俺はーーマサラタウンのレッドだ。   作:ムキムキぷりん

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この四連休、考えたんですよ。
この小説ってなんかカタルシス的なものが足りないなと。なーんか、レッドの行動原理が説明口調で済まされていないかなと。

なので、決めました。いきなりですが、本編そっちのけで一旦レッドの過去編(5話くらい)入ります。それが終わったら、辻褄が合うように本編を微調整してから本編の更新に戻りますね。


追憶編(前日譚)
前日譚①君はひとりぼっちじゃない


ーー虚しい。

物心ついた時の自分を表すならば、この言葉が適当ではないだろうか?

 

僕は、マサラタウンというカントー地方の片田舎に生まれた。父は故人で母が女手一つで育ててくれた、いわゆる「母子家庭」という家庭環境で育った。

父のことは覚えていない。母親の話では、僕が物心つく前に他界したのだと今の俺は確信している。というのも、当時の僕は母親から父親の存在についてかなりはぐらかされて教えられていた。自分も余り身近ではない父親にさほど興味が湧かなかったので、一度尋ねたきり、追求する事はなかった。

 

僕は漠然と生きていた。そして、怯えていたのだろう。

ーーああ、私は誰なんだ…何のために今を生きているのだろうか?何がしたくて、何を求めるのか。分からない、何も知らない。

だから、旅に出たのだろう。

 

今思えば、僕がポケモントレーナーとなって旅立ったのは自分と向き合うためだったのかもしれない。自分とは何者で、何を求めて、何のために生きるのか。

多分、そんな事を考えずに感受性の赴くままにあちらやこちらをウロウロしている方がずっと楽だし、楽しいのだろう。でも、僕はそんなに"バカ"になれなかったし…かと言って、幼少期から何か使命感に駆られるほどの強い意志や思想はなかった。

 

…全てが中途半端だった。

勿論、僕の感性が少し鬱屈しているのは否めないけれど、それでも僕は…"平凡"な人間だったんだろう。どこにでも居る、ありふれた少年の一人。決して特別なんかじゃない。

 

 

僕はお世辞にも頭のいい子供ではなかったから、当時の僕がここまで仔細に考えられていたとは思わないけれど…ぼんやりと、これに似た感情を抱いていたのは間違いないと思う。

 

だからかな、僕は特別な人間じゃないって心のどこかで感じている一方…憧れたんだ。テレビの向こう側でキラキラと輝くフィクションの冒険譚やポケモントレーナーと呼ばれる人間たちに。

どうして、彼らは旅に出ると決意できたのだろうか?なぜ、彼らは危険と分かっていても踏み出せたのだろうか?

 

僕も、「旅」という言葉を聞けば歳相応にワクワクしたし、いつかやってみたいと思う時だってある。

身近な存在ならーー「ポケットモンスター」。縮めて、「ポケモン」。僕の身近にも、ワクワクするような存在は居る。

……でも、外に出れば僕の感じる「虚しさ」は拭えるのだろうか?ポケモンと一緒に居れば、僕はこの形容し難い胸をザワつかせる感覚を消せるのだろうか?

 

 

どうすれば、僕の虚しさは拭えるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「へぇ…結構古いドラマだけど、また見たんだ。」

「私、あのドラマ好きよ。特にリョテイが最後に宣言するシーンとか。」

 

「え、『俺たちは歴史に名を残す。何世紀にも渡って語り継がれるのさ。』ってトコ?」

「僕には、余り分かんなかったよ……。」

 

「あの映画はさ、結構マイナーで作品の前日譚的な扱いだから人気はあんまりないんだけどーー」

「自分と同世代で才能のある存在に必死に食らいついて、それでも届かなくて…。そうやって苦しみながらも、決して折れずに進み続ける。そうやって頑張っていた男の子だけど、遂には競っていたライバルもどんどん引退していき…自分の力も衰えが見え始める。」

「時代は"新世代"だー!なんて作中では言われてて、ライバルの陰に埋もれてきた自分は今度は新世代という新星に埋もれるのか?」

「ずっと、日陰者同然の地味な存在として生きていたけれど、自分だってライバルと必死に競った古参の人間としての自負がある。何より、自分はまだ何も成せていない。」

「そう言って、衰える自分の身体を奮い立たせて最期の戦いに望んで遂に勝利する。」

 

「………………。」

 

「あのドラマの本編はさ、同じ荒くれ者一族が暴れまくるってコンセプトが面白おかしくて、そもそもターゲット層の違いからシリアス感の強いあのドラマは余り評価を受けないけど……。」

「私は好きだな…ずっと自分本意だったリョテイが、最後は"俺たち"って敵視だけじゃなく、ちゃんとライバルを心の底から認めたあの言葉。」

 

「ーー分かんねぇ…。」

 

 

幼馴染のブルーはかなり大人びている。僕なんかよりたくさんの事を考えているし、たくさんの知識を持っている。

 

 

 

【ブルーには知識がある】

 

 

 

…自分には無いものだ。僕は、ブルーほど知識はないし、何より勉強は好きじゃない。

彼女はかなり読書をしているし、映画やドラマ、小説なんかもかなり嗜む。いわゆる文学少女ってやつだろう。そして、彼女は常々将来はポケモン研究をしたいと僕らに言っている。彼女なら多分なれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!!レッド、ここに居たんだ!!」

 

「リーフ、居残りは終わったの?」

 

「うん、提出し忘れてた宿題をやってただけだから〜」

 

「ホント、貴女って抜けてるわね…。」

 

 

幼馴染のブルーの双子の妹にあたるリーフ。彼女は割と天然で抜けているところが多い。そんな彼女だが、僕らが通っているポケモンスクールではポケモンバトルの実技で奇想天外な戦い方をして、僕らをあっと言わせる。

…いわゆる天才肌ってやつだ。リーフは、常々将来は旅に出てポケモンバトルの最高峰であるセキエイ高原のカントー地方大会に挑戦したいと言っている。彼女の実力なら、間違いなく叶うだろう。

 

 

 

【リーフには発想力がある】

 

 

 

…自分はこの姉妹と一緒に居るとつくづく平凡な人間だと感じる。僕は、成績も中の中。たまに、中の上か上の下に食い込める事はあっても…そんな事は数年に一度あるかどうかだ。ポケモンバトルの実技授業だって、成績は平均のB評価。戦績だって平凡そのもの。

ブルーとは五分だけど、リーフやグリーンに勝てた事は一度もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリーン、世話は欠かすんじゃないぞ?」

 

「分かってるよ、じーさん。全部オレに任せなッ!!」

 

「わぁー!!イーブイ可愛い!!」

 

「おい、グリーン!!俺にもちょっとーーぶへっ。」

 

「あーあ、アホだなぁ。」

 

 

オーキド博士がグリーンに与えたイーブイの物珍しさに惹かれて不用意に近付いたレッドは、思いっきり尻尾で頬を引っぱたかれた。レッドが引っぱたかれた事にリーフは若干ビクッとなりつつも、再びイーブイの可愛さに釘付けになっていた。グリーンはそんなレッドに呆れつつも、自慢気にイーブイについて語る。

 

 

「イーブイの遺伝子は他のポケモンに比べて不安定なんだ。だから、他のポケモンよりも多彩に進化する代わりに繊細なんだ。」

「暫くは小さい時から食べている餌を食べさせながら、研究所の生活になれさせるつもりだ。」

 

 

グリーンは嫌味なやつだけど、文武両道を体現した存在だった。

……運動は五分だったけど、アイツは常にブルーとテストで学年一位を争っていた。ポケモンバトルだって実技の授業はアイツの方が上で、俺は連戦連敗だった。当然、ポケモンの知識だってアイツの方が格上。

それでも、俺はアイツに張り合い続けた。背の高さや足の速さ、大食い対決…。四人組って幼稚園からの小さなコミュニティで、同世代(タメ)の男。俺がグリーンを意識するのはそれだけの理由で十分だった。だけど、常に俺の前を走り続けるアイツに、俺は心のどこかで劣等感と焦燥感を覚えていた。「なんで、俺はアイツ(グリーン)よりも…三人より凄いものが何もないんだ」って。四人で何かをすれば、俺は良くて2番手。何かで1番になれた事なんてなかった。…グリーンは逆だ。

だから、悔しいけど…心のどこかでアイツ(グリーン)は…いや、アイツら(俺以外)は特別なんだって思っていた。

 

そしてーー

 

 

『カメックス、ハイドロカノン!!』

 

『ゲンガー、シャドーボール!!』

 

『四天王と評される世界屈指のポケモントレーナー、キクコ選手とユキナリ選手!!世代最強とも呼び声の高いユキナリ選手に一方も引けを取らないキクコ選手!!正しく、好敵手と言ったところでしょうか!?』

 

 

ーーそして、グリーンはかつて史上最強のポケモントレーナーと呼ばれた男の孫にして、今は旅をしてその席から降りているものの、先々代セキエイチャンピオンの息子である。それだけでも、特別だと言わしめるには十分だった。

周囲からは、レジェンド(王者)の嫡流として未来のチャンピオンを期待されていた。

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、宿題終わったか?」

 

「え?」

 

「おいおい忘れたのかよ…働くってコンセプトの作文だよ。」

 

「私はオーキド博士の事を作文にしたわ。リーフは確か、ポケモントレーナーだっけ?」

 

「うん、そうだよ!!」

 

「オレも書いたぜ。ポケモンリーグを優勝しまくって、じーさんや親父を超える最強のポケモントレーナーになるって。」

「……マネすんなよ?」

 

「……分かってる。」

 

 

みんな、大きな夢を持っているし…それを叶えるかもしれないと思わせるような才能の片鱗を見せている。

語る夢を叶えるだけの才能が、三人にはある。四人で一緒に遊んでいても、遥かにその背中は遠い。

 

 

 

【グリーンには才能がある。】

 

 

 

……僕にはないものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルーがポケモン博士になりたいと言えば、僕はブルーと同じだと言った。

リーフがポケモントレーナーになりたいと言えば、僕はリーフに同じだと言った。

グリーンがポケモンチャンピオンになりたいと言えば、僕はグリーンに同じだと言った。

 

僕には成りたいものはない。

ただ、何者かを目指す彼らを見ていると無性に焦燥感に駆られた。そして、三人と一緒に居ると…僕は劣等感を感じずには居られなかった。

……不公平だとまでは言わないけれど、なぜ僕はこんなにも親しい友を心の奥底では無意識に敬遠しているのか。当時の僕は、こんなに感情を仔細に表現する事はできていなかったけれど、神とやらが居るのなら随分とした仕打ちをしてくれたものだと思った。

 

 

『レッド、またトキワの森でポケモンと遊んでおったのか?』

 

『うん!!コラッタたちと一緒に遊んでいるんだ!!』

 

『レッドは本当にポケモンが好きなのじゃな。それにしても不思議じゃ…普通、野生のポケモンは人間に近寄るなんて滅多にしない。一部例外的なポケモンも居るが…基本的に野生のポケモンは人間を見たら逃げ出す。しかし、レッドの周りに居るコラッタたちは自分から近付いておるようじゃ。』

 

『うーん、いつも一緒に遊んでるからとか?』

 

『ははっ、違いない。もしかしたら、レッドが心の底からポケモンを愛している気持ちがポケモンたちを呼び寄せているのかもな。』

 

 

博士はよく、僕を「自由な人間」だと評していた。博士がなぜ、僕を「自由」と評したのかは今でもイマイチ分からないけど…少なくとも当時の僕は自由とはかけ離れた存在なんじゃって思うことがある。

だけれど、頭の良い博士のことだ。きっと、僕が気付かない部分に気付いてそこを示唆する評価なんじゃないかって、なんとなく自分を納得させていた。

 

 

「……作文なんて何を書けば良いんだよ。」

 

「レッド、ちょっと物置からお野菜取ってきてくれる〜?」

 

「えぇ…宿題やってるんだけど。」

 

「おねが〜い!!手が離せないの!!」

 

 

レッドは母に頼まれて面倒くさそうに靴を履くと、ゆっくりと扉を開けて物置へと足を運ぶ。ブツクサと文句を言いながら、レッドは物置の扉を開けようとするとガタッという物音が扉の向こうから聞こえて来た。

誰も居ないはずの物置から物音が聞こえた事に、レッドはビクッと肩を震わせて驚きつつも、意を決して扉を開けた。

 

 

ピチュ…?

 

「ピチュー…?」

 

 

レッドに気付いたピチューは鬼の形相で飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マサラタウンをずっと北にあるトキワの森。その森はピカチュウの群れが数多く居住する場所として、カントー地方のポケモン研究界隈では有名だった。そんなトキワの森に、今年も新たな命が生まれていた。

ピカチュウの群れは基本的に、雄のライチュウを群れの頂点として雌のピカチュウが卵を産む事で群れの規模を拡大する。そして、そこから産まれてくるピチューや若いピカチュウらがライチュウの後ろを着いて回るというのが、近年の研究成果によって解明されている。

 

そんな生まれたばかりのピチューは、電気技を扱えるようになると群れの一員と認められて自己肯定感が上がり、ピチューからピカチュウへと進化するという生態が見られる。そうして、通常であれば数ヶ月経つとピチューはピカチュウへと進化する。最も、野生下と人工下では進化条件が異なるため、全てのピチューがこのプロセスで進化するとは一概には言えない。

 

そんなピカチュウの群れに、ただ一匹電気を上手く扱えずにピチューから進化する事ができないでいたピチューが居た。彼は、野生の電気タイプのポケモンが低確率で発症する先天性の"過蓄電症"を抱えるポケモンだった。

 

過蓄電症とは大気中の電子を通常の個体よりも過度に集める状態の事を指し、卵から孵化したばかりの電気タイプのポケモンがこの症状にかかると、自身が保有する電気放出能力以上に大気中から蓄電してしまう事で体内における電子の循環が悪化し、発熱。これにより発熱というストレスで幼体は弱体化の一途を辿り、野生下では劣等種として間引きの対象になる事が暫しある。

この病床は後にレッドの手によって発見されるまで一種の疾患として扱われていたが、現代では必ずしも疾患とは言えないという結論が下されている。というのも、過度に蓄電するという事はそのポケモンが保有する潜在的な電子保有総量は通常の個体よりも大きい。つまり、人工下でポケモンに適切な電子放出のやり方をレクチャーすれば、一転してその電気ポケモンは強力な電気技を扱うポケモンとなる。そんな言説が現代の学会では主流となっている。

……問題があるとすれば、その対処法は再現可能なものが存在しない事。正確には、対処法は個別的なものしかない現状があり、そもそも症例自体が少数である事からレッド以外にこの症状を解消できる人間はいないのだ。そして、何より問題なのは現状の対処法が感覚的なものに依拠しているという点である。

 

従って、科学的観点からすれば現代でも治療法が確立されていない「過蓄電症」は事実上の先天的な不治の病であった。非合法のポケモン実験でもしない限りは、この症状は先天的に発生する。たとえばーー電気ポケモンは蓄電した電子を無意識に放出する事で発熱しないようにしているが、この電子の流れを意図的に止める事で人工的に「過蓄電症」を作り出すとか。

 

 

レッドが「過蓄電症」の存在を解明した際は一種のポケルス的な扱いを受けたが、野生下では相変わらず"疾患"として扱われている。

理由は単純だ。自力で「過蓄電症」を解消した事例は存在しない…つまり、「過蓄電症」を持つピチューあるいは電気ポケモンは自然界において淘汰され、その遺伝子は劣性形質となっているからである。

そして、発熱により電気技はおろか、マトモに動く事すらままならない電気ポケモンは野生下において「弱い個体」と判断されて、集団の生存率を上げるために群れから疎まれる傾向がある。

 

同じ父から生まれたポケモンとして排除こそされないものの、カーストは最下位。食事は集団のおこぼれを施されて、哀れみの目と疎ましい目、蔑みの目を受けて鬱屈としながら生きる事を余儀なくされる。

それでも、そのピチューにとっては集団で生きる事が全てだった。

 

 

「行けっ、アーボック!!」

 

ピカッ?!

ライっ!!

ピッ!!ピチュー!!

 

 

そんな野生下のポケモンでも世界全体のカーストではピカチュウの群れ程度、生態系ではせいぜい中の下だ。この世の生態系の頂点は人類。そして、人類の下に雑多なポケモンたちが生態系のヒエラルキーを敷いている。

ゆえに、人間によって野生のポケモンたちは襲われる事も少なくない。

 

そんな時ーー弱い個体から順に捕まる事だって、珍しい話ではない。

 

 

 

 

 

 

『痛い…痛い……!!』

 

 

身体が焼けるように痛い。

どうして、こんなに痛いの?

僕が何をしたって言うの?

 

 

「立てッ!!このグズがッ!!」

 

 

痛いよぉ…助けてぇ…!!

叩かないで!!何でも言うこと聞くから!!

 

 

「クソッ!!なんで、ピカチュウに進化しねぇ!!なんで、電気技を使えねぇ…。炎技が使えないヒトカゲといい、ゴミしか居ねぇな!!」

「口から火吹けバカがッ!!」

 

 

男は苛立ちを募らせて、鞭を叩き付ける。泣き喚くピチューの不快な声を聞いて、更に眉毛をつり上げる。

 

男は、ポケモントレーナーだった。彼はそれなりに才能があったらしく、カントー地方のジムを巡ってジムバッチを8個集めるとカントー地方大会に挑戦した。

しかし、上には上が居た。越えられない壁に出会い、1回戦すら勝ち抜けない自分に絶望し、挫折した。

もしかしたら、カントー地方のジムを巡っている時が男にとって最も満ち足りて幸せな時間だったのかもしれない。自分が旅立った故郷からは期待を寄せられ、勝つ度に賞賛される日々。さぞ、自己肯定感を高められのだろう。

しかし、カントー地方大会を1回戦で負け続けた事で挫折し、敗北を重ねる度に自分に寄せられた期待と賞賛は消えていった。

そして、いつしか男は誰からも見向きをされないように感じた。

 

そうやって、鬱屈していった彼は不正に手を染め、ポケモンバトルの世界から追放された。その後の男は悲惨そのものだった。ポケモンバトル一筋で若い時を過ごした男に経済的な能力や社会経験がある訳もなく、就職活動は困難を極めて困窮していった。

若い頃、故郷では「期待の星」と羨望と賞賛を一身に受けた男は人よりも自尊心を大きくしていた。だからだろうか、ポケモンバトルに挫折した後…落ちぶれる自分を見られたくなくて故郷との連絡を断ち、無意識のうちに自分の首を絞めていた。

 

そうして、彼は堕ちた。

やがては、世界屈指の反社会的組織であるロケット団の三次団体に身を置き、野生ポケモンの乱獲及び調教を担う仕事に就いた。当然、不法行為である事から男の仕事は不安定を極めた。

常に成果を求められ、成果を挙げられなかった者は三次団体が警察組織に特定された際の捨て駒になる。

 

 

男は必死だった。

「俺はこんなところで終わる男じゃない」、そう心の中で呟きながら捕獲したピチューを必死に調教した。他にも、ヒトカゲやコラッタ、ポッポを一から育て上げようとしたが空回りしてばかりだった。

…何をやっても上手くいかない。落ちぶれ続ける自分の醜悪さを呪い、弱いままでいるポケモンたちが落ちぶれている自分と重なり___その鞭を振り下ろす力は強くなる。

 

 

「なんで、弱いままなんだ…ッ!!」

 

 

 

 

 

 

男に蹴られ、嬲られたピチューは雑に檻へぶち込まれた。

ピチューを雑に入れたのが災いしてか、ピチューはその施設から運良く抜け出す事ができた。その頃には、ピチューが誘拐されてから半年以上の月日が流れていた。

 

ピチューは見慣れない場所を何度も歩き続けて、自分の故郷を目指した。そうやって1年以上かけて、彼は故郷に辿り着いた。

 

 

チュ?ピカチュッ!!

 

ピチュ…

『帰って…来れた。』

 

 

ボロボロになりながら故郷に帰ったピチューを唯一、自分に優しく接してくれた雌のピカチュウが出迎えてくれた。ピチューは彼女に再開できて、心の底から安心した。

そして、駆け寄る彼女に反応するように足を踏み出すとーー攻撃された。

 

自分を攻撃したのは、かつて自分の居た群れの頭目であるライチュウ。

野生下において、人間の臭いがついたポケモンは群れから忌み嫌われて追い出される。まして、このピチューはかつての穀潰し。

 

 

『役立たずの"人間憑き"に居場所はねぇ。去れッ!!』

 

 

ライチュウの言葉に、ピチューは悟ったかのように背を向けて歩き出した。

彼らがずっと自分に向け続けていた感情を、ピチューは宣言されてしまったのだ。

 

独りになったピチューは、野を歩き畦道を歩いた。時には、トキワシティなどの人間が居住する空間もさまよった。

独りとなったポケモンに居場所は…食事などありはしない。まして、弱ったポケモンに施す野生のポケモンなど居ないのだ。

 

彼は生きるために、時に雑草を食み…時に人間やポケモンに攻撃されながらもゴミ箱を漁って必死に口に詰め込んだ。

最早、彼の目には人もポケモンも…"敵"だった。

 

 

 

 

 

 

レッドの家の物置に辿り着いたピチューは、初めてマトモな食事にありつけた事で噎せる事を気にせず頬張った。

そうして、物置で食事を済ませているとレッド(運命)と出会った。

 

当時の彼の目には、見るものが敵に見えた。だから、目の前に現れたレッドに対しても当然ながら敵対的な行動をとって彼を攻撃した。

しかし、腹いっぱいに食事を済ませたとはいえ、そもそも弱ったピチューだ。それも常時発熱している「過蓄電症」のピチュー。

レッドに一度は攻撃できたものの、無理が祟ってすぐに倒れて意識を失った。

 

 

ボロボロのピチューが倒れた事を視認したレッドは、噎せ返るような異臭に包まれたピチューを気にせずに抱き抱えるとオーキド研究所に向かった。

オーキド博士に治療を依頼すると、レッドは博士にピチューの容態を尋ねた。

 

 

「ーーこのピチュー、明らかに虐待と見られる傷があるのう。」

 

「……え?」

 

「それに、栄養失調と電気ポケモン特有の"過蓄電症"という疾患。推測じゃが、このポケモンは何らかの経緯で人間に捕獲された後に虐待を受け、脱走したか逃がされたかは分からんのじゃが…野生下で"はぐれ"となったこのピチューは人間とポケモンの双方から攻撃された。」

「……マトモに、食事もとれん状態じゃったのだろう。彼から漂う生ゴミのような異臭から察するに…人間の生活区域でゴミ箱などを漁って生きてきた可能性もある。容態は最悪じゃな。」

 

「……そんなッ!!」

 

「そして、虐待による人間不信とポケモンからの攻撃でこのピチューは目に映るもの全てが敵のように見えているのじゃろう。」

「もしかしたら、ピカチュウの群れに遭遇して追い返されてここまで流れ着いた。そんな可能性も考えられるのう。」

「そうじゃなくても、"過蓄電症"という疾患を抱えたピチューは群れから追放されていてもおかしくはない。順序がどうあれ、このピチューは孤独じゃったのだろうな。」

 

 

……なんだよ。

外はそんな場所なのか?

どうして、"外"はお前をそんなに毛嫌いするんだよ。ただ産まれただけなのに…どうして、そんなに苦しまなくちゃいけないんだ?

 

少年は初めて怒りを覚えた。

自分にはグリーンのような知識もなければ、ブルーのような思慮深い考えもない。そして、リーフのような高い感受性や優れた感性もない。「このピチューには、自分がしてやれる事は何もない。」

……頭では分かっているその言葉に縛られる自分を呪い、無力感に打ちひしがれる自分へぶつけようのないドス黒い感情を覚えた。

 

 

 

 

 

 

ピチュッ!!

 

 

痛い…怖い…

ピチューの声が聞こえる。彼が怒るその声から、悲しみと憎しみの感情が流れ出てくる。

 

 

『どうして?産まれてきただけなのに。』

 

 

「ごめん…ごめんよぉ……。苦しいよな、辛いよな。何もできなくてごめん。」

 

 

視界が霞んだ。気付いたらレッドは目の前のポケモンに謝罪し、涙を流していた。

歯を食いしばりながら、暴れるピチューを抱き抱えて、己の弱さをーー何もない自分に激怒した。

 

 

『寂しい…寂しい…』

 

 

……アホか。泣こうが、喚こうが…この子には関係ない。何よりも、俺にできる事はない。

 

レッドの懐から抜け出したピチューはレッドを警戒して距離をとる。そんなピチューに、レッドはゆっくりと這いずりながら近付いた。

 

 

「……大丈夫、何もしないよ。言葉は通じないかもしれない…でも、言わせて欲しい。」

 

「ーー君は、ひとりぼっちじゃない。だって、今から僕は君のトモダチなんだから。」

 

 

ピチューは泣いた、声が枯れるまで。

レッドの胸元に飛び込んで、レッドと一緒に泣き続けた。

 

恐らく、ピチューが心を開いたのはほんの気まぐれだったのだろう。明日や明後日になれば、またレッドに対して敵対的な行動をとるだろう。

それでも、レッドは決心したのだ。自分がこのポケモンのトモダチになると。

 

それは、彼が抱える「寂しさ」を自分が漠然と抱える「虚しさ」に重ね合わせての行動だったのかもしれない。

お互いが「寂しさ」と「虚しさ」を埋め合わせるだけの関係になろうとも、レッドは歩み寄り続ける事を…想い続ける事を決心したのだ。




ちなみに、ピチューが人間の手によって進化する時は"懐き"という名の自己肯定感の上昇で進化するんじゃないでしょうか。
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