護堂が、京香を地面に組み伏せた。
先程の空気は何処へ行ったのか、護堂の身体は小刻みに震え、まるで自身の裡の獣性を必死に耐えているかの様だった。
実は、護堂が先程使った砂漠の王の権能にも、京香のものと同じく代償・副作用のようなものが存在する。
かの砂漠の王は破壊と砂嵐の神であり、また同時に
その権能《血濡れの砂漠》の発動条件は"草木の生えない場所である事"、または"砂に触れている事"。そんな容易な条件である反動か、権能を行使した後は性衝動に襲われるという副作用を伴うのだ。
護堂は最初、その衝動を必死に耐えて何事も無い様に見せていた。しかし程無く京香の方の代償が発生し、ましてやそれが護堂を誘うものであれば……
「能力の代償だか知らないが、先に誘ったのはそっちだからな……!」
──暫くの間、肉と肉がぶつかる音と甲高い嬌声が、荒野に響いていた。
◆
「……悪かったよ。俺もどうかしてた」
「気に、するな……。元はと言えば、戦うよう仕向けたのは私だ」
お互い、代償・副作用から解放された二人。申し訳なさそうに落ち込む護堂と、言葉少なく頬を染めながら着衣を正す京香。背中合わせの二人の間には気まずさと、ほんの少しの甘い空気の残滓が漂っていた。
そこで京香が、「ん…」と咳払い一つ。
「──護堂」
「どうした?」
先程の乱れは鳴りを潜め、責任感を感じさせる声で語る京香。
「先程お前は大した事は無いと言った醜鬼だが、あれでも一匹が現実世界に出現しただけで数十人の犠牲者が出る」
「魔都災害、ってやつか」
「あぁ。……私の目標は魔防隊の総組長になり、醜鬼共を速やかに絶滅させる事だ」
今の総組長は手ぬるいからな、と不満を垂れつつ、護堂に向き直る。
「お前なら私の能力を最大限活かせる。これで私は総組長の座を狙える。──私と共に働け、護堂」
堂々とした京香の誘いに、護堂は呆気に取られてしまう。何と潔い出世の道具扱いだろう。ここまでくると最早清々しい。
護堂は苦笑を一つ、頭を掻いた。
「正直、出世のダシにされるのは気に入らないけど……なんかお前の事嫌いになれないんだよな。いいぜ」
「フッ、決まりだな!」
「……それに」
護堂の了承に、ニヤリと口角を上げる京香。しかし護堂が直後に気まずそうに目を逸らした。
「いや、ほら、暴走した結果とはいえ、……
「ッ──! それに触れるなァ!!」
顔を真っ赤にしながら、護堂を揺する京香だった。
とある研究機関により作成された、草薙護堂についての調査書より抜粋
既に述べた通り、ユニバース235において誕生した神殺し『草薙護堂』は極めて特異な存在である。
無論、特異でない神殺しなど一人もいない。
神を殺め、その聖なる権能を簒奪した者共は誰しも破格の存在であり、たった一人でも世界の存亡を左右し得る程の絶対的強者である。
だが、それでも敢えて述べたい。
草薙護堂はあの特異な種族の中にあってさえ、極めて特異である。
運命神を殺め、《反運命》の権能を簒奪したが故に。
多元宇宙の理を多少なりとも理解し、数多あるユニバース間を巧みに移動する《プレーンウォーカー》でもあるが故に。
そして、何より彼の気質。
如何なる権威にも屈せず、秩序よりも我が道を進み、更に宿敵である筈の神々とさえ友情の絆で結ばれる事を躊躇しない──多元宇宙でも稀に見る程の自由闊達さで世界を渡り歩く神殺し。
訪れる全ての地に、彼は波乱と混乱を巻き起こすが故に……。