ガサゴソとリュックをひっくり返してはぶつくさと「……コレって、新品だったよな?」と言って、中身をチェックする。
「これが、キズぐすりで…こっちが虫除けスプレーでーー。」
ラぁル…?
「……ああ、これでチェックは五回目だから間違いはないと思うんだけど…一応ね?ほら、旅に出るんだから準備は万全にしておきたくって。」
ラルラ!
「ん?そうじゃないって?」
「……サナ、リュックが欲しいのか?」
ラル!ラルラル!
「……サナに似合うリュック。あるかな?」
自分の荷物チェックを後回しにして、タンスを開ける。タンスの奥に眠る幼少期に使っていたリュックを引っ張り出しては、頭を捻る。
「……サナ、白と緑のリュックどっちが良い?」
ラルっ!
「……サナ、似合ってるよ。とっても可愛い。」
ラルラ〜♪
サナ、喜んでくれたみたいだ。
「……こんなところか。取りあえず、道具のチェックは終わったから…後は、ポケモンたちの覚える技をチェックするだけだな。」
荷物の整理が終わったレッドは、ピカチュウとヒトカゲ、
『ピカチュウ、ねずみポケモン。覚えている技は”電気ショック”、”悪巧み”、”影分身”、”電磁波”。特性は、
『ヒトカゲ、とかげポケモン。覚えている技は"引っ掻く"、"火の粉”、"噛み砕く"、"腹太鼓"。特性は、サンパワー。』
「……ん?ヒトカゲって普通、特性は猛火だったような?まぁ、いっか。」
『ラルトス、きもちポケモン。覚えている技は”鳴き声”、”チャームボイス”、”影分身”。特性は、テレパシー。』
『エーフィ、たいようポケモン。覚えている技は”恩返し”、”サイコキネシス”、”願い事”、”
……なるほどな。ヒトカゲは今日中になんとか”
サナの件は一旦良いとして、基本戦術を固めておこう。まず、ピカチュウは相手の動きを鈍らせる"電磁波"がある。それに、相手の動きを翻弄できる”影分身”や打点となり得る”電気ショック”の攻撃力を底上げする”悪巧み”もある。これは、ヒトカゲにも言えることだな。ぶっちゃけ、エーフィ一匹いればジムバッチをゲットするのは苦じゃないと思う。現に、昔…家に強盗が押し入った際に、エーフィのサイコキネシスで人間・ポケモン合わせて4人と3匹をノックアウトした事を考慮すれば、うちのエースは
だけど、エーフィに頼ってばっかじゃ旅に出る意味はない。それに、そもそもエリアは母さんのポケモンだ。母さんのお目付け役が戦ってちゃ世話ない。だから、エリアには悪いけど…基本はピカチュウとヒトカゲのサポートに徹してもらって、彼らの成長を見守るというスタンスにするのがベストかな?
「レッド、ごはんよ~。」
「……わかった。」
もう、そんな時間か。取りあえずポケモンバトルの基本戦術はこんなところにしておこう。後は、技の組み合わせあたりを次の脳内会議の議題にしよう。
▢
「レッド、今日はレッドが好きな料理よ。」
「……クラブのフルコース!」
「ふふっ、何時も言ってたものね。明日は旅立ちの日だもの。ずっと、食べたいって言ってたクラブのフルコースを作ってみたわ。」
「……美味しい。」
「そうでしょ?腕によりをかけて作ったんだから!」
クラブのだし汁が美味い…。それに、木の実のソースで味付けされた山菜も中々…!クラブのみそが入った味噌汁は、シェルダーと絶妙に旨味を引き立てあっていて、これぞ海鮮の珍味!って感じだ。
ーーご飯が進む。クラブの出汁が染みついたクラブの肉を口に含みながら、白米を少し多めに頬張る。クラブの肉に染みついた出汁の塩味が白米の甘味とシナジーを生む。しょっぱいと甘いの連続。唾液が止まらない。
モキュモキュモキュ
このクラブの肉を使ったドードリオの卵で作った出汁巻き卵もイケる。ほのかな甘みが口内をゆっくりと満たし、先ほどまでの忙しない塩味と甘味の連続から一転して…ゆったりとした甘味に心が落ち着く。
ああ、やっぱりポケモンバトルの次に食事というものは好きなのかもしれない。 この満足感は食事でしか得なれない。
「レッド、美味しい?」
「………………!」
「そう、なら良かったわ。」
美味い。美味すぎるぞ。
「ねぇ、レッド。」
「………………?」
「旅立つにあたって、レッドにプレゼントがあるの。」
「……プレゼント?」
「これよ。」
そう言って、母さんは綺麗に包装された箱を取り出した。”ポケギア”と書かれた白い箱だ。
「……開けていい?」
「うん、開けて良いわよ。」
「……これって、今年発売されたばかりの小型連絡機器 ポケギアでしょ?凄い高いんじゃなかった?」
「ふふっ、確かに高かったわよ。でも、レッドが旅に出たいって事を知ってからはずっと貯金をしていたから大丈夫よ。」
「……有難う、母さん。白と金色のポケギア…!でも、ポケギアって青かピンクしか無かった気がするけど…。」
「あぁ、それはね。昔の交友関係を使ってオーダーメイドで作って貰ったのよ。」
「……オーダーメイド!そっか、大事にするよ。有難う、母さん。」
「ふふっ、どういたしまして。それとね、レッド。」
「……まだ、なにかあるの?母さん。」
「このカードをあげるわ。」
「………………?」
「これは、キャッシュカードと言って。ポケモンセンターでお金を引き出したり預けたり出来るのよ。」
「………………!」
「それでね、そこには100万円が入ってるの」
「へっ!?ひゃく…?」
「そうよ、100万円。だけど、とても大きい額だから…使う時はちゃんと考えて使うのよ?」
「う、うん!」
「さ、箸を止めてしまったわね 料理が冷めないうちに食べちゃいましょ」
100万円…。母さん、ここ数年夜遅くまで働いてたけど…まさか、このために。母さんにはいつも、迷惑かけてるなぁ…。ポケモンチャンピオンになったら、少しは母さんに良い生活をさせてあげられるだろうか?
▢
夕飯を食べ終えたレッドは床に着く。明日は朝の8時頃には家を出なければならない。朝が弱い事を自覚しているレッドはまだ20時と寝るにはやや早い時間であったが、ベッドの中に潜り込む。
今日のグリーンとのポケモンバトル…中々上手くいったな。搦め手からのカウンター…今まで頭の中で描いてはいたものの中々本番ではできなかった理想の戦い方ができた。これは、大きな一歩だ。
カウンターからの押し切り勝ちの流れは、今思い出しても興奮する。やはり、序盤の徹底した回避行動と鳴き声の掛け合わせが大きかった。あそこで、被弾せずにゼニガメに枷を嵌める事ができたのが何よりの分岐点と言えるんじゃないか?
あの場面は…いつもなら回避行動をしてもグリーンに捕まって接近戦に持ち込まれて敗北か…良くて引き分けのパターンだった。この戦い方を教えられてから、直ぐには勝てなかったけど…信じてやってきて良かった。ああ、今日も会えるだろうか。あの人と___
『………………。今日、オーキド博士からポケモンを貰ったんだろ?』
『……あ!ソレイユさん!良かった。夢の中でしか会えないので今日も会えるか心配でしたが、杞憂だったようで良かったです。』
『………………。それで、お前は誰を選んだんだ?』
『……はい、自分はヒトカゲを選びました!ソレイユさんも最初のポケモンはヒトカゲだって聞いていたんで。』
『………………。ああ、そんなことを話したっけか。』
『……今日、グリーンのやつに完勝したんです!ソレイユさんの教えであるカウンター戦略。アレが上手くハマって、グリーンのゼニガメを倒したんです!』
『………………。そうか、なら良かった。これからも、励む事だ。』
『……はい!』
『………………。俺との契約は忘れていないな?』
『……勿論です。ソレイユさんにポケモンバトルを教えて貰う代わりに、俺はポケモンリーグ運営委員会が定めるポケモンバトルパートⅠ地方を巡って、その地方のポケモンリーグを下して全てのポケモンバトルパートⅠ地方のチャンピオン…元い、事実上のポケモンバトルワールドチャンピオンになるって約束ですよね?』
『………………。そうだ。あるいは、可能であればセキエイチャンピオンになった後にセキエイチャンピオンの権限を行使してポケモンバトルパートⅠ地方…カントー地方、ジョウト地方、ホウエン地方、シンオウ地方、イッシュ地方、カロス地方、ガラル地方、パルデア地方の現状8つの地方のチャンピオンや四天王、ジムリーダーらを招集してポケモンバトルの世界大会を開催し、そこで優勝してワールドチャンピオンとなれ。』
『……分かりました。全ての地方を旅するのだと、ソレイユさんとの約束を果たすのに時間がかかってしまうので…セキエイチャンピオンになって、世界大会を開催しようと思います。』
『………………。良いだろう。』
『……オーキド博士にポケモンは貰ったので、明日はイエローという女の子と旅に出る事になりました。』
『………………。そうか、ならば…まずはニビシティのニビジムを目指すといい。』
『……分かりました、ニビシティですね。』
『………………。ニビジムは今のレッドのポケモンでは相性最悪だ。だが、その相性最悪という状況をひっくり返して勝利できない様では…ワールドチャンピオンになど到底届かない。』
『………………。かと言って、セキエイチャンピオンとなるためのポケモンリーグ本戦へ挑戦するための機会はおよそ3ヶ月後のカントー地方大会かカントー地方・ジョウト地方合同で行われる世界屈指の大会であるセキエイ大会のどちらかだ。』
『………………。残り3ヶ月余りでジムバッチを8個集めてかつ最低でも公式大会のどちらかに参加するという無理難題…これを超えた先に、ワールドチャンピオンがある。』
『……はい。』
『………………。お前は、何があっても進み続けろ。たとえ、お前のポケモンが死のうと…お前の躰が鉛玉に貫かれようと…戦い続けろ。それが、"ポケモンバトルに勝つ"という分不相応な願いを叶える代償なのだから___』
▢
「レッドさん、これからどこに向かいますか?」
「……まずは、トキワシティかな。あそこは、ここから一番近いジムのある街だから。」
「分かりました!」
昨日、ソレイユさんと久しぶりに会えた気がするんだけど…イマイチ思い出せない。夢を覚えていないって言うのは、割とある事なんだけど…今年に入ってから初めてだな。何を言われたんだろう?まぁ、取り敢えずは忘れよう。今は、目下の問題が重要だ。
トキワシティまでは、一番道路とトキワの森を経由するのが最短ルートだな。この時間帯から出発してこのままのペースで歩けば、昼過ぎにはトキワシティに到着できそうだね。
となると、野良のポケモントレーナーとバトルになっても余裕は結構ありそうだな。一番道路やトキワの森はコラッタやポッポ、オニスズメ、キャタピー、ビートル、ピカチュウなどが主に生息していたはずだから…ポッポとか捕まえておきたいな。
「あ!レッドさん、ポッポの群れが木に止まってますよ!」
「……ポッポ。丁度良かった、捕まえたいと思っていたところなんだ。」
モンスターボールを腰から取り外し、臨戦態勢となる。レッドはモンスターボールを軽く投げ、ピカチュウを繰り出す。
ピーカチュ!
「……ピカチュウ、あのポッポ”
レッドの指示にピカチュウはポッポの群れの一匹に電磁波を撃つ。ピカチュウからの突然の攻撃に驚いて、ポッポの群れは飛び立つ。しかし、電磁波を受けたポッポは身体が痺れて木から落下してしまう。弱ったポッポに追い討ちとして”電気ショック”を指示する。ピカチュウの”電気ショック”を受けたポッポは堪らず瀕死状態となる。
ポッポが動けなくなった事を視認したレッドは、ポッポにモンスターボールを投げる。ポッポを捕らえたモンスターボールはボタン部分を赤く点滅させながら何回か揺れた後に、ストンッという音と共にモンスターボールのボタン部分の点滅が止まり、静止する。
「……ポッポ、捕まえられたな。」
ピカピ!
「わぁ、凄いです!」
「さて、ポッポを捕まえたことをポケモン図鑑に記録しておかないと。」
ピピッ!!
『ポッポ、ことりポケモン。大人しい性格で襲われても反撃せずに砂をかけて身を守る事が多い。』
「……このポッポの能力と覚えている技はーー。」
ピピッ!!
『ポッポ、特性は❘鋭い目《するどいめ》。覚えている技は、”❘体当たり《たいあたり》”。』
「……覚えている技は一つだけか。だけど、このポケモンはポッポの群れの中でもいい眼をしていた。きっと、強いポケモンになると思う。」
ピーカ!
「……ああ、顔合わせしないとだな。出てこい、ポッポ。」
ポッポー!
ポッポがモンスターボールから出てくると、ヒトカゲと
ポッポはレッドの紹介にあわせて、レッドのポケモンたちを眺めていく。レッドが喋り終えると、ピカチュウやヒトカゲはエリアの方を眺めながら喋り出す。ポッポはエリアを見つめながら、何かを発する。ポッポの言葉に返事をするようにエリアも喋る。レッドはポッポが自分のポケモンたちに受け入れられているようで安心した。エリアからの話を聞いたポッポは元気よくエリアとレッドに鳴く。
「……元気そうで良かった。」
ポッポを捕獲した後、レッドはトキワの森を出るまでに十数人の野良トレーナーと接敵する。ピカチュウ、ヒトカゲ、サナ、ポッポで戦闘をローテーションさせ実践経験を積ませる。途中、野生ポケモンが乱入して勝負は無効となったものも幾つかあったが…一番道路を出てトキワシティに着くまでのレッドの戦績は10戦10勝の完勝であった。
戦闘に参加したポケモンたちもかなりの経験になったのか新しい技を収得したポケモンも居た。特に、ポッポとヒトカゲの成長は著しかった。ヒトカゲはもう進化するんじゃないかという程に強くなり、ポッポに至っては戦闘が覚束ない初戦から一気に成長してピカチュウに匹敵する素早いポケモンになった。
▢
「うう…もう、一歩も動けないです。」
「……流石に、どこかで野宿すべきだったかも。ごめん。」
悪いことをした。トキワの森を往復するなんてことを5年近くやっていたから忘れていたけど…マサラからトキワシティって、本来は車やバイクなんかで行く距離だったよな。それをほぼ8時間くらいで走破したんだから、慣れてないイエローにはキツいよな。
「……イエロー、母さんやオーキド博士に電話してくるからここで休んでいて。」
「はい…そうさせて頂きますぅ。」
トキワシティのポケモンセンターに到着した事を母さんに報告すると、母さんは少し驚いていた。母さんはてっきりもう1日はかかると予想していたらしい。母さんに、新しく捕まえたポッポを見せると「可愛いポケモンね」と言っていた。
母さんとの通話を終えると、オーキド博士に連絡して、ポケモン図鑑の進捗を話した。トキワシティに来る途中で、ポッポとコラッタ、オニスズメ、キャタピー、ビートルの5匹を捕まえた事とその中で一番戦闘に向いているポッポを手持ちに加えている事などを報告した。レッドの話を聞いたオーキド博士は驚き、「グリーンといい、二人はポケモン図鑑を埋めるのが早いのう」と言っていた。
……グリーン、1日早く旅立っていたとはいえ…やっぱりトキワシティに着いていたんだ。もしかしたら、まだトキワシティに居るかもしれない。イエローに一言伝えて、夜までトキワシティを見て回ろう。
▢
やはり、グリーンは居なかった。いや、正確にはもう通過していたという方が正確だろうか?オーキド博士との通話後、イエローに一言言ってすぐにポケモンセンター出て付近を散策した。トキワジムの方なら居そうだと思って向かってみたが、トキワジムのジムリーダーは長い事トキワジムを閉鎖しているらしく…張り紙が空しく風に揺れているだけだった。
トキワジムがダメだったので、トキワシティを一周してみたが…それでも居なかった。渋々、日没も近かったのでポケモンセンターに戻って、受付の人にグリーンの顔写真を見せてグリーンはここを訪れたかと尋ねたら、今日の朝に旅立ちましたと答えた。
無駄に歩き回ったせいか、起きた今も下半身がちょっと痛い。
取りあえず、イエローが起きる前に軽く朝の散歩をしながら次の行動計画を軽く思案しよう。
レッドは気怠い身体をベッドから起こすとピカチュウに皆を起こして貰い、昨日調べておいたトキワシティの隣にある22番道路を軽く散策する。
「あーッ!レッド!」
「……グリーン?」
「ポケモンリーグに行くのか?やめとけ!」
「……こっちの道はポケモンリーグに続いてるのか?いや、それよりも…やめとけってどういう事?」
「お前、どうせバッジ持ってねーだろ?」
「……まぁ、そうだけど。」
「ジムバッチ持ってないと、見張りのオッサンが通してくれねーんだよ!」
「……そうなのか。じゃあ、トキワシティの北にあった道を行くしかないな。」
「…それよりさぁ!お前のポケモン少しは強くなったかよ?試してやるぜ!」
スチャ
グリーンが腰に付いていたモンスターボールを取り出し、構える。レッドはグリーンがモンスターボールを取り出した事で、その意図を察知してグリーン同様に腰からモンスターボールを取り出す。
「ゆけっ、ポッポ!」
「……行ってこい、ポッポ!」
「へっ、相性の良いピカチュウを出さねぇとは…前のバトルで勝てて、まだ浮かれてんのか?」
「……いいや、ピカチュウの出番はここじゃないだけだ。」
そうだ、今はピカチュウの出番じゃない。グリーンの相手がどうあれ…ポッポでまずは小手調べだ。グリーンが現状でどのような戦い方をするのか?そういった部分を分析しないと相性なんて簡単にひっくり返される。相性という言葉でポケモンバトルが決まるのはゲームの中か、三流同士のバトルだけだ……ソレイユさんがそう言っていたっけ。
それに、グリーンとは1日振りとは言え…天才肌のグリーンのことだ、どこまでレベルアップしているかも分からない。そんな状況ではピカチュウという重要なカードを切る事はできない。
「へっ、まぁ良いぜ。なら、どっちのポッポの方が強いか勝負だ!!」
「……ポッポ、宙に向かって"
ポッポッ!!
ポッポの蹴り上げた砂が宙に舞い散る。ぶわっと舞い上がった砂を、レッドは
突っ込んで来るレッドのポッポに、グリーンは
「……やるじゃねぇか。昨日の勝利はまぐれじゃねぇようだな。だが、コイツで止めてやるよ!!」
グリーンはコラッタを繰り出し、即座に"
お返しとばかりに、レッドはポッポに未だ着地していないコラッタへ
「……ポッポ。前にもピカチュウで実演したが、アレが
ポッポッ!!
「……そうか、ならできるな?ポッポ、電光石火だ!!」
ポッポッ!!
コラッタの電光石火を見たポッポは上空に勢いよく飛び上がり、下降すると同時に一気に加速した。グリーンはコラッタに避けるように指示するも、ポッポはコラッタがグリーンの指示を受けて動くよりも早く攻撃。ポッポの奇襲を受けたコラッタは、グリーンの足元まで飛ばされる。
かなりのダメージを負ったコラッタだったが…グリーンの一喝により、奮い立つ。コラッタは闘志を燃え上がらせ、
「……ポッポ、俺たちはまだこんなものじゃないよな?」
ポッポッ!!
「……立て、ポッポ。まだお前は負けてない。ポケモンバトルにKOはない。最後に立ってさえいれば、お前の勝ちだ。」
「ーーだから、立ち上がれ!!」
レッドの激励に奮い立ったポッポは青色の光を放ちながら立ち上がる。
ピジョッ!!
「んなッ!?ここで、進化…!?」
「……グリーン、俺たちはまだやれるぞ。」
手痛いカウンターを受けて、瀕死寸前にまで追い込まれたポッポはレッドの言葉に奮い立つ。レッドの言葉と共に自らを鼓舞して立ち上がったポッポは、ピジョンへと進化する。
ピジョンに進化したポッポは、最後の力を振り絞ってコラッタに超高速戦を仕掛ける。互いの身体をぶつけ、コラッタを
「へっ、相討ちか。やるじゃねぇか。」
「……グリーンこそ、コラッタの粘りには驚かされた。だけど、勝負はまだ終わりじゃないよな?」
「ああ、勿論だッ!!ゆけっイーブイ!!」
「………………。」
レッドが帽子を深く被る。
「………………。GO、ピカチュウ。」
グリーンのポケモン相手に2タテを決めたピジョンにお礼を言って、レッドは二の矢にピカチュウを繰り出す。
レッドはピカチュウを繰り出すと、すぐさま
本体含めたピカチュウの影分身数千体に周囲を囲まれたイーブイは後退りながらグリーンの指示を待つ。レッドは更に追い詰めるべく、ピカチュウ"全員"に
グリーンはピカピカ突撃を敢行するピカチュウの影分身相手に"
「……クソっ、化けたな。」
グリーンはそう呟く。マサラタウンを旅立つ以前、レッドとグリーンは何度もイーブイとピカチュウを闘わせてポケモンバトル"擬き"をしていた。そんな中で、レッドとグリーンの戦績と言えば基本的にグリーンの連戦連勝であった。レッドとグリーンがポケモンバトル"擬き"を始めたのは5年前の5歳になるかどうかの時だった。5歳になるかどうかの時から始めたポケモンバトル"擬き"は以来1年以上…7歳になる年までグリーンの全戦全勝だった。
3年以上前のマサラタウンで将来有望な子供は誰か?と聞かれれば、誰もがグリーンと答え次点にポケモンバトルならリーフでポケモン研究ならブルーと答えていた。マサラタウン…いや、恐らくカントー地方の誰もがレッドという少年がポケモンバトルで頭角を現す事など考えもしなかった。
だが、3年前のある日…グリーンを驚かせる出来事が起きた。
ピカチュウとイーブイの何気ないポケモンバトルで、レッドは連戦連敗のイーブイ相手に無傷で勝利を収めたのである。それも、たった数分のバトルで。
以来、その日のバトルはグリーンにとってトラウマとなった。自身はオーキド博士以来…祖父と父がセキエイチャンピオンを務めたカントー地方屈指のエリートであるという
レッドに一言、「……ポケモンバトルしよう」と言われたグリーンはいつも様子が違うレッドに違和感を覚えながら、レッドの言葉に応じて今日のようにイーブイを繰り出した。
しかし、レッドはピカチュウを繰り出すと、終始無言のままズボンのポケットに片手を突っ込みながらグリーンを見つめて微動だにしなかった。
ああ…あの日ほど、お前に心底恐怖した事はなかった。帽子を深く被って隠された表情の影から見つめるお前の瞳……思い出しただけでも震えが止まらねぇ。無機質な…まるで死体のように濁った眼でオレを見たお前は、一言も命令をせずにオレのイーブイを瞬殺した。
そして、オレに勝ったはずなのに…喜びもしなければ、オレに何か言うでもなくオレの前から立ち去ったあの時のお前の背中を見て……バケモンだと思ったよ。正直、勝てる気が一切しなかった。
あの日以来、お前があの顔をする事はなかったが…その代わりに今までのポケモンバトルが嘘かのように急成長するお前を見て忘れていたぜ。
やっぱ、あの日見たお前の姿は夢じゃなかった。表情こそ違うが…この闘うヤツを圧倒する戦い方はあの日見たお前そのものだ。
ああ…負けたくねぇ。あの日、初めて敗北を知ってから…お前に負けたくなくて、ずっと倉庫にしまっておいたオヤジのレポートを何千回と読み直したよ。
エリートのオレが負けるなんてダセェのは認めねぇ。オレはエリートなんだ。だから、負けねぇ。勝って当然のオレが負けちゃならねぇんだッ!!
「……まだ、ここからだッ!!行くぜ、ゼニガメッ!!」
「………………。」
ずっと追いかけてきた背中…グリーンに勝ちたくて、朝から夜までポケモンバトルの事を考えて来た。学校の授業中だって、先生の授業そっちのけでノートにポケモンバトルの事ばっかり書いて何回も怒られたっけ。
追いついたと思ったら直ぐに俺を突き放すその背中に何回悔し涙を流したっけ。「ああ、死に物狂いでここまでやって来たのに…まだ、俺は届かないんだって」…そうやってグリーンを呪った日もあったな。でも、思えばいつもグリーンは俺の前に居て…いつも俺を挑戦者で居させてくれる。グリーンに勝って喜んで、慢心した俺を戒めるように何度も破って…「オレはこんなものじゃねぇぞ、いい気になるな」って一喝してくれる。
マサラタウンの大人は口を開けば、やれグリーンとリーフが凄いだの…ブルーは神童だのと口にする。でも、アイツらから俺の名前を聞いた事なんてなかった。俺だけが…だれからも期待されてなかった。誰も、俺のことなんて見てくれなかった。精々、「レッドは旅もそこそこに、就職してお母さんを安心させるんだぞ」と言われるくらいだった。それに俺が「俺だって、ポケモンバトルで勝ちまくるんだ」と反論すれば…「マサラ最弱の男の息子が?」と笑われることばっかりだった。
悔しかった。誰からも…表面上でさえ、自分の夢を肯定してくれる大人はいなかった。でも、グリーンだけは違った。君はいつも俺の事を否定せずに、正面からポケモンバトルで向き合ってくれた。グリーンだけが、僕を分かってくれたんだ。だから、グリーン…僕は君を倒してあの日マサラの大人たちに否定された夢を実現する。
ーーそして、俺はワールドチャンピオンになるんだ。
「………………。ピカチュウ、エレキボールを頭上に放て。」
「………………レッド?」
「………………。」
ピカチュウの放ったエレキボールが光り輝きながらピカチュウの頭上に放たれると、少し上昇したところで落下を始める。
「………………。俺のピカチュウの特性は避雷針だ。その意味、グリーンなら分かるだろ?」
「……ッ!!」
グリーン、ここまで俺に向き合ってくれて有難う。君だけが、俺の夢を否定しなかった。君だけが、真っ向から俺と戦ってくれた。君が居たから…俺は、夢を捨てなかった。
君が居たからーー今の俺がある。だから、グリーン…俺はもう負けない。今度は俺がグリーンの前を走る。
「………………。ピカチュウ、用意は良いか?」
ピカッ!!
「………………。これで終わっても良い。沈めろ、"エレキボール"!!」
ピカチュウは分身体を消すと、自身の頭上に巨大な球体を出現させる。球体から走る稲光に、周囲の芝が焦げる。ピカチュウは飛び上がって、直径数十mほどの球体を身体を捻りながら自身の尻尾でゼニガメに向けて叩き落とす。
ゆっくり迫る黄色に輝く球体に
堪らず、付近でレッドとグリーンのポケモンバトルを眺めていたポッポやコラッタはエレキボールの余波で彼方に吹き飛ばされる。球体の爆発によって砂塵が舞い散ると、レッドとグリーンを飲み込んだ。
「……終わったのか?」
「……ッ!!ゼニガメ…。」
ゼニガメは小さなクレーターの中で気絶していた。グリーンはゼニガメが瀕死となっている事を視認すると急いで駆け寄る。ゼニガメに
「レッド、やっぱお前……いや、なんでもねぇ。」
「………………?」
「それよか、どうやら…ポケモンリーグに行く道には強くて凄いトレーナーがウジャウジャいるらしいぜ。どうにか、あそこを通り抜ける方法を考えなきゃな!!」
「……あ、ああ。」
「お前も、何時までもこんなとこにいないで…とっとと先に進めよな!」
「……そうするよ。」
グリーンに勝てた。もう、昨日の勝利はまぐれじゃない。
だけど、ピカチュウってあんなに影分身が出せたっけ?それに、エレキボールが何時もより強力だった。ピカチュウ…俺が知らぬ間に強くなってたのか。これは、俺もうかうかしてられない。俺ももっと、成長しなきゃ。
さてと…グリーンもトキワシティに行ったことだし、俺もそろそろ帰ろうかな。イエローをポケモンセンターに置いていったままだし、もう少ししたらーー
「あ、あの助けてぉくれやす!」
「……?えっと…」
「けったいな男の人に追われてるんどす!」
「……嬢ちゃん、大人しくオレと来るんだな。おい、そこのガキ…嬢ちゃんを寄越しな。じゃねぇと痛い目見る事になるぜ?」
「………………。事情は分からないが、穏やかじゃないな。」
レッドが帽子を深く被る。
「………………。ピカチュウ、行けるな?」
ピカピ?ピカピ!!
「へっ、王子様気取りってヤツかぁ?良いぜ、教えてやるよ…世の中そんなに甘くねぇってな!!ゆけっ、アーボック!!」
レッドは煌びやかな衣装を纏った少女を背後に隠すと、ピカチュウを繰り出す。レッドは先程グリーンを破った時のように、数千体もの分身体を"
その間、レッドはピカチュウに"
「………………。こんなものか、これなら…さっき戦った同い年の10歳の子供の方が強かったよ。」
「馬鹿な…オレのアーボックが何もできずにガキ一人に負けた…?」
「………………。悪いが、アンタはそのまま野放しにしてたら…また何かやりそうだ。少し、痛い目を見ておくといい。」
そう言うと、レッドは再びピカチュウにエレキボールを指示。女の子を追っていた中年の男はピカチュウが黄色の球体を出現させた事で何をするのかを察知し、素早くアーボックを回収すると逃げ出した。
「………………。逃げられると思ったか?ピカチュウ、エレキボール。」
黄色の球体がゆっくりと、男の背に迫る。顔を歪ませながら、逃走する男の背に…虚しくも、球体が触れる。球体に押されて、地面に突っ伏した男は球体によって地面に潰される。男は絶叫と共に爆発した球体に飲み込まれた。
「………………。」
□
「お嬢様をお助け下さり、誠におおきに。なんとお礼をしたらええか…。」
「……いえ、お気になさらず。」
男を爆発させると、助けた女の子の服装から判断して誰か呼びに来れないか尋ねた。彼女は通信機器を持っていなかったらしかったので、自分のポケギアを貸して彼女に誰かしらに連絡するように指示。
彼女はポケギアを慣れない手付きで使うと、誰かに連絡をして彼女と似たような服装をする女性が現れた。
「それにしたかて、ほんまにポケモンバトルがお強いんどすなぁ。」
「……これでも、ジム戦にチャレンジするつもりの人間なので。と言っても、トキワシティのジムは長らく閉鎖されていたみたいなので…ジム戦自体はまだした事がないんですけどね。」
「そうなんどすか。それにしたかて、今回はほんまに感謝しかあらへんどす。よろしかったら、お名前を伺うても?」
「……俺は、マサラタウンのレッド。君は?」
「うちどすか?うちはフシミ家の嫡女…マーシュと申します。」
「……マーシュ。」
「レッド様はポケモンバトルをしてるのやろう?どしたら、セキエイ大会やらに挑戦するつもりはあるんどすか?」
「……セキエイ大会かカントー地方大会に出場するつもりだ。」
「そうなんどすか。きっと、レッド様の実力ならどちらの大会も優勝できるわ。もし、セキエイチャンピオンになったら…また、お会いしてもよろしいでっしゃろか?」
「……ああ。」
「ふふっ、ほなまたお会いしましょ。レッド様。」
そう言うと、彼女は大人の女性に連れられて22番道路を後にした。
マーシュ…服装からして旅をしているワケではなさそうだが……なぜ、こんなところに?22番道路と言えば、さっきグリーンに教えて貰ったけど…ここはチャンピオンロードと呼ばれるジムバッチ8個を集めたトレーナーのみが許される修行場のチャンピオンロードに繋がる23番道路の前の道。
いや、話し方からしてジョウト地方の女性だろうか?そうすると…22番道路はジョウト地方とカントー地方を繋ぐ道の役割もあるから、別におかしくはないか。ただ、他の地方からカントーに来るとして…普通ならクチバシティに船で来る事の方が多い。まして、あれほどの服装をしている女性がわざわざ22番道路経由で来るなんてな……。
まぁ、考えても仕方がない事か。取り敢えず早く戻ろう。軽い散歩のつもりでここまで来たけど、もうイエローが起きている頃だろう。
________________________________
【現在のレッドのお小遣い】
・お手伝いで貯めたお金
2万円
・お母さんの貯金
100万円
【持ち物】
・キズぐすり×3
・虫除けスプレー×1
【大切なもの】
・ポケギア(旧式)
・ポケモン図鑑
マーシュちゃんはXYのあのマーシュちゃんです。なぜっ?って思っている方…伏線だと思ってぐっと言葉を呑んで頂けると幸いです。
それと、レッドくんがときどき口調がおかしくなるのは使用です。バグではありません。
今回は、自分がいつも妄想してるレッドとグリーンの相互の重たい感情を描きたくて入れてみました。ちょっと、ゴチャついてる感はありますが…その辺はご愛嬌ということで。