草薙護堂。またの名を、チェーザレ・ブランデッリ。
現在君臨する七人のカンピオーネの内、最も若く最新の魔王。
日本を統べる王でありながら、中国以西からイギリス以東というユーラシア大陸のほぼ全域、特にイタリア・スペインを含めた旧フランク王国領に強い影響力を持つ、文字通り世界を手中に納めた覇王。
全カンピオーネ傘下の中で最大勢力と呼ばれる魔術結社《結社カンピオーネス》の総帥を務めており、その支配力は幾つもの平行世界や異世界にも及ぶ。
何より特筆すべきは、"最後の王"との関係。
最後の王とは固有の存在を指す名称ではなく、運命の癌細胞であるカンピオーネが同じ時代において複数存在する時に現れる、「神殺しを殺す為の力」を運命神から与えられた神の称号である。
護堂の世界においてはインド神話の英雄神ラーマチャンドラ、その先代にしてアーサー王伝説の原型となった英雄神アルトス、ある平行世界においてはペルシアの太陽神ミスラが最後の王に選ばれ、"魔王殲滅の勇者"の異名と共に地上に顕現した。
そして草薙護堂は、そんな最後の王を幾度となく討ち取り、『勇者殲滅の魔王』の二つ名を多元宇宙に轟かせたのである。
先日の遭遇戦から数日後。護堂が入浴していた時の事。
「お疲れー、ナギっち!」
「駿河? 何だいきなり、表に入浴中って札あったろ」
護堂が髪を洗っていると、唐突に朱々が声を掛けてきた。風呂場なのに、である。
一瞬間違って入ってきたのかと思い、表の札の存在を指摘するが、どうやら声色から判断するに判った上で態と入ってきた様である。
「やー、主として褒めるの忘れてたからさ」
「その話、まだ続いてたのか」
風呂場の男女とは思えない程の気軽さで返す護堂の耳に、朱々が顔を近づける。
「この前は危ないところ、フォローありがとね」
「当たり前だろそんな事」
朱々の感謝の言葉に、護堂は事も無げにいいのける。そのまま髪を洗い流す護堂の背中に、朱々はやや照れた様に笑顔を向ける。
「それじゃあお礼に、背中でも流してしんぜよう」
「おいおい、どういう風の吹き回しだ?」
「あ、振り向いちゃう?」
朱々が珍しい事を言い出すので、思わず振り向きそうになるのを朱々の面白がる声が止める。
「アタシ、裸だよー?」
「そりゃ風呂なんだからそうだろ」
しかし悲しいかな、と言うべきか。なんとまさかの、と言うべきか。護堂は朱々の裸宣言にまるで動じる事も無く、そのまま振り返って朱々を見る。
そうなれば、京香に比べればやや小ぶりだが、それでも十分に実った双丘も、未だ何者の侵入も許していない閉じた秘裂も護堂の目に晒される。
「へぅ......」
「で、どういう訳だ?」
「じ、純粋な、感謝の気持ちだけど?」
「ふーん......じゃあ任せるわ」
朱々の言葉に嘘は無いと判断したのか、護堂はそれだけ言うと前を向いた。
特に慌てる様な反応も無い事に若干思う事が無いでもないが、それでも尚ドキドキと鳴る鼓動を抱えたまま護堂の背に手を置く。
(ナギっちの背中、大きい......。それに、裸見られちゃった、......──何か、ゾクゾクしてきたっ♡)
思考が纏まらないまま、身体に正体不明の熱源を抱えた朱々であった。
◆
それから暫く。「もう暫く入ってる」と言った朱々を残し、先に上がる護堂。
何をしようかと考えながら脱衣所に出ると、そこには今まさに下着を脱ごうとしている日万凛の姿が。
「あ、え......?」
「よぉ東、お前も今から風呂か」
硬直する日万凛を気にする事無く声を掛け、護堂は身体を拭って着替えていく。
「じゃあ俺は先上がってるから。逆上せない様に程々にしとけよー」
それだけ言い残し、脱衣所を後にしようとする護堂。
しかしその背後で、急にモーターが駆動する様な音がしたかと思えば、その音がドンドンと近づいてくる。
気になって振り向けば──
「ついに捻切られる日が来た様ね! 組長が手を汚さなくても自分がやるわ!」
「いや待て待て、さっきの駿河といい急にどうした」
腕をチェーンソーに変化させ、斬りかかってくる日万凛の姿。護堂は咄嗟に変化している腕を掴む。
「何なんだお前、情緒不安定って奴か? 元はと言えば入浴中の札に気付かないで入ってきたお前が悪くないか?」
「うっさい! その落ち着いた態度も腹立つのよ!」
「滅茶苦茶だなお前」
日万凛の全体重を掛けられたチェーンソーを、面倒そうな顔をしながら止める護堂。
そのまま押し合い圧し合いしつつ、脱衣所から廊下へ出た時だった。
───ポゥ........にょんっ
奇怪な音と共に、二人のすぐ側の空間に穴が開く。
「こんにちは。七番組は元気だね」
同時、その中から二人組の女性が現れ、挨拶をしてくる。
恐らく二人共、京香と同年代。挨拶をしてきた方は黄緑に近いショートヘア、その後ろに勝ち気そうな黒髪ツインテール。この穴は多分、この二人のどちらかの能力だと思われるが......
ふと、日万凛が黒髪ツインテールの方の存在に気がついた途端、表情を変える。まるで会いたくない者にあってしまった様な、苦虫を噛み潰した様な顔だ。
「......知り合いか?」
「六番組のツートップよ」
「六......お隣さんか」
護堂の質問が聞こえていたのか、二人は護堂に向けて自己紹介を始める。
「六番組組長、
「副組長の東
(東......? そういや何か似てる様な......)
八千穂と名乗った黒髪ツインテールに、どことなく日万凛と似た顔立ちだと感じていると、ショートヘアの方──天花がズイッと急接近してきた。
そのまま護堂の顔に手を伸ばし、
「キミが噂の、奴隷クンか」
「......出雲、だったか? 取り敢えず、"クン"は止めろ」
「ふふっ、はーい♪︎ あっ、日万凛ちゃん。京ちん呼んでくれる?」
「は、はい!」
威勢のいい返事と共に、日万凛は廊下の奥に駆けていった。
◆
そして場所は変わり、七番組寮の居間にて。
「うん、奴隷サンは美味しいコーヒーを淹れてくれるね」
「そりゃどーも」
天花の褒め言葉に、護堂は適当に返す。
現在、テーブルを挟んで両側のソファに京香と天花が対面に座り、各々の背後に副組長以下が控えている(と言っても、日万凛、朱々、寧、八千穂の四人だけだけだが)。
因みに、護堂は少し離れた所から壁に凭れて話を聞いている。
「本題は何だ、天花」
天花がカップを戻すのと同時、京香は前置き抜きに切り込んだ。先程天花が「京ちん」と呼んでいた事も鑑みて、二人は一般的な同僚以上の間柄であるらしい。
「国からお達しがあったでしょ京ちん、手強い人型の醜鬼が出てきた問題。魔防隊は組毎に個性があるから基本バラバラで動いてきたけど、今後は連携を密にせよって」
「あぁ、それか」
天花の説明に、京香も薄々判って訊いていた様で大して驚きはない。
魔防隊は魔術結社や正史編纂委員会の様な秘密組織ではなく、防衛省──要は政府所属の表に出る様な公的機関である。その為何かしらの作戦行動にも許可が必要、上からの指示には従わねばと、公組織故の面倒があるのだ。
公務員は大変だなと、その世界各国の財政界からの"
「...新型の醜鬼だろうが何だろうが、滅してしまえば問題無かった筈じゃ」
唐突に、八千穂が口を挟む。その視線の先には、何やら緊張を漂わせた日万凛。
「聞けばどうやら、七番組の副組長は? 人型の醜鬼に襲われて気絶していたとか? 情けないのぅ」
八千穂はどうやら、先日の件で日万凛の事をチクチクネチネチと責めているらしい。それに対して京香が面白くなさそうな顔をしているが、あくまで個人の話と判断したのか口は挟んでこない。
「お前は東家の名に泥を塗るばかりじゃな日万凛、大人しゅう家に帰ってこい」
八千穂の言葉に、日万凛は耐える様に視線を逸らす。
護堂はそのやり取りで"名家故の
「とはいえ、人型の醜鬼も手強いよ。部下の安全を優先した京ちんの判断は正しかったね」
そこへ天花が険悪な空気を断ち切る様に、話の主題を『人型醜鬼にまつわる
そして天花の意見を補強する様に、あの遭遇戦の前後に起きた関連事件を話題に出す。
「三番組も遭遇したらしいな」
「うん。組員達が深追いした挙げ句ボコられて、三番組は暫く行動不能らしいよ。......しかも三番組の証言と京ちん達の件を統合すると、恐らく遭遇したのは京ちんが見たのとは別個体」
「人型は一体ではない、か。確かに組同士の連携が必要だな」
どうやら京香も、今回の国の判断には否はないらしい。
そこから話が『どう連携するか』に移行するかと思えば、再び八千穂が口を挟んでくる。
「羽前組長の存在は頼もしいが......──背中を預けるには、不安な者もおるのぅ?」
八千穂はあくまで日万凛を口撃するのが目的らしく、尚も言葉で刺してくる。
ずっと堪えていた日万凛も流石に限界が来たのか、俯いていた視線を上げて睨み返す。その勢いのまま足に力を入れ、
「──現時点での互いの戦力を把握しておく必要がある。隊員同士の魔都交流戦をしないか?」
前に踏み出そうとして、それより先に京香のそんな提案が挟まる。その言葉には護堂も含めて皆様々な反応を浮かべ、日万凛は「その手があった!」とでも言いたげな表情で一転笑みを浮かべている。
「京ちんらしいパワフルなコミュニケーションだね、──いーよ」
愉快気に笑いながら、天花は友人としてではなく六番組組長として、
「上に申請しておく、数日で準備は整うだろう」
「その時には残りの面子も連れてくるよ。......またね、奴隷サン」
それだけ言い残すと席を立ち、六番組の二人は応接間を後にした。
それを視界に収めながら、護堂は交流戦とは何かを思案する。
(まァ......話の雰囲気から察するに、野球じゃなさそうなのは確かだな)
護堂がそう考えていると、不意にガシッと力強く肩を掴まれる。目だけ動かせば、そこには決意に満ちた日万凛の姿。
何となくおかしな事を言われそうだと察しつつ、口を開くのを待ってみれば......
「今の流れで、アンタはこの東 日万凛の奴隷になる事が決定したわ!」
「......せめて過程を話せよ」
護堂の溜め息が、空気に溶けていった。
◆
数時間後、正午過ぎ。
「このラーメンいい味じゃない」
「所謂男飯的なやつにしてみた、ガッツリした濃い味が好きみたいだからな」
「自分の奴隷に相応しい腕ね!」
天花達の来訪後、午前中の訓練・哨戒を終えた日万凛が昼食を摂っていた。
護堂の作ったラーメンが自身の口に合ったらしく、ご満悦である。
「だから説明をしろよ。何で俺がお前の奴隷になるんだ」
「アンタ敬語使わないの? 自分アンタより年上よ多分」
「そりゃ残念だったな。俺は今年で48のアラフィフだ」
「......はぁあ!? オッサンじゃないの! 若作り凄いわね!?」
等というやり取りを挟んで、日万凛は説明の為か一度箸を置く。
「今日聞いたでしょ? 魔都交流戦が行われるのよ。自分はそれに勝たなきゃいけないの」
「その交流戦ってのは何だ?」
「組と組の腕比べよ。今回は親善だけど、本来は意見が分かれた時に白黒つける為にやったりするわ」
どうやら魔防隊内において以前からあるルールらしく、何度か行われた事があるらしい。複数の種目があり、何で競うかは組長達の一存で決まるのだとか。
「今回はシンプルな一騎打ちを選ぶ。桃の能力を使っての真剣勝負だ」
説明を受けていると、そんな言葉と共に京香が入室してくる。同じく午前業務を終えてきたのか、短パンタンクトップと風呂上がり後の様なラフさだ。
「姉に腹が立ったんだろ日万凛、交流戦を名目にぶっ飛ばしてしまえ!」
「はい! ぶっ飛ばすチャンスを頂きありがとうございます組長!」
「必ずぶっ飛ばせよ!」
(
実に野蛮で脳筋志向の会話に、思わず呆れてしまう護堂。
「試しに護堂とパトロールに行ってこい、即援軍に行けるエリアから出るなよ」
「はい!」
京香に発破を掛けられた日万凛は、手早く残りの昼食を腹に収めると、そのまま護堂を引っ張って外に飛び出した。
◆
それから程なく、日万凛は護堂を車の助手席に乗せ、魔都の荒野を駆けていた。
「そういやよ、何で俺がお前の奴隷になんなきゃいけないのか、まだ答えてなくないか?」
「体を武器にするのは、自分のメイン能力じゃないの。相性良いから使ってるだけ」
「は? メイン?」
「これが本当の能力」
そう言って見せられたのは、日万凛のスマホの画面。
そこには京香をデフォルメしたものと思われる画像と、なにやら情報らしき数字が書かれている。
「何だこれ」
「《
「コピー、って事か」
「そ。そして、端末にセットしておいた人物の能力が使用できる。つまり今は組長のが使えるって訳」
日万凛の説明に、護堂は
護堂の愛刀である天叢雲劍には、暴風を起こしたり呪いや術の類いを弾く破魔の力の他に、自身や戦っている相手の権能の複写能力を備えている。
この複写による能力使用は普通に化身や権能を併用するより負担が少ない為に、護堂はよく用いていた。
「出た、醜鬼!」
そんな事を考えていると、日万凛の叫びが耳に入る。
見れば車体の前方、複数体の醜鬼が湧き出てきた。日万凛は急ブレーキを駆使して醜鬼を轢き飛ばして距離を空け、そのまま慣性に従う様に飛び降りた。
護堂も同時に飛び出し、着地と同時に日万凛が手を伸ばしてくる。
「組長に許可は取ってあるわ、奴隷に変身して!」
その発言に、何となく京香が一部を暈して伝えている可能性が頭を過り、護堂は目頭を押さえながら一応訊いてみる。
「東、能力の正確な把握はしてるのか?」
「《
その説明は、半分正解で半分不正解である。
つい数日前までなら、概ね能力の内容はその通りであった。
だが現在、《無窮の鎖》は護堂に使用してしまった事で変質してしまった。
日本神話の星神・
しかも厄介な事に、持ち主の京香自身が能力の変容に気付いておらず、現状をただのイレギュラーだと認識しているのだから質が悪い。
という事を護堂も知らないのだが、それはそれとして恐らく"褒美"の部分がどういうものか日万凛が理解していない事を察した護堂は、そこについて説明しようとする。
「その褒美なんだがな──」
「"体を張る必要がある"って聞いたわ、上等よ!」
(あの一族をぶっ飛ばせるなら、こいつの代わりに掃除だろうが洗濯だろうがやってやるわ......!)
そのやり取りの間にも、醜鬼達はどんどん数を増やして包囲しようとしてくる。
「沢山出てきたわよ、早く!」
「お前なァ、こういう事は前もって話しといてくれよ」
「そしたらアンタ文句言うかもでしょ!? ほら!」
そう言って強引に手を突きつけてくる日万凛に、護堂は開き直る事にした。
「ったく、後で文句言うなよ?」
「んむっ!?」
言うが速いか、護堂は素早く日万凛を抱き寄せ唇を奪う。
日万凛が驚愕に目を見開くと同時、二人は光と煙に包まれる。
数秒して光と煙が晴れれば、そこには姿を変えた護堂と、鎖に繋がれた日万凛。
日万凛が認識するより早く鎖が光に溶け、護堂は自身を確認する。京香のものに比べるとやや金属の面積が小さくなり、その分布地が増えている様に見える。特に鼻から首までを覆う様に巻かれた布は、どことなく忍者を思わせる装いだ。
「組長のとは、少し違う形態だわ。......それにしても、こうして立っているだけで凄い疲れるわね......?」
日万凛が倦怠感に疑問を感じていると、一匹の醜鬼が拳を突き出してきた。
護堂はスローモーションになった視界でそれを捉え、躱しながら一撃を入れその奥の群れにも目を向ける。その集団の意識の隙間を見つけ出し、日万凛を抱えながら一息に駆け抜けた。勿論、すれ違い際に一撃入れていくのも忘れずに。
一気に群れの後方に出た護堂が振り返ると、身体の抉れた箇所から崩れていく複数の醜鬼がいた。
「なんて速さ......!」
("鳳"とかを使わなくていいの、結構楽だな)
日万凛はその速度に驚愕し、護堂は利便性に目を向ける。
護堂の基本的な戦闘スタイルは、徒手空拳を始めとした近接戦である。
その為に先ず基礎として"雄牛"の化身を発動し、そこに"鳳"や他の権能を適宜併用していくのだが、往々にして化身や権能の併用は負荷が大きい。
だがこの形態は、少なくとも近接戦に関しては速度に纏わる権能を行使せずに済む。京香の変身形態に比べて力は落ちているが、"雄牛"を使う以上は誤差にも数えない微々たるものだ。
つまりは、護堂にとってもこの形態は得る物が多かったという事だ。
(こりゃ、割と便利かもな)
(奴隷となる相手がハマれば凄い能力だわ......これならアイツと戦える!)
交流戦に向けて、勝利の確信を得た日万凛。笑みを浮かべる彼女を抱えたまま、護堂は残りの醜鬼を殲滅していった。
◆
「ナイスな働きよ、交流戦じゃ自分の奴隷として役立ってもらうわ!」
変身が解除された護堂に向けて、高揚した声を掛けてくる日万凛。その嬉々とした顔に、護堂はこの後の事を考え微妙な表情になりながら質問する。
「東お前......他にも能力あるだろうに、なんでこれ選んだんだよ」
護堂の問いに日万凛は数瞬ポカンとした顔になると、
「いいじゃない、男なのに働ける場が増えたんだから。寧ろ自分に感謝して──」
そう言いながらスカートをたくしあげ、誇らし気に下着を晒した。
「───っ!?」
そうして遅ればせながら、日万凛は自身の体が何をしているのか理解して顔を赤くする。
「えええ、ちょ、違っ...、何これ何これ!?」
「やっぱ京香の奴、
「え!? か、か、かかか、体を張るって、こういう......!? というか体が動かないんだけど!?」
動揺する日万凛を見て、護堂は京香が何故教えなかったのかと愚痴りたくなったが、直ぐに思い直す。
『身元の不確かな行きずりの男と肉体関係になった』等と他人に、ましてや自分に尊敬の目を向ける部下に言える訳がない。
護堂は溜め息を吐いて、動揺している日万凛に応える。
「そりゃ、まだ続くって事だろ」
「ナナナッ.........!」
護堂から齎された事実に、日万凛は恥じらいからか顔を逸らした。
「なんで自分がこんな事を......っていうかアンタ、見るの止めなさいよ!」
せめてもの抵抗とばかりに怒鳴る日万凛だが、その発言にも護堂は苦い顔になる。
「多分、それだと長引くだけだぞ?」
「そんな......って、アレ? 手がまた勝手に......ちょ、それは──!」
護堂からの情報に、日万凛はどうしようかと困惑する。だが次の瞬間、日万凛の手が再び独りでに動き出し、露出させたパンツを脱がせだした。
脱ぎ終えたパンツを放り投げ、日万凛は護堂の手が直ぐ届く距離まで歩み寄ってくる。そのまま護堂の手を掴み、自身の未開の恥丘に運び......
「奴隷の身で......ご主人様の御力を試す様な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした......。お、お詫びになるか、わ...分かりませんが、いずれご主人様に捧げるこの身体、ご主人様好みに......誂えて、頂けませんか?」
◆
──ブロロロロ.......
二人は微妙な空気を車内に漂わせ、寮へ戻る為に魔都を走っていた。
代償行為自体は30分程度で終わったものの、日万凛は水浸しになって下着は履けないままになり、護堂も手指がふやけて少々気持ち悪い。
気まずさを紛らわせる為か、護堂が口を開く。
「今回ので身に染みて分かったろ。本番は別の能力使えよ」
そんなもっともな意見に、日万凛は悩ましげに顔を伏せる。
「無理なのよ」
「なんで」
「《青雲の志》には相性があるの。殆どの能力は劣化し過ぎて使い物にならなくなる。......例えば、朱々の《
「成程な。つまり、現状東がコピーできる中で一番オリジナルと遜色ないのが、京香の能力って訳だ。でも代償行為が嫌なら選択肢としては"無し"だろ」
「組長も志の為に頑張っているのよ、自分だってあれしきの事!」
「......お前の志って何なんだ?」
どうやら日万凛は、この短時間で代償行為への踏ん切りをつけたらしい。護堂はふとそこまでする動機が気になり、尋ねてみる。
「......自分が生まれた東家は、魔都での功績が大きい名門なの。姉達も優秀だし、自分も期待されたんだけどね」
「達......あぁ、そういう事か」
「? 何がよ?」
"姉達"という言葉を聞いて何やら納得した護堂。それに疑問を覚えた日万凛が問いかけると、護堂は説明を始める。
「こう、何て言ったらいいかな...所謂"気配"みたいなもんか。そういうのって、近親血縁で似るもんらしくてな。あの八千穂ってのが来た時、顔立ちもだけど、お前と似た様な気配を感じたんだ」
護堂は"魔力"や"霊力"という表現を避けて、出来るだけ分かりやすく説明する。今のところ理解できているのか、日万凛は成程と頷いている。
「そんでもってアイツ、やたら家の事を
そこで護堂は一度言葉を切り、徐に指を遠く──北の方向を指差した。
「
そこまで言われて、日万凛は驚きに目を見開いた後、素直に感心した様な顔になる。
「驚いた......えぇ、その通りよ。自分の母親が九番組の組長で、一番上の姉が副組長。後、祖母が前の総組長だったわ」
「へぇ......確かに、魔都の名門だな」
「そんな家族に囲まれてるから、自分もそんな家族に相応しくなろうと努力した結果......大事な試験の前に頑張りすぎて怪我しちゃったり、緊張で熱出しちゃったりで、ここ一番ってタイミングで結果出せなかったのよ」
「あー、あるあるだな」
「桃の能力も、初めは凄いって言われてたけど......」
「さっき言ってた欠点がバレたと」
指摘された途端、日万凛は認めがたいとばかりにぐぬぬと唸る。
「......お陰で、東家では落ちこぼれと馬鹿にされる日々だったわ。特に八千穂からは、毎日毎日絡まれて」
その日々が記憶の蓋から漏れ出るのか、複雑そうに遠い目をする日万凛に、護堂は「大変だったんだな」と感想を述べる。
「今回は東家を飛び出してから、初めてやってきた見返すチャンス......だからアンタ、有り難く協力しなさい!」
「そんな頼み方で、"はいやります"ってなると思うか?」
ビシッと指差しながら告げる日万凛に、護堂は面倒そうにぼやく。それが聞こえているのかいないのか、日万凛は言葉を続ける。
「最終的な自分の志はね、組長の様な英雄になる事。今まで日の目を見なかった分、思い切り活躍したいのよ」
(駄目だコイツ、話聞いてねぇ)
「でも今の段階じゃ、交流戦の勝利に足りないものがあるわ」
「......それは?」
護堂が胡乱気に訊き返して続きを促すと、日万凛は堂々と言い切る。
「小回りの利く、必殺技よ」
(子供かコイツ)
「前に寮周りで戦ってた時、アンタ雷降らせてたでしょ? あんなに規模が大きいのじゃなくて、もっとこう...一対一みたいな状況で使えるやつね」
滔々と語る日万凛の様子に、これはもう決定事項として進んでいるのだと確信した護堂は、溜め息一つで切り替える。
「はぁ......で? その肝心の八千穂に関する情報はあるのか? 必殺技は置いといても、相手の情報がないと対策が立てられないぞ」
「それならよーく知ってるわ」
「──《
◆
「桃の恩恵により発現する能力の多くは、"筋力が強まる"とか"記憶力が高まる"とか、基礎能力の強化が多いのじゃが......」
「私様の持つ《東の辰刻》は、崇高な構えと共に時を5秒止めるか戻すか出来る!」
「常識外れの能力じゃろ? 東の人間ならばこれぐらいはのー!」
◆
七番組寮玄関前。護堂と日万凛は対八千穂の策を生み出す為、《主従反転:無窮の隷鎖》を発動した状態で向き合っていた。
「八千穂の能力はヤバいけど、大技だから数回使ってればバテてくるのよ。そこに勝機はある」
「具体的に何回使えるか、一回辺りの疲労度がどれ位かも知りたいところだな。コピーできたりしないのか?」
「無理ね。劣化具合を考えると、出来ても小数点以下位の時間がやっとだと思う。あと、能力を発動させる為に謎のポーズをとるの。己を高めるルーティーンだって」
「狙い目はそこか。まぁ向こうだってこっちがそこを狙うのは分かってるだろうから、対策の対策を考えなきゃか。因みにそのポーズがただのパフォーマンスで、実はやらなくても発動できるってのは?」
「うーん......多分、ないと思う」
「となると......」
意見交換しながら、護堂は八千穂に関する情報をまとめて行く。
・能力そのものに殺傷能力が無い為、本人は対醜鬼用改造拳銃を使用。
・能力《東の辰刻》は、5秒の時間停止及び巻き戻し。巻き戻す前に負った傷は修復される。
・能力発動には特定の動作が必要。
・巻き戻しても体力や記憶まで戻る訳ではなく、疲労と経験は蓄積される。
・本人の身体能力は人並み(大体一般的な警察官や自衛隊員程度)。
これらの情報から求められる最適解は......
「在り来たりだろうが、ポーズを取る前に懐に入り込んで一撃。これだろうな」
「そうね。時を止める暇さえ与えない最速の一撃!」
「......さっき八千穂の耐久力は人並みって言ってたよな、下手したら死なないか?」
そこでふと、護堂が当たり前の懸念を口にする。
日万凛との変身形態は、スピードに優れた形態だ。
護堂の知る限り最速の存在は、自身の同胞にして犬猿の仲でもあるイギリスの神殺し、神速の貴公子の異名を持つ
彼の代名詞にして、神速の所以である権能《
そんな形態に、仮定とはいえ"血濡れの砂漠"を上乗せして一般人と変わらない肉体の八千穂を攻撃すると言うのだ。うっかり殺す可能性を考えるのは当然と言える。
そこへ、その点に関する心配は無いと日万凛から補足される。
「派遣されてくる審判の能力で、交流戦のダメージは決着後すぐ全快するわ。だから遠慮せず戦えるの」
「──それって、どれ位の怪我までなら行ける?」
その情報が入ってきた瞬間、護堂の中で別の戦闘プランが急速に組み上がり始める。日万凛は少し不思議に思いながらも、自身の推測を話す。
「あくまで自分の予想だけど、余程の致命傷や即死じゃなければ大丈夫だと思う。組長同士とかになってくると、内臓損傷や欠損だって珍しくなさそうだし」
「そうか......東」
思案顔になった護堂は数秒考え込み、かと思えば急に顔を上げて日万凛に問う。
「お前、覚悟はあるか?」
「覚悟? 何のよ」
「勝つ為なら徹底的にやるって覚悟だ。相手が自分の家族だとしても、勝つ為なら拘りなんて捨てて
「──!」
その問いかけに、日万凛は護堂の纏う空気が変わったのを感じた。
具体的に何をするかが想像出来た訳ではない、だが目の前のこの男は勝利の為なら本当に何でもするという凄みがありありと感じられた。
これこそが、草薙護堂が魔王たる所以である。
彼を魔王に押し上げ、彼が恐れられる要因。それこそが『貪欲に勝利を拾いに行く嗅覚』と『勝利の為ならば手段を選ばない容赦の無さ』だ。卑怯卑劣という謗りも意に介さず、ただ勝つ為に突き進む。
この勝利への執着心こそ、草薙護堂の本性なのだ。
「──正直な事を言うと、少し"拘り"があったかも。"最後の一手は自分自身が"って。......でも、アンタに言われて考えが変わった。自分は拘りを貫いて勝てる程まだ強くないし、その拘りのせいで負ける様なら本末転倒だって。──だから、自分はその拘りを捨てる。"勝ち方"なんて考えない、必殺技なんて"派手なパフォーマンス"もいらない、卑怯って言われても構わない、──"ただ勝つ"!」
「──オッケー、気分がノッてきた。なら早速改めて作戦会議だ、正直俺から見りゃ八千穂は対策しやすい方だ。仮に能力がお前が知らない成長をしていたとして、どういう事が出来るか予想がつく位にな。その辺も含めて詳細に詰めて、確実に勝つぞ!」
「えぇ、やるわよっ!」
かくして、二人の特訓が始まった。
◆
それから数日、二人は無数の醜鬼をサンドバッグに、苛烈な特訓を繰り返した。
護堂は、戦闘中は無防備になる日万凛を抱えた状態で武器を十分に振り回し、且つ自身の発動する権能に巻き込まない様に彼女の限界を見極める為に。
日万凛は、覚悟をしたと言っても本番になっていざその時が来た時、その覚悟が鈍らない様に必要最低限の情すら仕舞い込める様に。
──そして、苛烈なのは戦闘だけではない。
訓練での一戦の度に、醜鬼の撃破数は先の遭遇戦を超えており、必然的に日万凛に課せられる奉仕行為も重く長く、激しくなっていく。
口淫や手淫は勿論、身体を重ねた回数も早々に京香を超え......
「ご主人様♡ ご奉仕始めさせて頂きます♡」
行為が始まると同時、最早二重人格もかくやというレベルで、日万凛は従順な奴隷に様変わりする。
戦闘を終えて護堂の変身が解けると同時に、日万凛は即座に服を脱ぎ捨て裸身を晒し、淫靡な笑顔で窺い立てるのだ。
現に今回も、日万凛は慣れた手つきで護堂のズボンから肉棒を取り出し、満遍なく舐めまわしてから喉奥を抉らせる勢いで口淫に移行している。
「
「おぅ、気持ちいいぞ。......巧くなってきたな」
そのあまりの早変わりに未だにギョッとはするものの、その後の奉仕行為に関してはもう開き直って受け入れている護堂。自身の肉棒を口に含める日万凛に、護堂は頭を撫でて誉める。
「えへへ♡ ご主人様のお役に立てて、奴隷冥利に尽きます♡ ではご主人様......」
肉棒から口を離し、にへらと溶けた表情の日万凛。それから立ち上がると少し距離を開けて、護堂に全身が見える様にしてから
「"さみしいよー♡"、"ボコボコにして♡"って涎を垂らしてる下の口をっ♡ ご主人様の立派な槍で、元に戻らない位貫いちゃって下さぁい♡♡♡」
◆
そして、決戦の日は訪れる。
──魔都交流戦、開幕。